雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~

朽縄咲良

文字の大きさ
387 / 423
エピソード15 MAOH WORLD!

姫と転生少女と人格消滅

しおりを挟む
 「究極収束雷撃槌呪術オシ・オキダッ・チャ――ッ!」

 詠唱と共に、創成された凄まじい蒼光を放つ巨大な雷の戦槌が、ダーストの脳天目がけて降り落ちてきた。

『……』

 己の頭上に降りかかろうとしている雷の大槌に気付いたダーストは、咄嗟に振り返り、イータツたちを突き貫かんとしていた雷大槍を手元に引き戻し、両手で握る。そして、己の身の丈よりも巨大な雷大槌を槍の穂で受け止めようとしたが――それはあまりに無謀な対応だった。
 濃密な理力で具現化された雷の大槌は、受け取めんとした雷大槍の穂をあっさりとへし折り、その勢いのまま、ダーストの身体を襲う。

『――っ!』

 雷で組成された巨大な槌頭ハンマーヘッドは、ダーストの脳天を強かに打ち据え、圧し潰された頭部は雷が発するすさまじい高熱によって瞬時に炭化した。
 炭化部分は、みるみるうちに脳天から全身へと広がる。
 そして――真っ黒になったダーストの体は、枯れ木が朽ち折れるような音を立てながら、その場にボロボロと崩れ落ちた。
 雷の残滓が完全に消えた後――そこに残っていたのは、ぶすぶすと煙を上げる消し炭の山だけ……。

「うわぁ……すご……」

 究極収束雷撃槌呪術オシ・オキダッ・チャの巨大な雷の戦槌が、ダーストの身体を瞬く間に消し炭に変える様を目前で見ていたジェレミィアは、呆然とした顔で呟いた。
 その背後では、イータツが両眼から滂沱の涙を流しながら、彼を救う技を放った者に向けて叫ぶ。

「さ……サリア姫えええええっ! ワシの事をお助け頂きまして、ありがとうござりまするぅぅぅっ!」
「うるさい、ハゲェッ!」

 イータツの感激に満ちた感謝の叫びに、ツカサは露骨に顔を顰めながら怒鳴り返した。

「べ、別に、アンタを助ける為に究極収束雷撃槌呪術オシ・オキダッ・チャを放った訳じゃないよ! ただ、さっき仕留め損ねた借りを返してやっただけ! だから、気色悪い勘違いするんじゃないよ!」

 そう憤然と捲し立てたツカサは、拗ねたようにプイッと横を向く。
 それまで呆然としていたジェレミィアは、そんなツカサの絶叫で我に返った。
 そして、満面に笑みを浮かべながら、ツカサに向かって感謝の言葉を述べる。

「いや、マジでありがと、サッちゃん!」
「だから、お前を助けた訳じゃないっていうのに……」

 そう困ったような声でボヤいたツカサは、急に頬を膨らませて怒声を上げた。

「っていうか、ウチはサリアなんかじゃないよッ!」

 そう声を荒げたツカサは、不機嫌そうに眉間へ深い皺を寄せる。

「サリアはもういないんだよ! ウチはツカサだって!」
「あぁ、そうだったねぇ。今はサッちゃんじゃなくってツッキーなんだっけ?」

 ツカサの怒声にも怯む様子無く穏やかな笑みを浮かべたジェレミィアは、「――でも」と続けた。

「何か紛らわしいから、今日から“サッちゃん”に統一するね」
「だぁかぁらぁ……ウチはツカサだって言って――」
「うん、分かってるって」

 ジェレミィアは、苛立ちを露わにしながら言い返そうとするツカサの声を遮る。

「サリアじゃなくってツカサだって言うんでしょ? だから、ツカサの“サ”を取って“サッちゃん”……それなら問題無いでしょ、違う?」
「……いや、問題あるとか無いとかってハナシじゃ……」
「――それにさ」

 そう続けたジェレミィアは、ふっと神妙な表情を浮かべた。

「今のサッちゃんはツカササッちゃんかもしれないけど、サリアサッちゃんでもあるんでしょ? 『ウチはサリアと同じ』って、この前魔王城の正門の前で会った時に自分で言ってたじゃん。……だったら、自分がサリアだって事を否定する必要なんかじゃないじゃん」
「……うっさいなぁ!」

 ジェレミィアの言葉に唇を噛んだツカサは、キッと眉を吊り上げて声を荒げる。
 そして、自分の胸に手を当てながら、苛立たしげに叫んだ。

「確かに、最初はそう言ってたよ! 『ウチはサリアと同じだよ』って! でも……どいつもこいつも『サリアを取り戻す』とか『サリアを返せ』って……いつまでも『ウチツカサじゃない方のウチサリア』の事ばっかりでさ……!」

 ツカサはそう捲し立てながら、自分が着ている特攻服の胸元をグッと掴む。

「だったら、いっそ認めてやろうじゃないかって事だよ。『ウチとサリアは違う』って事をさ! だから――」

 そこまで言って一旦口を噤んだツカサは、大きく息を吸い込んでから、ありったけの声で絶叫した。

「もう二度と、ウチの事をサリアって呼ぶなあああああ――っ!」
「……ッ!」

 ツカサの絶叫に、その場に居た全員が息を呑む。
 唖然としている一同の顔をジロリと睥睨したツカサは、気を落ち着かせるように大きな溜息を吐くと、立てた親指で自分の頭を指さし、「それに――」と続けた。

「もう、アイツの……サリアの人格は、ウチの中から完全に消えたっぽいよ」
「……え?」

 ツカサの言葉に、思わず上ずった声を上げたスウィッシュは、青ざめながら恐る恐るツカサに尋ねる。

「か、完全に消えたって……ど、どういう意味……?」
「どういうも何も、その通りの意味さ」

 スウィッシュの問いかけに皮肉げな薄笑みを浮かべながら、ツカサは答えた。

「少し前までは、ウチの心の中にあの子の意識が残ってて、寝てる時とかボーっとしてる時とかにちょいちょい頭の中で話しかけられてたんだけど、ここ数日は今までが嘘のようにパタリと止んだんだよ。……それが、アイツの人格が完全にウチの中に溶け込んで消滅したっていう、何よりの証拠だろ」
「う……ウソよッ!」

 ツカサの答えを聞いたスウィッシュは、頭を抱えながら、激しく首を左右に振る。

「そ、そんな訳無いわよっ! あたしは信じない……ッ! さ……サリア様が……いなくなっちゃったなんて……そんな事っ!」
「フン、アンタが信じようと信じまいと、そんな事は関係無いよ」

 スウィッシュの事を鼻で嗤いながら、ツカサは言った。

「それでも、アイツの気配が消えたのは確かだよ。“当事者”が言うんだから間違いない」

 ツカサはそう言うと、フッと寂しそうな表情を浮かべ、「だからさ……」と続ける。

「もう……アイツの――サリアの事は忘れちまいな。大丈夫……あいつの代わりには、このウチが――」
「――いや」
「ッ!」

 自分の言葉を中途で遮った低い男の声を聞いた瞬間、ツカサの表情が強張った。
 そんな彼女の前に、背中の翼を大きく広げた影が静かに降り立つ。

「――ツカサよ」

 ゆっくりとかぶりを振ったイラ・ギャレマスは、その優しい光を宿した金色の瞳で娘の姿を見つめながら、静かな声で言葉を継いだ。

「……消えてはおらぬ。サリアはまだ、お主の中に居るのだ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

レベル1のフリはやめた。貸した力を全回収

ソラ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ち、ソラ。 彼はレベル1の無能として蔑まれ、魔王討伐を目前に「お前のようなゴミはいらない」と追放を言い渡される。 だが、傲慢な勇者たちは知らなかった。 自分たちが人間最高峰の力を維持できていたのは、すべてソラの規格外のステータスを『借りていた』からだということを。 「……わかった。貸していた力、すべて返してもらうよ」 契約解除。返還されたレベルは9999。 一瞬にして力を失い、ただの凡人へと転落しパニックに陥る勇者たち。 対するソラは、星を砕くほどの万能感を取り戻しながらも、淡々と宿を去る。 静かな隠居を望むソラだったが、路地裏で「才能なし」と虐げられていた少女ミィナを助けたことで、運命が変わり始める。 「借金の利息として、君を最強にしてあげよう」 これは、世界そのものにステータスを貸し付けていた最強の『貸与者』が、不条理な世界を再定義していく物語。 (本作品はAIを活用して構成・執筆しています)

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...