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第二章 袂を分かちし者は、どこに向かうのか
第二章其の壱拾壱 誤解
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「え……っ?」
三十騎ほどの馬を操る猫獣人たちに周りを取り囲まれたハヤテは、驚いて言葉を失った。
はじめは、彼らが何を言っているのかすら理解できなかったが、彼らが手にした手槍を自分に突きつけていたり、矢を番えた弓で自分に狙いを定めているのを見て、ようやく自分が置かれた立場を思い知る。
彼はブンブンと激しく首を横に振りながら、先ほど自分に鋭い声を浴びせかけた騎馬団の指揮官らしき猫獣人に向かって必死に訴えかけた。
「ち――違う! 俺は……俺は“悪魔”なんかじゃ無――」
「う、動くなっ!」
だが、指揮官は、一歩足を踏み出そうとしたハヤテにギョッとした顔を向けながら、ヒゲと毛を逆立たせて威嚇する。
――同時に、風を切る甲高い音が鳴り、ハヤテの爪先の数センチ先に数本の矢が次々と突き立った。
「そ、それ以上、一歩でも近付いてみろ! 今度は、その身体に向けて矢を放つぞ!」
「……分かった。アンタの言う通りにする」
ハヤテは、尻尾をピンと伸ばしながらヒゲを逆立たせているキジトラ柄の隊長に向け、諦め顔で頷く。
そして、徒に相手の警戒心を煽らないよう、ゆっくりと両手を上に上げた。
――と、
「ち……違うのです、グスターブ! この方……ハヤテ様は、あの悪魔達とは違うのです!」
彼の傍らで呆然と成り行きを見守るだけだったフラニィが、声を張り上げる。
彼女が上げた一声に、二人を取り囲む猫獣人の騎士達の間にどよめきが起こった。
その中央で、小さな目をまん丸にしたのは、指揮官の男――グスターブだった。
「おお……ご無事でしたか、フラニィ殿下! もう大丈夫ですぞ! 我々近衛騎兵団が、殿下をお助けに参りました!」
「助けって……だから、そうじゃないのっ!」
どこか得意げなグスターブの言葉に、フラニィは苛立ちを隠せず、首を大きく横に振った。
「こちらのハヤテ様は、確かにあの悪魔達と同じ種族のようですが……あいつらとは全然違うんです! むしろ、御自身のお命を掛けて、悪魔達の手からあたしを救い出してくれた恩人なんです! そんな御方に、そんなものを向けるのはお止しなさい!」
王女らしい威厳に満ちたフラニィの一喝に、騎士達は動揺しながら横目でお互いの顔を見合わせる。
……だが、
「おお、殿下……お労しや! さては、そこの悪魔めに脅されて、その様な世迷い言を無理矢理言わされているのですな! ……おのれ、卑劣な奴め!」
グスターブの言葉に、騎士達は再び顔を強張らせて、手槍と弓を構え直した。
それを目の当たりにしたハヤテは、両手を高く掲げたまま、グスターブに向けて必死で訴える。
「待て! ……待ってくれ! アンタ達と戦う意志は無い! 彼女――フラニィ王女の言っている事も本当だ! 俺はただ――」
「――ニャッ!」
何とか自分の思いを伝えようとしたハヤテだったが、それは逆効果だった。
彼が浮かべた必死の形相に恐怖を覚えた騎士のひとりが、思わず番えていた矢を放ってしまった。
「――グッ!」
ひょうと音を立てて飛んできた矢を左肩に受けたハヤテは、思わず呻き声を上げて、その場に膝をつく。
「ハヤテ様ッ!」
フラニィが悲鳴を上げて、彼の横に屈み込んだ。咄嗟に矢が突き立ったハヤテの肩を押さえるが、傷から流れ出る血で、彼女の腕を覆う白毛は忽ち真っ赤に染まった。
一方、傷を負ったハヤテが苦しそうに喘ぐのを見たグスターブは、興奮で鼻の頭を真っ赤にする。
「うむ……その姿ならば、我らの弓矢でも傷を負わせる事が出来るようだな! ……であれば、殺す事も出来るという事! ――この不浄な悪魔めを、これ以上、我らが王都に近付けさせる訳にはいかぬ。今の内に、この場で息の根を止めた方が良いだろうな……」
彼は、そう言って頷くと、片手を挙げて、背後の騎士達に合図を送った。
彼の合図と共に、騎士達は一斉に手槍と弓を握り直し、屈み込むハヤテに狙いを定める。
グスターブは、その鋭い牙を露わにして哄笑を浮かべると、挙げた手を前に振り下ろそうとした。
「者ども……この悪魔を殺――!」
「止めて――ッ!」
グスターブの号令がかかる寸前、金切り声で叫んだフラニィは、蹲るハヤテの背中に覆い被さった。
そんな彼女の行動を見た騎士団の間に、再び動揺が広がる。
「ふ……フラニィ殿下? い……一体、何をなさっているのですか? ま……まさか、その悪魔を庇おうと――?」
「ええ、そうです!」
唖然としたグスターブの問いかけに、フラニィは毅然とした口調で応えた。
「先ほども申しましたでしょう? この御方は、あたしの命の恩人なのです! ハヤテ様の命を奪う真似は、このあたし――ミアン王国第三王女・フラニィ・エル・ファスナフォリックが赦しません!」
「……っ!」
フラニィの断固とした言葉に、グスターブは思わず気圧され、言葉を詰まらせる。
――そして、悲しそうにヒゲを項垂れさせると、哀れむような顔でフラニィを見た。
「おお……さては、その悪魔に怪しげなる術をかけられて、正気を失っておられるようだ。……でなくば、先だって我が近衛兵三十四名を鏖殺してのけた悪魔のひとりを庇うはずが無い」
「――ですから、ハヤテ様は……!」
「こうなっては致し方ない。甚だ不敬とはなりますが……悪魔に操られてしまったフラニィ殿下をご覧に入れて陛下を悲しませるよりは、その悪魔と共に、殿下のお命もこの場で断つが良かろうの」
「え――?」
とんでもない話の流れになってしまった事に、フラニィは唖然とする。
が、騎士達が激しく躊躇いながらも、指揮官の命令に従って自分にも武器を向けようとするのを見たフラニィは、その身体と表情を強張らせた。
――と、
「……ありがとう、フラニィ。――もういいよ」
彼女に覆い被さられたハヤテが、静かに口を開く。
彼の言葉を聞いたフラニィは、何とも言えない表情を浮かべた。
「も――『もういい』って、どういう意味ですか……?」
「……もう、俺を庇おうとしなくていい――そういう意味だ」
彼は、フラニィの問いかけに小声で答えると、肩の傷の痛みに顔を顰めながら立ち上がる。
そして、フラニィも立たせると、グスターブの方に向けて、優しくその背中を押し出した。
「え……ハヤテ様……?」
驚いた顔で振り返るフラニィに向けて微笑みかけたハヤテは、すぐに表情を引き締めると、グスターブに向けて声を上げた。
「――ああ! そうだとも! この俺が、彼女を誑かしていたのさ! あの蒼い結界を越えて、ミアン王国内へ入り込む為に、な! もうお前は用済みだ!」
「え……? ハヤテ様……一体、何を言って――」
突然のハヤテの言葉に、目を丸くして声を上げようとするフラニィだが、ハヤテが小さく頭を振りながら唇の前に人差し指を立てたのを見て、ハッと息を呑む。
一方、すかさずフラニィの身を確保したグスターブは、不遜な態度のハヤテを怒りに満ちた目で睨みつけた。
「おのれ! やはり悪魔は悪魔だな! 何もお解りにならないフラニィ殿下を誑かすとは……!」
「……なあ、隊長さんよ」
怒り心頭のグスターブに、ハヤテは落ち着いた口調で声をかける。
「アンタにひとつ、提案がある」
「は? 提案だと? フン!」
ハヤテの言葉に、グスターブは鼻を鳴らした。
「ふざけるな! 栄誉ある近衛騎兵団の長たるこのワシが、お前のような悪魔の提案になど乗るか――!」
「……森の中に潜む、三人の悪魔――装甲戦士に関して、今の俺が知っている限りの情報をアンタ達に教えてやる……と言ったら?」
「……何だと?」
ハヤテの提案に、グスターブの耳がピクリと動く。
それを見て、ハヤテは内心で(食いついた)と頷きながらも、表面にはおくびにも出さずに言葉を継いだ。
「俺は、森に潜んで、アンタ達の脅威になっている者たちのひとりでは無いんだ。むしろ、そこから逃げ出して、アンタ達ミアン王国の庇護を受けようと、結界を越えてきた」
「……」
「――彼らと接触していた時間は長くは無いが、それでもアンタ達にとって有益な情報があるはずだ。俺は、それをそちらに提供する。その代わり――」
「お前がミアン王国に入るのを認めろ……そう言いたいのか?」
「……ああ」
グスターブの言葉に、ハヤテは頷く。
彼が頷くのを見たグスターブは、暫くの間、ヒゲをいじりながら考え込んでいた。
――そして、
「……良し。分かった。――だが、その前に」
そう言って頷くと、自分の手槍の穂先をハヤテの喉元に突きつけながら、探るように言う。
「悪魔が、その姿を変える時に使う魔具……お前も持っているのだろう? それをこちらに寄越せ」
「姿を変える魔具……? ああ……装甲アイテムの事か」
グスターブの言葉の意味を理解したハヤテだったが、彼の要求に従う事に対して一瞬躊躇いを覚えた。
それを見て、グスターブの表情が険しくなる。
「……何だ、渡せぬのか? ならば、この交渉は決裂――」
「ああ、分かった! 分かったよ、クソ……」
苛立たしげに叫んだハヤテは、コンセプト・ディスク・ドライブとウィンディウルフディスクを取り出し、グスターブの方に放り投げた。
それを空中でキャッチしたグスターブは、しげしげとそれを見つめると、満足げに頷く。
「良し。これでいい。望み通り……我らが王都キヤフェまで運んでやろう」
「運ぶ……? おい、それはどういう――」
グスターブの言い回しに不自然さを感じたハヤテは、訝しげな声を上げ――ようとしたが、その言葉は後頭部への激しい衝撃と痛みで唐突に途絶えた。
「がッ……!」
ぐるりと視界が回転し、青い空が見えたと思ったら、急激に目の前が暗くなる。
「は、ハヤテ様――ッ!」
微かにフラニィの叫ぶ声が聞こえたような気がしたが、すぐに何も聞こえなくなり――彼の意識は、途切れた。
三十騎ほどの馬を操る猫獣人たちに周りを取り囲まれたハヤテは、驚いて言葉を失った。
はじめは、彼らが何を言っているのかすら理解できなかったが、彼らが手にした手槍を自分に突きつけていたり、矢を番えた弓で自分に狙いを定めているのを見て、ようやく自分が置かれた立場を思い知る。
彼はブンブンと激しく首を横に振りながら、先ほど自分に鋭い声を浴びせかけた騎馬団の指揮官らしき猫獣人に向かって必死に訴えかけた。
「ち――違う! 俺は……俺は“悪魔”なんかじゃ無――」
「う、動くなっ!」
だが、指揮官は、一歩足を踏み出そうとしたハヤテにギョッとした顔を向けながら、ヒゲと毛を逆立たせて威嚇する。
――同時に、風を切る甲高い音が鳴り、ハヤテの爪先の数センチ先に数本の矢が次々と突き立った。
「そ、それ以上、一歩でも近付いてみろ! 今度は、その身体に向けて矢を放つぞ!」
「……分かった。アンタの言う通りにする」
ハヤテは、尻尾をピンと伸ばしながらヒゲを逆立たせているキジトラ柄の隊長に向け、諦め顔で頷く。
そして、徒に相手の警戒心を煽らないよう、ゆっくりと両手を上に上げた。
――と、
「ち……違うのです、グスターブ! この方……ハヤテ様は、あの悪魔達とは違うのです!」
彼の傍らで呆然と成り行きを見守るだけだったフラニィが、声を張り上げる。
彼女が上げた一声に、二人を取り囲む猫獣人の騎士達の間にどよめきが起こった。
その中央で、小さな目をまん丸にしたのは、指揮官の男――グスターブだった。
「おお……ご無事でしたか、フラニィ殿下! もう大丈夫ですぞ! 我々近衛騎兵団が、殿下をお助けに参りました!」
「助けって……だから、そうじゃないのっ!」
どこか得意げなグスターブの言葉に、フラニィは苛立ちを隠せず、首を大きく横に振った。
「こちらのハヤテ様は、確かにあの悪魔達と同じ種族のようですが……あいつらとは全然違うんです! むしろ、御自身のお命を掛けて、悪魔達の手からあたしを救い出してくれた恩人なんです! そんな御方に、そんなものを向けるのはお止しなさい!」
王女らしい威厳に満ちたフラニィの一喝に、騎士達は動揺しながら横目でお互いの顔を見合わせる。
……だが、
「おお、殿下……お労しや! さては、そこの悪魔めに脅されて、その様な世迷い言を無理矢理言わされているのですな! ……おのれ、卑劣な奴め!」
グスターブの言葉に、騎士達は再び顔を強張らせて、手槍と弓を構え直した。
それを目の当たりにしたハヤテは、両手を高く掲げたまま、グスターブに向けて必死で訴える。
「待て! ……待ってくれ! アンタ達と戦う意志は無い! 彼女――フラニィ王女の言っている事も本当だ! 俺はただ――」
「――ニャッ!」
何とか自分の思いを伝えようとしたハヤテだったが、それは逆効果だった。
彼が浮かべた必死の形相に恐怖を覚えた騎士のひとりが、思わず番えていた矢を放ってしまった。
「――グッ!」
ひょうと音を立てて飛んできた矢を左肩に受けたハヤテは、思わず呻き声を上げて、その場に膝をつく。
「ハヤテ様ッ!」
フラニィが悲鳴を上げて、彼の横に屈み込んだ。咄嗟に矢が突き立ったハヤテの肩を押さえるが、傷から流れ出る血で、彼女の腕を覆う白毛は忽ち真っ赤に染まった。
一方、傷を負ったハヤテが苦しそうに喘ぐのを見たグスターブは、興奮で鼻の頭を真っ赤にする。
「うむ……その姿ならば、我らの弓矢でも傷を負わせる事が出来るようだな! ……であれば、殺す事も出来るという事! ――この不浄な悪魔めを、これ以上、我らが王都に近付けさせる訳にはいかぬ。今の内に、この場で息の根を止めた方が良いだろうな……」
彼は、そう言って頷くと、片手を挙げて、背後の騎士達に合図を送った。
彼の合図と共に、騎士達は一斉に手槍と弓を握り直し、屈み込むハヤテに狙いを定める。
グスターブは、その鋭い牙を露わにして哄笑を浮かべると、挙げた手を前に振り下ろそうとした。
「者ども……この悪魔を殺――!」
「止めて――ッ!」
グスターブの号令がかかる寸前、金切り声で叫んだフラニィは、蹲るハヤテの背中に覆い被さった。
そんな彼女の行動を見た騎士団の間に、再び動揺が広がる。
「ふ……フラニィ殿下? い……一体、何をなさっているのですか? ま……まさか、その悪魔を庇おうと――?」
「ええ、そうです!」
唖然としたグスターブの問いかけに、フラニィは毅然とした口調で応えた。
「先ほども申しましたでしょう? この御方は、あたしの命の恩人なのです! ハヤテ様の命を奪う真似は、このあたし――ミアン王国第三王女・フラニィ・エル・ファスナフォリックが赦しません!」
「……っ!」
フラニィの断固とした言葉に、グスターブは思わず気圧され、言葉を詰まらせる。
――そして、悲しそうにヒゲを項垂れさせると、哀れむような顔でフラニィを見た。
「おお……さては、その悪魔に怪しげなる術をかけられて、正気を失っておられるようだ。……でなくば、先だって我が近衛兵三十四名を鏖殺してのけた悪魔のひとりを庇うはずが無い」
「――ですから、ハヤテ様は……!」
「こうなっては致し方ない。甚だ不敬とはなりますが……悪魔に操られてしまったフラニィ殿下をご覧に入れて陛下を悲しませるよりは、その悪魔と共に、殿下のお命もこの場で断つが良かろうの」
「え――?」
とんでもない話の流れになってしまった事に、フラニィは唖然とする。
が、騎士達が激しく躊躇いながらも、指揮官の命令に従って自分にも武器を向けようとするのを見たフラニィは、その身体と表情を強張らせた。
――と、
「……ありがとう、フラニィ。――もういいよ」
彼女に覆い被さられたハヤテが、静かに口を開く。
彼の言葉を聞いたフラニィは、何とも言えない表情を浮かべた。
「も――『もういい』って、どういう意味ですか……?」
「……もう、俺を庇おうとしなくていい――そういう意味だ」
彼は、フラニィの問いかけに小声で答えると、肩の傷の痛みに顔を顰めながら立ち上がる。
そして、フラニィも立たせると、グスターブの方に向けて、優しくその背中を押し出した。
「え……ハヤテ様……?」
驚いた顔で振り返るフラニィに向けて微笑みかけたハヤテは、すぐに表情を引き締めると、グスターブに向けて声を上げた。
「――ああ! そうだとも! この俺が、彼女を誑かしていたのさ! あの蒼い結界を越えて、ミアン王国内へ入り込む為に、な! もうお前は用済みだ!」
「え……? ハヤテ様……一体、何を言って――」
突然のハヤテの言葉に、目を丸くして声を上げようとするフラニィだが、ハヤテが小さく頭を振りながら唇の前に人差し指を立てたのを見て、ハッと息を呑む。
一方、すかさずフラニィの身を確保したグスターブは、不遜な態度のハヤテを怒りに満ちた目で睨みつけた。
「おのれ! やはり悪魔は悪魔だな! 何もお解りにならないフラニィ殿下を誑かすとは……!」
「……なあ、隊長さんよ」
怒り心頭のグスターブに、ハヤテは落ち着いた口調で声をかける。
「アンタにひとつ、提案がある」
「は? 提案だと? フン!」
ハヤテの言葉に、グスターブは鼻を鳴らした。
「ふざけるな! 栄誉ある近衛騎兵団の長たるこのワシが、お前のような悪魔の提案になど乗るか――!」
「……森の中に潜む、三人の悪魔――装甲戦士に関して、今の俺が知っている限りの情報をアンタ達に教えてやる……と言ったら?」
「……何だと?」
ハヤテの提案に、グスターブの耳がピクリと動く。
それを見て、ハヤテは内心で(食いついた)と頷きながらも、表面にはおくびにも出さずに言葉を継いだ。
「俺は、森に潜んで、アンタ達の脅威になっている者たちのひとりでは無いんだ。むしろ、そこから逃げ出して、アンタ達ミアン王国の庇護を受けようと、結界を越えてきた」
「……」
「――彼らと接触していた時間は長くは無いが、それでもアンタ達にとって有益な情報があるはずだ。俺は、それをそちらに提供する。その代わり――」
「お前がミアン王国に入るのを認めろ……そう言いたいのか?」
「……ああ」
グスターブの言葉に、ハヤテは頷く。
彼が頷くのを見たグスターブは、暫くの間、ヒゲをいじりながら考え込んでいた。
――そして、
「……良し。分かった。――だが、その前に」
そう言って頷くと、自分の手槍の穂先をハヤテの喉元に突きつけながら、探るように言う。
「悪魔が、その姿を変える時に使う魔具……お前も持っているのだろう? それをこちらに寄越せ」
「姿を変える魔具……? ああ……装甲アイテムの事か」
グスターブの言葉の意味を理解したハヤテだったが、彼の要求に従う事に対して一瞬躊躇いを覚えた。
それを見て、グスターブの表情が険しくなる。
「……何だ、渡せぬのか? ならば、この交渉は決裂――」
「ああ、分かった! 分かったよ、クソ……」
苛立たしげに叫んだハヤテは、コンセプト・ディスク・ドライブとウィンディウルフディスクを取り出し、グスターブの方に放り投げた。
それを空中でキャッチしたグスターブは、しげしげとそれを見つめると、満足げに頷く。
「良し。これでいい。望み通り……我らが王都キヤフェまで運んでやろう」
「運ぶ……? おい、それはどういう――」
グスターブの言い回しに不自然さを感じたハヤテは、訝しげな声を上げ――ようとしたが、その言葉は後頭部への激しい衝撃と痛みで唐突に途絶えた。
「がッ……!」
ぐるりと視界が回転し、青い空が見えたと思ったら、急激に目の前が暗くなる。
「は、ハヤテ様――ッ!」
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