はーとふるクインテット

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第一章 みんなとの出会い

てうてう

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僕がスズランとキョンシー君と挨拶した直後。


「ああ、初めまして。君が転校生くんちゃんだね」
とても穏やかで優しそうな、割と年長そうな黒髪の男の子がやって来た。
「はい、僕がそうです。よろしくお願いします」
(良かった、今度の子はまともそうだ)

「うん、僕達昔馴染み4人で和風のユニットを組んでいてね。手前味噌だけど結構売れているんだよ」
「へー、そうなんですか」
「うん。さあ皆、順番にご挨拶して」


「あー、よろしくっす」
彼は長い緑髪で、珍しいがたまにはいる少し緑っぽい肌をした三白眼の男の子だった。
「あー、俺桃太っていいます。まあ昔は違う名前だったんですけど、あんまその名前好きじゃないんで。ダンス中心っす」
「へー、そうなんだ。昔っていつごろ?」
「うん、結構昔っす。戦時中くらい」
「え、君たちそんな長生きなんだ?」
「あーはい、あの隊長が最年長っすけど、大体みんな同じくらいっす」
「へー、昔から仲良しなんだね」
「ええまあ。昔も、まあチームみたいなの組んで、お国のために戦ってたんで」
「ふーん。そうなんだ。偉いね」

「で、次は先輩よろしくっす。どうぞ」


「うん、よろしくね」

彼もまた、とても優しそうなゆったりとした群青色の髪をした男の子で、声がとても綺麗だった。

「僕はまなと。まあ僕も昔は違う呼ばれ方をしてたんだけどね。で、メインボーカルをしているんだ」
「うん、まなと君とても綺麗な声をしているもんね」
「ありがとう。僕ね、まあうちの子皆そうなんだけど生まれがかなり特殊だから、昔から声が魔性だったんだ」
「へー、そうなんだ」
「うん、ちょっと変わった形なんだけど僕昔は人魚でね。そういう力が付いたみたい」

「…まあ人魚の自分、あんまり好きじゃなかったから、技術が発達したらすぐ普通の姿にしてもらったんだけどね」
「…そうなんだ」

「でも僕は歌うのも自分の声も大好きだから。皆が普通の姿になったら、一緒に活動始めたんだ」
「で、今はここに入学してアイドルユニットやって、すごく幸せなんだ」
「そっか、それは良かった!」
「うん、じゃあ次は彼ね、はい、よろしく」


「ええ、よろしくお願いします」
彼もまた穏やかそうな、茶色のおかっぱ髪の子だった。片目に蛾を模した眼帯をしていた。
「あれ、片目見えないの?」
「いえ、普通に見えるのですが、見え過ぎてしまって。疲れるので、普段は隠しているんです」
「へー、そうなんだ」
「ちょっと特殊な、色々な物が見える目なので。僕は千里と言います。トーク中心です」
「そうなんだ。よろしくね千里君」
「僕達はまあ、昔相当特殊な出自で、異能の力を持っていたため、僕は千里眼で人を導くお役目に就いていました」
「へー、立派なお仕事で偉いね」
「その力が認められ、軍に所属することになり、皆とお国のため日夜戦っていました」
「…そっか、大変だったね」
「…お国の平和のため仕方ないとはいえ、他人や罪の無い人達を傷つけるのを、皆心苦しく思っていました」


「一時本気で皆で逃げようかとも思ったのですが、僕達のお世話をしてくれた人達がどうなるかと思うと、決断はできませんでした」

「…そのまま普通の体になれるまで数十年はとても苦しかったのですが、今となってはあの時逃げなくて本当に良かったと思います」

「…うん、頑張ったね」

「ええ、今は皆とても善良で幸せですし。…ああ、元仲間の一人だけ相当アレですけど」
「…そ、相当アレって何」
「まあ、そう遠くないうちにわかりますよ。きっと」

「では隊長、最後にお願いします」

「うん」

また穏やかそうな彼が出てきた。

「まだ名乗って無かったね。僕はこのユニットの隊長の大邑佐紀。まあ、昔は違ってて、みな君とそっくりな名前だったんだけどね」
「へー、そうなんですか」


「うん、実際、僕も昔はみな君とほぼ同じような状態だったんだ」
「…え、そうだったんですか」
「…まあ、そういう国だから仕方ないけどね。ただやっぱり、理解してはいても悲しかったけどね」

「そんな訳で僕もかなり強い力が宿っていて、産まれた時からずっと、軍のために活動していたんだ」

「まあ相当非合法かつ倫理的に危険な組織だから、絶対に表沙汰には出来ないんだけどね。ここだけの話でお願いね」

「は、はい」

「僕は主に、まあ要するにサイコダイブみたいな事が出来て、人の心を狂わせられるんだ」
「す、すごい」

「そういう訳で戦時中は敵国の心を狂わせまくって、大暴れしてたの」
「まなとは魔性の歌で船や飛行機を落としまくれるし」
「桃太は肌がアレだったから超堅くて壁役だったし」
「千里は千里眼で次に何が起こるか完全に予知できたし」

「まあ絶対秘密だけど、例の超強力爆弾を狂わせて、敵国に落としたりしたの」

「ひ、ひぃ」


「そんな訳で僕達は戦争に完全勝利して、英雄として祭り上げられたんだけどね」

「…やっぱりお国のためとはいえ、罪の無い人達を多く殺してしまったのは、本当に辛かったんだ」

「すべて終わった後、皆で命を絶とうかとも考えたんだけどね、やっぱりそれも悲しくて出来なくて」

「…数十年間とても辛かったけど、今は皆ほぼ普通に暮らせるようになったし、やっぱり我慢して良かったと思うんだ」

「…ええ、良かったですね」
「うん、今は皆で歌うの、本当に楽しいしね」
「まあ僕達そういう力あるから、魔性の歌と人心を狂わせて、超人気者だし」

「こ、怖い」
「あ、でも絶対悪用はしないから安心してね。僕達そういうの大嫌いだし」

「で、僕達かつてのチーム名をそのまま使って、てうてうってユニット名なの」

「へー、良い名前ですね」

「うん。昔やってた事は相当複雑なんだけど、その名前は皆好きだから」
「あとね、力でオオムラサキみたいな蝶の羽を出す事も出来てね。皆綺麗って褒めてくれるんだけど、昔を思うとちょっと複雑なんだよね」
「…あー、確かに複雑そうですね」

「まあでもパフォーマンスのためには普通にやるけどね。…ああ、あとね。もう一人かつての仲間がいて、彼も僕とみな君と似たような感じの境遇の子だったから、僕の事恋人みたいに慕ってくれてたんだけど」

「…どうしてもスタンスの違いで相容れなくてね。ある時、完全に仲違いをしてしまったんだ」

「…それからというもの彼は嫉妬に狂って僕達を目の敵にするようになってね。まあ相当にアレな子になっちゃったんだけど」

「…だ、だから相当アレって何ですか」

「まあ、彼も今ここで別のユニット組んでて、超強烈な子だからすぐに分かるよ」

「じゃあ、僕達もこれからリハだから。またね」

そう、ひらひらと蝶のように手を振って、佐紀君たちは出て行った。


「…い、いや、この国やばすぎ」
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