雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~

朽縄咲良

文字の大きさ
135 / 423
エピソード6 勇魔同舟

娘と頬っぺたと感触

しおりを挟む
 「あー、気持ち良かったぁ~!」

 浴場から大食堂へと続く渡り廊下を歩きながら、サリアは満足そうな笑みを浮かべる。

「ほら、すごいよスーちゃん! 頬がモッチモチ~!」

 彼女はそう言いながら、両手の指で自分の頬を摘まんでみせた。
 そして、自分の傍らを歩くスウィッシュに笑みを向けながら言う。

「ほらほら、スーちゃんも触ってみなよ~」
「え……あ、いえ……」

 サリアの言葉に、スウィッシュは困り笑いを浮かべながら、首を横に振った。

「あの、せっかくのお誘いですが……さすがに、主の頬っぺたに触れるのは、臣下として畏れ多いので……」
「別に気にしないでいいのにぃ~」

 スウィッシュのつれない返事を聞いて、サリアはぷうと頬を膨らませると、彼女の顔をジト目で睨んで言う。

「主だ臣下だって、堅苦しい事を言わないでよぉ。サリアとスーちゃんは、裸の付き合いをした仲じゃん」
「は……裸の付き合いって、い、一緒にお風呂に入っただけじゃないですか! ままま紛らわしい言い方をしないで下さいっ!」

 サリアの言葉を聞いたスウィッシュは、その紫瞳を大きく見開きながら声を上ずらせた。

「ほ、他の人に聞かれたら、変な意味に取られちゃうじゃないですか……」
「変な意味……って、どんな意味?」
「さ……サリア様は、知らなくていいんです!」

 スウィッシュは、キョトンとした顔で聞き返すサリアの曇りなき眼から目を逸らしながら叫ぶ。
 ――そして、上気した頬を隠すように掌で押さえ、

「……ホントだ。何だか、すごく柔らかくなってる……。ま、まるで、自分の頬っぺたじゃないみたい……!」

 と、驚きの声を上げた。
 それを聞いたサリアが、満面の笑みを浮かべながら、大きく頷く。

「でしょ~? すごいよねぇ」
「これは……すごいですね……」

 あまりの感動で語彙が迷子になりながら、スウィッシュは自分の頬をしきりに指で擦った。

「何て言ったらいいのかな……? ぷにぷにですべすべで……まるで赤ちゃんの頬っぺたを触ってるみたいというか……」
「あ、そんな感じもするね~。サリアは、どっちかというと『スライムみたい』って思ったけど」
「いや、さすがに自分の頬っぺたの感触に対してその感想はおかしい……です」

 自分の頬をモンスターに喩えるサリアに、思わずツッコミを入れるスウィッシュ。
 それに対して、「そうかなぁ?」と呟いたサリアは、おもむろに手を伸ばすと、サリアの頬をそっと撫でた。

「キャッ! な……何をなさるんですか、サリア様ッ?」
「――うん、サリアとおんなじ触り心地だよ~」

 ビックリして声を裏返したスウィッシュの頬をしきりに撫でながら、サリアはにへらあと笑いかける。

「えへへ。なんか、自分の頬っぺたよりも、他の女の子の頬っぺたを撫でてる方が気持ちいいかも~」
「ちょ? さ、サリア様ぁ? ちょま……止め……」
「や~だ~! められないまらない~!」

 狼狽するスウィッシュの反応もお構いなしに、ひたすら恍惚の表情で彼女の頬を触ってくるサリア。
 その内、スウィッシュは困り果てながら、かといって満更でもないような表情を浮かべ――、

「――ハッ! ちょ、ちょ! ストップストップ! もうおしまいですッ!」

 危うく自分の中で新しい扉が開きそうになっているのに気付くと、大慌てで、頬を撫で続けているサリアの事を半ば強引に引き剥がした。

「ちぇー……」

 引き剥がされたサリアは、手の指をわしゃわしゃと動かしながら、不満そうな表情を浮かべる。
 だが、すぐに機嫌を直して、ニッコリと微笑んだ。

「すごいね、ここの香油エステ! こんなに効果があるなんて思わなかった!」
「まあ……えぇ、確かに……」

 サリアの言葉に、スウィッシュは小さく頷いた。
 そして、そっと自分の頬に手を添え、感触を確かめながら言葉を継ぐ。

「こんなに瑞々しい肌になった上に、肌の張りも前とは見違えるよう……。正直、半信半疑でしたけど……あたしは人間族ヒューマーの美容技術を侮り過ぎていたのかもしれません」
「そうだね~」

 そう答えてコクンと首を縦に振ったサリアは、スウィッシュの顔を覗き込むように見ると、にやぁと微笑みかけた。

「キレイになったスーちゃんを、お父様に見てもらうのが楽しみだねっ!」
「ひ……ひぁあっ?」

 サリアの言葉に、スウィッシュは顔をたちまち真っ赤に染め上げて、ブンブンと首を横に振った。

「さささささサリア様ッ! で……ですからあたしは、別に陛下の事を、そのようには……」
「はいはい」
「そ……それに……陛下はあたしの事なんか、別に何とも思ってらっしゃらないと思いますし……」
「相変わらずだなぁ……」

 サリアは呆れ交じりの声を上げると、廊下の突き当たりにある大きな扉のノブに手をかけた。

「じゃあ、お父様がスーちゃんの事をどう思っているか、面と向かって訊いてみればいいよ~」
「はひゃっ?」

 スウィッシュは、ようやく自分たちが目的の部屋――大食堂の目の前に立っている事に気が付き、裏返った声を上げる。
 この分厚い木の扉の向こうに、今しがた話題にしていたギャレマスが待っている――そう考えた途端、彼女の左胸が激しく脈打ち始めた。
 そんな彼女の事もお構いなしに、サリアは大食堂の扉をあっさりと開け放つ。

「エステを受けてきました! お待たせしました、お父様~!」
「あッ! ちょ、ちょっと待って下さい、サリア様ッ! ま……まだ、心の準備が……ッ!」

 スウィッシュは素っ頓狂な声を上げて、慌ててくるりと背を向けた。
 そして、氷系魔術で慌てて創り出した氷の手鏡で、自分の顔におかしい所がないかチェックする。

「うぅ……やっぱり、お風呂上がりだからっていって、すっぴんじゃ恥ずかしい……。薄くでもいいからお化粧しておいた方が良かったかなぁ……」
「あれれ~? 何でこんな所にいるんですかぁ?」
「え……?」

 鏡とにらめっこしていたスウィッシュは、サリアが上げた声に違和感を覚えて振り返った。
 彼女の目に、大食堂の中の光景が映る。
 部屋の真ん中に据えられた、色々な料理が盛りつけられた大小様々な皿が所狭しと並ぶ大きなテーブル。その席について、微笑みを浮かべているギャレマスと――。

「……?」

 スウィッシュは、一瞬状況が理解できずに目をパチクリさせる。
 そして、すぐに自分が感じた違和感の原因に思い至って、その目を大きく見開いた。

「って! な、何でここにあなたがいらっしゃるんですか、ヴァートス様ッ?」
「ヒョッヒョッヒョッ! 久しぶりじゃのう、蒼髪のお姐ちゃん! 元気そうで何よりじゃ」
「いや……だから、何でエルフ族の収容所にいるはずのあなたが、ここに居るんですか……って」

 手にしたグラスを掲げながら、上機嫌で声をかけてきた老エルフのほろ酔い顔をジト目で睨むスウィッシュだったが、

「……あら?」

 その隣にもうひとり、黒髪の人物が座っているのに気付いた。
 あいにくと、スウィッシュのいる方からは、角度の関係で顔が見えない。
 スウィッシュは訝しげに眉を顰めると、ギャレマスに訊ねる。

「あの、陛下……? そちらに座っている人は……?」
「あ……ああ、こ……この者は――」
「あぁん? 俺の事か?」

 おずおずと答えようとするギャレマスの声を遮って、黒髪の男がスウィッシュたちの方へと顔を向けた。

「……あ」

 その時、彼女の前に立っていたサリアが上ずった声を上げる。

「あれ? あなた……?」
「ッ?」

 呆然としたサリアの声を耳にした瞬間、スウィッシュは目を飛び出さんばかりに見開き、改めて黒髪の若い男の顔を凝視した。
 ぼさぼさの黒髪に漆黒の瞳の、彫りの浅い顔立ち――その顔の特徴は、確かに以前聞いた勇者シュータ・ナカムラのそれと一致している……!
 目の前に座っている男が“魔族の宿敵”本人であることを確信したスウィッシュは、即座に行動を起こした。

「お下がりください、サリア様ッ!」

 そう叫ぶと、彼女は両腕を前に掲げ、指を忙しなく動かしながら、中空に魔術陣を描き始める。

「何であなたまでここに居るのかは知らないけれど、ここで会ったが百年目よっ! 覚悟しなさい、勇者シュータぁッ!」
「ちょ! ちょっと待つのだ、スウィッシュ! これには事情が――!」

 ギャレマスが慌てて制止するが、スウィッシュは聞く耳を持たなかった。
 魔術陣が完成し、白い光と夥しい冷気を放ち始める。

「食らええええええっ! 究極氷結魔術ハーゲル・ダッシュンんんんんッ!」

 彼女の声とともに魔術陣の中から飛び出した、何物をも瞬時で凍らせる凄まじい冷気の塊が、シュータ目がけて一直線に飛んでいく――!
 ――と、究極氷結魔術ハーゲル・ダッシュンとシュータの間に、何かが飛び込んできた。

「ぎゃ、ぎゃああああああああああっ!」
「へ……陛下ああああああっ?」

 シュータを庇って身体を割り込ませ、究極氷結魔術ハーゲル・ダッシュンの直撃を受けて凍りついたギャレマスの断末魔と、驚いたスウィッシュが上げた悲鳴が、だだっ広い大食堂に響き渡るのだった――。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

レベル1のフリはやめた。貸した力を全回収

ソラ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ち、ソラ。 彼はレベル1の無能として蔑まれ、魔王討伐を目前に「お前のようなゴミはいらない」と追放を言い渡される。 だが、傲慢な勇者たちは知らなかった。 自分たちが人間最高峰の力を維持できていたのは、すべてソラの規格外のステータスを『借りていた』からだということを。 「……わかった。貸していた力、すべて返してもらうよ」 契約解除。返還されたレベルは9999。 一瞬にして力を失い、ただの凡人へと転落しパニックに陥る勇者たち。 対するソラは、星を砕くほどの万能感を取り戻しながらも、淡々と宿を去る。 静かな隠居を望むソラだったが、路地裏で「才能なし」と虐げられていた少女ミィナを助けたことで、運命が変わり始める。 「借金の利息として、君を最強にしてあげよう」 これは、世界そのものにステータスを貸し付けていた最強の『貸与者』が、不条理な世界を再定義していく物語。 (本作品はAIを活用して構成・執筆しています)

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...