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第1話

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 本日は雲一つない快晴。

 さんさんと輝く太陽は眩しくもとても暖かく、その下では小鳥達が優雅に泳いでいる。

 時折頬をそっと、優しく撫でていく微風はまだほんのりと冬の冷たさを帯びていた。

 それが逆に心地良くもある。

 今日のような天気は正しく、絶好のお出かけ日和だろう。

 故に、こんなことならば出かけるべきではなかった……、と彼――和泉雷志いずみらいしは激しく後悔した。

 つい一時間前まではからっと晴れていたのに、どんよりとした雲が目立ち始めたと思った瞬間には、さながら滝のような雨がどっと地上を襲ったのである。

 轟々と降り頻る雨の勢いは未だ衰えるばかりか、むしろより一層激しさを増してさえいた。

 視界は悪く、たったの数センチ先でさえも雨に遮られてどうなっているかがわからない。

 雨のカーテンに視界を遮られた現在、雷志にはこの雨が降り止むのを待つことしかできなかった。

 快晴だったから当然傘を所持しているわけもなく、しかし濡れるのだけはごめんだと咄嗟に避難したのが、今彼がいる廃神社である。


「まさか……こんなところ廃神社があるとは思いませんでしたね」


 そう呟いた雷志の言霊には、強い好奇心が宿っていた。

 生まれてこの方、雷志は故郷から一度も離れたことがない。

 離れなかったからこそ、地理に関して自然と詳しくなるのは当然である。

 その中で未だ自分の知らない場所があったとすれば、興味を湧くのは無理もない話だろう。

 廃神社は、その外観から容易に察せられるようにもう何十年、何百年と人の手が入っていない。

 どんどん劣化していくのは言うまでもなく、本殿に至っては今にも倒壊しそうな雰囲気だ。

 その中で雨宿りをする雷志の心情は、穏やかであるとはすこぶる言い難いものだった。

 早く雨が止んでくれないだろうか……。こう切に願う雷志だが、そんな彼の願いが天に通じた気配はなく。

 雨は未だ、ざぁざぁと激しく地上を叩くばかりだった。


「こんなことなら、出掛けない方がよかったですね……」


 こう口にしたものの、後悔したところでどうにもならない。

 最終的にそう判断したのは己である以上、責任は他の誰でもない。

 従って雷志は、この激しく降る雨が止むのをひたすら待つしかなかった。


「――、そうだ」


 雷志がそう、不意に口にしたのは咄嗟の思い付きである。

 何を祀っていたかはさておき。せっかくの記念だからと雷志は拝んでいくことにした。

 神頼みなんてものに頼る気はさしもの彼もさらさらないが、これも何かの縁だろうと雷志はボロボロに朽ちた賽銭箱に五円玉をそっと投げ入れる。

 カタンッ、と木を軽く叩いた音の虚しさを哀れみつつも、雷志は静かにそっと手を合わせて拝む。

 別段、信仰深い方ではなく。いわばその時の気分や雰囲気によって左右される方だ。

 今こうして拝んでいるのも、たまたま目前に神社があるというだけ。さもなくばわざわざ神社に足を運んで拝むようなめんどうくさい真似を雷志はしない。


「――、よし。これで雨も止んでくれればありがたいんですけどね」


 そう自嘲気味に小さく笑っていた雷志が、唖然とした顔を浮かべたのはその十数秒後のことだった。

 それまでまったく止む気配のなかった雨が、突然ぴたりと止んだのである。

 加えてどんよりと空を覆っていた雲の隙間から、眩い陽光が地上へと差し込む。

 奇しくもその陽光は雷志がいる神社だけに照射され、ちょうど光の中心にいる彼はその眩さのに思わず手で顔を隠してしまう。


「……これは、本当に神様に祈りでも通じたのか?」


 あるわけが、ない。雷志はそう自らに言い聞かせた後に、鼻で一笑に伏すと廃神社を後にする。

 そして、すぐに異変に気付いた彼の顔はひどく訝し気なものだった。

 いったいどうなってるんだ……? 雷志ははて、と小首をひねる。


「どうしてこの道だけにしか晴れてないんだ……?」


 雨は、完全に止んでなどいなかった。

 ざぁざぁと雨が降りしきる中でついには雷鳴までもが激しく轟く始末である。

 雨は降らないと、傘を所持してこなかった者達を容赦なく打つ雨は徐々に体温を奪っていく。

 それから必死に逃れようとする彼らが必死な中で、雷志だけは一切雨に濡れていない。

 海を割って突き進むモーゼのごとく。左右を雨のカーテンに挟まれている雷志は、一滴も濡れることなく無事自宅に到着した。
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