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エピソード2 魔王はつらいよ
魔王と歓声と怒声
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ギャレマスの掌から放たれた幾条もの雷は、まるで縒り合されるかのように一本に収束しながら、眼下の草地に炸裂した。
稲妻から放たれた青白い光で、ヴァンゲリンの砦はまるで真昼の様に明るくなり、一瞬遅れて上がった耳を劈く様な衝撃音が辺りにこだまする。
舞烙魔雷術が命中した馬場の土は大きく抉られ、地表には大きなクレーターが出来ていて、直撃を免れた草地や木々も、稲妻がもたらした凄まじいエネルギー波によって発火し、ブスブスと煙を上げ始めていた。
やがて、周囲の建物から、上空から見ても判るほどに慌てふためいた様子の兵士たちがわらわらと飛び出してきて、クレーターの周りを右往左往し始める。
そして、
「――あそこだ!」
そのうちのひとりが、ようやく上空に滞空するギャレマスの姿を見付け、指さした。
「お、おのれぇ!」
「ま……魔王だぁっ!」
「う……撃て! 撃ち落とせェッ!」
彼らは、上空から自分たちを見下ろしているギャレマスに向かって、一斉に攻撃を始める。
ある者は弓や弩を上空に矢を放ち始め、ある者は地面に魔法陣を描き、またある者は破邪の法術を唱え始める。
――だが、その攻撃は悉く、はるか上空に滞空している魔王の足先にすら届かなかった。
一方――魔王ギャレマスは、砦の草地に出来た、巨大なクレーターを見下ろしながら、
「しまった……」
と、青ざめながら途方に暮れていた。
「もう少し威力を抑えるつもりだったのだが、少し張り切りすぎた……」
本当は、もっと小規模に――せいぜい草地に小火を起こす程度にするつもりだったのだが、思いの外、力が入って、やり過ぎてしまった。
何故、力が入ってしまったか――その理由は明白である。
それは――、
「キャ~ッ!」
風に乗って聞こえてきた黄色い声を耳にした瞬間、ギャレマスは目を輝かせながら振り返った。
どんなに離れた距離で上がった声であっても、その声を魔王の地獄耳が聞き逃す事など決して無い。
そして、遥か遠くで滞空しながら満面の笑みを浮かべ、風に緋色の髪を靡かせつつ自分に向かって大きく手を振り続けている者の姿を、魔王の卓越した視力が捉えた瞬間――その表情はだらしなく緩んだ。
「すごいです~! さすがお父様! カッコイイですわ~ッ!」
「お~! 見ててくれたか、サリアよ~!」
愛娘の賛辞に有頂天になったギャレマスは、デレッデレの顔で手を振り返しながら――心の中でこっそり言い訳をしていた。
(――つい、サリアが見ている事を意識して、力が入り過ぎてしまった……。ま……まあ、良かろう。サリアもあんなに喜んでおるのだから……。そ、そう。これは不可抗力だ、うん)
――要するに、彼は、娘の前でいいカッコを見せたくて、ついつい張り切り過ぎてしまったのである。
まあ、それも無理はない。
古今東西、身分も種族も問わず、全てのお父さんは、可愛い娘には格好いい姿を見せたいものなのである(暴論)。
「お父様~! 頑張って下さいませ~ッ!」
「ハ――ッハッハッ! よ~し、お父様、頑張っちゃうぞ~ッ!」
サリアの黄色い声援に、更にテンションが上がるギャレマス。
張り切って第二撃を放とうと、再び地上に向けて目を凝らした――次の瞬間。
「――ん?」
視界の片隅に小さな点が見え、どんどん視界に占める面積を増してくるのが見えた。
物体が大きくなっているのではない――何かが、空の上の自分目がけて高速で近付いてくるのだ!
「くっ――!」
瞬時に事態を理解したギャレマスは、迫り来る謎の物体から逃れようと、咄嗟に背中を仰け反らせる。
その物体は、ギャレマスの身体スレスレのところを、剣呑な風切り音を上げながら通過していった。
すれ違う刹那、魔王の優れた視力は、彼目がけて飛来してきた物体の姿を捉える。
「――た、樽……?」
それは、何の変哲もない、一抱え程の木樽だった。
……いや、“何の変哲もない”ハズが無い。
あり得ない!
(な……なぜ、こんな上空まで、こんな大きな木樽が、こんな速さで飛んでくるのだ……?)
弓矢どころか、魔術や法術すら届かない上空に居るはずのギャレマスに向けて、相当な重量を持つはずの樽がどうしてあんなに勢いよく飛んで来る事が出来たのだろうか――?
……その答えとして考えられる事は、ひとつしか無い。
「ま……まさか……!」
ギャレマスの表情から、余裕が消えた。
そして、慌てて下に目を向けると、グングンと近付いてくる、もうひとつの何かが視界に入る。
その何かは人の形をしていて――そして、憤怒で目を吊り上げたその顔を見留めた瞬間、“地上最強の生物”と称され、畏怖されてきた魔王の顔が恐怖で引き攣った。
「シュ、シュー……ッ!」
「ぉぉぉぉぉらああああああああああああっ!」
みるみる上昇してきた彼は、威嚇する灰色猿の様な怒号を上げながら、その右腕を振りかぶる。
「てめえええええ! このクソ魔王があああああああああっ!」
「ま……待てッ!」
何故かえらく立腹した様子の勇者シュータに向け、慌てて両手を振りながらギャレマスは必死で叫んだ。
「待つのだシュータ! は、話せば分かる――!」
「問答無用ォォォォッ!」
「ゲフゥ――ッ!」
対話を望む声も空しく、地表から魔王の元まで一気に上昇してきた運動エネルギーを全部乗せしたシュータの拳が、魔王ギャレマスの鳩尾に深々とめり込んだのだった――!
稲妻から放たれた青白い光で、ヴァンゲリンの砦はまるで真昼の様に明るくなり、一瞬遅れて上がった耳を劈く様な衝撃音が辺りにこだまする。
舞烙魔雷術が命中した馬場の土は大きく抉られ、地表には大きなクレーターが出来ていて、直撃を免れた草地や木々も、稲妻がもたらした凄まじいエネルギー波によって発火し、ブスブスと煙を上げ始めていた。
やがて、周囲の建物から、上空から見ても判るほどに慌てふためいた様子の兵士たちがわらわらと飛び出してきて、クレーターの周りを右往左往し始める。
そして、
「――あそこだ!」
そのうちのひとりが、ようやく上空に滞空するギャレマスの姿を見付け、指さした。
「お、おのれぇ!」
「ま……魔王だぁっ!」
「う……撃て! 撃ち落とせェッ!」
彼らは、上空から自分たちを見下ろしているギャレマスに向かって、一斉に攻撃を始める。
ある者は弓や弩を上空に矢を放ち始め、ある者は地面に魔法陣を描き、またある者は破邪の法術を唱え始める。
――だが、その攻撃は悉く、はるか上空に滞空している魔王の足先にすら届かなかった。
一方――魔王ギャレマスは、砦の草地に出来た、巨大なクレーターを見下ろしながら、
「しまった……」
と、青ざめながら途方に暮れていた。
「もう少し威力を抑えるつもりだったのだが、少し張り切りすぎた……」
本当は、もっと小規模に――せいぜい草地に小火を起こす程度にするつもりだったのだが、思いの外、力が入って、やり過ぎてしまった。
何故、力が入ってしまったか――その理由は明白である。
それは――、
「キャ~ッ!」
風に乗って聞こえてきた黄色い声を耳にした瞬間、ギャレマスは目を輝かせながら振り返った。
どんなに離れた距離で上がった声であっても、その声を魔王の地獄耳が聞き逃す事など決して無い。
そして、遥か遠くで滞空しながら満面の笑みを浮かべ、風に緋色の髪を靡かせつつ自分に向かって大きく手を振り続けている者の姿を、魔王の卓越した視力が捉えた瞬間――その表情はだらしなく緩んだ。
「すごいです~! さすがお父様! カッコイイですわ~ッ!」
「お~! 見ててくれたか、サリアよ~!」
愛娘の賛辞に有頂天になったギャレマスは、デレッデレの顔で手を振り返しながら――心の中でこっそり言い訳をしていた。
(――つい、サリアが見ている事を意識して、力が入り過ぎてしまった……。ま……まあ、良かろう。サリアもあんなに喜んでおるのだから……。そ、そう。これは不可抗力だ、うん)
――要するに、彼は、娘の前でいいカッコを見せたくて、ついつい張り切り過ぎてしまったのである。
まあ、それも無理はない。
古今東西、身分も種族も問わず、全てのお父さんは、可愛い娘には格好いい姿を見せたいものなのである(暴論)。
「お父様~! 頑張って下さいませ~ッ!」
「ハ――ッハッハッ! よ~し、お父様、頑張っちゃうぞ~ッ!」
サリアの黄色い声援に、更にテンションが上がるギャレマス。
張り切って第二撃を放とうと、再び地上に向けて目を凝らした――次の瞬間。
「――ん?」
視界の片隅に小さな点が見え、どんどん視界に占める面積を増してくるのが見えた。
物体が大きくなっているのではない――何かが、空の上の自分目がけて高速で近付いてくるのだ!
「くっ――!」
瞬時に事態を理解したギャレマスは、迫り来る謎の物体から逃れようと、咄嗟に背中を仰け反らせる。
その物体は、ギャレマスの身体スレスレのところを、剣呑な風切り音を上げながら通過していった。
すれ違う刹那、魔王の優れた視力は、彼目がけて飛来してきた物体の姿を捉える。
「――た、樽……?」
それは、何の変哲もない、一抱え程の木樽だった。
……いや、“何の変哲もない”ハズが無い。
あり得ない!
(な……なぜ、こんな上空まで、こんな大きな木樽が、こんな速さで飛んでくるのだ……?)
弓矢どころか、魔術や法術すら届かない上空に居るはずのギャレマスに向けて、相当な重量を持つはずの樽がどうしてあんなに勢いよく飛んで来る事が出来たのだろうか――?
……その答えとして考えられる事は、ひとつしか無い。
「ま……まさか……!」
ギャレマスの表情から、余裕が消えた。
そして、慌てて下に目を向けると、グングンと近付いてくる、もうひとつの何かが視界に入る。
その何かは人の形をしていて――そして、憤怒で目を吊り上げたその顔を見留めた瞬間、“地上最強の生物”と称され、畏怖されてきた魔王の顔が恐怖で引き攣った。
「シュ、シュー……ッ!」
「ぉぉぉぉぉらああああああああああああっ!」
みるみる上昇してきた彼は、威嚇する灰色猿の様な怒号を上げながら、その右腕を振りかぶる。
「てめえええええ! このクソ魔王があああああああああっ!」
「ま……待てッ!」
何故かえらく立腹した様子の勇者シュータに向け、慌てて両手を振りながらギャレマスは必死で叫んだ。
「待つのだシュータ! は、話せば分かる――!」
「問答無用ォォォォッ!」
「ゲフゥ――ッ!」
対話を望む声も空しく、地表から魔王の元まで一気に上昇してきた運動エネルギーを全部乗せしたシュータの拳が、魔王ギャレマスの鳩尾に深々とめり込んだのだった――!
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