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エピソード14 魔王がやらねば誰がやる
魔王と姫と窮地
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「くう……っ、数が多すぎる……!」
自分の首筋目がけて繰り出された三節槍の穂先を氷の突撃槍で危うく弾き飛ばしたスウィッシュが、焦燥の声を上げる。
「……数だけじゃない」
風の精霊術で作り出した真空の飛刃で飛び掛かって来た大鎌使いのダーストを切り裂いたファミィは、そう呟きながら、蓄積した疲労を隠せぬ様子で肩で息を吐く。
「……元四天王なだけあって、どいつもこいつも手強い上に、ゴキブリ並みにしぶとくて、いくら痛めつけても倒れない……」
「何せ、もう死んでるゾンビだからね……」
杖のように床に突き立てた氷の突撃槍にもたれかかったスウィッシュが、ファミィの呟きにウンザリ顔で頷いた。
「普通に生きている相手だったら、とっくに全員を無力化出来てるくらいのダメージは与えているはずなのに……。ファミィの真空の風刃で腕を斬り飛ばしても、あたしの氷柱弾で体を蜂の巣にしても、平気で立ち上がってきて……キリがないわ」
「痛覚が無いから、痛みで動きが鈍るという事も無いし……」
乱れて目にかかった金髪を払いながら、ファミィは周りを囲むダーストたちの数を数える。
ふたりで精霊術と魔術を嫌という程叩き込んで、ようやくの思いで完全に機能停止させたダーストは二体。
そして、未だ健在なのは……、
「ひい、ふう……あと五体。――対するこちら側は……」
「戦力になるのは――あなたとあたし……実質ふたりね」
苦笑を浮かべながら、スウィッシュが答えた。
「アルも、あの厚化粧男を捕らえに行ったきりだし、陛下は傷が深くて、とても戦える状態じゃないし……」
「ヴァートス様は、まだ『あどれなりん何とか』とかいう“ちーと能力”の反動で理力が不安定だしな……」
「無駄乳クソ聖女に至っては、やる気も法力もゼロ」
「だ、誰の胸が無駄乳ですって、この無乳娘が!」
「あーはいはい」
スウィッシュは、目を吊り上げて声を荒げるエラルティスを適当にあしらい、ジト目を向ける。
「……って、そんなに喚き散らす元気があるなら、法力も少しは回復したんじゃない? なら、ちょっと手伝って――」
「え? ……う、うーん……あーダメですわ。もう逆さに振っても法力なんて残ってませんわぁ。何せわらわは、か弱き薄幸の美聖女ですからぁ」
「か弱いとか、どの口が言うか……」
助力を求められた途端、慌てて弱ってる様を装うエラルティスに呆れながら、スウィッシュはダーストたちの方に向き直った。
「まあ……初めからアテにはしてないけどね。――って事で、頑張って時間稼ぎするわよ、ファミィ!」
「そうだな。アルトゥーが、あの“ニューハーフ将”とやらを捕まえて戻って来るまでの間、な!」
「……“ニューハーフ将”じゃなくて、“癒撥将”ね。まあ、そう読みたくなる気持ちは分かるけど……」
ファミィの言葉に困り笑いを浮かべたスウィッシュだったが、すぐに表情を引き締めると、右手に持った突撃槍をグッと握り込んだ。
そして、
「行くよ! バックアップを頼むわ、ファミィ!」
「分かった!」
スウィッシュとファミィがお互いに声を掛け合い、ダーストたちに向かおうとしたその時、
“ズガアァァァァァン!”
という、耳を劈くような轟音と共に眩い光が閃き、同時に石床が大きく揺れた。
「きゃあっ?」
「なっ、何だ……?」
突然の閃光と轟音に驚いたふたりは、思わず身を竦ませる。
「な、何か大きなものが降って来た……?」
彼女たちと同じく驚いたギャレマスは、濛々と立ち込める塵埃の向こうに目を凝らした。
そして、ちょうど彼らとダーストたちの間に出来たクレーターと、その真ん中で黒焦げになって伸びている元魔王と思しきダーストの姿を見止めた瞬間、ハッとした顔をして頭上を見上げる。
「サリア……いや、ツカサ……っ!」
彼の金色の眼は、呪祭拝堂の高い天井近くで、漆黒の翼を広げて激しく戦うふたつの影を捉えた。
影のひとりは、真紅のトッコウフクを身に纏ったツカサ。もうひとりは葬衣を纏った――、
「ダースト……! しかも、黒翼を持っているという事は……王族か!」
そう呟いたギャレマスの顔が蒼白になる。
時折、雷系呪術の青白い稲光を放ちながら激しく戦っているふたりだったが、明らかにツカサの動きが鈍く、防戦を強いられている。
あのままでは、いつかツカサはダーストの攻撃を食らってしまうだろう……!
「――いかんッ!」
そう考えた瞬間、ギャレマスは矢も楯もたまらずといった様子で、慌てて背中の黒翼を展開した。
それを見たスウィッシュが、慌てて彼を制止しようとする。
「い、いけません陛下! あなたの傷はまだ……」
「……すまぬ、スウィッシュ!」
だが、ギャレマスはスウィッシュの制止を振り切るようにして黒翼を羽搏かせ、直上方向へ飛び上がった。
その拍子に鋭い痛みを発した脇腹に顔を顰めながら、魔王は叫ぶ。
「無理はせぬ! あのダーストを追い払ったら、すぐにツカサを……娘を連れて戻って来る! 心配するな!」
「陛下……」
ギャレマスの言葉を聞いたスウィッシュは、思わず言葉を詰まらせた。
その間に、魔王は天井近くで戦うツカサの元に急ごうと、黒翼を羽搏かせながら上昇しようとする。
――と、その時、彼の視界は白く巨大な物体によって遮られた。
「ぶぶしっ?」
滑空しながら落ちてきた白い物体に顔面からまともに突っ込んだギャレマスは、白く滑らかな鱗面に鼻柱を強かにぶつけ、盛大に鼻血を噴き出す。
「こ……これは……ぽ、ポルン? ……って、うおわああああっ!」
「ぶふぅ……」
自分がぶつかったのがポルンの腹だという事に気付いたギャレマスは、そのまま気絶している古龍種の巨体に圧し潰されるようにして地上に落下した。
「い……痛たたた……」
すんでのところでポルンの巨体に潰されかけたギャレマスは、強かに打ちつけた腰を擦りながら、よろよろと起き上がる。
そして、
「……って、あっ!」
すぐにツカサの事を思い出し、慌てて頭上を見上げた。
彼の目に飛び込んできたのは――空中で大きく体勢を崩したツカサと、そんな彼女に帯電した拳を叩きこもうとしているダーストの姿――。
あの距離では、『倍返し』を発動する暇も、カウンターの雷系呪術を唱える時間も、防御の体勢を取る隙も無い……。
「ま、待て! 止めよ!」
石床に膝をついた体勢で、頭上に向かって必死に懇願の声を上げるギャレマスだったが、そんな彼の声は届かない――。
それでも、無駄と察しつつ再び天井まで飛び上がろうと黒翼を広げた彼だったが……、
「……ん?」
ふと、裂けた天井の隙間から見える、すっかり暗くなった夜空の中に見覚えのあるものを見つけ、目を大きく見開いた。
「あ……あの、紅い円状の光は……ま、まさか――!」
自分の首筋目がけて繰り出された三節槍の穂先を氷の突撃槍で危うく弾き飛ばしたスウィッシュが、焦燥の声を上げる。
「……数だけじゃない」
風の精霊術で作り出した真空の飛刃で飛び掛かって来た大鎌使いのダーストを切り裂いたファミィは、そう呟きながら、蓄積した疲労を隠せぬ様子で肩で息を吐く。
「……元四天王なだけあって、どいつもこいつも手強い上に、ゴキブリ並みにしぶとくて、いくら痛めつけても倒れない……」
「何せ、もう死んでるゾンビだからね……」
杖のように床に突き立てた氷の突撃槍にもたれかかったスウィッシュが、ファミィの呟きにウンザリ顔で頷いた。
「普通に生きている相手だったら、とっくに全員を無力化出来てるくらいのダメージは与えているはずなのに……。ファミィの真空の風刃で腕を斬り飛ばしても、あたしの氷柱弾で体を蜂の巣にしても、平気で立ち上がってきて……キリがないわ」
「痛覚が無いから、痛みで動きが鈍るという事も無いし……」
乱れて目にかかった金髪を払いながら、ファミィは周りを囲むダーストたちの数を数える。
ふたりで精霊術と魔術を嫌という程叩き込んで、ようやくの思いで完全に機能停止させたダーストは二体。
そして、未だ健在なのは……、
「ひい、ふう……あと五体。――対するこちら側は……」
「戦力になるのは――あなたとあたし……実質ふたりね」
苦笑を浮かべながら、スウィッシュが答えた。
「アルも、あの厚化粧男を捕らえに行ったきりだし、陛下は傷が深くて、とても戦える状態じゃないし……」
「ヴァートス様は、まだ『あどれなりん何とか』とかいう“ちーと能力”の反動で理力が不安定だしな……」
「無駄乳クソ聖女に至っては、やる気も法力もゼロ」
「だ、誰の胸が無駄乳ですって、この無乳娘が!」
「あーはいはい」
スウィッシュは、目を吊り上げて声を荒げるエラルティスを適当にあしらい、ジト目を向ける。
「……って、そんなに喚き散らす元気があるなら、法力も少しは回復したんじゃない? なら、ちょっと手伝って――」
「え? ……う、うーん……あーダメですわ。もう逆さに振っても法力なんて残ってませんわぁ。何せわらわは、か弱き薄幸の美聖女ですからぁ」
「か弱いとか、どの口が言うか……」
助力を求められた途端、慌てて弱ってる様を装うエラルティスに呆れながら、スウィッシュはダーストたちの方に向き直った。
「まあ……初めからアテにはしてないけどね。――って事で、頑張って時間稼ぎするわよ、ファミィ!」
「そうだな。アルトゥーが、あの“ニューハーフ将”とやらを捕まえて戻って来るまでの間、な!」
「……“ニューハーフ将”じゃなくて、“癒撥将”ね。まあ、そう読みたくなる気持ちは分かるけど……」
ファミィの言葉に困り笑いを浮かべたスウィッシュだったが、すぐに表情を引き締めると、右手に持った突撃槍をグッと握り込んだ。
そして、
「行くよ! バックアップを頼むわ、ファミィ!」
「分かった!」
スウィッシュとファミィがお互いに声を掛け合い、ダーストたちに向かおうとしたその時、
“ズガアァァァァァン!”
という、耳を劈くような轟音と共に眩い光が閃き、同時に石床が大きく揺れた。
「きゃあっ?」
「なっ、何だ……?」
突然の閃光と轟音に驚いたふたりは、思わず身を竦ませる。
「な、何か大きなものが降って来た……?」
彼女たちと同じく驚いたギャレマスは、濛々と立ち込める塵埃の向こうに目を凝らした。
そして、ちょうど彼らとダーストたちの間に出来たクレーターと、その真ん中で黒焦げになって伸びている元魔王と思しきダーストの姿を見止めた瞬間、ハッとした顔をして頭上を見上げる。
「サリア……いや、ツカサ……っ!」
彼の金色の眼は、呪祭拝堂の高い天井近くで、漆黒の翼を広げて激しく戦うふたつの影を捉えた。
影のひとりは、真紅のトッコウフクを身に纏ったツカサ。もうひとりは葬衣を纏った――、
「ダースト……! しかも、黒翼を持っているという事は……王族か!」
そう呟いたギャレマスの顔が蒼白になる。
時折、雷系呪術の青白い稲光を放ちながら激しく戦っているふたりだったが、明らかにツカサの動きが鈍く、防戦を強いられている。
あのままでは、いつかツカサはダーストの攻撃を食らってしまうだろう……!
「――いかんッ!」
そう考えた瞬間、ギャレマスは矢も楯もたまらずといった様子で、慌てて背中の黒翼を展開した。
それを見たスウィッシュが、慌てて彼を制止しようとする。
「い、いけません陛下! あなたの傷はまだ……」
「……すまぬ、スウィッシュ!」
だが、ギャレマスはスウィッシュの制止を振り切るようにして黒翼を羽搏かせ、直上方向へ飛び上がった。
その拍子に鋭い痛みを発した脇腹に顔を顰めながら、魔王は叫ぶ。
「無理はせぬ! あのダーストを追い払ったら、すぐにツカサを……娘を連れて戻って来る! 心配するな!」
「陛下……」
ギャレマスの言葉を聞いたスウィッシュは、思わず言葉を詰まらせた。
その間に、魔王は天井近くで戦うツカサの元に急ごうと、黒翼を羽搏かせながら上昇しようとする。
――と、その時、彼の視界は白く巨大な物体によって遮られた。
「ぶぶしっ?」
滑空しながら落ちてきた白い物体に顔面からまともに突っ込んだギャレマスは、白く滑らかな鱗面に鼻柱を強かにぶつけ、盛大に鼻血を噴き出す。
「こ……これは……ぽ、ポルン? ……って、うおわああああっ!」
「ぶふぅ……」
自分がぶつかったのがポルンの腹だという事に気付いたギャレマスは、そのまま気絶している古龍種の巨体に圧し潰されるようにして地上に落下した。
「い……痛たたた……」
すんでのところでポルンの巨体に潰されかけたギャレマスは、強かに打ちつけた腰を擦りながら、よろよろと起き上がる。
そして、
「……って、あっ!」
すぐにツカサの事を思い出し、慌てて頭上を見上げた。
彼の目に飛び込んできたのは――空中で大きく体勢を崩したツカサと、そんな彼女に帯電した拳を叩きこもうとしているダーストの姿――。
あの距離では、『倍返し』を発動する暇も、カウンターの雷系呪術を唱える時間も、防御の体勢を取る隙も無い……。
「ま、待て! 止めよ!」
石床に膝をついた体勢で、頭上に向かって必死に懇願の声を上げるギャレマスだったが、そんな彼の声は届かない――。
それでも、無駄と察しつつ再び天井まで飛び上がろうと黒翼を広げた彼だったが……、
「……ん?」
ふと、裂けた天井の隙間から見える、すっかり暗くなった夜空の中に見覚えのあるものを見つけ、目を大きく見開いた。
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