雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~

朽縄咲良

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エピソード6 勇魔同舟

『ハ〇ター〇ハ〇ター』と完結と条件

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 「……よし、決めた」

 数分の間、眉間に深い皺を寄せて黙考していたシュータが、そう呟いて閉じていた目を開けた。
 それを見たギャレマスの顔が、緊張で更に強張る。

「お……おお! つ、遂に心を決めてくれたか、シュータよ!」
「……ああ」

 ギャレマスの問いに小さく頷くシュータ。それを見た魔王の顔がパッと輝いた。

「では……余の“エルフ族解放作戦”に、お主も協力してくれるというのだな!」
「――いや、そうとは言ってねえ」
「……は?」

 シュータの答えに、ギャレマスは思わず自分の耳を疑う。
 まさに『鳩が豆鉄砲を食ったよう』な顔をしたギャレマスに凶悪な微笑を向けたシュータは、自分の事を親指で指しながら言葉を継いだ。

「テメエの“エルフ族解放作戦”の内容は悪くねえと思う。ファミィとエルフ族に恩を売れるし、何より虐げられているエルフ族のピンチを救ってやるっていうのが、サイコーに“正義の味方”っぽい。勇者の俺にはピッタリだ」
「だ……だったら……」
「……だが、テメエは邪魔だ、魔王」

 そうキッパリと言い放つと、シュータはギャレマスに指を突きつける。

魔王テメエ勇者おれの宿敵だ。そんな真逆の立場にある俺たちが手を結んだと知られたら、元々イメージがマイナスに振り切ってるテメエはともかく、今までクリーンなイメージで売ってきた俺のイメージまで大幅にダウンしちまいかねない!」
「く、クリーンッ? 言うに事欠いて、お主が?」
「何だよ? 何が言いてえんだ、あぁっ?」
「い、いや……」

 ギャレマスは、シュータに睨みつけられると、気まずげに口を噤んだ。
 そんな彼を鋭い目で一睨みしたシュータだったが、気を取り直して話を続ける。

「だから、今回の“エルフ族解放作戦”は、俺がそっくりそのまま引き継いでやる。ま、エルフどもの解放先はテメエの国じゃないところにするかもしれねえけどな」
「は――?」
「それで、手柄も全部俺のモンだ。テメエら魔族は、おとなしく回れ右して自分ん家に帰るんだな。特別に、今回だけは無傷で見逃してやるからよ。ありがたく思うんだな!」
「ちょ? しゅ、シュータ、待て――」
「そうだ、それが一番いい。勇者が敵である魔王と一緒に戦うなんて、体裁が悪いにも程があるしな。後世に残るおとぎ話にするんだったら、『伝説の勇者様の手によって、エルフ族は救われました。めでたしめでたし』ってあらすじの方が相応しいってモンだ」

 そう言ってのけて、カラカラと打ち嗤うシュータ。
一方のギャレマスは、あまりにも自己中心的なシュータに愕然として、返す言葉も失っている。
 ――その時、

「そうかのう……?」

 と、塩をまぶした干し豆をポリポリと嚙み砕きながら首を傾げたのは、ヴァートスだった。

「別に、敵同士が力を合わせて戦う展開も悪くは無いと思うがのぉ……」

 そう呟きながら、彼は何かを思い出すように視線を中空に向ける。

「ほれ……アレがそうじゃろ。『ドラ〇ンボール』で〇空とピッコ〇が手を組んだ時とか、『ダイの〇冒険』でダ〇をハド〇ーが助けたりとか、『YAI〇A』でヤ〇バと鬼〇が共闘したりとか、『NARUT〇』のナル〇とサ〇ケが最終決戦で第七班再結成したりとか……」
「ちょ! や、止めろ! 伏字込みとはいえ、具体名を出したら怒られるだろうが!」

 ヴァートスのメタネタ発言に、慌てて声を荒げるシュータ。
 だが、そんなシュータの制止もお構いなく、ヴァートスは言葉を続ける。

「つーか、『悪くない』どころか、最高にアガるシーンじゃろ? ライバル同士の共闘っちゅうのはのう」
「う……」
「ああ、そういえば、アレもあったのう。G.I編でゴ〇とヒ〇カが――」
「は、『ハ〇ター〇ハ〇ター』か!」

 何気なく口にしたヴァートスの言葉に、シュータは著しい反応を見せた。
 彼は、目の色を変えて、ヴァートスに詰め寄る。

「お、おいジジイ! テメエ……いや、アンタ、『ハ〇ター〇ハ〇ター』の事を知ってるのかッ?」
「あ……ああ、モチロンじゃ」

 シュータの剣幕に思わず気圧されながら、ヴァートスはコクンと首を縦に振った。

「さっきも言うたじゃろう。ワシは2021年の日本から異世界転生してきたと。当然、『ハンター〇ハンター』の事も知っとるし、単行本フルコンプの上に、連載している時には毎週欠かさずにジャ〇プを買うくらいにはファンじゃったぞ」
「ま……マジか……!」
「……それがどうしたというんじゃ?」
「お――おいアンタ! 訊きたい事がある!」

 と、今までで一番真剣な表情を浮かべたシュータが、ヴァートスに向かって上ずった声を上げる。
 そして、彼は大きく息を吸い込むと、一気に捲し立てた。

「は……『ハ〇ター〇ハ〇ター』って、?」
「……はいぃ?」

 シュータの口から出た質問に、キョトンとした顔になり、思わず某特命課の警部のようなイントネーションで聞き返すヴァートス。
 そんなヴァートスの唖然とした表情にも気付かぬ様子で、興奮しきりのシュータは早口で言葉を継ぐ。

「いや……『ハ〇ター〇ハ〇ター』って、しょっちゅう休載してるじゃんかよ。俺が異世界ここに飛ばされた時も、休載の真っ最中だったんだよ……。しかも、また面白くなりそうなところで連載が止まっちゃってさ……」

 そう言うと、シュータは気恥ずかしげに頬を掻いた。

「もう、ここに居る限りは、あの先を知る事は絶対できない訳じゃん。そう考えれば考えるほど、先の展開が気になっちゃってしょうがなくなってさ……正直、あの話の結末を知る為だけに、サッサと魔王をぶっ殺して日本に帰っちゃおうかな~って思ったりもして……」
「ヒッ……!」

 危うく、『好きなマンガの先の展開を知りたい』だけの理由で、己の命が脅かされていた事を知ったギャレマスが、カエルが潰れた様な悲鳴を上げた。
 だが、そんなギャレマスの事などまるっと無視して、ギラギラと目を輝かせたシュータは、ヴァートスの胸倉を掴まんばかりの剣幕で詰め寄る。

「で……どうなんだっ? あのマンガ……アンタが異世界転生する前に、ちゃんと完結したのか?」
「あー……それは……」

 と、気まずげにシュータから目を逸らしかけたヴァートスだったが、突然ハッと目を見開いた。
 そして、シュータから見えない角度で微かに口角を上げる。

「あー、ゴホン」

 彼は思わせぶりに咳払いをすると、力強く頷いた。

「モチロンじゃとも! あのマンガは、まるっとキッチリ完結したぞい!」
「ま、マジかよ!」

 ヴァートスの答えを聞いたシュータは、飛び出さんばかりに目を見開くと、興奮で頬を真っ赤に紅潮させながら尋ねかける。

「じゃ、じゃあ、教えてくれ! あの後……クラ〇カたちが船に乗った後、一体どうなったのかを! も、モチロン、主人公のゴ〇たちも合流するんだよな? 知ってるんだろ、アンタは!」
「ヒョッヒョッヒョッ、当然じゃて!」

 シュータの顕著な反応に、満足そうな笑い声を上げたヴァートス。
 だが、彼は小さく首を横に振ると、おもむろに立てた人差し指を唇に当ててみせた。

「――じゃが、タダで教えてやるのは惜しいのう~」
「じ、ジジイ! ここまで来て何を勿体つけてやがるんだ! いいからサッサと教えろ!」
「あれれ~、いいのかのぉ~?」

 剣呑な表情を浮かべて凄むシュータに、ヴァートスはおどけた様子で言う。

「ワシャ、確かに気のいいジジイじゃがな、礼儀のなっておらん若造には意地悪しちゃうぞい? 知りたくないのかなぁ、『ハ〇ター〇ハ〇ター』のラストぉ?」
「ぐ……!」

 ニヤニヤといやらしい笑いを浮かべながらのヴァートスの脅しに、シュータは思わず言葉を詰まらせた。
 一方、固唾を呑んでふたりのやり取りを見ていたアルトゥーとギャレマスは、思わず呆れ声を漏らす。

「気のいいジジイ……正直、どの口が言うかという感じだな」
「礼儀のなっておらん……それ、そのまま自分に戻ってくるのではないか、御老体……」
「何か言うたか?」
「「アッイエ」」

 ヴァートスにギロリと睨まれて、無粋なツッコミを入れたギャレマスとアルトゥーは慌てて口を噤んだ。
 と、

「お……おい、ジジ……アンタ……」

 いかにも不本意そうな様子で、口をへの字に曲げたシュータがヴァートスに話しかける。

「た……タダじゃダメだって言うんなら、どうすれば教えてくれるんだよ? カネでも払えばいいのか?」
「ヒョッヒョッヒョッ! あいにくと、今のワシは森暮らしじゃからのぅ。カネなんざ無用の長物なんじゃ」
「じゃ、じゃあ……何を――」
「そうさのう……」

 ヴァートスは鷹揚に顎髭を撫でながら、少しだけ考え込むそぶりを見せた。
 それからチラリとギャレマスの顔を見て片目を瞑ると、ニカッとシュータに向けて笑いかけ、口を開く。

「――なら、四の五の言わずにギャレの字の“エルフ族解放作戦”に協力せい。見事作戦が成功した暁には、お主の望み通り、ワシの知っている『ハ〇ター〇ハ〇ター』のラストを話してやろう」
「な――? そ、それは……」
「別に嫌なら受けんでいいぞ」

 ヴァートスの出した条件に難色を示しかけたシュータの機先を制するように、ヴァートスは言葉を継いだ。

「その代わり、ワシャ絶対に『ハ〇ター〇ハ〇ター』のラストは公言せず、頭の中に留め置いたまま墓の下まで持っていくからのう」
「ぐ……ッ!」

 ほくそ笑みながら、いけしゃあしゃあと言い放つヴァートスの顔を睨みつけるシュータ。
 だが、睨み殺さんばかりのシュータの視線を涼しい顔で受け流しながら、ヴァートスは問いを重ねる。

「さあどうする、若いの? あの感動的なラストを知りたくは無いんか? いや~、今思い出しても泣けてくるのぉ~」
「う……うぐぐ……!」

 挑発するようなヴァートスの物言いに、こめかみに青筋を浮かべながら、悔しそうに歯噛みするシュータ。
 ――それから、
 彼がしぶしぶ、本当にしぶしぶといった様子でヴァートスの条件を呑んだのは、それからたっぷり十分ほども経ってからだった――。



 (まあ……)

 宿敵である魔王の作戦に協力させられる事になって、顔いっぱいに不満と憤懣を浮かべたシュータと、それとは対照的に安堵と不安の表情を浮かべているギャレマスの顔を眺めながら、ヴァートスは心の中でこっそりと独り言つ。

(ぶっちゃけ、ワシも『ハ〇ター〇ハ〇ター』のラストがどうなったかなんて知らんのじゃが……。何せ――完結したなんて、真っ赤な嘘じゃからのう……)
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