たっくんとゆうちゃん

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第五章

放られし始まりの子

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俺が倒錯したファッションモデルの仕事もすっかり板に着いたある日の事。

「たっくん、皆。また眷属が出たんだけどね。…今回は皆、特にたっくんとかぐや君とかんばせ君にとって、すごくしんどい仕事になると思う。…でも、しんどいけど行った方が良いと思うんよ」

「…そうなんですか」
「…今回は、どんな相手なんですか」
「…」

「…うん、要するにゆうちゃんとアカネ君以外にクソな事をした奴等、全員捕まってぶち込まれた訳やけど。集団がそいつら三人を塀の中で呪殺して、その凶悪犯共の魂を利用して例の神の力も借りて、強力な悪霊に仕立て上げたんよ。今までのそういう外道悪霊とは比べ物にもならない、鬼にも匹敵するレベルのね」

「…ああ、なるほど」
「…あの、外道か」
「…確かに、ケリをつけるいい機会かもしれないな」


「…たっくん、皆。大丈夫そう?」
「…うん、しんどいけど確かに御堂さんの言う通り、行った方が俺の為にもなると思う。…あの子の仇、取ってやりたいし」
「…ああ、俺もあいつに裏切られ思いを踏みにじられた、祖母の無念を晴らしたい」
「…オレは正直ほとんど覚えていないが、自分で仇を討てるならそれに越したことはないな」

「…うん、俺もかぐやや皆に酷い事した奴等、許せない」
「うん、僕も。たっくんや皆にあんな最低な事した奴等、何百回でも殺してやりたい」

「うん、皆大丈夫そうで良かったよ。…辛いなら断っても良いよって言うつもりだったけど、皆強いね」
「はい、俺仕事始めるまではもう相当メンタル終わってましたが、この義肢もらってからは超強くなれましたし」
「ああ、俺もそうだな」
「…オレは、昔どうだったかは覚えていないが。今はそれなりに強いと思う」


「うんうん、皆めっちゃメンタル強いし全員俺の自慢の部下だよ。じゃ、襲撃の可能性も考えると職場無人にはできんから俺はここで待機しとるけど、危なくなったらすぐ駆け付けるから。皆、頑張って来てね」
「はい、頑張って来ます!」

「あ、それでもちろん今回もサポートの神様が付くけど、今回は皆と見た目同じか、もしかしたら下くらいの感じの方だよ。神様だから実年齢はとんでもないけどね」
「え、そうなんですか。八百万って言うくらいだしそういう方もいらっしゃるでしょうけど」

「うん、しかもね。ゆうちゃん以外の皆に関わりの深い神様だよ。…ある意味、皮肉なんやけどね」
「…そうなんですか。ちょっと怖いけど、お会いするの楽しみです」


そうして、まだ日も昇らないような夜更けに俺達は指示された某県の神社に立ち入った。

夜更けだから人は居なかったが、今回も危険なので神社の人達には事前に伝え避難してもらい、参拝客は入れないようにしてもらった。


「…ああ、君達が最近頑張ってくれている子だね。いつもありがとう」

その神様は、確かに見た目は十代半ばくらいに見える、車椅子に座り両腕の無い美しい少年だった。

「はじめまして、僕はヒルコ。…色々な側面を持つが、主な所だと見ての通り障害の神だ」

「…はい、よろしくお願いします」
「…ああ、関わりが深いってこういう事だったんですね」
「…確かに、ゆうちゃん以外はそうだな」
「…貴方も、大変ですね」

「まあ、僕はもう生まれてこの方何千年もこうだし、神通力で色々出来るからさほど困らないよ。勿論いきなり両親に放流された時は悲しかったし、相当怒ったけど」

「あ、あー。そうでしたよね」
「確かあのご夫婦の最初のお子さんでしたもんね。そりゃ驚いたでしょうけど棄てるなんてあんまりですよね」

「うんまあ、でもその後僕の事探し出して本気で謝られたからだいぶ許したけどね。だけどその時怒って祟りまくったせいで、地上でも君達みたいな子が産まれるようになってしまったんだよね。…君達はみんな後天的だけど、僕のせいでそんな体になってしまってごめんね。流石に捕まってアレされたのまでは無関係だけど。君達三人、本当運が無かったね」


「いえ、まあアレされた時は本気で痛かったし辛かったけど、今はこの体大好きなんで大丈夫ですよ。しんどいけどある意味そのお陰でゆうちゃんと恋人になれて、皆にも会えた訳ですし」
「…はい、俺もそう思っていますし、日常生活に支障は無いのでお気になさらず」
「…ええ、オレも今の自分と生活が気に入っていますので」
「はい、俺も全く問題無いですし強くなれたんで全然平気です!」

「うん、そう言ってもらえて良かったよ。皆心も強くて立派だね。…それで、今回の敵についてだけど。たぶん聞いていると思うけれど、君達三人をそういう体にした元凶の悪人達だ。今問題のあの神の元になった存在もそうだけど、やっぱり凶悪だったり強い未練を持った魂は、扱い方によっては強力な鬼や神霊にも変じてしまうんだよね」
「…ええ、そうでしょうね」
「…許す事は出来ないけど例の三柱も、元はといえば気の毒な方達ですもんね」

「まあ、彼等は時代に翻弄された憐れな面も確かにあるんだけど。今回の奴等は君達も良く分かっているように一片たりとも同情の余地は無い外道達だ。集団もそれを見込んで、法の下で裁かれる前に早々に自ら手を下し悪鬼に仕立て上げたんだよね」
「ええ、俺もあいつは絶対に許しません。あのクソ野郎、そういう悲しい過去とか何も無いらしいし」
「うん、たっくんやあの子に最低な事した奴だもんね。どんな理由があったって許せないよ」
「…あいつは両親に問題こそあったが祖母や理解者はいた。やはり自業自得だ」
「…オレはどうだか知らないが、何にせよ許される所業では無いな」


「うん、皆その意気で良いよ。じゃあ僕もこういう体だから大した事は出来ないけど、結界を張ったり能力を強化したりは出来るから。可能な限り支援するから皆頑張ろうね」
「はい、よろしくお願いします」

それから間もなくして、空間がぐにゃりと歪み、大量の瘴気を纏ってそのクズ共は現れた。

「…んー?あれ君、達磨くんじゃん。久しぶりだね~。ド貧乏って話だったのに綺麗な手足貰えて良かったねー。お人形みたいで可愛いしまた俺と良い事しようよ。ウザい奴等も一緒なのが残念だけどー」
「…悪趣味で外道のお前に言われたくは無いね。まあそれは私もだが。おや、かぐや君もいるね。自分でやっておいて何だが無惨な事になっていたのに、すっかり普通になれて良かったねえ」
「へえ、君も見た目はすっかり変わってるけどその魂、僕が最後に捕まえてめちゃくちゃにした子だよね。元の顔も割と整ってたけど綺麗になれて良かったねえ。折角だしまたぐちゃぐちゃにさせてよ」

そいつらは阿修羅像のように、三つの顔と武器を携えた六本の手を持った醜悪な化け物になっていた。

「…とっくのとうに知ってはいたけど、お前本当に救いようの無い腐れ外道だな。あの子の敵討ちだ、覚悟しろ」
「…阿修羅に模した姿とは、集団も悪趣味だな。俺もあの時の雪辱と裏切った祖母の無念を晴らしてやる。一切容赦はしない」
「…昔の事は割とどうでも良いが、オレもこんな目に遭わされて黙ってはいられないし、もう顔を溶かされたくも無い」

「…本当こいつら、どうしようも無いね。俺も思いっきり撃ち抜いてやりたい」
「うん、僕も全力でぶった斬るから」


「んー?あーあの子って〇〇くんね。そのままじゃつまんない名前だからいつもクッソ下品に呼んでたけどさー」
「…ああ、そういう名前だったんだ。…お前のせいであの子、その名前大嫌いになったんだぞ。地獄に落としてやる」

「…ふむ、かぐや君なんで祖母の事知ってるんだい。家族全員嫌いだから話した事は無かったはずだがね。確かに家族の中では唯一私に味方して憐れんではくれたが、所詮老体一人では養っていけないと家を出るのを諦めた程度の意思の持ち主だ。本当に私の事を案じているのなら、何もかも捨てても連れ出すくらいしてくれても良いじゃないか。私がこうなったのはクソな家族と歪んだ社会のせいだよ」
「…この期に及んで全て人のせいか。確かに歪んだ家庭に生まれたのは不運だが、金は十分あったしある程度の年齢になれば逃げだす事も出来たはずだ。それにどんな事情があれど、他者を傷付けて良い理由にはならない」

「んー、君速攻で拉致って硫酸ぶっかけたからよくは知らないけど何か相当訳ありっぽかったし、生まれ変われて良かったかもねー。深夜近くにほとんど何も持たず人気の無い公園ふらふらしてたしさ。まあ足が付きにくそうなそういう子中心に狙ってたから都合良かったけどね」
「…ああ、やはりそうだったのか」


「さあ、じゃあ僕も全力で支援するから。皆、どうか頑張ってね」
「ええ、頑張ります!」

そうして俺達は一切容赦せず、全力でそのクソ共に襲い掛かった。

ヒルコさんも色々な神通力で俺達の霊力を底上げしたり、強力な結界を張ったりしてサポートしてくれた。


集団の呪法とヤバ神の力でそいつらも相当凶悪になっていたが、相当な時間の後ついに決着はついた。

ゆうちゃんが全ての腕をぶった斬り、俺は渾身の力を込めてそのクソ野郎の顔にパンチを叩き込んだ。
ほぼ同時にかぐやの呪力を上乗せした矢をアカネが放ち、かぐやの仇の男の首も吹き飛ばした。

「…う、ううう。達磨くんひどいよー。俺達の仲なのにさあ」
「お前の顔なんてもう未来永劫見たくねえよばーか。さっさと地獄に落ちて永遠にあの子に詫びてろ。ってかだるまの自分ももうアリとはいえお前にだけはその名前呼ばれたく無いし」

俺は容赦なく、倒れ伏したそのクソの頭を義足で踏みつぶした。


「…うう、君そんなに強くなってるとはねえ。うーん、ぐちゃぐちゃにするのは大好きだけど自分が溶かされるのは嫌だねえ」

残った悪趣味男の首が呻くように呟いた。

「…本当に、最後の最後までどうしようも無い奴だな」

「…あー、君昔の事全部忘れちゃってるんだっけ。冥途の土産に君の名前教えてあげようか。すぐ処分したけど身分証は持ってたしさ。君の名前はねー。あ」

そいつの言葉を遮るようにかんばせが大量の酸を出し、そいつの首を跡形も無く溶かした。

「…かんばせ、良かったの?」
「…ああ、オレは今の自分と名が気に入っている。こいつも言っていたように、おそらく過去もあまり思い出して気分の良い物では無いだろうし、もう未練も無い」
「…そっか。お前がそれで良いなら良いんだけどさ」


「皆、本当によくやってくれた。辛い相手だったのにありがとうね」

全て終わった後、ヒルコさんが俺達を労ってくれた。

「いえ、俺も辛かったけど、あの子の仇を取れて良かったです。ヒルコさんも支援して下さってありがとうございました」
「…ええ、俺もあの人の無念を晴らせて良かったです」
「…ああ、そうだな」

「うん、それなら良かったよ。で、お礼と言っては何だけど僕は福の神の恵比寿としての側面も持つから、これから君達に出来る限りの幸福が訪れるように取り計らおう。…君達の身体を元通りにしたりは出来ず、申し訳ないけどね」
「あー、それはお構いなく。さっきも言ったけど俺この手足大好きですし、今まででもう十分祝福してもらってますし。…じゃあ、もし可能であればで良いんですが。助からなかったあの子を、来世では幸せにしてもらえるようにって出来ないでしょうか」

「分かった。僕は直接輪廻転生には関われないのだけれど、そういった権限を持つ神に出来るだけ伝えておくよ」
「…良かった。ありがとうございます」

「…俺も、今十分に幸福ですのでお気遣いなく」
「はい、俺も同じですので大丈夫ですよ」
「ああ、オレもだ」


「じゃあ、皆本当にありがとう。まだまだ例の神との戦いは終わらないけど、どうかこれからも頑張ってね。さようなら」

そう言ってヒルコさんはどこかへと消えて行った。

「…あの子、来世は幸せになってくれるといいな」
「…うん、ヒルコ様もああ言ってくれたし、きっと大丈夫だよ」

「…あの祖母も、これで少しは浮かばれただろうか」
「…うん、そうだと良いね」

「じゃ、皆疲れてるけどヒルコさんが守ってくれたお陰でケガは大してしてないし、どっかでご飯食べて帰ろっか!」
「うん、そうだね!」



それから数日後、珍しく俺とかんばせだけで少し離れた町に仕事に行った帰りの事。

「ふー、二人だから大した事は無いって聞いてたけど本当楽勝で良かったね」
「ああ、そうだな」

「あ、そういえばかんばせって普段どこで暮らしてるの?あと今更だけど、お前高校生くらいだろうけど学校とか戸籍とか大丈夫なのかな」
「…仕事を始めて間もない頃は職場で寝泊まりしていたが、今は組織が職場の近くに借りてくれたワンルームアパートで暮らしている。戸籍等が必要な場合も組織がどうにかしてくれているようだ。通学はしていないが通信教育は受けているので問題無い」

「あー、そうなんだ。今度良かったら遊びに行かせてよ。自炊とかしてるの?」
「仕事が遅くなった時は外食や総菜で済ませているが、余裕がある時はある程度は作っている。昔やっていたのかは知らないが、案外楽しんでいるな」
「うん、ちょっと大変だけど料理楽しいもんね。じゃあ今度俺も何か作って持っていくね」
「ああ、助かる」


その時、少し冷たそうだが整った顔立ちの、四十代初めくらいに見える女性が通りかかった。

「…あら、そこの青っぽい髪のあなた、とても綺麗な顔をしているわね。あなたみたいに綺麗な子が息子だったら嬉しかったのに」
「…それは、どうも」

「まったく、あの子もう半年以上経つけどどこをほっつき歩いてるのかしら。まあいないならいないで面倒が無くていいんだけど」

そう言いながらその人は去って行った。


「……」

「…かんばせ、どうしたの?」

「…思い出したかもしれない」

「…え、そうなんだ。じゃあ元の家に帰るの?あと本当の名前で呼んだ方が良いよね」

「…いや、オレはこれからもずっと今の暮らしでいたいし、今後ともかんばせでいたい」

「…そうなんだ。うん、じゃあこれからもそう呼ぶよ。御堂さんや皆も、きっと分かってくれるよ」
「…ああ、そうしてくれると、嬉しい」
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