雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~

朽縄咲良

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エピソード4 さまよえる(顔色が)蒼い魔王

魔王と老翁と氷牙将

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 「……ええと」

 ようやく、森の木々に燃え移った炎を消し止め、ギャレマスの助太刀へと馳せ参じたスウィッシュは、目の前の光景に当惑した。

「これは……どういう状況なんでしょうか、陛下……」
「お、おう……スウィッシュか」

 スウィッシュの声に振り返ったギャレマスは、苦笑いを浮かべながら頭を掻いた。

「まあ……見ての通りだ」
「……見ても全く分からないから聞いているんですがそれは」
「……すまぬ」

 スウィッシュのジト目を浴びて、タジタジとなるギャレマス。
 ――確かに、スウィッシュの言う通りだった。

「じゃ……じゃあ、もう一度いきますよ? い、命の危険を感じたら、右手を上げて下さいね、お爺さん!」
「おお! ドーンといこうや!」
「ほ……ホントにいきますよ、さっきよりも強めで! ホントに大丈夫なんですか?」
「大丈夫じゃお嬢ちゃん。ワシャ、こんな程度でポックリ逝くほどヤワじゃないわい!」
「……あ、光球雷起呪術アサク・サメイブ・ツっ!」
「お! おほおおおおおおおおおおおおお~っ! 効くぅぅぅぅうううううう~ッ!」

 彼女が目にしたのは、顔を引き攣らせながら光球雷起呪術アサク・サメイブ・ツを放つサリアと、その雷球を背中を向けて食らいながら、歓喜と愉悦に満ちた声を感電で震わせている老人の姿だった。
 スウィッシュは、異様な光景を前にして、頬を引き攣らせながら、もう一度ギャレマスに訊ねる。

「取り敢えず……順番に伺います。――まず、あそこで奇声をあげているヘンタ……変な老人は何者ですか?」
「か……彼は、ヴァートス殿。半人族ハーフヒューマーたちを治める村長むらおさのような者だ」
「あぁ……あの人が」

 ギャレマスの説明を聞いたスウィッシュは、小さく頷き、それから首を傾げた。

「何だか、さっき半人族ハーフヒューマーから聞いた名と微妙に違う様な気がしますけど……」
「あぁ……それは、スッタバの発音の訛りとか何とからしい……」
「あ、なるほど……。まあ、それは別にいいです」

 そう言うと、スウィッシュは周囲の木々を指さした。

「って事は、さっき火球で攻撃してきたのも、あのエルフの老人だったって事ですか?」
「うむ、そうだ」
「で――」

 と、再び、不気味な歓声をあげながら悶絶しているヴァートスの方に目線を向けると、スウィッシュは眉間を深く顰めながら言葉を継ぐ。

「そこからどうやって、ああなったんですか……?」
「え……ええと……」

 ギャレマスは、この複雑にして異常な状況と経緯を、どうやってスウィッシュに説明しようかと、頭を悩ませる。
 と、その時、

「くぅ~、効くのオ~! 良い感じに肩のコリがほぐれたわ!」

 そう、呑気な声を上げながら、こちらに向けて背を向けていた老人がすっくと立ち上がった。
 そして、グルグルと両腕を回しつつ、首をグルングルン回し、やがて満足げに頷いた。

「ふぅむ。贅沢を言えば、もうチョイと強めでも良かったが……まあ、今日はこのくらいで勘弁しておいてやろうぞ、ヒョッヒョッヒョッ!」
「も……もっと強めって……。さ、最後の一発は、結構本気で撃ってたんですけど……」

 ケロリとした顔のヴァートスとは対照的に、疲労困憊といった体のサリアが、肩で息を吐きながらぼやく。
 そして、ヴァートスの吐いた最後の一言を思い出すと、表情を強張らせた。

「……って、『今日は』って――」
「おう、もちろん明日も頼むぞ、お嬢ちゃんや」
「ふ、ふええええ~?」

 思わずウンザリした声を上げるサリアはそのままに、ヴァートスはギャレマスの方に向き直る。
 そして、

「おう、待たせたのぅ……って、ん?」

 彼の横に立つスウィッシュに気付いた。
 そして、訝しげな表情を浮かべて、彼女の顔を凝視しながら尋ねる。

「えぇと……そこの蒼髪の娘さんは――」
「あ、ああ……ヴァートス殿、この者は――」
「……スウィッシュと申します」

 顔にありありと警戒の表情を浮かべつつ、スウィッシュは慇懃な口調で名乗ると、ペコリと会釈した。
 そして、更に言葉を継ぐ。

「こちらにおわします、真誓魔王国国王イラ・ギャレマス様に、側近としてお仕えしております。どうぞ、以後お見知りおきを――」
「側近? 何じゃ、そうなのか」

 スウィッシュの自己紹介を聞いたヴァートスは、意外そうな表情を浮かべた。
 それから、ニヤリと笑うと、小指だけを立ててみせる。

「ワシャてっきり、お主のなんじゃないかと思うたぞ」
「コレ……?」
「ちょちょちょちょちょちょちょおおおおおっとっ?」

 ヴァートスの仕草を見ても、その意味する事が解らず首を傾げるギャレマスとは対照的に、顔をホオズキよりも真っ赤にしたスウィッシュが、素っ頓狂な声を上げた。

「ちょ……いいいいきなりな、何言ってんですかぁっ! あ……あたしと陛下が……そ、そんな訳無いでしょうがぁっ!」
「違うのか?」

 必死で否定するスウィッシュに訊ねるヴァートス。

「いや、この男、確かに冴えないツラだが、一応魔族の王なのだろう? であれば、侍らす女の十や二十は居るもんじゃないのか?」
「そ、そそそそそんな訳ないでしょうが! 陛下は、確かに冴えないお顔かもしれませんが、そんな破廉恥な方ではありませんッ!」

 ヴァートスの言葉にひどく憤慨しながら、スウィッシュは叫ぶ。

「……」

 しれっと、『冴えないツラ』の点をスウィッシュに肯定されてしまったギャレマスは、思わず渋い表情を浮かべた。
 だが、一方のヴァートスは、彼女の剣幕にも気圧される様子も無く、目をパチクリさせながら小首を傾げる。

「いやいや……破廉恥とかそういう話ではなく、な」

 そう言うと、老人はしわがれた手を伸ばし、枯れ木のような指でギャレマスの顔を指さしながら言った。

「こやつは一国の王なのだろう? であれば、世継ぎを作る事が、こやつの一番大事な仕事ではないのか?」
「そ……それは、確かにそうですけど……」

 ヴァートスに正論を突きつけられたスウィッシュは、思わずたじろぐ。
 そんな彼女を尻目に、ヴァートスは更に言葉を継いだ。

「なのに――」
「……分かっておる」

 ヴァートスの疑問の声を遮り、ギャレマスは苦さを含んだ声を上げる。そして、ぎゅっと唇を噛むと、フルフルと首を横に振った。

「その事は……世継ぎの件は、余も十分に分かっておる。だが……まだ、余はルコーナ王妃以外の女子おなごの事を――」
「……お父様……」
「へ、陛下……」

 ギャレマスの砂を噛むような声で紡がれる言葉に、サリアは瞳を潤ませ、スウィッシュは言葉を失う。
 さっきまでとは打って変わった重たい空気が、彼らの周囲に垂れ込めようとする――。
 と、

「……どうした、お前たち? 何だか、妙な空気だけど……」

 重い雰囲気を察して、おずおずといった様子で現れたのは、ファミィだった。
 彼女は、戦いが終わって火が消えた事を確認して、避難させていた半人族ハーフヒューマーたちを引き連れて戻ってきたのだ。

「お、おう、ご苦労だったな、ファミィ」

 ギャレマスは、自分の話題で重たくなった雰囲気を払拭しようとするかのように、殊更に明るい声を上げてファミィの事を迎える。

「あ、お、お帰りぃ! ファミちゃん!」
「お、お疲れ様、ファミィ」

 サリアとスウィッシュも、ギャレマスに倣って、ぎこちない笑顔を浮かべてみせた。

「……? あ、ああ……ただいま」

 ファミィは、三人の様子を目の当たりにして、訝しげに小首を傾げながら応える。

「……ん?」

 そして、もうひとりの存在に気付く。

「その尖耳……。老人よ、お前が、先ほど炎の精霊術を放った者だな」

 そう言いながら、エルフの老人の事を厳しい目で睨みつける。

「あのレベルの精霊術を操るとは、かなり高位の者と見るが……一体、何故こんな深い森の中で、高位エルフが半人族ハーフヒューマーと暮らしているんだ? ええと……確か、“バトシュ”とかいう――」
「違わい!」

 ファミィの言葉を中途で遮り、ヴァートスは禿頭の先まで真っ赤にし、地団駄を踏みながら怒鳴った。

「ワシャ、そんな間の抜けた名前な訳が無いじゃろうが! ヴァートスじゃヴァートス! ヴァ・ア・ト・スッ!」
「……ヴァートス?」

 ヴァートスの言葉に、ファミィは形のいい眉をピクリと上げた。
 そして、ハッとした表情を浮かべて口を掌で覆うと、しげしげと老人の顔を覗き込む。

「な……何じゃ急に? そ……そんなにお主のような若い別嬪さんに顔を近付けられると、すっかり涸れたワシの情熱的な部分が……」
「もしかして……ッ!」

 さっきまでとは別の意味で顔を赤らめ、もじもじと品を作るように身体を蠢かせるヴァートスを前に、ファミィは驚愕の声を上げた。
 そして、その蒼い瞳を飛び出さんばかりに見開きながら、言葉を継ぐ。

「おま……いや、貴方様は……あの“無責任族長”――ヴァートス・ギータ・ヤナアーツォ様……ッ?」
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