雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~

朽縄咲良

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エピソード13 魔王様のいない最終戦

不敬と大逆と処断

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 ――そして、話の視点は、再び魔王城の呪祭拝堂ナームに戻る。

「うわああああ……陛下……陛下ぁ……!」

 ここから数ケイム離れた場末の逢引宿のソファで、イラ・ギャレマスが呑気な寝息を立てている事など露知らないスウィッシュは、小さな角の欠片を胸に抱きながら、愛する男の死にただただ号泣していた。

「そんな……もう、陛下に会えないなんて……そんなの……嫌……!」
「スウィッシュ……」

 床に膝をついて泣き崩れるスウィッシュに、ファミィが躊躇いながらおずおずと声をかける。

「お前の気持ちは痛いほど分かる。だけど、今は敵の前だ。悲しむのは、サリアを取り戻してから……」
「まだ、あの夜、陛下の顔にゲロ吐いちゃった事もちゃんと謝ってないのに……。ていうか、陛下との最後の思い出が顔面ゲロ吐きだなんて……そんなの……」
「……」

 自分がかけた言葉も聞こえない様子で嘆き悲しみ続けるスウィッシュに、ファミィはかける言葉を失い、途方に暮れた表情を浮かべる。
 と、

「うふふ……そんなに悲しむ事も無いわよん、おてんばちゃん」

 マッツコーが、悲嘆に暮れるスウィッシュに嗤いかけた。

「別に、雷王ちゃんじゃなくても、この世にはいくらでも男がいるじゃない。おてんばちゃん、性格はともかく、顔はなかなか可愛くて若いんだから、死んだ雷王ちゃんの事なんてさっさと忘れて、もっとピチピチでイケメンな男を捕まえて――」
「……もう止めな」
「え?」

 意外なところから上がった制止の声に、マッツコーは首を傾げる。

「あらぁ? 何かお気に障っちゃったかしらん、陛下ちゃん?」
「別に……そんなんじゃないけどさ」

 マッツコーに訊き返されたツカサは、不機嫌そうな表情を浮かべながら、ぶっきらぼうに言った。

「ただ……好きな男が死んだ事を知って悲しんでるヤツに、そんな事を言うべきじゃないと思ってさ」
「あらあら♪」

 ツカサの言葉に、マッツコーは皮肉げな薄笑みを浮かべながら肩を竦める。

「随分とお優しいのねぇ、陛下ちゃん。それは、あのお人好しな雷王ちゃんの血を受け継いでるせい? それとも、あの姫ちゃんの人格の影響?」
「……知らないよ」

 マッツコーの問いかけに、あからさまに不快そうな表情を浮かべたツカサは、玉座の肘掛けの上で頬杖をつきながら言った。

「あぁ、そんな事はもういいから、さっさとそこの邪魔者どもを排除しちまいな。さっさと儀式を進めないと、いつまで経ってもウチが即位できないじゃんかよ」
「ふふ、そうだったわねん。了解よん」

 ツカサの言葉に頷いたマッツコーは、スウィッシュたちの方に目を遣り、凄惨な薄笑みを浮かべる。

「……って事で、陛下ちゃんの勅命に従い、あなたたちを速やかに排除させてもらうわん」

 そこで一旦言葉を切ったマッツコーの眼光が、やにわに鋭さを増した。

「――場合によっては、この世からね」
「「……ッ!」」

 ファミィとヴァートスは、薄笑みを湛えたままでマッツコーが紡いだ、剥き出しの殺気に満ちた声に、一瞬だけ表情を強張らせる。

「フン……!」

 だが、ヴァートスはすぐに口の端を歪め、鼻で嗤ってみせた。

「“勅命”のう……。まだ“即位の礼”とやらは終わっておらんというに、もう王様ヅラか?」
「ふふふ。どーせ、あと数時間で正式な魔王様になるんだからいいのよ」

 ヴァートスの皮肉も軽く受け流し、マッツコーはスッと右手を挙げる。

「どうやら、おとなしく退散してはくれないみたいねん」
「……」
「って事で、“大喪の儀”と“即位の礼”のスピードアップの為、大罪人のあなたたちには今すぐ消えてもらうわねん。罪状は……陛下ちゃんの“即位の礼”を遅らせた事に対する不敬罪と、雷王ちゃんの“大喪の儀”をメチャメチャにした事に対する大逆罪ってトコかしらん」

 そう言ったマッツコーは、挙げた右手の指をパチンと鳴らした。

「って事で……サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ♪」
「――来るぞ、ファミィさんッ!」

 マッツコーが鳴らした指の音と同時に、それまで微動だにしていなかったサトーシュ死体人形が動き出したのを見て、ヴァートスが緊迫した叫び声を上げる。
 それを聞いたファミィも、すかさず戦闘体勢を取る。
 次の瞬間、サトーシュが『……イカヅチアレ』と呟くや、激しく両掌を打ち合わせた。

『ブ・ラークサン・ダー』
『赤き炎 司りし 精霊よ 我が前にて 炎壁を成せ!』

 サトーシュが、帯電した両掌を自分たちに向けたのを見て、即座に精霊術“精霊炎の隔壁”を詠唱展開するヴァートス。
 たちまち石床から噴き上がった猛炎の壁と、サトーシュが放った青白い稲妻が激しくぶつかり合った。

「くっ……!」

 石床に手をついたヴァートスは、思わず苦悶の声を漏らす。

(……さすが先々代魔王じゃな。すさまじい威力の稲妻じゃ。このままでは……“精霊炎の隔壁”の方が突き破られる……ッ!)

 ――その時、凛とした女の声が、彼の背後から上がった。

こたうべし 風司かぜつかさどる精霊王 その手を振りて 風波かざなみ立てよ!』
「ッ!」

 詠唱と共に吹き込んできた凄まじい風によって、炎壁は一気に炎の勢いを増し、稲妻の勢いを削ぎ、遂に跳ね返す。

「――助かったぞい、ファミィさん! さすがワシのまいはにー! 見事な夫婦の共同作業じゃぞい!」
「冗談を言っている場合かっ!」

 一気に勢いを増した分、すぐに燃え尽き四散した炎の壁の向こう側で、早くも次の攻撃に移る素振りを見せるサトーシュの姿を見据えながら叫んだ。

「油断するな! 次、来るぞ!」

 ◆ ◆ ◆ ◆

 ――その時、
 ファミィの風の精霊術に吹き散らかされたヴァートスの炎の精霊術の残滓が、大きな塊となって周囲に飛び散った。
 その内のひとつが、風に乗って、ツカサが座る玉座に向かって流れていく。
 炎の大きな塊は、いくつかの塊に分散しながら飛び続け、その内のひとつが、ツカサの顔面に直撃する軌道に――。

「……うわっ!」

 それに気付いたツカサは、慌てて身を翻し、すんでのところで炎の塊を躱した。

「危ねえな! もう少しで黒焦げになるところ――」

 玉座から転げ落ち、石床の上に尻もちをついたツカサが、苛立たしげに声を上げかけたその時――、

 “ギャリギャリギャリギャリ――ッ!”

 という耳障りな金属音を立てながら、分銅のついた光の鎖が、空になった玉座の背もたれに何重にも絡みついた。

「な――ッ?」

 ツカサは、見覚えのある光の鎖が突然現れた事に驚愕の声を上げる。
 と、同時に、

「ええええっ? そんな……は、外しちゃいましたわぁッ!」

 少し離れた柱の陰から、聞き覚えのある女の動転した叫び声が上がったのだった――!
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