雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~

朽縄咲良

文字の大きさ
88 / 423
エピソード4 さまよえる(顔色が)蒼い魔王

魔王と部下と気遣い

しおりを挟む
 「陛下、おはようございます……」

 サリアに招き入れられたギャレマスを迎えたのは、萎れた顔をしたスウィッシュだった。

「おはよう……どうしたのだ、スウィッシュよ?」

 その元気のない様子に怪訝な表情を浮かべながら、ギャレマスはスウィッシュに尋ねる。
 ギャレマスの声を聞いたスウィッシュは、躊躇いがちに目を伏せた後、主に向かって深々と頭を下げた。

「その……申し訳ございませんでした、陛下!」
「ん、んん? な、何がだ?」

 唐突な謝罪に、戸惑いの声を上げるギャレマス。
 そんな彼に、スウィッシュはおずおずと言う。

「そ……それはもちろん……主である陛下を野宿させて、臣下のあたしが屋根の下で寝てしまったという事が――」
「あ、ああ……そんな事か」

 スウィッシュの謝罪の意味をようやく理解したギャレマスは、苦笑を浮かべながら、軽く首を横に振った。

「良い。そんな事は別に構わぬ。お主が気にする必要はないぞ」
「で……ですが……」
「その事は、皆で話し合った結果であろう。昨夜も言ったが、あれは『女子おなごを外に追い出して寝ても目覚めが悪いから』というチンケな男の見栄から出た、他ならぬ余の意向だ。お主が気に病むいわれはない」
「陛下……」
「それより、お主らはちゃんと眠れたか?」
「あ……、は、はい」

 ギャレマスの問いかけに、スウィッシュは大きく頷く。

「おかげさまで、あたしもサリア様もぐっすりと眠れました。……ファミィに至っては、まだ爆睡中です」
「ははは。そうか、ならば良し!」

 スウィッシュの答えを聞いて、ギャレマスは満足げに頷いた。
 そして、ニヤリと笑って、言葉を継ぐ。

「……とはいえ、もう日も高い。そろそろ、ファミィも起こしてやった方が良いだろうな」
「あ、はい! ちょっと、今すぐに叩き起こしてきます!」

 ギャレマスの冗談交じりの言葉に、スウィッシュもいつもの彼女らしい元気な声で答えた。
 そして、早速奥の部屋に向かおうとしかけたが、クルリとギャレマスの方へと振り返り、彼に向かってニッコリと笑いかけた。

「陛下、ありがとうございます!」
「ん? あ、おう」

 彼女の笑顔に、少しだけ胸を波立たせながら、ギャレマスは頷き返す。
 すると、スウィッシュは、その頬をほんのりと赤らめながら、「あの……陛下――」と言葉を継いだ。

「な……何だ?」
「――あたし、お仕えしているのが陛下で、本当に良かったです!」
「! あ……お、おう……」

 スウィッシュの弾んだ声に、思わずギャレマスはたじろぎ、返す言葉を見失う。
 ――と、その時、

「……お楽しみのところ、誠にスマンのじゃが!」
「「――ッ!」」

 唐突に背後から上がった怒気を含んだ声に、ギャレマスとスウィッシュは驚いて振り返った。
 そこには、憮然とした表情を浮かべたヴァートスが立っていた。
 彼は、戸口の前でしわがれた声を張り上げる。

「ずっと立ちっ放しは、老人の腰には堪えるんじゃ! そろそろ、ワシも中に入れさせてはもらえんかのう! と言っても、そもそもココ、ワシの家なんじゃけどのぅ!」
「あ……! す、すみません!」
「こ……これは、気付きもせずに、申し訳ない……!」

 ヴァートスの怒声に、スウィッシュとギャレマスは慌てて脇に寄った。
 空いたスペースに割り込むように肩を怒らせたヴァートスは、ふたりの顔を険しい目で一瞥してから、ドスドスとわざとらしい足音を上げながら小屋の中へと入る。
 そして、すれ違いざま、恐縮している二人に向けて険しい目で一瞥すると、

「……とっとと爆発せぃ」

 とぼそりと呟いた。

「……へっ?」
「ファッ?」

 呪詛めいた不吉な呟きを耳にしたふたりは、思わず驚きと当惑が入り混じった声を上げる。
 と、その時、

「――も~! せっかくいい感じだったのにー!」

 ヴァートスの後に続くようにして小屋に入ったのは、ぷうと頬を膨らませたサリアだった。

「何で邪魔しちゃうんですか~ッ? もうちょっとだったのに……」
「うるさいわい! 邪魔しとったのは、まるで高校生のガキみたいなラブコメしおって、老人に道も譲る事も忘れとったあいつらの方じゃ!」

 サリアの抗議の声に、あからさまに不機嫌なヴァートスが怒鳴り返す。
 と、サリアがニヤッと笑って言った。

「あれぇ? ひょっとして……お父様の事、ちょっと羨ましいと思っちゃってるんですか、ヴァートスさん?」
「ん、んな訳無いじゃろうが! ……ただ、いい年こいた中年オヤジが、若い娘と言葉を交わして顔を真っ赤にしておるのがみっともないのぅと――」
「ほら、やっぱりちょっとシットしてるじゃないですかぁ! お父様とスーちゃんが仲良くしてるのを見て、邪魔したくなっちゃったんでしょ?」
「し、嫉妬ォ? た、たわけた事を言うでないわ! ……言うたじゃろう、ワシャ待たされ過ぎて、腰が痛うなってしもうたんじゃ! だから――」
「あ……じゃあ、やっぱりしてあげます? 電気マッサージ!」
「あ……そ、それは別に、いい……」

 そんな事を言い合いながら、小屋の奥へ入っていくふたりの背中を見送りながら、ギャレマスは首を傾げる。

「……一体、何の話をしておるんだ、あのふたりは? のう、スウィ――」
「ひゃ、ヒャイッ!」
「ッ?」

 スウィッシュの名を呼ぶ自分の問いかけを遮るように上がった、裏返った声にギャレマスは驚く。
 思わず覗き込んだ彼女の顔は、茹だったエビよりも真っ赤に染まっていた。
 その異常ともいえる顔色に、ギャレマスは慌てて声をかける。

「お、おい、スウィッシュ……大丈夫か? 顔が真っ赤だぞ? もしや、風邪でもひいてしまったのか――」

 そう言いながら、ギャレマスは手を挙げ、何の気なしにスウィッシュの額に当てた。

「? ――ッ!」
「……ふむ。どうやら、熱は無さそうだが――」
「ひ、ひ、ひゃあああああああっ!」
「ッ?」

 突然甲高い奇声を上げたスウィッシュに驚き、ギャレマスは思わず手を引っ込める。
 一方のスウィッシュは、目をグルグルと回しながら、ギャレマスの前から跳び退いた。
 そして、瞳を目まぐるしく動かしながら、上ずった声で言った。

「い……いけないっ! は、早く、あの寝坊助エッルフをおおお起こしてやらないとッ!」
「お……おう……」
「って事でッ! ししし失礼します、陛下ッ!」

 スウィッシュはそう告げると、ギャレマスの返事も聞かずにくるりと踵を返し、部屋の奥へとダッシュし、そこに敷かれたままの布団へとダイブする。

「おおおおおおらああああ! このエッルフ! ささささサッサと起きなさあああああああいっ!」
「きゃ、きゃああああああっ!」

 理不尽なボディプレスの奇襲を食らった布団の下から、くぐもった悲鳴が聞こえた。
 その悲鳴を聞きながら、玄関口に取り残されたギャレマスは、ひとり頭を抱える。

「し……しまった……。つい、サリアと同じ感覚で、す、スウィッシュの額に手を当ててしまった……」

 彼は、自分が無意識に行なってしまった行為で、スウィッシュに幻滅されたのではないか――いや、セクハラ魔王オヤジとして認識されてしまったのではないか……と、玄関口に立ったまま、本気で悩むのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

レベル1のフリはやめた。貸した力を全回収

ソラ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ち、ソラ。 彼はレベル1の無能として蔑まれ、魔王討伐を目前に「お前のようなゴミはいらない」と追放を言い渡される。 だが、傲慢な勇者たちは知らなかった。 自分たちが人間最高峰の力を維持できていたのは、すべてソラの規格外のステータスを『借りていた』からだということを。 「……わかった。貸していた力、すべて返してもらうよ」 契約解除。返還されたレベルは9999。 一瞬にして力を失い、ただの凡人へと転落しパニックに陥る勇者たち。 対するソラは、星を砕くほどの万能感を取り戻しながらも、淡々と宿を去る。 静かな隠居を望むソラだったが、路地裏で「才能なし」と虐げられていた少女ミィナを助けたことで、運命が変わり始める。 「借金の利息として、君を最強にしてあげよう」 これは、世界そのものにステータスを貸し付けていた最強の『貸与者』が、不条理な世界を再定義していく物語。 (本作品はAIを活用して構成・執筆しています)

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...