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第一章:咎人、異端の少女と出会う
第3話:異形たちの巣
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少女の姿は依然としてなし。
その代わり、異なる景色が目前に現れる。
「ここは……」
有体にいえば、環境は最悪の一言に尽きた。
雑草はぼうぼうに伸び放題で、葉先が肌をちくりと刺す。
それを超えた先にある小屋は、今にも倒壊しそうな雰囲気をひしひしとかもし出す。
よくこれで今までなにもなかったものだ……雷志はすこぶる本気で、そう思ってしまった。
それはさておき。
「うっ……この奇怪な動物はなんだ?」
飼育されているソレは、既存のどの家畜にも該当しない。
身体が馬――体毛は青白く輝き、氷のように冷たい印象を与える。
そして頭は鬼……おどろおどろしい形相に二本の立派な角を生やしている。
見た目に反して大人しいのか、雷志を前にしても見向きもしない。
目の前にある牧草のほうが、よほど余所者よりも重要であるようだ。
「……って、君はさっきの!?」
雷志はぎょっと目を丸くした。
何故、と……抱いて当然すぎる疑問が、脳裏に瞬時によぎる。
草原でばたりと出会った少女の姿がそこにあった。
何故か異形と同じように、ぼろぼろの小屋でのんびりとすごしている。
「はい? どうかしましたか?」
きょとんと、不思議そうな顔をする少女。
急いで駆け寄り――そこでようやく、彼女もまた人外であると理解する。
一見すると彼女は、幼気な少女と大差ない。
端正な顔立ちではあるが、まだまだあどけなさが残る。
翡翠色に輝く瞳にくっきりと浮かぶ桜の模様が印象的だ。
人間にはない、髪色と同じ馬の尾と二本の角……不動たる証拠に、雷志はつい押し黙ってしまう。
「君は……人間じゃないんですか?」
つい、疑問を口走ってしまう。
これでは自らが人間だと明かしているようなものではないか。
自らを窮地に立たせてしまった愚行を、雷志は強く恥じた。
しかし、少女の反応は彼が想像する斜め上をいく。
「私はニンゲン? っていうのじゃないですよ。私は馬鬼です」
人懐っこい笑みを浮かべ、尻尾が忙しなく左右に揺れる。
少なくとも、敵意の類は感じられない。言動も柔らかく非常に好意的だ。
雷志は内心で安堵の息を吐いた――とりあえず、過剰に警戒はしなくてもよかろう。
「馬鬼……それが、君の名前なんですか?」
「いえ、そうじゃなくて……馬鬼は種族で、この子達もそうですよ」
「……は?」
無意識に素っ頓狂な声がもれる。
彼女は今、とんでもないことをさらりと宣った。
(この娘と、あの怪物が……同じだっていいたいのか?)
いくらなんでも、人のことを馬鹿にしすぎではないか……。
さしもの雷志も、顔に険しさを帯びた。
「失礼ですが、嘘を吐くにしても無理というものが……」
「嘘じゃありませんってば! 私、嘘を吐くのは大嫌いなんです!」
「むぅ……」
むっと頬を膨らませ不満を露わにする限り、言動は外見相応しい。
雷志も眉間のシワを濃くする――本当にそうなのかもしれない。
「じゃ、じゃあ改めて君の名前は?」
「私はツキノヨルノオウカといいます!」
当たり前のことを、さも誇らしく名乗った少女――ツキノヨルノオウカ。
屈託のない笑みが、太陽のように眩しい。
「ツキノヨルノオウカか……いい名前ですね。私は――」
一瞬、間を置いて――
「雷志と申します」
と、名乗った。
山田浅右衛門は、あくまでも襲名であって本名ではない。
人を知らないのなら、いちいち気にしなくてもいいが、雷志の誇りがそれを許さなかった。
「ライシさんって言うんですね! すっごくかっこいい名前です!」
あたかも自分のことのように喜ぶツキノヨルノオウカ。
子犬のような人懐っこさが、雷志の頬を緩ませる。
「なんだぁ? 誰かそこにいるのかぁ?」
しわがれた低い声はひどく気怠そう。
声の主を目にした時、鳴りを潜めたばかりの警戒心が爆発的に上昇する。
のそりと現れたのは、言葉悪くして言えば腐敗した肉の塊だ。
とにもかくにも大きい。脂肪によって弛んだ肉体からは強烈な悪臭を放つ。
これだけでも充分脅威であるのに対し、刀のように鋭い爪がぎらりと怪しく輝く。
「お前ぇ、見ない顔だなぁ。角も牙も翼もない……毛皮もない、つるつるの肌……」
「……」
上から下へ、のそりと視線が這う。
雷志は口を固く閉ざし、代わりにすっと身構えた。
ツキノヨルノオウカにはない禍々しさが、あれにはある――来るならば、こい。
親指で鯉口を静かに切ると、雷志はじろりと怪物に鋭い眼光を放った。
「もしかしてぇ、ニンゲンってぇやつかぁ?」
「……ならばなんですか?」
「ん~……いんやぁ別にぃ。珍しいもんを見たなぁって思っただけだぁ」
終始のんびりとした口調で、のそのそと緩慢な動きを見せる肉塊。
その見た目に反して敵意は欠片ほどもない。
尚も警戒する雷志を他所に、慣れた手つきで馬鬼に牧草を与えていく。
「ほんらぁ、お前らもしっかり食べろぉ」
「……」
異様という他ない光景。雷志はしばし唖然と目の前の現実を見つめる。
「わーい、ご飯だご飯だー!」
「こんらぁ。お前はこっちだろぉオウカぁ」
ツキノヨルノオウカも、怪物の登場に関し恐怖の色はまったくない。
むしろ、懐いている……そんな風にさえ受け取れた。
その代わり、異なる景色が目前に現れる。
「ここは……」
有体にいえば、環境は最悪の一言に尽きた。
雑草はぼうぼうに伸び放題で、葉先が肌をちくりと刺す。
それを超えた先にある小屋は、今にも倒壊しそうな雰囲気をひしひしとかもし出す。
よくこれで今までなにもなかったものだ……雷志はすこぶる本気で、そう思ってしまった。
それはさておき。
「うっ……この奇怪な動物はなんだ?」
飼育されているソレは、既存のどの家畜にも該当しない。
身体が馬――体毛は青白く輝き、氷のように冷たい印象を与える。
そして頭は鬼……おどろおどろしい形相に二本の立派な角を生やしている。
見た目に反して大人しいのか、雷志を前にしても見向きもしない。
目の前にある牧草のほうが、よほど余所者よりも重要であるようだ。
「……って、君はさっきの!?」
雷志はぎょっと目を丸くした。
何故、と……抱いて当然すぎる疑問が、脳裏に瞬時によぎる。
草原でばたりと出会った少女の姿がそこにあった。
何故か異形と同じように、ぼろぼろの小屋でのんびりとすごしている。
「はい? どうかしましたか?」
きょとんと、不思議そうな顔をする少女。
急いで駆け寄り――そこでようやく、彼女もまた人外であると理解する。
一見すると彼女は、幼気な少女と大差ない。
端正な顔立ちではあるが、まだまだあどけなさが残る。
翡翠色に輝く瞳にくっきりと浮かぶ桜の模様が印象的だ。
人間にはない、髪色と同じ馬の尾と二本の角……不動たる証拠に、雷志はつい押し黙ってしまう。
「君は……人間じゃないんですか?」
つい、疑問を口走ってしまう。
これでは自らが人間だと明かしているようなものではないか。
自らを窮地に立たせてしまった愚行を、雷志は強く恥じた。
しかし、少女の反応は彼が想像する斜め上をいく。
「私はニンゲン? っていうのじゃないですよ。私は馬鬼です」
人懐っこい笑みを浮かべ、尻尾が忙しなく左右に揺れる。
少なくとも、敵意の類は感じられない。言動も柔らかく非常に好意的だ。
雷志は内心で安堵の息を吐いた――とりあえず、過剰に警戒はしなくてもよかろう。
「馬鬼……それが、君の名前なんですか?」
「いえ、そうじゃなくて……馬鬼は種族で、この子達もそうですよ」
「……は?」
無意識に素っ頓狂な声がもれる。
彼女は今、とんでもないことをさらりと宣った。
(この娘と、あの怪物が……同じだっていいたいのか?)
いくらなんでも、人のことを馬鹿にしすぎではないか……。
さしもの雷志も、顔に険しさを帯びた。
「失礼ですが、嘘を吐くにしても無理というものが……」
「嘘じゃありませんってば! 私、嘘を吐くのは大嫌いなんです!」
「むぅ……」
むっと頬を膨らませ不満を露わにする限り、言動は外見相応しい。
雷志も眉間のシワを濃くする――本当にそうなのかもしれない。
「じゃ、じゃあ改めて君の名前は?」
「私はツキノヨルノオウカといいます!」
当たり前のことを、さも誇らしく名乗った少女――ツキノヨルノオウカ。
屈託のない笑みが、太陽のように眩しい。
「ツキノヨルノオウカか……いい名前ですね。私は――」
一瞬、間を置いて――
「雷志と申します」
と、名乗った。
山田浅右衛門は、あくまでも襲名であって本名ではない。
人を知らないのなら、いちいち気にしなくてもいいが、雷志の誇りがそれを許さなかった。
「ライシさんって言うんですね! すっごくかっこいい名前です!」
あたかも自分のことのように喜ぶツキノヨルノオウカ。
子犬のような人懐っこさが、雷志の頬を緩ませる。
「なんだぁ? 誰かそこにいるのかぁ?」
しわがれた低い声はひどく気怠そう。
声の主を目にした時、鳴りを潜めたばかりの警戒心が爆発的に上昇する。
のそりと現れたのは、言葉悪くして言えば腐敗した肉の塊だ。
とにもかくにも大きい。脂肪によって弛んだ肉体からは強烈な悪臭を放つ。
これだけでも充分脅威であるのに対し、刀のように鋭い爪がぎらりと怪しく輝く。
「お前ぇ、見ない顔だなぁ。角も牙も翼もない……毛皮もない、つるつるの肌……」
「……」
上から下へ、のそりと視線が這う。
雷志は口を固く閉ざし、代わりにすっと身構えた。
ツキノヨルノオウカにはない禍々しさが、あれにはある――来るならば、こい。
親指で鯉口を静かに切ると、雷志はじろりと怪物に鋭い眼光を放った。
「もしかしてぇ、ニンゲンってぇやつかぁ?」
「……ならばなんですか?」
「ん~……いんやぁ別にぃ。珍しいもんを見たなぁって思っただけだぁ」
終始のんびりとした口調で、のそのそと緩慢な動きを見せる肉塊。
その見た目に反して敵意は欠片ほどもない。
尚も警戒する雷志を他所に、慣れた手つきで馬鬼に牧草を与えていく。
「ほんらぁ、お前らもしっかり食べろぉ」
「……」
異様という他ない光景。雷志はしばし唖然と目の前の現実を見つめる。
「わーい、ご飯だご飯だー!」
「こんらぁ。お前はこっちだろぉオウカぁ」
ツキノヨルノオウカも、怪物の登場に関し恐怖の色はまったくない。
むしろ、懐いている……そんな風にさえ受け取れた。
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