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エピソード15 MAOH WORLD!
氷牙将と理力と回復
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――時は、少し遡る。
「陛下……っ!」
今にも超高重力に身体を圧し潰されそうになりながら、それでも歯を食い縛ってサリアの元へ一歩一歩近付くギャレマスの姿を、スウィッシュは祈るように見つめていた。
今すぐ自分も、ギャレマスと同じようにサリアの為に動きたかったが、彼女もシュータの超加重魔法術の影響を受けて、満足に動く事が出来ない……。
「がんばって……がんばって下さい! 陛下……サリア様も……ッ!」
心底口惜しい思いを抱きながら、スウィッシュは必死で足掻く二人に、せめてもの声援を送る。
――と、その時、
「――こ、こんなタイミングで……がががががががっ!」
急にピタリと動きを止めたギャレマスの口から、唐突に苦しげな声が上がった。
「こ、腰が……腰ががががががあああああっ!」
たちまち死体のような顔色になった魔王は、上ずった声で絶叫しながら、腰を押さえてその場で悶絶し始める。
その見覚えのある苦しみっぷりを見たスウィッシュの顔も青ざめた。
「い、いけない……! 陛下……またギックリ腰に……っ?」
そう呟いた彼女は、重力に逆らって何とか身を起こし、悶絶している魔王に向けて手を翳すと、早口で魔術を詠唱する。
「――氷筍造成魔術!」
……だが、
「く……っ! ダメ……理力が……全然足りない……」
ギャレマスが横たわる床に一瞬だけ現れた魔法陣が、すぐに消えてしまったのを見て、スウィッシュは絶望の声を上げた。
これまでの戦いで、彼女の胎内の理力はほとんど残っておらず、氷筍造成魔術ほどの大規模な魔術を放つにはとても足りないのだ。
「……しっかりしなさい、スウィッシュ! ここで陛下を……サリア様をお助けできないで、何が四天王よ!」
そう自分自身を叱咤して、何とか氷筍造成魔術を放てるだけの理力を体中から掻き集めようとしたスウィッシュだったが……無いものは出しようがなかった。
「何でよ……何で、こんな肝心な時に魂切れしちゃうのよ、あたし……」
絶望のあまり、今にも溢れ出そうになる涙を懸命に堪えながら、彼女は懸命に考える。
理力さえ……理力さえ回復できれば――!
……と、
「……あ!」
唐突に声を上げて、目を見開いた彼女は、這うようにしながら一人の男の元へにじり寄る。
そして、荒縄に縛られたままぐったりしていた男の襟元をむんずと掴むや、無理矢理引き起こした。
「マッツコー様!」
「……なぁに、おてんばちゃん?」
他の者たちと同様、超加重魔法術の高重力にやられてぐったりとしていたマッツコーは、襟元を掴まれた格好のまま、薄目を開けてスウィッシュの顔を見返した。
スウィッシュは、彼に真剣な眼差しを向けながら懇願する。
「お願いがあります!」
「……お願いって、レディの服の襟を掴みながらする事じゃなくない?」
愉しげに口の端を吊り上げて、からかうように言うマッツコー。
だが、スウィッシュは彼の皮肉を無視して、自分の要求を告げる。
「あたしに治癒をかけて下さい、今すぐに!」
「……どうして、アタシがおてんばちゃんにそんな事しなきゃいけないのぉ?」
一瞬、ギャレマスとサリアの方に目を向けて、スウィッシュの要求の理由を察したマッツコーだったが、気付かぬふりで訊き返した。
そんな彼の態度に、一瞬表情を険しくしたスウィッシュだったが、小さく息を吐いて感情を抑え、投げかけられた問いに答える。
「当然……陛下とサリア様をお助けする為です」
「あっそ」
マッツコーは、スウィッシュの言葉に素っ気なく応え、それからわざとらしく首を傾げてみせながら、「――でもねぇ」と続けた。
「別にそれは、アタシがおてんばちゃんに治癒をかけてあげなきゃいけない理由にはならないわよねぇん?」
「……え?」
「ほら」
マッツコーは、唖然としているスウィッシュに、自分を縛っている荒縄を見せつけるように体を捩ってみせる。
「――この通り、今のアタシは雷王ちゃんに色々と逆らった挙句に捕まった身なのよん。どうせ後で処刑されるでしょうに、何でアナタたちに力を貸してあげなきゃいけないのよん?」
「……」
「分かったら、他を当たってちょうだい。間に合うかどうかは知らな――」
「……やっぱり、言葉でお願いするだけじゃダメですよね」
彼の言葉を中途で遮ったスウィッシュの紫瞳に宿った冷たい光に気圧され、マッツコーは思わず息を呑んだ。
そんな彼の顔を真っ直ぐに見据えながら、スウィッシュは右手をグッと握り込む。
「だったら――!」
次の瞬間、彼女は残り少ない理力の全てを注いで創り出した氷の短刀を、マッツコーに向けて大きく振り上げた。
「ひ……っ!」
スウィッシュが自分に向けて氷のナイフを振り下ろしたのを見たマッツコーは、思わず目を瞑って身を縮こまらせる。
――ブツッ
「……え?」
マッツコーは、覚悟した死の痛みが訪れず、その代わりに何かを裁ち切るような音が上がった事を訝しみながら、恐る恐る目を開けた。
そして、先ほどまで自分を固く縛りつけていた荒縄が緩み、身体が自由になった事に気付いて呆気にとられる。
一方、氷の短刀で荒縄を断ち切ったスウィッシュは、滅多に見れないマッツコーの当惑顔に苦笑を浮かべながら言った。
「――もちろん、タダでとは言いません。あたしの理力を回復して頂けたら、あなたの減刑を陛下にお願いするつもりです」
「え……?」
「……確かに、禁を破って、かつての王族や元四天王の皆様の亡骸を弄ぶような真似をした事や、その事によって陛下の邪魔をした事は決して許されるものではありませんが……あたしの頼みを聞いて頂ければ、サリア様をお救いする手助けをして頂けたという事で、いくらか罪を減じるくらいは出来るかと」
「……いいの、おてんばちゃん?」
スウィッシュの言葉を聞いたマッツコーは、探るような目で彼女の顔を見ながら訊ねる。
その問いかけに、彼女はきっぱりと頷いた。
「陛下なら、事後報告でも、きっとご理解して頂けると思います」
「いえ……それもあるんだけど……」
頭を振ったマッツコーは、当惑を隠せぬ様子で言葉を続ける。
「その……本当にいいの? あんな事をしたアタシの事を殺さないで……」
「…………マッツコー様は、死体人形にしないでおいてくれましたから」
マッツコーの問いかけに、スウィッシュはボソリと答えた。
「――陛下の親友でもあった、父上の事を……」
「そ……」
スウィッシュの言葉を聞いたマッツコーは、僅かに目を見開き、「それは、その……」と言いかけたところで口ごもる。
……そして、一瞬困ったような表情を浮かべながら視線を上に向け、
それから――
「…………分かったわよん」
と、険の取れた顔で微笑んだ。
「ここは、おてんばちゃんの言う事を聞いてあげるわん」
「――! それじゃ……」
マッツコーの言葉を聞いたスウィッシュの顔がパッと輝く。
そんな彼女に小さく頷きかけたマッツコーは、
「ほら、そうと決まれば、さっさとしちゃうわよん」
と言いながら大きく両腕を広げ、それから念を押す。
「……言っとくけど、一気に理力を全回復させる関係で、身体には結構な負荷がかかるからねぇ。死ぬほど痛いかもしれないけど、我慢するのよん」
「分かってます! お願いします!」
マッツコーの言葉に、スウィッシュは臆することなく頷いたのだった――。
――そして、
「うぅ……ぜ、全身が痛いし、何かめちゃくちゃ気持ち悪い……」
「だから言ったでしょ? 死ぬほど痛いって。あと、気持ち悪いのは、理力が一気に全身に漲った事が原因よん。まあ、二日酔いみたいなもんね」
苦しげに顔を顰めているスウィッシュに苦笑したマッツコーは、パタリとその場に横たわった。
「ふぅ……さすがに、こんな体が重い中であんなに治癒してたらキツいわねん」
仰向けになったマッツコーは、そうボヤきながらスウィッシュの方に顔を向け、ニコリと微笑みかける。
「……って事で、後は頑張ってねん」
「あ、はい!」
マッツコーの激励に力強く頷いたスウィッシュは、再びギャレマスの方に向けた両掌に意識を集中させた。
さっきとは違って、全身の理力がみるみる掌へ集まってくるのを感じる。
これなら――いける!
そう確信した彼女は、悶絶するギャレマスに向けて声を張り上げた。
「――陛下!」
その声にハッとしたギャレマスは、慌てて振り返る。
「――す、スウィッシュ?」
「陛下! 歯ぁ食い縛って!」
上ずった主の声を遮るように叫んだスウィッシュは、彼に向けて理力を込めた両掌を向け、高らかに詠唱した。
「――氷筍造成魔術!」
次の瞬間――、
ギャレマスが横たわる石床に現れた魔法陣の中から盛り上がった巨大な氷筍が、その身体を娘の方へと吹っ飛ばしたのだった――!
「陛下……っ!」
今にも超高重力に身体を圧し潰されそうになりながら、それでも歯を食い縛ってサリアの元へ一歩一歩近付くギャレマスの姿を、スウィッシュは祈るように見つめていた。
今すぐ自分も、ギャレマスと同じようにサリアの為に動きたかったが、彼女もシュータの超加重魔法術の影響を受けて、満足に動く事が出来ない……。
「がんばって……がんばって下さい! 陛下……サリア様も……ッ!」
心底口惜しい思いを抱きながら、スウィッシュは必死で足掻く二人に、せめてもの声援を送る。
――と、その時、
「――こ、こんなタイミングで……がががががががっ!」
急にピタリと動きを止めたギャレマスの口から、唐突に苦しげな声が上がった。
「こ、腰が……腰ががががががあああああっ!」
たちまち死体のような顔色になった魔王は、上ずった声で絶叫しながら、腰を押さえてその場で悶絶し始める。
その見覚えのある苦しみっぷりを見たスウィッシュの顔も青ざめた。
「い、いけない……! 陛下……またギックリ腰に……っ?」
そう呟いた彼女は、重力に逆らって何とか身を起こし、悶絶している魔王に向けて手を翳すと、早口で魔術を詠唱する。
「――氷筍造成魔術!」
……だが、
「く……っ! ダメ……理力が……全然足りない……」
ギャレマスが横たわる床に一瞬だけ現れた魔法陣が、すぐに消えてしまったのを見て、スウィッシュは絶望の声を上げた。
これまでの戦いで、彼女の胎内の理力はほとんど残っておらず、氷筍造成魔術ほどの大規模な魔術を放つにはとても足りないのだ。
「……しっかりしなさい、スウィッシュ! ここで陛下を……サリア様をお助けできないで、何が四天王よ!」
そう自分自身を叱咤して、何とか氷筍造成魔術を放てるだけの理力を体中から掻き集めようとしたスウィッシュだったが……無いものは出しようがなかった。
「何でよ……何で、こんな肝心な時に魂切れしちゃうのよ、あたし……」
絶望のあまり、今にも溢れ出そうになる涙を懸命に堪えながら、彼女は懸命に考える。
理力さえ……理力さえ回復できれば――!
……と、
「……あ!」
唐突に声を上げて、目を見開いた彼女は、這うようにしながら一人の男の元へにじり寄る。
そして、荒縄に縛られたままぐったりしていた男の襟元をむんずと掴むや、無理矢理引き起こした。
「マッツコー様!」
「……なぁに、おてんばちゃん?」
他の者たちと同様、超加重魔法術の高重力にやられてぐったりとしていたマッツコーは、襟元を掴まれた格好のまま、薄目を開けてスウィッシュの顔を見返した。
スウィッシュは、彼に真剣な眼差しを向けながら懇願する。
「お願いがあります!」
「……お願いって、レディの服の襟を掴みながらする事じゃなくない?」
愉しげに口の端を吊り上げて、からかうように言うマッツコー。
だが、スウィッシュは彼の皮肉を無視して、自分の要求を告げる。
「あたしに治癒をかけて下さい、今すぐに!」
「……どうして、アタシがおてんばちゃんにそんな事しなきゃいけないのぉ?」
一瞬、ギャレマスとサリアの方に目を向けて、スウィッシュの要求の理由を察したマッツコーだったが、気付かぬふりで訊き返した。
そんな彼の態度に、一瞬表情を険しくしたスウィッシュだったが、小さく息を吐いて感情を抑え、投げかけられた問いに答える。
「当然……陛下とサリア様をお助けする為です」
「あっそ」
マッツコーは、スウィッシュの言葉に素っ気なく応え、それからわざとらしく首を傾げてみせながら、「――でもねぇ」と続けた。
「別にそれは、アタシがおてんばちゃんに治癒をかけてあげなきゃいけない理由にはならないわよねぇん?」
「……え?」
「ほら」
マッツコーは、唖然としているスウィッシュに、自分を縛っている荒縄を見せつけるように体を捩ってみせる。
「――この通り、今のアタシは雷王ちゃんに色々と逆らった挙句に捕まった身なのよん。どうせ後で処刑されるでしょうに、何でアナタたちに力を貸してあげなきゃいけないのよん?」
「……」
「分かったら、他を当たってちょうだい。間に合うかどうかは知らな――」
「……やっぱり、言葉でお願いするだけじゃダメですよね」
彼の言葉を中途で遮ったスウィッシュの紫瞳に宿った冷たい光に気圧され、マッツコーは思わず息を呑んだ。
そんな彼の顔を真っ直ぐに見据えながら、スウィッシュは右手をグッと握り込む。
「だったら――!」
次の瞬間、彼女は残り少ない理力の全てを注いで創り出した氷の短刀を、マッツコーに向けて大きく振り上げた。
「ひ……っ!」
スウィッシュが自分に向けて氷のナイフを振り下ろしたのを見たマッツコーは、思わず目を瞑って身を縮こまらせる。
――ブツッ
「……え?」
マッツコーは、覚悟した死の痛みが訪れず、その代わりに何かを裁ち切るような音が上がった事を訝しみながら、恐る恐る目を開けた。
そして、先ほどまで自分を固く縛りつけていた荒縄が緩み、身体が自由になった事に気付いて呆気にとられる。
一方、氷の短刀で荒縄を断ち切ったスウィッシュは、滅多に見れないマッツコーの当惑顔に苦笑を浮かべながら言った。
「――もちろん、タダでとは言いません。あたしの理力を回復して頂けたら、あなたの減刑を陛下にお願いするつもりです」
「え……?」
「……確かに、禁を破って、かつての王族や元四天王の皆様の亡骸を弄ぶような真似をした事や、その事によって陛下の邪魔をした事は決して許されるものではありませんが……あたしの頼みを聞いて頂ければ、サリア様をお救いする手助けをして頂けたという事で、いくらか罪を減じるくらいは出来るかと」
「……いいの、おてんばちゃん?」
スウィッシュの言葉を聞いたマッツコーは、探るような目で彼女の顔を見ながら訊ねる。
その問いかけに、彼女はきっぱりと頷いた。
「陛下なら、事後報告でも、きっとご理解して頂けると思います」
「いえ……それもあるんだけど……」
頭を振ったマッツコーは、当惑を隠せぬ様子で言葉を続ける。
「その……本当にいいの? あんな事をしたアタシの事を殺さないで……」
「…………マッツコー様は、死体人形にしないでおいてくれましたから」
マッツコーの問いかけに、スウィッシュはボソリと答えた。
「――陛下の親友でもあった、父上の事を……」
「そ……」
スウィッシュの言葉を聞いたマッツコーは、僅かに目を見開き、「それは、その……」と言いかけたところで口ごもる。
……そして、一瞬困ったような表情を浮かべながら視線を上に向け、
それから――
「…………分かったわよん」
と、険の取れた顔で微笑んだ。
「ここは、おてんばちゃんの言う事を聞いてあげるわん」
「――! それじゃ……」
マッツコーの言葉を聞いたスウィッシュの顔がパッと輝く。
そんな彼女に小さく頷きかけたマッツコーは、
「ほら、そうと決まれば、さっさとしちゃうわよん」
と言いながら大きく両腕を広げ、それから念を押す。
「……言っとくけど、一気に理力を全回復させる関係で、身体には結構な負荷がかかるからねぇ。死ぬほど痛いかもしれないけど、我慢するのよん」
「分かってます! お願いします!」
マッツコーの言葉に、スウィッシュは臆することなく頷いたのだった――。
――そして、
「うぅ……ぜ、全身が痛いし、何かめちゃくちゃ気持ち悪い……」
「だから言ったでしょ? 死ぬほど痛いって。あと、気持ち悪いのは、理力が一気に全身に漲った事が原因よん。まあ、二日酔いみたいなもんね」
苦しげに顔を顰めているスウィッシュに苦笑したマッツコーは、パタリとその場に横たわった。
「ふぅ……さすがに、こんな体が重い中であんなに治癒してたらキツいわねん」
仰向けになったマッツコーは、そうボヤきながらスウィッシュの方に顔を向け、ニコリと微笑みかける。
「……って事で、後は頑張ってねん」
「あ、はい!」
マッツコーの激励に力強く頷いたスウィッシュは、再びギャレマスの方に向けた両掌に意識を集中させた。
さっきとは違って、全身の理力がみるみる掌へ集まってくるのを感じる。
これなら――いける!
そう確信した彼女は、悶絶するギャレマスに向けて声を張り上げた。
「――陛下!」
その声にハッとしたギャレマスは、慌てて振り返る。
「――す、スウィッシュ?」
「陛下! 歯ぁ食い縛って!」
上ずった主の声を遮るように叫んだスウィッシュは、彼に向けて理力を込めた両掌を向け、高らかに詠唱した。
「――氷筍造成魔術!」
次の瞬間――、
ギャレマスが横たわる石床に現れた魔法陣の中から盛り上がった巨大な氷筍が、その身体を娘の方へと吹っ飛ばしたのだった――!
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