雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~

朽縄咲良

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エピソード10 魔王別姫

聖女と問題と懊悩

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 「むう……」

 ヴァートスの言葉を聞いたギャレマスは、喉の奥で短く唸ると、腕を組んで天井を仰いだ。

「入れ替わった人格を戻すには、転生者をもう一度同じ瀕死の状況に遭わせなければならぬ、か……」
「確たる証がある訳では無い。あくまでもワシの推論でしかないがな」

 ギャレマスの呟きに、ヴァートスは顎髭をしごきながら難しい顔をして頷き、「じゃが……」と言葉を継ぐ。

「“妖憑き”と『稲妻のクニクリケ』……別々の種族の間に伝わるおとぎ話の内容から察するに、そう考えるのが自然な気がする」

 そう言って、ヴァートスはニヤリと笑った。

「それに――『発生と同じショックを与えて元に戻す』というのは、日本のマンガやアニメでもおなじみの解決方法じゃしのう。ヒョッヒョッヒョッ!」
「……その、“まんが”や“あにめ”というのは良く解らぬが――」

 そうボヤいて、高笑いするヴァートスに渋い顔を向けながらも、ギャレマスは小さく頷く。

「だが……貴殿の推論には説得力を感じる。――試してみる価値はある気がするな」
「で、でも! それって……」

 ギャレマスの言葉に対し、上ずった声を上げたのはスウィッシュだった。
 彼女は、青ざめた顔に不安げな表情を浮かべながら、おずおずと言う。

「じ……『人格が入れ替わった時と同じ状況』って、つまり……サリア様の場合なら、もう一度あのクソ聖女エラルティスの法術で“浄滅”されかけなきゃいけないって事なんじゃ?」
「……そういう事になるな」
「そ、それってめちゃくちゃ危険じゃないですかっ?」

 苦い表情を浮かべながら肯定したギャレマスに、スウィッシュは思わず声を荒げた。

「へ、下手をしたら、せっかく元のサリア様に戻ったとしても、そのまま浄滅させられちゃうかも……」
「そうかもしれぬが、それしか方法が無いのなら、試すしかあるまい」
「ですが……!」
「王の言う通りだ、氷牙将よ」

 なおも言い募ろうとするスウィッシュを、アルトゥーが静かな声で制する。
 彼は、取り乱すスウィッシュの顔をじっと見据えながら、言葉を続けた。

「ここは、信じて賭けるしかない。姫が元の人格を取り戻し、なおかつ法術を跳ね返して生還してみせるのをな」
「賭けるって……」
「大丈夫だ」

 なおも不安そうな顔をするスウィッシュに、アルトゥーは微かな笑みを浮かべながら言う。

「忘れたのか? 姫は“非運姫”と呼ばれるほどの強運の持ち主だ。彼女なら、仮に百に一つの確率だとしても、的確に当たりを引く事が出来るはずだ」

 そう言うと、彼はチラリとギャレマスの方を一瞥して言葉を継いだ。

「もっとも……周りはとばっちりを受けるかもしれんがな。例えば――王とか、王とか、王とかがな」
「……」

 アルトゥーのからかい交じりの軽口に、ギャレマスはますます渋い顔をしながら、しぶしぶ頷く。
 と、そこでファミィが口を挟んだ。

「だが……それ以前の問題があるぞ」
「問題……?」
「そもそも、あのエラルティスをどうやってサリアの元まで連れていくというんだ?」
「あ、確かに……」

 ファミィの言葉に、スウィッシュがハッとする。
 ギャレマスも、神経質に指で顎を触りながらファミィに訊ねた。

「……ファミィよ。今、エラルティスがどこにいるのか知っておるか?」
「うん……一応」

 ファミィは、魔王の問いかけに小さく頷き、言葉を継ぐ。

「今、“聖女”エラルティスは、人間族ヒューマーの国都アサハカンにある国教会の神殿の奥に引き籠ってる」
「神殿の……奥? 何故だ?」
「表向きは『神の啓示を受けた』って事になっているけど……実際のところは、自分が“伝説の四勇士”の責務である“魔王討伐”に駆り出されるのを避ける為だろうな」

 ギャレマスの問いかけにそう答えたファミィは、苦笑しながら肩を竦めた。

「何せ……今の“魔王”――まあ、まだ正式に即位はしていないが――は、他ならぬ自分が殺害寸前まで追い詰め、そのすぐ後に返り討ちに遭いかけた娘だ」
「まあ……確かに」
「その時は命からがら逃げおおせたけど、もしも再び顔を合わせたら、確実に借りを返復讐される事は分かり切っている。その上、今のあいつツカサは強力なチート能力を使いこなしていて、自分の力だけではとても敵わないときた」
「だから、神の啓示を騙ってまで……」
「ああ。『出来るならば、たとえ“伝説の四勇士”として得られる名声や富を擲ってでも、もう二度と魔王国には近付きたくない』――そうアイツが考えても無理は無いだろうな」

 そこまで言うと、ファミィは蜂蜜酒を口に含んで渇いた舌と喉を湿らせ、それから再び話し始める。

「――実際、エラルティスは、人間族ヒューマーの王からの要請はもちろん、再三にわたるシュータ様からの呼び出しにも、“聖女の務めとして、神の意志には背けない”という建前を掲げて一切応じていないらしい。――よっぽど怖いんだろうな、サリア……いや、ツカサの事が」
「そうなのか……」

 ファミィの話を聞いたギャレマスは、難しい顔をして唸った。
 そして、腕組みをしながら大きく嘆息する。

「それは困ったな……。サリアの人格を取り戻すためには、あの聖女の法術が欠かせぬというのに、神殿の中から出て来なければ始まらぬ……」
「どうしましょう……」
「ヒョッヒョッヒョッ! 何を困る事があるかい!」

 ギャレマスたちの懊悩を吹き飛ばすように高笑いをしたのは、ヴァートスだった。
 彼は、ワインを飲み干したコップを床に叩きつけるように置くと、一同の顔を睥睨しながら不敵な笑みを浮かべる。
 そして、腕を伸ばしてギャレマスの顔を真っ直ぐ指さしながら、叱責の声を上げる。

「こりゃ、ギャレの字!」
「な、何だヴァートス殿? 突然大きな声で……」
「な~にいつまでもグジグジグジグジ懊悩しとるんじゃい! お前さんは魔王じゃろう? 魔王だったら、こういう時に採るべき行動はひとつじゃろうが!」
「採るべき……行動?」

 ヴァートスの叱咤めいた言葉に、ギャレマスは当惑の表情を浮かべ、おずおずと訊ねた。

「ヴァートス殿……教えてくれ。何なのだ、その『魔王が採るべき行動』とは……?」
「ヒョッヒョッヒョッ! そんなモン決まっとる!」

 ギャレマスの問いかけに、ヴァートスはニカリと笑って高らかに言い放つ。

さらってこい!」
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