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第二章:剣鬼転生
第12話
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オルトリンデに、いつもより少し熱気のある風が吹くようになった。
もうすぐ訪れようとする夏を感じながら、ジンは意気揚々とした足取りでリリアナのもとへと向かった。
ついにできたのか……!
いや、まさかこんなにも早くできるなんて嬉しい誤算だぞ……。
依頼した刀ができあがった。その一報を受けた際のジンは、外見相応の反応を示した。
それによってメイドの数名が鼻血を出し気絶するという、ちょっとした被害まで生んだ。
それはさておき。
「リリアナ! 早速きましたよ! 俺の刀はどこにありますか早く見せてほしいんですけど」
「ジン様、普段の冷静さが明後日の方向に行ってしまっていますわよ。王家の血を引く者として相応しい振る舞いをしてください」
「あ……失礼しました、ついつい嬉しくなってしまって……」
エルトルージェからの指摘にジンは軽く咳払いをした。
そして改めて、ジンはリリアナへと尋ねた。
「刀ができたと聞きました。どこにありますか?」
「ん。あそこにある……」
「おぉ、これは……!」
リリアナが指差す先、作業台の上にそれらはちょこんと鎮座していた。
大刀がすぐそこにある。これにジンは大いに打ち震えた。
形だけでいえば、それは正しく日本刀そのものだった。
以前使っていたものよりもちょっとだけ短いか……。
それでも、こいつは紛れもなく刀だ……!
ジンは早速手に取った。そしてすらりと静かに鞘から刃を引き抜く。
「……すごいな」
ジンはもそりと呟いた。そこには感嘆の感情がこれでもかと宿っていた。
刃長はおよそ二尺三寸三分、滑らかな弧を描く鎬造り。
片刃の刀身だが、重ねが厚い。そのため幼いジンの手にはずしりとした確かな重みが伝わった。
そして最大の特徴は本来とは異なるその輝きにあった。
まるで雪のような白さだ……。
一点の穢れもない刀身は純白の一言に尽きよう。
どこか神秘的で幻想的なその輝きは、隣にいたエルトルージェでさえも感嘆の息をそっともらさせるほどだった。
「ジン様、それがカタナという剣なのですか?」
「えぇ、これは間違いなく刀ですよ。ははっ……まさか本当に異世界の地で日本刀が手に入るなんて……!」
「異世界……?」
「あ、いやなんでもありません。独り言ですのでどうかお気になさらず」
きょとん、と不可思議そうな顔をするリリアナにジンは苦笑いを返した。
「カタナ……すごく独特な造りだった」
「いやいや、まさかこんなに早くできるなんて思ってもいなかったですよ!」
「ん。だけど、たくさん失敗した」
リリアナがそう言ったように、樽の中には乱雑に刀身が入れられていた。
もったいないな……。
ジンは樽の中にあったそれを手にした。
「それは失敗作……」
「いいえ、これはどれもこれも失敗作なんかじゃありませんよリリアナ」
「でも……」
「俺にはわかる……この刀の一本一本には、リリアナの強い想いが宿っていることを」
古来より日本では、八百万信仰が浸透していた。
万物にはみな等しく魂がそこに宿る。例えそれが物や概念であろうと例外ではない。
リリアナが口にした失敗作は、確かに刀としての価値や機能はほぼ皆無に等しい。
使い物にならない、そこはジンも素直に認めてはいた。
けれどもそれらに宿る思念はまだ、生きていた。
どうかいい刀になってくれますように――そんな思いがひしひしと伝わってくる。
破棄をするにはあまりにももったいない……。
生きているのであれば、まだ。使い道はある……。
ジンはリリアナに口火を切った。
「リリアナ、もう一つお願いしてもいいですか?」
「お願い……?」
「この失敗作すべてを使ってもう一本、刀を打ってくれませんか? 追加料金はもちろん支払いますので」
「え? でも……」
「お願い、できますよね?」
ジンはジッとリリアナの瞳を見据えた。
わずかな曇りもない、硝子のように透き通ったとてもきれいな赤き瞳だった。
しばしの静寂の後、リリアナが刻むように首肯した。その時の表情はどこか、嬉しそうでもあった。
「……わかった。やってみる……!」
「ありがとうございますリリアナ」
「――、ジン様。依頼するのは構いませんがお小遣いはちゃんとあるのですか?」
「……そこは、ほら。なんとかしますので」
「まだ幼いジン様がどうやって金銭を稼ぐというのです?」
「……皿洗い、とか?」
「何年かかると思っているのですか」
エルトルージェからの的確な指摘に、ジンはむぅっとうなってしまった。
何事においても無料ではないし、無料というものほど怖いものはない。
最悪、城の経費からちょっと拝借するしか……。
一瞬だけ、ジンの胸中にて悪魔が甘くささやいた。
いや、やめよう。民草の血税を俺如きなんかが使っていい道理はないし……。
ジンはぶんぶんと首を横に振った。危うく職権乱用しそうになった己を、ジンは強く頬を殴る。鈍くも鋭い音が鳴った。じんじんと頬に帯びる鈍痛と熱が、思考を冷静にしていく。
「……いいよ」
「え?」
「お金はサービスする……」
「いや、さすがにそれは申し訳ないですよ。ちゃんと正当な報酬があってこそはじめて対等な商売が成立するんですから」
「……ジン様は、本当に子どもなの……?」
そうすこぶる本気で尋ねたリリアナの視線はいぶかし気である。
5歳らしからぬその思考は周囲を大いに驚愕させ、時に畏怖にも似た感情を抱かせる。
同年代の子供たちからは言うまでもなく、ジンと仲良くなろうとする者は一人としていない。彼が王族であるから――確かに理由としてそれもあった。しかし最大の要因はやはり、すっかり成熟してしまった精神であるが故の価値観の違いだった。
子供らしく振舞うっていうのは、俺には一生できそうにないからなぁ……。
こんな5歳児がいてなるものか、とジンは内心で自嘲気味に小さく笑った。
「5歳の子供ですけど、なにか?」
「ん……こんな5歳児はいない」
「……そんなにはっきり言わなくてもいいじゃないですか」
「でも、子供なのは変わらない。だから、遠慮はしなくていい……」
「……じゃあ、今回だけはお言葉に甘えさせていただきます。その代わり、今度来た時には必ず借りを返させていただきます」
「ん。楽しみにしてる……」
「それじゃあリリアナ、またできたら連絡を――」
「おいおい、なんなんだこの店は! こんなしみったれた場所にはお似合いだけどな!」
退店しようとした矢先だった。
突如やってきた粗暴な男にリリアナは目を静かに細めた。
「おい、ここは鍛冶屋なんだろ? だったら俺の剣直してくれや」
「わ、わかった。お、お代は……」
「あぁ? お代なんて必要ないだろうが。こんな人気もない寂れた場所にわざわざ選んできてやったんだ。逆に感謝料を払ってほしいもんだぜ」
げらげらと醜く笑うその男に、ジンはつかつかと歩み寄る。
「……失礼ですが、あなたのような人間はこの店の敷居を跨ぐ権利すらありませんよ」
「あぁ? なんだこのクソカギは」
「口を慎みなさい。このお方をどなたと――」
ジンはエルトルージェを手で制した――このような輩にわざわざ言う必要はない、と。
何故、とそう今にも問い質しそうなエルトルージェだったが、ジンに引く気つもりが微塵もない。そう理解したことで渋々ながらも素直に口を閉じた。
「あなたは、彼女の鍛冶師としての技量がどれほどのものかまるで理解できていない。そんな輩が彼女に剣を修復してもらおうだなんて片腹痛いです。なので早急にお引き取りを」
「んだとこのクソガキがぁ! 大人を舐めてやがるとどうなるか教え――」
刹那、しゃりんと刃鳴がした。
「ほぉ……じゃあそのお代はあなたの命で、ということでしょうか?」
「……え?」
男の口からは素っ頓狂な声がもれた。
唖然とした表情を示す男の視線は、自らの手にしっかりと固定されている。
抜いたはずの剣がどこにもない。厳密には、鍔元より三寸先がなかった。
消失した刀身は、店の天井にあった。晒された断面図に乱れはなく、きれいに両断された形跡がしかとそこに残されている。
これは、とんでもない代物ができてしまったぞ……。
ジンは思わず、苦笑いを浮かべてしまった。
斬った感触がまるで伝わってこなかった……。
この感覚を、俺は知ってる……。
こいつはまるで、村正だ……!
ジンは歓喜に打ち震えた。
「な、なんだよそれ……そ、そんな細っこい剣でどうして」
「次はあなたの首が飛ぶことになりますが……このまま続けますか?」
「ひ、ひぃぃっ!」
強面だったはずの表情は今や、すっかり恐怖によって支配され面影すらない。
情けのない悲鳴と共に逃げていった男に、ジンは深い溜息と共に見送った。
「――、リリアナ。今日からウチで働きませんか?」
「え……?」
ジンからの唐突極まりないこの申し出には、リリアナだけでなくエルトルージェもぎょっと目を丸くした。
「ジン様、そんな勝手なことは――」
「勝手じゃありませんよ。彼女の鍛冶師としての腕は本物です、それは今証明されたばかりじゃありませんか。それに今後俺の武器の手入れなんかはリリアナにずっと担当してほしい。そう思えば城に専属鍛冶師としてきてもらったほうがずっと効率がいいじゃないですか」
「それは……」
「それに、これはリリアナの身を守るためでもあるんですよ」
路地裏にあるすごく寂れたその店には凄腕の鍛冶師がいる。この喧伝はあの男によって瞬く間に広がることだろう。
そうなれば確かに、リリアナの知名度がぐんと上がるのは火を見るよりも明らかだった。
だがそうなれば、同等の危険が彼女に襲い掛かることも意味する。
リリアナは、鍛冶師としての腕前はいいが、戦いに関しては素人も同然だ。
男と対峙した時のリリアナの表情は、ひどく怯えていた。
そんな者が自衛する手立てがあるとは、ジンはとても思えなかった。
「――、というわけです。どうか俺の専属になっていただけませんか?」
「ウ、ウチなんかが……」
「謙遜も過ぎると嫌味になりますよ。あなたの、リリアナの鍛冶師としての腕は俺が推薦します。ですからどうか……」
「ん……その、えっと……よろしくお願いします……」
「決まりですね。ありがとうございますリリアナ」
ジンは深々と頭を下げた。
リリアナが専属となってくれるのは非常に心強い……。
この人ならばもしかすると、あの村正をも超えるかもしれない……。
これより先、どんな刀を打ってくれるだろう……。
今からが楽しみで仕方がない。ジンは内心でそうほくそ笑んだ。
もうすぐ訪れようとする夏を感じながら、ジンは意気揚々とした足取りでリリアナのもとへと向かった。
ついにできたのか……!
いや、まさかこんなにも早くできるなんて嬉しい誤算だぞ……。
依頼した刀ができあがった。その一報を受けた際のジンは、外見相応の反応を示した。
それによってメイドの数名が鼻血を出し気絶するという、ちょっとした被害まで生んだ。
それはさておき。
「リリアナ! 早速きましたよ! 俺の刀はどこにありますか早く見せてほしいんですけど」
「ジン様、普段の冷静さが明後日の方向に行ってしまっていますわよ。王家の血を引く者として相応しい振る舞いをしてください」
「あ……失礼しました、ついつい嬉しくなってしまって……」
エルトルージェからの指摘にジンは軽く咳払いをした。
そして改めて、ジンはリリアナへと尋ねた。
「刀ができたと聞きました。どこにありますか?」
「ん。あそこにある……」
「おぉ、これは……!」
リリアナが指差す先、作業台の上にそれらはちょこんと鎮座していた。
大刀がすぐそこにある。これにジンは大いに打ち震えた。
形だけでいえば、それは正しく日本刀そのものだった。
以前使っていたものよりもちょっとだけ短いか……。
それでも、こいつは紛れもなく刀だ……!
ジンは早速手に取った。そしてすらりと静かに鞘から刃を引き抜く。
「……すごいな」
ジンはもそりと呟いた。そこには感嘆の感情がこれでもかと宿っていた。
刃長はおよそ二尺三寸三分、滑らかな弧を描く鎬造り。
片刃の刀身だが、重ねが厚い。そのため幼いジンの手にはずしりとした確かな重みが伝わった。
そして最大の特徴は本来とは異なるその輝きにあった。
まるで雪のような白さだ……。
一点の穢れもない刀身は純白の一言に尽きよう。
どこか神秘的で幻想的なその輝きは、隣にいたエルトルージェでさえも感嘆の息をそっともらさせるほどだった。
「ジン様、それがカタナという剣なのですか?」
「えぇ、これは間違いなく刀ですよ。ははっ……まさか本当に異世界の地で日本刀が手に入るなんて……!」
「異世界……?」
「あ、いやなんでもありません。独り言ですのでどうかお気になさらず」
きょとん、と不可思議そうな顔をするリリアナにジンは苦笑いを返した。
「カタナ……すごく独特な造りだった」
「いやいや、まさかこんなに早くできるなんて思ってもいなかったですよ!」
「ん。だけど、たくさん失敗した」
リリアナがそう言ったように、樽の中には乱雑に刀身が入れられていた。
もったいないな……。
ジンは樽の中にあったそれを手にした。
「それは失敗作……」
「いいえ、これはどれもこれも失敗作なんかじゃありませんよリリアナ」
「でも……」
「俺にはわかる……この刀の一本一本には、リリアナの強い想いが宿っていることを」
古来より日本では、八百万信仰が浸透していた。
万物にはみな等しく魂がそこに宿る。例えそれが物や概念であろうと例外ではない。
リリアナが口にした失敗作は、確かに刀としての価値や機能はほぼ皆無に等しい。
使い物にならない、そこはジンも素直に認めてはいた。
けれどもそれらに宿る思念はまだ、生きていた。
どうかいい刀になってくれますように――そんな思いがひしひしと伝わってくる。
破棄をするにはあまりにももったいない……。
生きているのであれば、まだ。使い道はある……。
ジンはリリアナに口火を切った。
「リリアナ、もう一つお願いしてもいいですか?」
「お願い……?」
「この失敗作すべてを使ってもう一本、刀を打ってくれませんか? 追加料金はもちろん支払いますので」
「え? でも……」
「お願い、できますよね?」
ジンはジッとリリアナの瞳を見据えた。
わずかな曇りもない、硝子のように透き通ったとてもきれいな赤き瞳だった。
しばしの静寂の後、リリアナが刻むように首肯した。その時の表情はどこか、嬉しそうでもあった。
「……わかった。やってみる……!」
「ありがとうございますリリアナ」
「――、ジン様。依頼するのは構いませんがお小遣いはちゃんとあるのですか?」
「……そこは、ほら。なんとかしますので」
「まだ幼いジン様がどうやって金銭を稼ぐというのです?」
「……皿洗い、とか?」
「何年かかると思っているのですか」
エルトルージェからの的確な指摘に、ジンはむぅっとうなってしまった。
何事においても無料ではないし、無料というものほど怖いものはない。
最悪、城の経費からちょっと拝借するしか……。
一瞬だけ、ジンの胸中にて悪魔が甘くささやいた。
いや、やめよう。民草の血税を俺如きなんかが使っていい道理はないし……。
ジンはぶんぶんと首を横に振った。危うく職権乱用しそうになった己を、ジンは強く頬を殴る。鈍くも鋭い音が鳴った。じんじんと頬に帯びる鈍痛と熱が、思考を冷静にしていく。
「……いいよ」
「え?」
「お金はサービスする……」
「いや、さすがにそれは申し訳ないですよ。ちゃんと正当な報酬があってこそはじめて対等な商売が成立するんですから」
「……ジン様は、本当に子どもなの……?」
そうすこぶる本気で尋ねたリリアナの視線はいぶかし気である。
5歳らしからぬその思考は周囲を大いに驚愕させ、時に畏怖にも似た感情を抱かせる。
同年代の子供たちからは言うまでもなく、ジンと仲良くなろうとする者は一人としていない。彼が王族であるから――確かに理由としてそれもあった。しかし最大の要因はやはり、すっかり成熟してしまった精神であるが故の価値観の違いだった。
子供らしく振舞うっていうのは、俺には一生できそうにないからなぁ……。
こんな5歳児がいてなるものか、とジンは内心で自嘲気味に小さく笑った。
「5歳の子供ですけど、なにか?」
「ん……こんな5歳児はいない」
「……そんなにはっきり言わなくてもいいじゃないですか」
「でも、子供なのは変わらない。だから、遠慮はしなくていい……」
「……じゃあ、今回だけはお言葉に甘えさせていただきます。その代わり、今度来た時には必ず借りを返させていただきます」
「ん。楽しみにしてる……」
「それじゃあリリアナ、またできたら連絡を――」
「おいおい、なんなんだこの店は! こんなしみったれた場所にはお似合いだけどな!」
退店しようとした矢先だった。
突如やってきた粗暴な男にリリアナは目を静かに細めた。
「おい、ここは鍛冶屋なんだろ? だったら俺の剣直してくれや」
「わ、わかった。お、お代は……」
「あぁ? お代なんて必要ないだろうが。こんな人気もない寂れた場所にわざわざ選んできてやったんだ。逆に感謝料を払ってほしいもんだぜ」
げらげらと醜く笑うその男に、ジンはつかつかと歩み寄る。
「……失礼ですが、あなたのような人間はこの店の敷居を跨ぐ権利すらありませんよ」
「あぁ? なんだこのクソカギは」
「口を慎みなさい。このお方をどなたと――」
ジンはエルトルージェを手で制した――このような輩にわざわざ言う必要はない、と。
何故、とそう今にも問い質しそうなエルトルージェだったが、ジンに引く気つもりが微塵もない。そう理解したことで渋々ながらも素直に口を閉じた。
「あなたは、彼女の鍛冶師としての技量がどれほどのものかまるで理解できていない。そんな輩が彼女に剣を修復してもらおうだなんて片腹痛いです。なので早急にお引き取りを」
「んだとこのクソガキがぁ! 大人を舐めてやがるとどうなるか教え――」
刹那、しゃりんと刃鳴がした。
「ほぉ……じゃあそのお代はあなたの命で、ということでしょうか?」
「……え?」
男の口からは素っ頓狂な声がもれた。
唖然とした表情を示す男の視線は、自らの手にしっかりと固定されている。
抜いたはずの剣がどこにもない。厳密には、鍔元より三寸先がなかった。
消失した刀身は、店の天井にあった。晒された断面図に乱れはなく、きれいに両断された形跡がしかとそこに残されている。
これは、とんでもない代物ができてしまったぞ……。
ジンは思わず、苦笑いを浮かべてしまった。
斬った感触がまるで伝わってこなかった……。
この感覚を、俺は知ってる……。
こいつはまるで、村正だ……!
ジンは歓喜に打ち震えた。
「な、なんだよそれ……そ、そんな細っこい剣でどうして」
「次はあなたの首が飛ぶことになりますが……このまま続けますか?」
「ひ、ひぃぃっ!」
強面だったはずの表情は今や、すっかり恐怖によって支配され面影すらない。
情けのない悲鳴と共に逃げていった男に、ジンは深い溜息と共に見送った。
「――、リリアナ。今日からウチで働きませんか?」
「え……?」
ジンからの唐突極まりないこの申し出には、リリアナだけでなくエルトルージェもぎょっと目を丸くした。
「ジン様、そんな勝手なことは――」
「勝手じゃありませんよ。彼女の鍛冶師としての腕は本物です、それは今証明されたばかりじゃありませんか。それに今後俺の武器の手入れなんかはリリアナにずっと担当してほしい。そう思えば城に専属鍛冶師としてきてもらったほうがずっと効率がいいじゃないですか」
「それは……」
「それに、これはリリアナの身を守るためでもあるんですよ」
路地裏にあるすごく寂れたその店には凄腕の鍛冶師がいる。この喧伝はあの男によって瞬く間に広がることだろう。
そうなれば確かに、リリアナの知名度がぐんと上がるのは火を見るよりも明らかだった。
だがそうなれば、同等の危険が彼女に襲い掛かることも意味する。
リリアナは、鍛冶師としての腕前はいいが、戦いに関しては素人も同然だ。
男と対峙した時のリリアナの表情は、ひどく怯えていた。
そんな者が自衛する手立てがあるとは、ジンはとても思えなかった。
「――、というわけです。どうか俺の専属になっていただけませんか?」
「ウ、ウチなんかが……」
「謙遜も過ぎると嫌味になりますよ。あなたの、リリアナの鍛冶師としての腕は俺が推薦します。ですからどうか……」
「ん……その、えっと……よろしくお願いします……」
「決まりですね。ありがとうございますリリアナ」
ジンは深々と頭を下げた。
リリアナが専属となってくれるのは非常に心強い……。
この人ならばもしかすると、あの村正をも超えるかもしれない……。
これより先、どんな刀を打ってくれるだろう……。
今からが楽しみで仕方がない。ジンは内心でそうほくそ笑んだ。
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