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第三章:因縁の刃
第23話:ガチ恋勢の恐怖
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「ねぇねぇライシさん。今日は私のダンジョン配信に出てくれませんか?」
ここ最近、このような誘いがくるようになった。
ユウカやカナエといった、長い付き合いがあるならばともかく。
それまで顔合わせすら満足にしていなかったアイドルたちからもくるようになった。
何故、こうなったのか。当然雷志に思い当たる節は一つもなかった。
とはいえ、彼がいかに疑問しようともコラボを誘ってくるアイドルが多いのは事実である。
「いや、せっかくの誘いで悪いが遠慮させてもらおう」
雷志は今日も、アイドルたちからの誘いを丁重に断った。
疚しい理由などは微塵もなく、純粋に彼女たちの迷惑が被らないようにしたため。
ただでさえ、雷志の存在はほんの一握りではあるが非常に嫌悪している者がいる。
彼らのは、単なる嫉妬からくる浅はかな行動だ。その矛先が自分だけだったならば放置しておけばよい。
アイドルたちにまで何かしらの危害が及ぶことを、雷志は憂いていた。
「はぁ……」と、深い溜息を吐いた。
「やぁやぁ、お疲れのようだねぇ助手君」
「カナエか……」
「おやおや、憎まれ口を叩く余力さえもないぐらい疲れているみたいだねぇ」
「どういうわけか、他の奴らから度々合同配信を持ちかけられるようになったんだよ。今だって断ってきたばかりだ」
「ふふっ、君は今やヤマシロのみならず全地区から注目の的になっているからねぇ」
「そうなのか?」と、雷志は尋ね返した。
「……君、掲示板は見ていないのかい?」と、そう口にしたカナエはやや呆れた表情だ。
掲示板には様々なことについてが書かれている。
一つの話題に対して、共感した者が思い思いに言葉をつづる。
雷志は、そういった類のものに大して興味がなかった。他人の評価など実にどうでもいい。
「そういうものは一切見ていないな」
すこぶる興味がない。あくまでも自分がやりたいがままにする。それが雷志の信条である。
「たまには目を通してみたまえよ――では、君に代わって私が読んであげようかねぇ」
「いや、別にいらないぞ?」と、雷志は断った。
デバイスをいじるカナエは、気にする素振りもなく「では」と、口火を切る。
「かっこいいや素敵、というコメントが圧倒的に多いねぇ。中には君と交際してみたい、という声も上がっているね」
「交際って……俺にそんな気はないぞ?」
「気を付けたまえよ助手君。世の中には、厄介な視聴者もいるからねぇ」
そう発したカナエ――彼女の言葉には、かつてないほどの重みがあった。
「厄介な視聴者?」と、雷志は尋ね返す。
厄介な視聴者については、まったくわからないわけではなかった。
悪質なコメントを連投することをはじめ、自分語りをするのも実例の一つだ。
それよりも更に厄介なものがあるというのか。雷志の顔にも自然と真剣みを帯びる。
「それはだね、ガチ恋というものだよ助手君!」と、カナエが口火を切って叫んだ。
「……ガチ恋?」
雷志ははて、と小首をひねった。それは今まで耳にしたことのない単語だった。
「ガチ恋というのは、その人を応援したいがあまり周りとの区別がつかなくなる者だねぇ」
推しを愛するがあまり暴走してしまう視聴者の末路、それがこのガチ恋だとカナエはいう。
実例としては、他の視聴者に対して過剰に攻撃する――当人はいいことをしたと思い込んでいるから余計に質が悪い。
より悪質なものになると、自分と恋人関係だと現実との区別ができなくなってしまう。
(本当にそんなことがあるのか?)
にわかに信じ難い話ではある。雷志はすこぶる本気でそう思った。
とはいえ、カナエの言葉に嘘偽りの感情を一切感じなかった。
ならばこれは紛れもない事実なのだろう。けれども、やはりそう簡単に信じられない。
「まぁ、とりあえず気を付けておくか」
一応気には留めておこう。雷志はそう思った。
用務員としての仕事を終えて帰路に着く。
「…………」
すっかり通い慣れた道を通る。その時の雷志の表情はいつになく険しい。
誰かに後をつけられている。雷志は背後に意識をやった。
何者であるかはさておき、少なくともレギオンなどの類ではない。
敵意はなく、しかし得体の知れないなにかがひしひしと背中越しに伝わってくる。
「あ、そういえばあれ買い忘れてたっけなぁ」と、雷志はくるりと踵を返す。
もちろん、買い忘れたものなどない。要するにこれは咄嗟に吐いた嘘だ。
雷志が振り返った時、彼の視線の先にはなにもなかった。
視界に入る光景は、至ってごく普通の住宅街である――注意深く視なければ、見逃してしまうところだった。
(あいつは……)
曲がり角に潜んでいた者の足音がすぐに遠ざかっていき、やがて完全に消失した。
顔はしっかりと認識できていない。だが、それが女性であることだけはよくわかった。白梅香のいい匂いがふわりと鼻腔をくすぐっていった。
「……まさか、な」と、雷志は苦笑いを小さく浮かべる。
自分のような輩を好きになるものなどいるはずがない。
一抹の不安に苛まれる中――
「あれ?」と、雷志は怪訝な眼差しをそれを見た。
玄関が開いていた。鍵は、もちろんしっかりとかけた。
だが、もしかするとそう思い込んでいただけか――心の中にあったそんな淡い期待は、リビングの光景を目の当たりにして呆気なく崩壊した。
「なっ……!」
食卓には、見るからに豪勢な料理が所狭しと並んでいた。
雷志は基本自炊はする、が腕前は料理人の足元にも及ばない。
献立についても、学食以外では極めて質素なものばかりだった。
だからこそ、自分ではない誰かの料理に雷志は戦慄した。
「こ、これはまさか……ガチ恋とやらの仕業か?」
誰かを病的にまで好きになる。
これまで数多くの猛者と対峙した雷志でも、この手の類ははじめて経験する。
技と同じく、初見であるからこそ対処をするのは至難の業だ。
次のどのような手でくるか、予測さえもできない。
「ひ、ひとまずこれ……どうするかなぁ」と、雷志は改めて料理を見やる。
見た目や匂いだけならば、どれもこれもおいしそうだ。
しかし、誰のによる仕業かわからない以上迂闊に手は出せない。
雷志はしばしの間、その顔に難色を示した。
うんうんと何度も唸ること、ついに――
「……食うか」
と、意を決した。
雷志がいた時代では、食べ物を粗末にすることは大罪に等しかった。
その日を食えるかどうかもわからなかったあの時代だ。
現代は、良くも悪くも豊かすぎる。豊かであるがために、当たり前として認識してしまっている。
食事さえももはや、彼女たちにとっては普通なのだ。
「多少の毒ぐらいならなんとかなるしな……」と、雷志はおずおずと箸を伸ばす。
口にした。たちまち、なんとも言えない旨味が口腔内にふわりと広がる。
「味は……普通にうまいな」
毒の類も特にはなかった。これは安心して食べられるものだ。雷志はそう判断した。
心なしか、ほんのりと鉄のような味がした。
(気のせい、だよな……)
食べ終わってから思うことでもあるまい。雷志は自嘲気味に小さく笑った。
胃が満たされた頃、デバイスが突如として震えた。
(これは、確か通話だったな)
すっかり慣れた手つきで操作する。
「ん?」と、雷志はすぐに怪訝な眼差しをした。
表示された相手は知り合いの誰でもない。見知らぬ者からの通話だった。
「いったいだれだ?」
不思議に思いつつも、雷志は通話機能を起こす。
「誰だ?」と、雷志は尋ねた。
『ふふっ……私の料理を食べてくれたみたいですね』
知らない声だった。正確には明らかに人のものではない、作り物の声をしていた。
素性を隠してまで通話をしてきた相手に雷志の顔も険しさが帯びる。
「……いったい誰だ? どうしてこの“でばいす”の信号をお前が知っている」
『そんなことどうだっていいじゃないですか。それよりも、私が作ったご飯、おいしかったですか?』
「お前の仕業か。不本意だが確かに味はよかった。だが、いったい何の目的だ?」
『食べてくれたんですね? それならよかった……ふふっ、ふふふふっ』
「お前は誰なんだ?」と、雷志は再度尋ねた。
しかし女からの返答はそれからなく、通話は一方的に終わった。
静寂に支配された食卓にて、雷志は「どうする……?」と、もそりと呟く。
誰かに相談したほうがきっといいだろう。
だが、したところでなにか解決策でもあるのだろうか。
ひとまず雷志は、デバイスを起動させた。
「――、いきなりすまん。今いけるか? カナエ」
『君にしては珍しいねぇ。構わないよ、どうかしたのかい?』
「お前のいう、ガチ恋とやらに襲われたかもしれん」と、雷志は単刀直入にいった。
『――、なるほど。それで話題を振ったこの私に通話をしてきたというわけだね』
「そうだ。相手は家の鍵も簡単に開けてしまうようなやつだ。対策を指南してもらいたい」
『まぁ落ち着きたまえよ助手君。そうか、君はこの私を頼ったというわけだね』
突如、デバイス越しからカナエの笑い声が響いた。
心の奥底から愉快そうにけらけらと笑うカナエ。状況が状況だけに不気味さがただただ勝る。
突拍子もない豹変には、雷志もより一層険しい表情を示した。
「おい、何がおかしいんだ?」と、雷志は口火を切った。口調も自然と強くなる。
『あぁ、すまない。まず君に謝罪をしておこう――その料理を作ったのは、私だよ』
「なんだって!?」
カナエからの衝撃的すぎる発言に、雷志は大いに驚愕した。
『君があまりにも無警戒すぎたからねぇ。そのことをユウカに相談して、このドッキリ企画を思いついたというわけさ』
「じゃ、じゃあ俺の家の鍵を開けたのも――」
『もちろんこの私だとも』
彼女のやったことは胸を張って威張れるものではない。
無断で侵入し盗みこそしてないものの、不法侵入者という点は変わらない。
ともあれ、外部の犯行に及んだのが知り合いと知って、雷志はほっと安堵した――決して、よろしくはないのだが。
「お前のおかげで肝が冷えたよ。厄介リスナーっていうのは、こうも恐ろしいんだな……」
『本当に気を付けたまえよ? 今回はドッキリだったからよかったものの、これが本当に起きていたなら今頃大惨事になっていたかもしれないからねぇ』
「とりあえず、気を付ける……」
この経験は、二度としたくはない。雷志は切実にそう思った。
次からはもっと人気者であるという認識を持つようにしよう。そうしてもきっと罰は当たるまい。
「――、ところで。お前ってあれだけ料理が上手だったんだな」
『料理なんて実験と同じさ』
「いや違うだろ全然。だけど、あの鶏肉の料理? あれが一番うまかったな」
『……え? 私はそんなものは用意していないのだが』
「……は?」
雷志の顔から血の気がさぁっと引いた。
ここ最近、このような誘いがくるようになった。
ユウカやカナエといった、長い付き合いがあるならばともかく。
それまで顔合わせすら満足にしていなかったアイドルたちからもくるようになった。
何故、こうなったのか。当然雷志に思い当たる節は一つもなかった。
とはいえ、彼がいかに疑問しようともコラボを誘ってくるアイドルが多いのは事実である。
「いや、せっかくの誘いで悪いが遠慮させてもらおう」
雷志は今日も、アイドルたちからの誘いを丁重に断った。
疚しい理由などは微塵もなく、純粋に彼女たちの迷惑が被らないようにしたため。
ただでさえ、雷志の存在はほんの一握りではあるが非常に嫌悪している者がいる。
彼らのは、単なる嫉妬からくる浅はかな行動だ。その矛先が自分だけだったならば放置しておけばよい。
アイドルたちにまで何かしらの危害が及ぶことを、雷志は憂いていた。
「はぁ……」と、深い溜息を吐いた。
「やぁやぁ、お疲れのようだねぇ助手君」
「カナエか……」
「おやおや、憎まれ口を叩く余力さえもないぐらい疲れているみたいだねぇ」
「どういうわけか、他の奴らから度々合同配信を持ちかけられるようになったんだよ。今だって断ってきたばかりだ」
「ふふっ、君は今やヤマシロのみならず全地区から注目の的になっているからねぇ」
「そうなのか?」と、雷志は尋ね返した。
「……君、掲示板は見ていないのかい?」と、そう口にしたカナエはやや呆れた表情だ。
掲示板には様々なことについてが書かれている。
一つの話題に対して、共感した者が思い思いに言葉をつづる。
雷志は、そういった類のものに大して興味がなかった。他人の評価など実にどうでもいい。
「そういうものは一切見ていないな」
すこぶる興味がない。あくまでも自分がやりたいがままにする。それが雷志の信条である。
「たまには目を通してみたまえよ――では、君に代わって私が読んであげようかねぇ」
「いや、別にいらないぞ?」と、雷志は断った。
デバイスをいじるカナエは、気にする素振りもなく「では」と、口火を切る。
「かっこいいや素敵、というコメントが圧倒的に多いねぇ。中には君と交際してみたい、という声も上がっているね」
「交際って……俺にそんな気はないぞ?」
「気を付けたまえよ助手君。世の中には、厄介な視聴者もいるからねぇ」
そう発したカナエ――彼女の言葉には、かつてないほどの重みがあった。
「厄介な視聴者?」と、雷志は尋ね返す。
厄介な視聴者については、まったくわからないわけではなかった。
悪質なコメントを連投することをはじめ、自分語りをするのも実例の一つだ。
それよりも更に厄介なものがあるというのか。雷志の顔にも自然と真剣みを帯びる。
「それはだね、ガチ恋というものだよ助手君!」と、カナエが口火を切って叫んだ。
「……ガチ恋?」
雷志ははて、と小首をひねった。それは今まで耳にしたことのない単語だった。
「ガチ恋というのは、その人を応援したいがあまり周りとの区別がつかなくなる者だねぇ」
推しを愛するがあまり暴走してしまう視聴者の末路、それがこのガチ恋だとカナエはいう。
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より悪質なものになると、自分と恋人関係だと現実との区別ができなくなってしまう。
(本当にそんなことがあるのか?)
にわかに信じ難い話ではある。雷志はすこぶる本気でそう思った。
とはいえ、カナエの言葉に嘘偽りの感情を一切感じなかった。
ならばこれは紛れもない事実なのだろう。けれども、やはりそう簡単に信じられない。
「まぁ、とりあえず気を付けておくか」
一応気には留めておこう。雷志はそう思った。
用務員としての仕事を終えて帰路に着く。
「…………」
すっかり通い慣れた道を通る。その時の雷志の表情はいつになく険しい。
誰かに後をつけられている。雷志は背後に意識をやった。
何者であるかはさておき、少なくともレギオンなどの類ではない。
敵意はなく、しかし得体の知れないなにかがひしひしと背中越しに伝わってくる。
「あ、そういえばあれ買い忘れてたっけなぁ」と、雷志はくるりと踵を返す。
もちろん、買い忘れたものなどない。要するにこれは咄嗟に吐いた嘘だ。
雷志が振り返った時、彼の視線の先にはなにもなかった。
視界に入る光景は、至ってごく普通の住宅街である――注意深く視なければ、見逃してしまうところだった。
(あいつは……)
曲がり角に潜んでいた者の足音がすぐに遠ざかっていき、やがて完全に消失した。
顔はしっかりと認識できていない。だが、それが女性であることだけはよくわかった。白梅香のいい匂いがふわりと鼻腔をくすぐっていった。
「……まさか、な」と、雷志は苦笑いを小さく浮かべる。
自分のような輩を好きになるものなどいるはずがない。
一抹の不安に苛まれる中――
「あれ?」と、雷志は怪訝な眼差しをそれを見た。
玄関が開いていた。鍵は、もちろんしっかりとかけた。
だが、もしかするとそう思い込んでいただけか――心の中にあったそんな淡い期待は、リビングの光景を目の当たりにして呆気なく崩壊した。
「なっ……!」
食卓には、見るからに豪勢な料理が所狭しと並んでいた。
雷志は基本自炊はする、が腕前は料理人の足元にも及ばない。
献立についても、学食以外では極めて質素なものばかりだった。
だからこそ、自分ではない誰かの料理に雷志は戦慄した。
「こ、これはまさか……ガチ恋とやらの仕業か?」
誰かを病的にまで好きになる。
これまで数多くの猛者と対峙した雷志でも、この手の類ははじめて経験する。
技と同じく、初見であるからこそ対処をするのは至難の業だ。
次のどのような手でくるか、予測さえもできない。
「ひ、ひとまずこれ……どうするかなぁ」と、雷志は改めて料理を見やる。
見た目や匂いだけならば、どれもこれもおいしそうだ。
しかし、誰のによる仕業かわからない以上迂闊に手は出せない。
雷志はしばしの間、その顔に難色を示した。
うんうんと何度も唸ること、ついに――
「……食うか」
と、意を決した。
雷志がいた時代では、食べ物を粗末にすることは大罪に等しかった。
その日を食えるかどうかもわからなかったあの時代だ。
現代は、良くも悪くも豊かすぎる。豊かであるがために、当たり前として認識してしまっている。
食事さえももはや、彼女たちにとっては普通なのだ。
「多少の毒ぐらいならなんとかなるしな……」と、雷志はおずおずと箸を伸ばす。
口にした。たちまち、なんとも言えない旨味が口腔内にふわりと広がる。
「味は……普通にうまいな」
毒の類も特にはなかった。これは安心して食べられるものだ。雷志はそう判断した。
心なしか、ほんのりと鉄のような味がした。
(気のせい、だよな……)
食べ終わってから思うことでもあるまい。雷志は自嘲気味に小さく笑った。
胃が満たされた頃、デバイスが突如として震えた。
(これは、確か通話だったな)
すっかり慣れた手つきで操作する。
「ん?」と、雷志はすぐに怪訝な眼差しをした。
表示された相手は知り合いの誰でもない。見知らぬ者からの通話だった。
「いったいだれだ?」
不思議に思いつつも、雷志は通話機能を起こす。
「誰だ?」と、雷志は尋ねた。
『ふふっ……私の料理を食べてくれたみたいですね』
知らない声だった。正確には明らかに人のものではない、作り物の声をしていた。
素性を隠してまで通話をしてきた相手に雷志の顔も険しさが帯びる。
「……いったい誰だ? どうしてこの“でばいす”の信号をお前が知っている」
『そんなことどうだっていいじゃないですか。それよりも、私が作ったご飯、おいしかったですか?』
「お前の仕業か。不本意だが確かに味はよかった。だが、いったい何の目的だ?」
『食べてくれたんですね? それならよかった……ふふっ、ふふふふっ』
「お前は誰なんだ?」と、雷志は再度尋ねた。
しかし女からの返答はそれからなく、通話は一方的に終わった。
静寂に支配された食卓にて、雷志は「どうする……?」と、もそりと呟く。
誰かに相談したほうがきっといいだろう。
だが、したところでなにか解決策でもあるのだろうか。
ひとまず雷志は、デバイスを起動させた。
「――、いきなりすまん。今いけるか? カナエ」
『君にしては珍しいねぇ。構わないよ、どうかしたのかい?』
「お前のいう、ガチ恋とやらに襲われたかもしれん」と、雷志は単刀直入にいった。
『――、なるほど。それで話題を振ったこの私に通話をしてきたというわけだね』
「そうだ。相手は家の鍵も簡単に開けてしまうようなやつだ。対策を指南してもらいたい」
『まぁ落ち着きたまえよ助手君。そうか、君はこの私を頼ったというわけだね』
突如、デバイス越しからカナエの笑い声が響いた。
心の奥底から愉快そうにけらけらと笑うカナエ。状況が状況だけに不気味さがただただ勝る。
突拍子もない豹変には、雷志もより一層険しい表情を示した。
「おい、何がおかしいんだ?」と、雷志は口火を切った。口調も自然と強くなる。
『あぁ、すまない。まず君に謝罪をしておこう――その料理を作ったのは、私だよ』
「なんだって!?」
カナエからの衝撃的すぎる発言に、雷志は大いに驚愕した。
『君があまりにも無警戒すぎたからねぇ。そのことをユウカに相談して、このドッキリ企画を思いついたというわけさ』
「じゃ、じゃあ俺の家の鍵を開けたのも――」
『もちろんこの私だとも』
彼女のやったことは胸を張って威張れるものではない。
無断で侵入し盗みこそしてないものの、不法侵入者という点は変わらない。
ともあれ、外部の犯行に及んだのが知り合いと知って、雷志はほっと安堵した――決して、よろしくはないのだが。
「お前のおかげで肝が冷えたよ。厄介リスナーっていうのは、こうも恐ろしいんだな……」
『本当に気を付けたまえよ? 今回はドッキリだったからよかったものの、これが本当に起きていたなら今頃大惨事になっていたかもしれないからねぇ』
「とりあえず、気を付ける……」
この経験は、二度としたくはない。雷志は切実にそう思った。
次からはもっと人気者であるという認識を持つようにしよう。そうしてもきっと罰は当たるまい。
「――、ところで。お前ってあれだけ料理が上手だったんだな」
『料理なんて実験と同じさ』
「いや違うだろ全然。だけど、あの鶏肉の料理? あれが一番うまかったな」
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「……は?」
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