雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~

朽縄咲良

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エピソード10 魔王別姫

魔王と半人族と歓迎

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 「イーッ! イーッ!」
「キィ――ッ!」

 日が西に傾き始めて、早くも薄暗くなり始めた森の中に、無数の半人族ハーフヒューマーたちが上げるけたたましい叫び声が響き渡る。
 それは、森の中の細い獣道の先にある半人族ハーフヒューマーの村の前で、村中の住人たちが喜色を満面に浮かべながら上げている歓声だった。
 小柄な彼らが押し合いへし合いしながら群がっているのは、つい先ほど村の入り口に姿を見せた四人の来訪者たちだった。

「イーッ! マおサマ! キーッ!」
「マおサマ、マおサマッ!」
「お主ら、久しいのう。息災……元気だったか?」

 たどたどしい言葉遣いながら、親しげに自分の事を呼んでくる半人族ハーフヒューマーたちの顔を順番に見回しながら、来訪者――魔王ギャレマスもまた顔を綻ばせる。
 彼の穏やかな笑顔を見た半人族ハーフヒューマーたちは、ますます喜びながら、しきりに彼の纏う黒いローブの裾を引っ張り始めた。

「イーッ! イーッ!」
「おお、早く村に入れとな? 余たちの事を歓迎してくれるのか?」
「イ―ッ! マおサマ、とモダち!」
「とモだち! とモだち! マおサマ!」
「ちょ、ちょっと、あなたたちっ!」

 嬉しそうに声を合わせる半人族ハーフヒューマーたちの事に向かって声を荒げたのは、ギャレマスの横に控えていたスウィッシュだった。
 彼女は眉根に皺を寄せながら、険しい声で半人族ハーフヒューマーたちを窘める。

「原初亜人のあなたたちには分からないかもしれないけれど……陛下は、とっても偉い御方なの! 本来なら、あなたたちが陛下に直接声をかける事も赦されないんだか――」
「良いのだ、スウィッシュよ」

 だが、そんなスウィッシュの言葉は、ギャレマスの鷹揚な声に遮られた。
 制止され、怪訝な表情を浮かべるスウィッシュに向け、ギャレマスは鷹揚にかぶりを振る。
 そして、彼らを取り巻く半人族ハーフヒューマーたちの顔を順番に見回しながら、静かな声で言った。

「この前別れた時に、余と半人族ハーフヒューマーの皆が友達だと言ったのは、他ならぬ余の方だ」
「ですが、陛下……」
「真誓魔王国の国民でもない半人族ハーフヒューマーにとって、余の“国王”という称号など何の意味も無い。ならば――この者たちの前では、余はただひとりの魔族の男に過ぎぬ」

 そう言うと、彼は穏やかな笑みを浮かべ、大きく頷く。

「その半人族ハーフヒューマーたちが、余の事を“友達”と認めてくれるのであれば、余も同じく彼らの友だ。それで良い」
「イーッ! マおサマ、とモだち!」
「とモだち! とモだち!」
「おう、そうだとも。お主らは皆、余のかけがえのない友だぞ。はっはっはっ!」

 嬉しそうな半人族ハーフヒューマーたちに再びローブを引っ張られながら、ギャレマスは嬉しそうな笑い声を上げた。
 それを見たスウィッシュは、呆れたように肩を竦める。

「まったく……。それでも陛下はれっきとした国王なのですから、少しは威厳を見せないと……」

 ぼやく彼女だったが、そんな言葉とは裏腹に、その口元には穏やかな微笑みを浮かんでいた。
 そして、ふたりから少し離れたところでやり取りを見ていたファミィも、思わず笑みをこぼす。

「ふふ……相変わらず、ちっとも魔王らしくない男だな、アイツは……」
「……まったくだ」

 ファミィに寄り添うように立っていたアルトゥーが、彼女の言葉に軽く頷いた。
 そして、相変わらずの無表情で主の顔を一瞥すると、ぼそりと呟く。

「全く魔王らしくはない。だが……、民にとっては良い主だと、おれは思う」
「……確かにそうかもな」

 ファミィは、傍らのアルトゥーの仏頂面を一瞥すると、くすりと笑うと、からかうように囁いた。

「その言葉、魔王に直接かけてあげたらどう? 喜ぶんじゃないか?」
「……断る」

 アルトゥーは、彼女の囁きに頬を引き攣らせながら、小さく、それでいてハッキリと首を横に振る。
 そんな彼の反応が面白くて、更にからかおうとしたファミィだったが――視界の端に、村の中心部からこちらへ向かって近づいてくる人影を見止め、ハッと目を凝らした。

「あれは……」

 彼女が、その見覚えのある人物の名を口にしようとした瞬間、しわがれた声が唐突に響き渡る。

『聞し召せ 大気に宿りし 火の精霊 群れ集まりて 炎矢ほむらやと成れい!』

 その声と共に生じた夥しい炎が、激しくうねりながら寄り集まり、巨大な炎の矢と化した。
 炎の巨矢は、空気を焼き裂きながら、ギャレマスの元へ一直線に飛んでいく――!

「――陛下!」
「うむ……っ!」

 轟音と共に迫り来る炎の矢に気付いたスウィッシュが上げた叫び声に小さく頷くや、ギャレマスは五指を開いた腕を素早く振り上げる。

熊手爪撃空波呪術シ・ローク・マクゥンッ!」

 彼の声と共にたちまち生じた風の波動が、鋭いカーブを描きながら空を奔り、飛来した炎の矢を六等分に切り裂いた。
 輪切りにされた炎の矢は、一瞬燃え上がった後、ジュワっと音を立てて掻き消える。

「……やれやれ」

 腕を振り上げた体勢のまま、ギャレマスは安堵の息を吐いた。
 そして、ゆっくりと近付いてくる人影に向かって苦笑いを向ける。

「いきなり炎の精霊術でのお出迎えとは、随分な歓待ぶりだな、ヴァートス殿」
「……フン!」

 ギャレマスの嫌味混じりの声に、ヴァートスは顔を顰めながら不機嫌そうに鼻を鳴らすのだった。
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