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エピソード7 魔族が来りて法螺を吹く
魔王と“びきにあーまー”と当惑
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「び……びきにあーまー……?」
司会の高らかに叫んだ『ビキニアーマー審査』という単語に、巨竜の群れの咆哮もかくやといった大歓声を上げる観客たちの中で、ギャレマスはひとり首を傾げていた。
「な……何だ、その“びきにあーまー”とは……?」
彼は、熱病に浮かされたかのように雄叫びを上げている観客たち――奇妙な事に、興奮している観客のほとんどは男性だった――の事を当惑顔で見回しながら、呆然と呟く。
ギャレマスが、まるで狐につままれたような顔をしているのも無理はない。
何故なら、彼は“びきにあーまー”というものが、一体どんなものなのか知らなかったのだ。
(な……名前に“アーマー”と付いているのなら、鎧の一種なのだとは思うが……。なぜ、たかが鎧の審査ごときで、こやつらはこんなに興奮しておるのだ……?)
疑問を抱いたギャレマスは、自分の隣で小躍りしている髭面の男に尋ねてみる。
「……のう! お主にひとつ、つかぬ事を聞きたいのだが、いいか?」
「あん? 何だよ、オッサン! 何を聞きてえってぇ?」
歓喜に浸る中、不躾に声をかけられた髭面の男は、不満を露わにしながら振り向いた。
彼の口元から漂う酒の臭いに、僅かに顔を顰めたギャレマスだったが、さりげなく鼻を押さえてから、気を取り直して尋ねる。
「その、今しがた司会の男が言っておった、“びきにあーまー”とは、一体どんな鎧なのだ?」
「はぁ~?」
ギャレマスの問いを聞いた髭面の男は、驚きと呆れが入り混じった顔でギャレマスの事を見た。
「オッサン、まさかアンタ知らねえのかよ? ビキニアーマーの事をよぉ?」
「あ……いや……う、ウム」
髭面男のバカにしたような口調にムッとしながらも、ギャレマスはグッと堪えて頷く。
「その……辺境暮らしが長かったからな。世情に疎いのだ。世間知らずで申し訳ない」
「あ……そうだったのか。いや、こっちこそ悪かった」
ギャレマスが咄嗟に吐いた、口から出まかせの言い訳を真に受けた髭面男は、ハッとした表情を浮かべて謝った。どうやら、厳つい外見とは裏腹に、内面は気のいい男らしい。
彼は、考え込むように視線を中空に彷徨わせた。途端に、その顔はだらしなく緩む。
「ビキニアーマーな……ありゃあ、いいモンだぜ」
「良い物……そんなに高価な鎧なのか?」
「あ……いや、そういう意味の“いいモン”じゃあなくてな……」
生真面目な顔をして問いを重ねるギャレマスに対し、髭面男は首を横に振った。
そんな男の反応に、ギャレマスは「ならば」と言葉を重ねる。
「じゃあ……防御力に優れた、堅牢な鎧だという事か?」
「いや……むしろ、逆かもな……。特に腹の辺りなんかは……ぐひひ」
「逆……?」
男の答えに、ギャレマスはますます困惑する。
「どういう事なのだ? 高価でもなく、堅牢という事でもなく……ならば、何を以て“良い物”だと言うのだ?」
「そりゃあ……な」
そう言うと、髭面男は再びだらしない笑みを浮かべた。
「見た目だよ見た目。ひっひっひ……」
「見た目……なるほど、鎧に芸術性の高い意匠が施されている、と」
「ふふ……違う違う……いや、ある意味“芸術性”はメチャクチャ高いけどよ。――もっとも、着る女次第ではあるが」
「……着る者によって変わるのか?」
要領を得ない髭面男の物言いに、ギャレマスは困惑を隠しきれない様子で首を傾げた。
「お主の言う事は良く分からぬ。結局、“びきにあーまー”とは、一体何なのだ?」
「うふふ……だから、“いいモン”だって」
「だから……どういう意味で“良い物”だと……」
「まあまあ」
焦れるギャレマスに向かって、髭面男は意味深に片目を瞑ってみせる。
「口で言っても、あの良さは伝えづれえ。ほら、よく言うだろ? 『百聞は一見に如かず』ってよ。どうせすぐに直接拝めるんだから、期待して待ってろよ。じゃあな」
浮かれた様子でそう言った髭面男は、ギャレマスの肩を気安げにポンポンと叩くと、飲み干した酒を補充する為に、さっさと屋台村の方へ行ってしまった。
「むう……」
ひとり残されたギャレマスは、当惑顔で小さく唸る。
(結局、“びきにあーまー”がどんなものなのか、ほとんど分からずじまいだ……)
彼は途方に暮れた様子で、大きな溜息を吐くのだった……。
◆ ◆ ◆ ◆
一方その頃、オーディションステージの舞台裏では……、
「え~、候補の皆様! ご注目下さい~!」
自己紹介を終えて裏へと引っ込んだ十三人のオーディション候補たちに向かって、女性の実行委員が声を張り上げていた。
彼女は、脇に堆く積み上げた十三個の木箱を指さしながら、言葉を継ぐ。
「こちらの木箱には、次の審査で皆様に着用して頂く衣装が入ってます! 一箱ずつ取って頂き、この場で着替えて頂きますようお願いいたします!」
実行委員がそう告げると、候補者たちは互いの顔を見合わせ、ある者は頬を赤く染めながら、またある者は激しく躊躇いながら、それでも従順に一列に並び、実行委員が差し出した木箱を順番に受け取っていった。
その最後尾に並んだサリアとスウィッシュは、当惑を隠せない様子で囁き合う。
「着替えるって……“びきにあーまー”って服? ……にって事?」
「ええ……恐らく」
サリアの問いかけに、スウィッシュは自信無さげに答えた。
そんな彼女に向けて、サリアは小首を傾げながら、更に問いかける。
「ねえ、スーちゃん。“びきにあーまー”って何だろうね?」
「……申し訳ございません。あたしにも良く分かりません……」
サリアの問いに、スウィッシュも困惑を隠しきれない様子だ。
「多分……“アーマー”ですから、人間族の間で広まった鎧なんでしょうけど……。なにぶん、魔王国には伝わってきておりませんので、どういった形状なのかは皆目見当が……」
「でも……鎧が入ってるにしては、箱がずいぶんと小さいよねぇ……」
そう言って、サリアが次々と候補者たちに手渡されていく木箱を指さす。
彼女の言葉に、スウィッシュも頷いた。
「確かに……そうですよね」
その様な言葉を交わしている内に、彼女たちにも木箱が手渡される。
「……って、軽っ!」
スウィッシュは、手渡された箱の軽さに驚き、思わず声を上げた。
「ホントだ。全然重くないね」
「本当に鎧なのかしら……?」
ふたりは首を傾げながら、木箱を抱えて部屋の隅へと移動する。
周りでは、既に他の候補者たちが、着替える為に服を脱ぎ始めていた。
「とりあえず……着替えましょうか」
「そうだね~」
ふたりはそう言うと、同時に木箱の蓋を開ける。
そして、箱の中を覗き込み、
「「……何、これ?」」
――その中身に唖然とするのだった。
司会の高らかに叫んだ『ビキニアーマー審査』という単語に、巨竜の群れの咆哮もかくやといった大歓声を上げる観客たちの中で、ギャレマスはひとり首を傾げていた。
「な……何だ、その“びきにあーまー”とは……?」
彼は、熱病に浮かされたかのように雄叫びを上げている観客たち――奇妙な事に、興奮している観客のほとんどは男性だった――の事を当惑顔で見回しながら、呆然と呟く。
ギャレマスが、まるで狐につままれたような顔をしているのも無理はない。
何故なら、彼は“びきにあーまー”というものが、一体どんなものなのか知らなかったのだ。
(な……名前に“アーマー”と付いているのなら、鎧の一種なのだとは思うが……。なぜ、たかが鎧の審査ごときで、こやつらはこんなに興奮しておるのだ……?)
疑問を抱いたギャレマスは、自分の隣で小躍りしている髭面の男に尋ねてみる。
「……のう! お主にひとつ、つかぬ事を聞きたいのだが、いいか?」
「あん? 何だよ、オッサン! 何を聞きてえってぇ?」
歓喜に浸る中、不躾に声をかけられた髭面の男は、不満を露わにしながら振り向いた。
彼の口元から漂う酒の臭いに、僅かに顔を顰めたギャレマスだったが、さりげなく鼻を押さえてから、気を取り直して尋ねる。
「その、今しがた司会の男が言っておった、“びきにあーまー”とは、一体どんな鎧なのだ?」
「はぁ~?」
ギャレマスの問いを聞いた髭面の男は、驚きと呆れが入り混じった顔でギャレマスの事を見た。
「オッサン、まさかアンタ知らねえのかよ? ビキニアーマーの事をよぉ?」
「あ……いや……う、ウム」
髭面男のバカにしたような口調にムッとしながらも、ギャレマスはグッと堪えて頷く。
「その……辺境暮らしが長かったからな。世情に疎いのだ。世間知らずで申し訳ない」
「あ……そうだったのか。いや、こっちこそ悪かった」
ギャレマスが咄嗟に吐いた、口から出まかせの言い訳を真に受けた髭面男は、ハッとした表情を浮かべて謝った。どうやら、厳つい外見とは裏腹に、内面は気のいい男らしい。
彼は、考え込むように視線を中空に彷徨わせた。途端に、その顔はだらしなく緩む。
「ビキニアーマーな……ありゃあ、いいモンだぜ」
「良い物……そんなに高価な鎧なのか?」
「あ……いや、そういう意味の“いいモン”じゃあなくてな……」
生真面目な顔をして問いを重ねるギャレマスに対し、髭面男は首を横に振った。
そんな男の反応に、ギャレマスは「ならば」と言葉を重ねる。
「じゃあ……防御力に優れた、堅牢な鎧だという事か?」
「いや……むしろ、逆かもな……。特に腹の辺りなんかは……ぐひひ」
「逆……?」
男の答えに、ギャレマスはますます困惑する。
「どういう事なのだ? 高価でもなく、堅牢という事でもなく……ならば、何を以て“良い物”だと言うのだ?」
「そりゃあ……な」
そう言うと、髭面男は再びだらしない笑みを浮かべた。
「見た目だよ見た目。ひっひっひ……」
「見た目……なるほど、鎧に芸術性の高い意匠が施されている、と」
「ふふ……違う違う……いや、ある意味“芸術性”はメチャクチャ高いけどよ。――もっとも、着る女次第ではあるが」
「……着る者によって変わるのか?」
要領を得ない髭面男の物言いに、ギャレマスは困惑を隠しきれない様子で首を傾げた。
「お主の言う事は良く分からぬ。結局、“びきにあーまー”とは、一体何なのだ?」
「うふふ……だから、“いいモン”だって」
「だから……どういう意味で“良い物”だと……」
「まあまあ」
焦れるギャレマスに向かって、髭面男は意味深に片目を瞑ってみせる。
「口で言っても、あの良さは伝えづれえ。ほら、よく言うだろ? 『百聞は一見に如かず』ってよ。どうせすぐに直接拝めるんだから、期待して待ってろよ。じゃあな」
浮かれた様子でそう言った髭面男は、ギャレマスの肩を気安げにポンポンと叩くと、飲み干した酒を補充する為に、さっさと屋台村の方へ行ってしまった。
「むう……」
ひとり残されたギャレマスは、当惑顔で小さく唸る。
(結局、“びきにあーまー”がどんなものなのか、ほとんど分からずじまいだ……)
彼は途方に暮れた様子で、大きな溜息を吐くのだった……。
◆ ◆ ◆ ◆
一方その頃、オーディションステージの舞台裏では……、
「え~、候補の皆様! ご注目下さい~!」
自己紹介を終えて裏へと引っ込んだ十三人のオーディション候補たちに向かって、女性の実行委員が声を張り上げていた。
彼女は、脇に堆く積み上げた十三個の木箱を指さしながら、言葉を継ぐ。
「こちらの木箱には、次の審査で皆様に着用して頂く衣装が入ってます! 一箱ずつ取って頂き、この場で着替えて頂きますようお願いいたします!」
実行委員がそう告げると、候補者たちは互いの顔を見合わせ、ある者は頬を赤く染めながら、またある者は激しく躊躇いながら、それでも従順に一列に並び、実行委員が差し出した木箱を順番に受け取っていった。
その最後尾に並んだサリアとスウィッシュは、当惑を隠せない様子で囁き合う。
「着替えるって……“びきにあーまー”って服? ……にって事?」
「ええ……恐らく」
サリアの問いかけに、スウィッシュは自信無さげに答えた。
そんな彼女に向けて、サリアは小首を傾げながら、更に問いかける。
「ねえ、スーちゃん。“びきにあーまー”って何だろうね?」
「……申し訳ございません。あたしにも良く分かりません……」
サリアの問いに、スウィッシュも困惑を隠しきれない様子だ。
「多分……“アーマー”ですから、人間族の間で広まった鎧なんでしょうけど……。なにぶん、魔王国には伝わってきておりませんので、どういった形状なのかは皆目見当が……」
「でも……鎧が入ってるにしては、箱がずいぶんと小さいよねぇ……」
そう言って、サリアが次々と候補者たちに手渡されていく木箱を指さす。
彼女の言葉に、スウィッシュも頷いた。
「確かに……そうですよね」
その様な言葉を交わしている内に、彼女たちにも木箱が手渡される。
「……って、軽っ!」
スウィッシュは、手渡された箱の軽さに驚き、思わず声を上げた。
「ホントだ。全然重くないね」
「本当に鎧なのかしら……?」
ふたりは首を傾げながら、木箱を抱えて部屋の隅へと移動する。
周りでは、既に他の候補者たちが、着替える為に服を脱ぎ始めていた。
「とりあえず……着替えましょうか」
「そうだね~」
ふたりはそう言うと、同時に木箱の蓋を開ける。
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