雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~

朽縄咲良

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エピソード11 衰勢の魔王

勇者と魔王と爆発

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 ――とはいえ、マッツコーがギャレマスの姿を視認できたのは、ほんの一瞬の事だった。
 なぜなら、その直後に、ギャレマスとジェレミィアの目と鼻の先の距離にまで接近していた錐型飛翔体ミサイル型エネルギー弾が一際眩しい光を放ち、彼らの姿を掻き消したからだ。

「まず……ッ!」

 急激に輝きを増し始めた赤い光を見て、本能的に危険を察知したマッツコーは、咄嗟に身を屈めながら、傍らのサトーシュに向かって緊迫した声を上げる。

「一号ちゃんッ! ワタシを守りなさ――!」

 ――だが、彼の叫びは、夥しい赤い光の奔流と凄まじい爆風によって遮られた。

「くぅ……ッ!」

 固く目を瞑り、結んだ唇の間から呻き声を漏らしながら、襲い掛かる爆発の衝撃波の中で、マッツコーはひたすらに耐える。
 ……それから、爆発の衝撃波と轟風は数十秒続いたが、マッツコーには数分・数十分にも思えた。

「……」

 辺りが静寂に包まれてから、マッツコーは恐る恐る顔を上げ、咄嗟に彼の盾となったサトーシュの肩越しにキョロキョロと辺りを見回し――、

「えぇ……っ!」

 と、思わず言葉を失う。
 彼の目に映ったのは、先ほどまでとは変わり果てた光景だった。
 岩だらけの地面にまばらに生えていた背の低い木々や草地は、先ほどの爆発で完全に吹き飛び、砕けた岩石が細かい砂埃となって周囲を舞い飛んでいる。
 そして、最も変化していたのは――先ほどまでギャレマスが立っていた崖際だった。
 錐型飛翔体ミサイル型エネルギー弾の爆心地となった崖際には、擂鉢状の巨大なクレーターが出来ていて、あまりの高熱で液状化した岩石がぶすぶすと燻っている。
 そして、その中心に立っていたはずの魔王と半獣人の姿は――目に見える範囲のどこにも居なかった。

「雷王……ちゃんは?」

 半ば答えを悟りながらも、マッツコーは上ずった声で、誰ともなしに問いかける。
 すると――

「……くくく」

 と、頭上から、人を食った嘲笑が降ってきた。

「そんな事……今更訊くまでもねえだろ?」
「……勇者ちゃん」

 足下に反重力アン・グラヴィの魔法陣を展開させながら悠然と地上に降りてきたシュータに、マッツコーはおずおずと声をかける。

「アナタ……まさか、雷王ちゃんをったの?」
「……ああ」

 岩だらけの地面に着地したシュータは、マッツコーの問いかけに対し、唇の端を歪ませるように笑いながら、クレーターの方に顎をしゃくってみせた。

「見ての通りさ。――やったよ。キレイさっぱり、跡形もなく、な」
「……っ!」

 シュータの凄惨な薄笑みを目の当たりにしたマッツコーは、自分の背中に寒気が走るのを感じながら、返す言葉を失う。
 と、その時、

「……一体何をやったんじゃ、勇者の兄ちゃんよ」

 体の上に降り積もった砂礫を手で叩き落としながら、よろよろと立ち上がったヴァートスが、刺すような視線をシュータに向けながら、しわがれた声で尋ねた。
 老エルフの事を一瞥したシュータは、嘲るようにフンと鼻を鳴らすと、わざとらしく肩を竦めてみせる。

「別にぃ。ただ、超高圧に力を込めたエネルギー弾をクソ魔王の前で弾けさせただけだよ。それと同時に、周囲の空間を反重力アン・グラヴィの魔法陣で覆って、爆発したエネルギーが全てアイツの周りだけに集中するようにして、な」
「なるほど……それで、ギャレの字の周り以外は、そこまで破壊されておらんのじゃな」
「そこまでって……充分にめちゃくちゃ破壊されてるように見えるけどねぇ……」

 納得した様子で頷いたヴァートスの言葉に、思わずマッツコーは呆れ声を上げた。
 だが、ヴァートスはそんなマッツコーの呟きなど聞こえぬ様子で、シュータに向けていた鋭い視線を、今度はクレーターの方に向ける。

「……この有様じゃ、さしもの“地上最強の生物”殿でも、ひとたまりもないじゃろうな」
「ああ、ご覧の通りだ。あの爆発と反重力アン・グラヴィのコンボ攻撃を食らって生き残れる生き物は存在しねえ」
「……」

 嘲笑混じりの声を聞いたヴァートスは、もう一度目をシュータに向け、感情を押し殺した声で尋ねた。

「のう……あの瞬間、ギャレの字の傍に、お前さんの仲間――“伝説の四勇士”の獣人の姐ちゃんも居たはずじゃが……あのはどうなったんじゃ?」
「……そんなん、言うまでもねえだろ」

 ヴァートスの静かな問いかけに対し、シュータは薄笑みすら浮かべながら答える。

「クソ魔王と同じ場所に行ってもらったよ。あの位置とタイミングじゃ、アイツも巻き込んで攻撃せざるを得なかった。不可抗力ってヤツだよ。『魔王討伐ニ、犠牲ハツキモノデース』……ってな。くくくっ!」
「カケラも笑えんわい!」

 愉しげに哄笑わらうシュータに激昂し、声を荒げるヴァートス。
 彼は、一瞬シュータを攻撃しようと腕を振り上げるが――すぐに大きく溜息を吐いて、腕をだらりと下ろした。

「……やめた。ギャレの字は良い飲み仲間じゃったし、獣人の姐ちゃんのおっぱいの柔らかさは最高じゃったが、じゃからといって、仇討ちをするのはワシのガラじゃないしのう。……第一、ワシの力じゃ、お前さんのチート能力には到底太刀打ちできそうに無いわい」
「それがいい。身の程を知るっていうのは大切だぜ」

 ヴァートスの言葉に、シュータはフッと相好を崩すのだった。
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