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エピソード14 魔王がやらねば誰がやる
転生姫と危機と助勢
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仰向けになって宙を舞うギャレマスの鼻から噴き出した鮮血が、虚空にきれいなアーチを描いた――その直後、
「ぶふうううううんッ!」
古龍種のポルンが、鋭い咆哮を上げ、その身を大きく翻した。
「う、うおっ?」
急にポルンが動いた事で、その背の上に立っていたツカサは、驚きの声を上げながら鞍に尻もちをつく。
「こ、こらっ! いきなり動くな! 危ないだろうが――って、えっ?」
慌てて鞍の縁にしがみついて何とか転落を免れたツカサは、翼を大きく羽ばたかせながら急旋回するポルンに怒声を浴びせようとしたが、自分とポルンを掠めるように通り過ぎていった水流弾を見て目を丸くした。
「な、何……っ? 今のは、ウチに向けた攻撃?」
元の世界で愛乗していた単車のシートを模した鞍に座り直しながら、呆然と呟いたツカサは、険しい目で眼下を睨みつける。
「誰だいッ! ウチに向けて不意討ちを仕掛けてきた命知らずは! ただじゃおかないよッ!」
「ごめんなさいねぇん、陛下ちゃん。わざとじゃないのよん、ワタシはね」
激怒するツカサに、相変わらず人を食った調子で声をかけたのは、マッツコーだった。
壊れた玉座の背もたれの影に隠れていた彼は、わざとらしく肩を竦めながら言う。
「確かに、この子たちを起動したのはワタシだけど、陛下ちゃんの事を攻撃してるのはワタシの命令でって訳じゃなくって、この子たち自身の意思……いえ、本能だからしょうがないのよねん」
「はぁ? 何言ってんだお前?」
マッツコーの声に怪訝な表情を浮かべたツカサは、彼が“この子たち”と呼ぶ十二人の姿を睥睨した。
「……っていうか、そいつら何者だよ? ……新しいイキビト?」
「まあ、そんなモンよん。“ダースト”ちゃんって言うの。まあ……質はイキビトちゃんからは数段落ちる“劣化版”だけどねん」
「別にどーでもいいわ、劣化版でも試作機でも量産型でもさ」
数人のダーストたちが放つ攻撃を、空中で巨体を翻しながら躱すポルンの背の上で、ツカサは不機嫌を露わにする。
「いいから、さっさとコイツらをおとなしくさせな。こうチャチャ入れられちゃあ、親父たちと落ち着いて最期のお話も出来やしないよ。お前のオモチャだろ?」
「あいにくと、それは出来ないのよねぇん」
隠れた玉座にもたれかかって、剥げたマニキュアを塗り直しながら、マッツコーは苦笑した。
「この子たち、一回起動したら最後、飼い主のワタシでも止められないのよん」
「あぁ? 何だよそりゃ?」
「さっき言ったでしょ? “劣化版”だって」
「それは、劣化版じゃなくって“欠陥品”って言うんだよ!」
いけしゃあしゃあと言ってのけるマッツコーに苛立ちながら、ツカサは声を荒げる。
と――その時、彼女の視界の片隅に、何か眩しいものが閃いた。
「っ!」
それが、暴走状態のダーストのひとりが自分に向けて放った炎弾と気付いた彼女は、急いで『倍返し』を発動しようとするが――、炎弾がポルンの巨体に隠れたせいで気付くのが遅れ、能力の発動が間に合わない!
「まずっ……!」
炎弾の熱気が間近に迫るのを感じながら、ツカサは咄嗟に目を瞑る。
――と、その時、
炎が燃え盛る音に紛れて、パチンと指を弾く音が、彼女の耳に届いた。
「真空風波呪術ッ!」
「……ッ!」
次いで聞こえた詠唱の声と共に飛来した真空の刃が、ツカサとポルンに襲いかからんとしていた炎弾を真っ二つに切り裂く。
音と声を聞き、恐る恐る目を開いたツカサは、勢いを失って途中で燃え尽きた炎弾の残滓を見るや、カッと顔を上気させ、真空の刃を放った男に向けて怒声を浴びせた。
「……余計な事すんじゃねえよクソオヤジ!」
「あ、すまぬ。危ないと思って、つい手を出してしまった」
石床に片膝をついて真空風波呪術を放った格好のまま、ギャレマスはツカサの怒声に軽い調子で詫びる。
だが、すぐに脇腹を押さえて顔を顰めた。
「痛ちちち……」
「マジで何やってるんだよ、アンタ!」
石床の上に蹲るギャレマスを見下ろしながら、ツカサは目を剥いて声を荒げる。
「そんなにボロボロのクセに、無茶してんじゃないよ! ていうか、ウチとアンタは敵同士だろうが! それなのに、なんでウチを助けるような真似を……」
「……いや、そうじゃない」
ツカサの言葉に、ギャレマスは静かに頭を振り、彼女の顔を真っ直ぐに見上げた。
「お主は、余の敵ではない。……確かに、サリアの人格を巡ってお互いの利害が対立してはいるが、それでも……敵とは違う」
「はぁ?」
「ツカサ――」
言葉の意味を測りかねて、当惑の表情を浮かべるツカサの顔をジッと見つめながら、ギャレマスは落ち着いた口調で続ける。
「うまく言えぬが……。ツカサ――お主も、サリアと同じ、余の娘のようなものだと――」
ギャレマスの言葉は、そこで唐突に途切れた。
ダーストたちの攻撃が、再びツカサとギャレマスたちに向けて放たれたからだ。
「ぶふううんっ!」
「――っ!」
ツカサは、攻撃を避ける為に大きく体を翻したポルンの背から振り落とされないよう、必死で鞍にしがみつく。
そして、激しく揺れる中、僅かに顔を上げ、地上でダーストたちの攻撃に応戦しているギャレマスの姿をチラリと見た。
「何だよ、それ……」
ツカサは、口を尖らせながらボヤく。
「“サリアと同じ”って――何言ってんだよ。当たり前じゃないか。ウチとサリアは、同じ魂から出来ているんだからさ……」
彼女はそう呟くと、小さな溜息を吐いた。
そして、
「――『余の娘』……かあ……」
その口元は、彼女も気付かぬうちに、少しだけ綻んでいた。
「ぶふうううううんッ!」
古龍種のポルンが、鋭い咆哮を上げ、その身を大きく翻した。
「う、うおっ?」
急にポルンが動いた事で、その背の上に立っていたツカサは、驚きの声を上げながら鞍に尻もちをつく。
「こ、こらっ! いきなり動くな! 危ないだろうが――って、えっ?」
慌てて鞍の縁にしがみついて何とか転落を免れたツカサは、翼を大きく羽ばたかせながら急旋回するポルンに怒声を浴びせようとしたが、自分とポルンを掠めるように通り過ぎていった水流弾を見て目を丸くした。
「な、何……っ? 今のは、ウチに向けた攻撃?」
元の世界で愛乗していた単車のシートを模した鞍に座り直しながら、呆然と呟いたツカサは、険しい目で眼下を睨みつける。
「誰だいッ! ウチに向けて不意討ちを仕掛けてきた命知らずは! ただじゃおかないよッ!」
「ごめんなさいねぇん、陛下ちゃん。わざとじゃないのよん、ワタシはね」
激怒するツカサに、相変わらず人を食った調子で声をかけたのは、マッツコーだった。
壊れた玉座の背もたれの影に隠れていた彼は、わざとらしく肩を竦めながら言う。
「確かに、この子たちを起動したのはワタシだけど、陛下ちゃんの事を攻撃してるのはワタシの命令でって訳じゃなくって、この子たち自身の意思……いえ、本能だからしょうがないのよねん」
「はぁ? 何言ってんだお前?」
マッツコーの声に怪訝な表情を浮かべたツカサは、彼が“この子たち”と呼ぶ十二人の姿を睥睨した。
「……っていうか、そいつら何者だよ? ……新しいイキビト?」
「まあ、そんなモンよん。“ダースト”ちゃんって言うの。まあ……質はイキビトちゃんからは数段落ちる“劣化版”だけどねん」
「別にどーでもいいわ、劣化版でも試作機でも量産型でもさ」
数人のダーストたちが放つ攻撃を、空中で巨体を翻しながら躱すポルンの背の上で、ツカサは不機嫌を露わにする。
「いいから、さっさとコイツらをおとなしくさせな。こうチャチャ入れられちゃあ、親父たちと落ち着いて最期のお話も出来やしないよ。お前のオモチャだろ?」
「あいにくと、それは出来ないのよねぇん」
隠れた玉座にもたれかかって、剥げたマニキュアを塗り直しながら、マッツコーは苦笑した。
「この子たち、一回起動したら最後、飼い主のワタシでも止められないのよん」
「あぁ? 何だよそりゃ?」
「さっき言ったでしょ? “劣化版”だって」
「それは、劣化版じゃなくって“欠陥品”って言うんだよ!」
いけしゃあしゃあと言ってのけるマッツコーに苛立ちながら、ツカサは声を荒げる。
と――その時、彼女の視界の片隅に、何か眩しいものが閃いた。
「っ!」
それが、暴走状態のダーストのひとりが自分に向けて放った炎弾と気付いた彼女は、急いで『倍返し』を発動しようとするが――、炎弾がポルンの巨体に隠れたせいで気付くのが遅れ、能力の発動が間に合わない!
「まずっ……!」
炎弾の熱気が間近に迫るのを感じながら、ツカサは咄嗟に目を瞑る。
――と、その時、
炎が燃え盛る音に紛れて、パチンと指を弾く音が、彼女の耳に届いた。
「真空風波呪術ッ!」
「……ッ!」
次いで聞こえた詠唱の声と共に飛来した真空の刃が、ツカサとポルンに襲いかからんとしていた炎弾を真っ二つに切り裂く。
音と声を聞き、恐る恐る目を開いたツカサは、勢いを失って途中で燃え尽きた炎弾の残滓を見るや、カッと顔を上気させ、真空の刃を放った男に向けて怒声を浴びせた。
「……余計な事すんじゃねえよクソオヤジ!」
「あ、すまぬ。危ないと思って、つい手を出してしまった」
石床に片膝をついて真空風波呪術を放った格好のまま、ギャレマスはツカサの怒声に軽い調子で詫びる。
だが、すぐに脇腹を押さえて顔を顰めた。
「痛ちちち……」
「マジで何やってるんだよ、アンタ!」
石床の上に蹲るギャレマスを見下ろしながら、ツカサは目を剥いて声を荒げる。
「そんなにボロボロのクセに、無茶してんじゃないよ! ていうか、ウチとアンタは敵同士だろうが! それなのに、なんでウチを助けるような真似を……」
「……いや、そうじゃない」
ツカサの言葉に、ギャレマスは静かに頭を振り、彼女の顔を真っ直ぐに見上げた。
「お主は、余の敵ではない。……確かに、サリアの人格を巡ってお互いの利害が対立してはいるが、それでも……敵とは違う」
「はぁ?」
「ツカサ――」
言葉の意味を測りかねて、当惑の表情を浮かべるツカサの顔をジッと見つめながら、ギャレマスは落ち着いた口調で続ける。
「うまく言えぬが……。ツカサ――お主も、サリアと同じ、余の娘のようなものだと――」
ギャレマスの言葉は、そこで唐突に途切れた。
ダーストたちの攻撃が、再びツカサとギャレマスたちに向けて放たれたからだ。
「ぶふううんっ!」
「――っ!」
ツカサは、攻撃を避ける為に大きく体を翻したポルンの背から振り落とされないよう、必死で鞍にしがみつく。
そして、激しく揺れる中、僅かに顔を上げ、地上でダーストたちの攻撃に応戦しているギャレマスの姿をチラリと見た。
「何だよ、それ……」
ツカサは、口を尖らせながらボヤく。
「“サリアと同じ”って――何言ってんだよ。当たり前じゃないか。ウチとサリアは、同じ魂から出来ているんだからさ……」
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そして、
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