雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~

朽縄咲良

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エピソード7 魔族が来りて法螺を吹く

巨乳と貧乳と協議

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 「よって、わらわはこの場違いな貧乳娘の失格と退場を求めますわッ!」

 聖女らしい凛としたエラルティスの糾弾の声が会場に響き渡り、それを聞いた観客たちは騒然とした。

「た……確かにそうだ! オーディションの告知ポスターに書いてあった応募資格に書いてあったのを覚えてる!」
「そ……そう言われれば、あの娘の胸は正直……ねぇ」
「いや……でも、顔はあの中でも一・二を争うくらいの可愛さだぜ。この際、胸の大きさくらい、少しくらいなら目を瞑っても……」
「でも……応募資格に書いてある以上はなぁ……」
「……というか、どのサイズからを“巨乳”と称するかをキチンと定義していない事が問題なのであって――」
「ていうかさ……そもそも、“伝説の四勇士”になる条件におっぱいのサイズって、ぶっちゃけ関係あるの?」
「「「「「「あるっ!」」」」」」
「あ……そこは満場一致なんだ……」

 といった声が、観客席のあちこちから上がる。
 やにわにざわざわと騒がしくなる会場の中、ステージの上のスウィッシュは、その目を大きく見開いていた。
 その視界には、自分の方に指を突きつけて、侮蔑に満ちた笑みを浮かべているエラルティスの顔が映っている。

(……ていうか、これってチャンスなんじゃ……)

 唐突過ぎる展開についていけず、様々な感情が渦巻き混濁している頭の中で、彼女の中の冷静な部分はそう呟いていた。

(せっかく、あのバカ乳聖女があたしを失格扱いにしてくれたんだから、ここは大人しく受け入れて、陛下の事をお助けする本来の任務に戻るべきよね……)

 考えるまでもなく、それが最善手であろう。
 元より、こんな茶番のオーディションなど、参加したくて参加した訳ではない。
 人の事を胸の大きさでふるい落とすなんて胸糞の悪くなるような趣味の悪いオーディションなど、一刻も早く棄権して立ち去るべき――。
 彼女は、そう心の中で決めると、手に持った拡声貝マイクを口元に近付け、大きく息を吸うと、声高らかに叫ぶ。

『――うるっさいわねぇ、この乳だけ性女せいじょが! 誰が棄権なんかするもんですかッ!』
「――ッ!」

 彼女の口から飛び出した威勢のいい啖呵に、観客たちの間から、先ほどまでとは違うどよめきが上がった。
 異様な雰囲気に包まれる会場の空気の中、スウィッシュは紫色の瞳をギラギラと輝かせながら、更に声を荒げる。

『ていうか、あたしの胸は、あなたが言うほど小さくないわよ! あたしが小さいんじゃなくって、あなたたちが大きすぎるの! そもそも、むやみやたらにデカきゃいいってモンじゃないのよコノヤローッ!』

 マイクに齧りつくように絶叫するスウィッシュ。それでも、憤怒で顔を朱に染めた彼女の舌鋒は、留まるどころか更に鋭さを増す。

『女の胸なんて、大きかろうが小さかろうが、所詮同じ脂肪の塊じゃない! 何で胸の大きさがどうのこうのみたいな小さな事で、無条件に排除されなきゃいけないのよ!』
「……ぷっ! 『胸の大きさがどうのこうのみたいな小さな事』って……ちゃんと自覚してるじゃありませんの。自分のお胸が小っちゃい事を」
『その“小さい事”って、そっちの意味じゃないわボケええええっ!』

 言葉尻を捕まえてせせら笑うエラルティスに激昂し、拡声貝マイクを床に投げ捨てるスウィッシュ。

「この下衆聖女! 何度も何度も……もう我慢できない! ここで白黒ハッキリつけてやるッ!」
「あら、る気ですか? いいですわよ。丁度いい機会ですから、この際キッチリと煉獄神の御許へお送りして差し上げますわ。特別に無料タダでね!」

 殺気を漲らせた瞳で睨み合うスウィッシュとエラルティス。
 今にも本気の戦いを始めそうなふたりの様子に、サリアとジェレミィアが慌てて制止に入ろうとするが、剥き出しの刃のような殺伐とした雰囲気を前にして、思わず躊躇してしまう。
 まさに一触即発――。
 と、その時、

『え~! 会場の皆々様、どうぞ御静粛に!』

 唐突に、会場内に拡声貝マイクで増幅された中年男の声が響き渡った。
 その声に、騒然となっていた観客席は静まり返り、すっかり頭に血が上ったスウィッシュとエラルティスも正気を取り戻す。
 ――拡声貝マイク越しの声の主は、実行委員長だった。
 彼は、脂ぎった額に玉のような汗を浮かべながら言葉を継ぐ。

『え~、エントリーナンバー13番に対し、特別審査員であるエラルティス様が指摘なされたレギュレーション違反に関し、あ~、我々実行委員会がこれから協議を行いますので、会場の皆様におかれましては、しばしの間お待ち頂きますようお願いいたします!』

 実行委員長の発表に、観客席からざわめきが上がる。
 そんな中、実行委員長は周囲に向かって手招きして、それに応じて数人の男たちが集まって来た。そして、彼らは難しい顔をしながら、額を突き合わせるようにして話し合い始める。

「あ……」

 スウィッシュは、先ほどまで真っ赤にしていた顔を心なしか青ざめさせて、実行委員長たちに向かって声をかけようとした。

「あの……すみません。さ、さっきはあんな事を言っちゃったんですけど……」

 先ほどは胸の事を言われて思わず頭に血が上り、エラルティスの糾弾に対して反発してしまった彼女だったが、冷静になった瞬間、やにわに強い後悔が胸の内に沸き上がってきたのだ。

(ああ……どうしてあたしは、胸の事になると我を忘れちゃうのかなぁ……)

 今更悔やんでももう遅い。

「あの……やっぱり、棄権してもいいかなぁ……って。ええと……聞いてます?」

 実行委員長たちの背中に向かって、おずおずと語りかけるスウィッシュだったが、真面目な顔で議論を戦わせている彼らの耳には届かないようだ。
 だが、実行委員たちの“協議”は、それから程なくして結論が出た。
 彼らは互いに頷き合うと、円陣を解き、元の席に座る。
 そして、ひとり立ったままの実行委員長が再び拡声貝マイクを手に取り、口を開いた。

『え~、お待たせいたしました! 今回のエラルティス様からのご指摘に対し、厳正なる協議を行いましたところ――』

 そこまで言ったところで、委員長は口を閉じ、スウィッシュの顔を見上げる。
 そして、ニコリと微笑んで大きく頷くと、再び口を開いた。

『募集要項内に明記された応募資格には「巨乳且つ美乳であれば」と記載されている事から、“巨乳且つ美乳”が必須条件にはあたらないとの判断と、何より、今回の“伝説の四勇士新メンバーオーディション”に対するスー候補の並々ならぬ熱意を鑑み、彼女の出場を取り消すには及ばないとの結論に達しました!』
「あ、い、いや……あたしは別に熱意とかは……」
『よって、スー候補は、このままオーディションに参加頂いて結構です! 頑張って下さい、スー候補!』
「だから! 別にあたしは参加したい訳じゃな――」
「おおおおおおおおおおおおおおお――っ!」

 自分に向かって、満面の笑みで親指を立ててみせた実行委員長に対し、慌てて否定の声を上げようとしたスウィッシュだったが、その声は地鳴りのように沸き上がった歓喜の声によって掻き消される。
 そして、狼狽えているスウィッシュと、不満そうに頬を膨らませているエラルティスにも構わぬ様子で、実行委員長は司会にマイクを手渡すと、満ち足りた顔で自分の席に腰を下ろした。
 一方、マイクを取り戻した司会は、大きく息を吸ってからマイクに口を近付ける。

『――さて! 少々のアクシデントはありましたが、無事に十三人の候補者たちの自己紹介が終了しました! これから、いよいよ審査へと移ります!』
「おおおおお~!」

 司会の声を聞き、一斉に歓声を上げる観客たち。ある者は拍手をし、ある者は指笛を吹いて、更に会場の雰囲気が盛り上がっていく。
 そんな会場のアツい空気を感じ取った司会は、観客席に向かって満足げに頷くと、更に言葉を継ぐ。

『それではここで、第一次審査の発表です! その注目の種目とは――』

 そこで一旦言葉を切った司会は、咳払いをして喉の調子を整えてから、大きく声を弾ませながら叫んだ。

『――紳士の皆さんお待ちかねぇッの、でええええ~すッ!』
「う……う、ひょおおおおおおおおおお~ッ!」

 司会の発表を聞いた瞬間、観客席に詰めかけた男たちによる雄叫びのような歓声が、会場全体を大きく揺らしたのだった。
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