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エピソード2 魔王はつらいよ
魔王と勇者と不満
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地上から一直線に昇ってきたシュータのアッパーカットをまともに食らったギャレマスは、身体をくの字に折り、口から夥しい胃液を吐き散らかした。
「ブッ! てめ、汚ねぇっ!」
彼の真下にいた事で、危うくギャレマスの胃液を浴びかけたシュータが慌てて身を翻し、距離を取る。
そして、回避しつつ素早く宙に魔法陣を描き、仄かに紅く輝く光の円の中から現れた無数の礫弾でギャレマスを攻撃した。
「い! いでででででっ!」
鳩尾を押さえて悶絶していたギャレマスは、飛来してきた数多の石塊に全身を打ち据えられ、思わず悲鳴を上げる。
そして、堪らんとばかりに背中の黒翼を大きく羽ばたかせると、高度を上げて、礫弾を避けた。
「あ、コラテメエッ! 逃げんじゃねえよッ!」
「い、いや、無茶を言うな! 地味に痛いぞ、その攻撃!」
「大丈夫だって! 別に全弾当たったって、アホ程多いテメエのHPなら死にゃしねえからよ!」
「でも、痛いものは痛いのだッ! ――というか、その“えいちぴー”とやらは何なのだ……?」
礫弾の直撃を食らって、たんこぶが出来てしまった額を押さえながら、ギャレマスはシュータに尋ねる。
それを聞いたシュータは、眉間に深い皺を寄せると、小馬鹿にしたように言った。
「あぁ? テメ、ラスボスのクセしてHPも知らねえのかよ? ハイファンタジー世界の常識だろうがボケが。ったく、使えねえ魔王だなぁ」
「……すまぬ」
シュータの罵倒に、思わず『そんな常識など知らぬわ!』と言い返しかけたギャレマスだったが、すんでのところで思い止まり、素直に謝る。下手に抗弁すると、先ほどに倍する礫弾か、それ以上の苛烈な攻撃が怒声の代わりに飛んで来る事が容易に推測できたからだ。
――そして、目の前でフワフワと浮かんでいるシュータの姿を見て、思わず首を傾げた。
「……そんな事より、シュータよ。何故お主は、羽も無いのに空を飛んでいられるのだ?」
「あぁん? ……ああ、これはな――」
魔王の問いかけに、シュータはキョトンとした顔をしたが、すぐにニヤリと笑った。
「すげえだろ? コイツは――反重力の応用だよ」
そう答えると、シュータは自分の足元を指さした。
「それは……魔法陣?」
気付かなかったが、彼の両足裏には、微かに紅く光るふたつの小さな魔法陣が浮かんでいて、ゆっくりと回転している。
目を丸くするギャレマスの反応に気を良くしたらしいシュータは、自慢げにフンスと鼻を鳴らすと、言葉を続けた。
「本来は、他の物体にかけて、その重力を操って動かす反重力を自分の足の裏にかけたんだ。そして、この魔法陣で細かい重力制御をする事で、自在に空を飛び回れるって寸法よ!」
「ほ……ほう?」
「どーよ、すげーだろ!」
説明を聞いても、内容が良く理解できず、頭の上に大きなクエスチョンマークを浮かべるギャレマスを前に、シュータは薄い胸板を張ってみせる。
「この、冴えたクレバーな応用方法! いや~、俺ってば天才ッ!」
「確かに……テンサイそのものだな。――もっとも、テンサイはテンサイでも、“天災”の方だがな……」
「何か言ったか?」
「あ、イエ! 何でもないッス!」
ほんの小さな声で皮肉を述べたはずなのに、すかさず聞き咎めてきたシュータの地獄耳に背筋を凍りつかせつつ、ギャレマスは慌てて背筋を伸ばし、首を大きく横に振ってみせた。
そんな魔王の顔をジト目で睨みつけていたシュータだったが、
「――あ、そういえば、忘れてたっ!」
そう、突然声を上げると、先ほど現れた時と同じく、憤怒に満ちた表情を浮かべる。
そして、憤懣やるかたない様子でギャレマスの事を指さすと、怒声を上げた。
「このクソ魔王ッ! この前、エラルティスに伝言させた内容をもう忘れやがったのか! この鳥頭ヤローが!」
「あ……い、いや、忘れては無いぞ、うん」
「だったら! 何で、俺が禁止した雷系呪術を使いやがったんだよゴラァッ!」
「え……?」
シュータからの詰問に、ギャレマスはキョトンとした顔で首を傾げた。
「い、いや……、あの女神官から聞いたのは、『あの雷の術は禁止』という事だけであって――あの時余が使ったのは極龍雷撃呪術だけだったから、てっきり、極龍雷撃呪術だけが禁止って意味で、その他の雷系呪術はセーフなのかと――」
「んな訳ねえだろうがッ! 勝手に都合のいい解釈してんじゃねえよ、このダボがぁッ!」
ギャレマスの弁解を途中で遮ったシュータは、血走った目でギャレマスを睨みつけながら叫ぶ。
「テメエの雷は、ピカピカ光って派手に目立つのが羨ま……目障りなんだよ! いいか! 今後、俺と戦う時に雷出すの禁止な! ハイ決定ッ!」
「ちょ! それは……」
「わ・か・っ・た・な・ッ!」
「……ハイ」
思わず抗議の声を上げかけたギャレマスだったが、悪鬼も裸足で逃げ出す……もとい、魔王をも問答無用で黙らせるシュータの剣幕に気圧されて、しぶしぶ……本当にしぶしぶ首を縦に振った。
「よし……」
魔王が、まるで萎れた花の様な顔をして頷いたのを見たシュータは、ようやく気が済んだらしい。
フンと鼻を鳴らすと、半身になって腕を伸ばし、掌を自分に向けた手をくいくいと動かした。
「じゃあ、早速始めようぜ。幸い、さっきのテメエのデモンストレーションのおかげで、下の観客席は満員だ」
シュータの言葉に、ギャレマスは眼下を見下ろした。――確かにシュータの言う通り、砦の建物からワラワラと溢れ出てきたらしい人間族の兵たちが、一様に上空の自分たちを見上げているのが見える。
――と、その時、
「観客……あっ!」
ギャレマスは思い出した。
地上だけではなく、上空にもひとり、自分を応援してくれている“観客”が居た事を。
「じゃあ、台本通りの流れで頼むぜ。いく――」
「ま、待て、勇者よ!」
拳を握り締めて身を屈め、今にも自分の方へ突進しようとする体勢のシュータに向かって、ギャレマスは慌てて叫んだ。
開戦直前で水を差された格好のシュータは、こめかみに青筋を浮かべながら、苛立ちの声を上げる。
「――んだよっ? こんなタイミングでよ! まさか、“台本”の筋を忘れたとかじゃねえだろうな?」
「い、いや……そ、そうではないのだが……台本の事ではあるというか……」
「? 何が言いてえんだよ、テメエは?」
「そ、その……」
と、威圧的に訊くシュータに、魔王は躊躇しつつ、おずおずと言った。
「実は……台本にあったシナリオを、少しだけ……変えてほしいのだ……」
「ブッ! てめ、汚ねぇっ!」
彼の真下にいた事で、危うくギャレマスの胃液を浴びかけたシュータが慌てて身を翻し、距離を取る。
そして、回避しつつ素早く宙に魔法陣を描き、仄かに紅く輝く光の円の中から現れた無数の礫弾でギャレマスを攻撃した。
「い! いでででででっ!」
鳩尾を押さえて悶絶していたギャレマスは、飛来してきた数多の石塊に全身を打ち据えられ、思わず悲鳴を上げる。
そして、堪らんとばかりに背中の黒翼を大きく羽ばたかせると、高度を上げて、礫弾を避けた。
「あ、コラテメエッ! 逃げんじゃねえよッ!」
「い、いや、無茶を言うな! 地味に痛いぞ、その攻撃!」
「大丈夫だって! 別に全弾当たったって、アホ程多いテメエのHPなら死にゃしねえからよ!」
「でも、痛いものは痛いのだッ! ――というか、その“えいちぴー”とやらは何なのだ……?」
礫弾の直撃を食らって、たんこぶが出来てしまった額を押さえながら、ギャレマスはシュータに尋ねる。
それを聞いたシュータは、眉間に深い皺を寄せると、小馬鹿にしたように言った。
「あぁ? テメ、ラスボスのクセしてHPも知らねえのかよ? ハイファンタジー世界の常識だろうがボケが。ったく、使えねえ魔王だなぁ」
「……すまぬ」
シュータの罵倒に、思わず『そんな常識など知らぬわ!』と言い返しかけたギャレマスだったが、すんでのところで思い止まり、素直に謝る。下手に抗弁すると、先ほどに倍する礫弾か、それ以上の苛烈な攻撃が怒声の代わりに飛んで来る事が容易に推測できたからだ。
――そして、目の前でフワフワと浮かんでいるシュータの姿を見て、思わず首を傾げた。
「……そんな事より、シュータよ。何故お主は、羽も無いのに空を飛んでいられるのだ?」
「あぁん? ……ああ、これはな――」
魔王の問いかけに、シュータはキョトンとした顔をしたが、すぐにニヤリと笑った。
「すげえだろ? コイツは――反重力の応用だよ」
そう答えると、シュータは自分の足元を指さした。
「それは……魔法陣?」
気付かなかったが、彼の両足裏には、微かに紅く光るふたつの小さな魔法陣が浮かんでいて、ゆっくりと回転している。
目を丸くするギャレマスの反応に気を良くしたらしいシュータは、自慢げにフンスと鼻を鳴らすと、言葉を続けた。
「本来は、他の物体にかけて、その重力を操って動かす反重力を自分の足の裏にかけたんだ。そして、この魔法陣で細かい重力制御をする事で、自在に空を飛び回れるって寸法よ!」
「ほ……ほう?」
「どーよ、すげーだろ!」
説明を聞いても、内容が良く理解できず、頭の上に大きなクエスチョンマークを浮かべるギャレマスを前に、シュータは薄い胸板を張ってみせる。
「この、冴えたクレバーな応用方法! いや~、俺ってば天才ッ!」
「確かに……テンサイそのものだな。――もっとも、テンサイはテンサイでも、“天災”の方だがな……」
「何か言ったか?」
「あ、イエ! 何でもないッス!」
ほんの小さな声で皮肉を述べたはずなのに、すかさず聞き咎めてきたシュータの地獄耳に背筋を凍りつかせつつ、ギャレマスは慌てて背筋を伸ばし、首を大きく横に振ってみせた。
そんな魔王の顔をジト目で睨みつけていたシュータだったが、
「――あ、そういえば、忘れてたっ!」
そう、突然声を上げると、先ほど現れた時と同じく、憤怒に満ちた表情を浮かべる。
そして、憤懣やるかたない様子でギャレマスの事を指さすと、怒声を上げた。
「このクソ魔王ッ! この前、エラルティスに伝言させた内容をもう忘れやがったのか! この鳥頭ヤローが!」
「あ……い、いや、忘れては無いぞ、うん」
「だったら! 何で、俺が禁止した雷系呪術を使いやがったんだよゴラァッ!」
「え……?」
シュータからの詰問に、ギャレマスはキョトンとした顔で首を傾げた。
「い、いや……、あの女神官から聞いたのは、『あの雷の術は禁止』という事だけであって――あの時余が使ったのは極龍雷撃呪術だけだったから、てっきり、極龍雷撃呪術だけが禁止って意味で、その他の雷系呪術はセーフなのかと――」
「んな訳ねえだろうがッ! 勝手に都合のいい解釈してんじゃねえよ、このダボがぁッ!」
ギャレマスの弁解を途中で遮ったシュータは、血走った目でギャレマスを睨みつけながら叫ぶ。
「テメエの雷は、ピカピカ光って派手に目立つのが羨ま……目障りなんだよ! いいか! 今後、俺と戦う時に雷出すの禁止な! ハイ決定ッ!」
「ちょ! それは……」
「わ・か・っ・た・な・ッ!」
「……ハイ」
思わず抗議の声を上げかけたギャレマスだったが、悪鬼も裸足で逃げ出す……もとい、魔王をも問答無用で黙らせるシュータの剣幕に気圧されて、しぶしぶ……本当にしぶしぶ首を縦に振った。
「よし……」
魔王が、まるで萎れた花の様な顔をして頷いたのを見たシュータは、ようやく気が済んだらしい。
フンと鼻を鳴らすと、半身になって腕を伸ばし、掌を自分に向けた手をくいくいと動かした。
「じゃあ、早速始めようぜ。幸い、さっきのテメエのデモンストレーションのおかげで、下の観客席は満員だ」
シュータの言葉に、ギャレマスは眼下を見下ろした。――確かにシュータの言う通り、砦の建物からワラワラと溢れ出てきたらしい人間族の兵たちが、一様に上空の自分たちを見上げているのが見える。
――と、その時、
「観客……あっ!」
ギャレマスは思い出した。
地上だけではなく、上空にもひとり、自分を応援してくれている“観客”が居た事を。
「じゃあ、台本通りの流れで頼むぜ。いく――」
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