碧の幻獣使い

星村直樹

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ミランダの祝福

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 中央広場
 多分、町の人全員が集合しているんだろうな。ダイオが、世襲で息子のバクバを紹介するのもそうだけど、みんな、私を見に来たのよね。

 城の中で、中央広場を覗いていた私は、オメオに、何かみんなに話してと言われて、とても緊張していた。
 今のところ、中央広場では、机を出したり、ビールに増殖魔法をかけたりして宴の準備をしているので、時間がある。私は、エルフの因子が出ていた子供のころのことを思い出していた。

 あのパトーナムの光。多分、子供のころに出したことあるんじゃないかな。私、パトーナムを打ったことあると思う。あれは、火の妖精サミルと風の妖精エイブラハムが、ものすごい口喧嘩をしていたときのことだった。私のために喧嘩していたと思うのに、いつの間にか二人の喧嘩になっていた。

 エイブラハムは、自分が見えるのは、私が風属性を持っているからだと言い張った。でも、じゃあなぜ、サミルも見えるのか。それは、私が火属性だからだ。というのが、サミルの言い分。喧嘩の理由は、いつもそうだった。

「じゃ、なんで、ミランダは、おれが見えるんだよ」

「ミランダ様と言え。大体お前は、裏方だろ。それを毎日毎日、城にやってきて、誰かに見られたらどうする」

「誰にも見えないから、こうして、世界中を飛び回れるんだろ。ミランダは違う。ごにょごにょだよ」

「がまんならん。ミランダ様に変なことを吹き込んだら許さんぞ。この方は、リクシャン様が、自分のパートナーにと言った姫様なのだぞ」

「なーに言ってる。そんなの、大局から見れば、へだ」

「きさまーーー」

 取っ組み合いの喧嘩は、よく見ているけど、この時二人は、魔法を使おうとしていた。

「二人ともやめて!」

 当時私は、8歳で、妖精が世界のバランスをとっているなんて言う難しい話は、分かっていなかった。だけど、私の大好きな妖精2人が、喧嘩をするのは、とっても嫌だった。私が二人の間に入れば、喧嘩が止むと、何も考えずに二人の間に飛び込んだ。でも、あの時、二人の練りこまれた魔法は、止まらなかったんじゃないかな。じゃないと、あんなに、二人が吹っ飛ぶ、はずない。

「駄目!!!」
 私が二人の間に入ると、周りが白くなって、ちょっと温かいものを感じた。今、考えれば、あのとき、パトーナムを打ったのだと思う。

 二人は、たまたま、私に、自分が打った魔法が当たらなかったのだろうと思って、ホッとしながら私の所に来た。

「貴様、ミランダ様に魔法が当たったらどうするつもりだったのだ」
「お前こそ、魔法を打っていたじゃないか。本当に守護精霊か」

「二人とも、喧嘩しちゃ駄目」
 私が泣き出したので、二人とも喧嘩を止めてくれた。風の精霊エイブラハムは、他国の面白い話をしてくれる。守護精霊の火の妖精サミルは、リクシャン様が、お子を授かったときのために、私に必死になってウォームを教えてくれた。二人とも、私の大事な妖精。

 私のウォーム習得は、リクシャン様の出産に間に合った。なのに、こんなことになって。

 火龍王様のタマゴが危険だとわかったときは、もう、風の妖精がちゃんと見えなくなっていた。話も、サミルに仲介してもらわないとわからない。それでも、麒麟の森にいる風の妖精たちは、私を助けてくれると確信していた。

 そして、光の魔法が使えるヒロと出会った。

 早く、タマゴを保護しなくてはいけないけど、海中の中に探しに行くには、準備が必要だ。だから、放流されたタマゴが入った樽が、海上を捜索している火竜飛翔隊に発見されることを祈った。私たちは、海中装備が整わないことには急ぎようがない。今は、エルフの家を興す者として、今宵の顔見せを大切にしようと思った。


 私は、どんなスピーチより、8歳の時に、二人の喧嘩を止めたパトーナムを打てれば、それが一番、私のことを分かってもらえるんじゃないかなと思う。

 ね、コンピューター
― ねっ、て言われてもな。8歳の時に打てたんなら打てるんじゃないか

 何でもいいの、パトーナムを打てるヒントをちょうだい
― 私は、それより、さっきの記憶の増加が気になっている。あれは、異常に記憶が増えたんだぞ

 だから、歴代の巫女様に会ったのよ。コンピューターが声をかけなかったら、差し出してくれた巫女様の手を取れたのに
― どうやって?夢の中でか

 それより、パトーナム
― 説明は、一通りしただろ。あれは、光の防御魔法だよ。エルフは、光と風の魔法使いだ。パトーナム自体は、初期魔法だよ。だからミランダも打てるって。とりあえず、酒宴の席で使いたいんだろ。ヒロのように、盾として使わないんなら、鵺みたいなになるのかな。映像を見るか

 見たい、みたい

 コンピューターが、ホログラムを出してくれた。目の前に風の妖精が舞う池が広がり、麒麟のヌエが、その池の中央で水を飲んでいる映像が浮かぶ。

― 夜中だから、鵺も妖精も光って見えるんだけど。ほら、パグーとユウが、結婚したから祝福してって、鵺の所に行っただろ。その後だよ。全身が光っただろ。これが、祝福になるんじゃないか

 ヌエ様きれい
― だから、防御と言うより、祝福って気持ちで、パトーナムを打つとこうなるんじゃないか

 ふーーん
― ふーんって他人事か。映像見せて損した

 でも、さっき、巫女様が手を差し伸べてくれた時のような感じがした
―じゃあ、その手を取ってみろよ

 そこを、コンピューターが邪魔したんじゃない
― 錦を着ているんだろ。自信持てよ。分かった、さっきの記憶を解析する。でも、見たことないんだよな。映像だけになるかもしれないぞ

 わかった、お願いね

 みんなを祝福したい気持ちか・・
 そう思って、中央広場をまた、覗いた。自分とあまり身長が変わらない大人が一生懸命準備をしている。とても親近感を覚えた。



 ドレイク王は、水の妖精シャディを呼んで、海の様子を聞いた。最初クリオネに見えていたシャディは、風の妖精パグーやユウと変わらない人形になった。

「ミランダ姫様の下僕のヒロね」

「おいおい、騎士だよ。何処でそうなった」

「風の妖精からの伝言よ。エイブラハム様直々だから間違いないわ」

「あの野郎、王様のくせに。あいつの言うことを信用すんな。自分が、ミランダについて行けないもんだから、やっかみだよ。ほら、おれだって、シャディと話しているだろ」

「それぐらいできないと、ミランダ姫様の下僕は、務まらないわよ」

「しょうがないな。ほら、パトローナム」
 指先を光らせて見せた。

「エルフ様なの!」
 一緒にドレイク王が驚いているので、今までおれをどう見ていたのか気になった。

「違う。エルフは、光と風の魔法士だろ。おれは光と闇の剣士だよ。すごく弱いけど」

「シャディや。もうええか。火龍王のタマゴのことは、聞いているじゃろ。どうなった」

「人魚の神官様には、話したわ。久々の仕事じゃない。みんなすごく喜んでいるって言ってた」

「もう、情報が伝わっているんですか」

「妖精は、普通、神官にしか見えん。神官にしても自分の属性の妖精だけしか見えんのじゃ。彼女らが、世界の情報を共有して、世界のバランスを保っている。もし、技術的な偏りが出たら、わしの所に技術供与の依頼をしに来るんじゃ」

「タマゴの付き添いは、ミランダ姫様なんでしょ。来ないと、タマゴが孵らないわ」

「タマゴは、何処にあるんだ」

「さあ、何千年も、音沙汰がなかった話よ。途中何処にいるか分からないけど。辿りつくのは、人魚の入り江」

「じゃあ、何日でたどり着くんだ」

「そんなの火の国の公文書館じゃないと、分からないわよ。私たちが、放流したわけじゃないんだから」

「ドレイク王」
「うむ、明日、火龍王に聞いてみよう。シャディ、タマゴが、どの道を通って人魚の入り江にたどり着くか調べてもらえんか。タマゴの安全確認じゃ」

「待って、聞いてみる」

「水の妖精は、テレパシーがとても強いんじゃ」
「なんとなくわかります。水竜の竜玉がそうですもんね」

「アクア様にお願いしたわ。海底海流を通って、人魚の入り江に漂着するはずだって。みんなに手分けして、調べてもらうことになったわ」

「アクアは、裏方の総責任者じゃ」
「何とかなりそうですね。でも、樽なんでしょう、海上に浮かばないんですか」

「古式にのっとっているのなら、火の壁が、樽に施されておる。この魔法の持続時間は長い。そのため質量が上がる。なるほどの。海底海流に乗るわけじゃ」

「みんな頑張るって言ってるけど、ちょっと時間を下さいね」

「もう一つええか。これが、事件でこうなったのは知っておろう。タマゴなんじゃが、人魚に育ててもらう承諾を火龍王から貰っておらん。明日わしが説得するんじゃが、もしダメじゃったら、ミランダに取りに行かせるでな、渡してやってくれ。もちろん従来通りになるよう頑張るぞ」

「期待していますって、アクア様がおっしゃってるわ。それから、本当に、ヒロは、下僕じゃないのと、聞いているわよ」

「今パトーナム見せただろ」

「向こうでもやってあげてね。これをテレパシーで伝えるのは、無理」

「エイブラハムーー」




 宴が始まった。今宵の主役は、世襲を表明したダイオとその息子バクバ。バクバは、祝いの酒を一気飲みすると宣言していた。そして、エルフの家を興すというミランダ姫。彼女を見ようと、大人も子供も老人も、町中からドワーフが集まってきた。もちろんここに滞在している妖精たちも多数やって来た。中には、火の妖精もいて、とても誇らしそうに胸を張っている。

 ドレイク王とおれは、この宴に間に合ってほっとした。

「宴に参加できてよかったです。一時はどうなることかと思いました」
「火龍王との会見の方が大事だったからの。まあ、結果往来じゃ」

 城の前の中央広場は、かがり火がたくさん焚かれてまるで昼間の様。ビールもいきわたり、王の始まりの宣言を待つだけとなっていた。


 中央広場に、今宵の主役が勢ぞろいし、ドレイク王が宴開始を高らかに謡った。

「皆の者、宴じゃ。今宵の主役ダイオと、バグバじゃ。乾杯の音頭は、ダイオの息子、バクバに任せる」

「ダイオやっちゃれ」
「親父、特大ジョッキをくれ」

 バクバが、ドワーフでもあまり見たことがない特大ジョッキを持って現れた。

「乾杯!」
 さすが、リザード歩兵隊の隊長。声がよく通る。バクバは、この特大ジョッキを飲み干した。ドワーフは、これに触発されて、ビールを大いに飲みだした。

 宴の開始だ。楽器衆と、踊り女(め)たちが、中央に繰り出した。

 ダイオとバクバを祝福するドワーフたち。宴もたけなわになったところで、ミランダの出番になった。

 その時おれは、妖精たちに、ちやほや?されていた。ミランダの下僕を見に来たというのが、本音で、そんなに嬉しくない。なのに、コンピューターに、大して抵抗するなと言われた。ミランダが、紹介されたところで、パトーナムを打つから、いま、妖精たちの前でパトーナムを打つのは、控えてくれと言われていたから、なおさら、ちやほや?されていた。

「下僕のヒロだ。ぼくたちが見えるんでしょ」
 そう、最初に声をかけてきたのは、土の妖精トトだ。こいつが、ここを仕切っている。

「違うわよ。騎士様だって」
「下僕だろ。エイブラハムが言ってたんだから間違いない」
 これを聞いた妖精たちが、パタパタ集まって来た。

「おいおい、お前らと話しているだろ。おれは神官より上なんじゃないか」

「それぐらいできなと、ミランダ姫様の下僕は務まらないって言ってた」

 エイブラハムのやろー
「なんで、パトーナムを打たないの。みんなをびっくりさせてよ」
 おれを擁護してくれているシャディが、耳打ちしてきた。 

「それがさ、これからミランダが、壇上に上がってあいさつするだろ。そこで、パトーナムを打つって言うんだ。騎士のおれが先に打ったんじゃあ格好がつかないだろ」
 シャディは、おれのほほに手を置き、「ご愁傷さま」と、パンパン叩く。
 諦めてねっていう表情をされた。

「じゃあ、本当に、私たち、みんなが見えるのね」
 風の妖精シェリーが、嬉しそうな顔をする。

「そうだぞ。すごいだろ」

「サミルから、そんな話、聞いたことないぞ」
 そう言ってきたのは、火の妖精ヒート。

「そりゃそうさ、麒麟の森で知り合ったんだ」

「でも、下僕か。分かる分かる」

 そう言ってヒートが、両手を小さく広げて見せた。なんか腹立つ。多分この4人が主要メンバーだ。それ以外にも、ここには妖精がたくさんいる。なぜかみんな、おれのところに寄って来た。

「みんな羽が生えているんだな。風の妖精以外は、羽がないのかと思ってた」

「最初はないよ。でも、羽化するんだ」
「世界中を飛び回るためよ」

「水の中は、どうするんだ。濡れちゃうだろ」

「変態できるぞ」

「火でもか」

「ほら」

 そう言ってヒートが、クリオネのようになった。たぶんバリヤー形態だ。妖精は、全員光属性も持っていることが分かる。

「すごいな」

「ヒロも、装備を貰ったら、水の中で、こんな感じになるのよ」

「へー、そうなんだ。おれたち、これから水中に行くんだけど。そこにも4種族の妖精がいるのか」

「そうよ。そうだ、この子をつけてあげる」
 そう言ってシャディが、大人しそうな水の妖精をおれの前に突き飛ばした。

「おねえちゃん!」
「修行よ、アディ。ミランダ様から離れないこと」
「できるかな」

「おれでもいいぞ」
「下僕にー。いいけど」

 ああ、こいつらに下僕が定着しちゃったよ

 宴もたけなわ。ミランダの番がやって来た。おれたちは、壇上に注目した。



「皆の者、今宵は、もう一つ良い知らせがある。エルフ様の家が復興されるぞ。ミランダ姫。こちらに」

 ショールを羽織ったミランダが、壇上に上がった。でも、なんか、もじもじしている。

「あ、あの、ミランダです」
― ミランダ、間に合ったぞ。巫女様の手を取って、同じように言うんだ

 ありがとうコンピューター

 私の目の前に、多くの巫女様が現れた。その中の一人が、私に手を差し伸べて、祝福してくれた。私はショールを脱いで、巫女様の手を取った。
 聴衆には、ミランダが、手を差し伸べているように見える。

「なんじ神の子なり、我、光の元を与えん。パトーナム」

 パッと、ミランダが光り、全方向に、光を放った。妖精たちは、これに力を得て、全員ミランダのもとに行く。弱いが、光属性を貰っているブルーサファイアのドワーフたちも、ミランダから、温かいものを貰った。

 どっと歓声を上げるドワーフたち。ミランダの傍で、胸を張る妖精たち。おれは、この光景を目に焼き付けた。

「ミランダ様、万歳」
「エルフ様、万歳」

 宴は、遅くまで続いた。
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