装甲戦士テラ〜異世界に堕ちた仮面の戦士は、誰が為に戦うのか〜

朽縄咲良

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第八章 装甲戦士たちは、何を求めるのか

第八章其の壱拾弐 利害

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 「と……ところで……!」

 その時、天音が、上ずった声を上げた。

「聡おじ……いえ、う、牛島! あ……アイツは――あのバカは、どうしてるの?」
「あのバカ……あぁ、薫くんの事か」

 思わず昔の呼び方をしそうになって、慌てて呼び捨てに言い直した天音に、牛島は苦笑いを向ける。

「薫くんは元気だよ。……まぁ、ケンカ友達だった健一くんを亡くして、大分気落ちはしてるがね」
「……そうだよね。アイツと健一くん、何だかんだで仲が良かったもんね。――それでも、元気なんだ……アイツ……」
「ふぅん……気になるようだね、彼の事が」
「は、はぁあ~っ?」

 牛島の一言を聞くや、天音は顔を顰めて、思い切り首を左右に振った。

「あ――アイツが気になる訳無いでしょっ? あんな、乱暴で大雑把で単細胞でダサい男の事なんか!」
「おやおや、酷い言われようだね、薫くん。さすがに可哀相だ」
「ふんっ! まだまだ言い足りないわ!」
「――そういえば」

 からかうように煽る牛島と、眉を吊り上げながら捲し立てる天音の会話に、オリジンが割り込む。

来島くるしまは来ていないのか? 姿が見えないようだが」
「……ええ」

 オリジンの問いかけに、牛島は小さく頷く。

「――先ほどもチラリと言いましたが、薫くんは、健一くんが死んだ事に対して強いショックを受けていまして……。あれから食欲もなく、小屋の隅で一日中膝を抱えている有様です。――まったく、人ひとりが死んだ程度の事で、情けないですよ」

 呆れたと言わんばかりに肩を竦めてみせた彼は、更に言葉を継ぐ。

「……なので、薫くんは留守番としてアジトに残し、ここへは私ひとりで来ました。まあ、連れてきたところで、あんな腑抜けた状態の彼に何が出来る訳でもありませんし、私には護衛など不要ですしね」
「そ……そんな言い方――」

 牛島の冷たい言い方に、思わず声を荒げようとする天音だったが、オリジンは軽く手を上げて彼女を制した。
 そして、腕組みをしながら、静かに口を開く。

「うむ――お前たちの状況は、把握した」
「……」
「半年前――ここを出奔していった五人の内、木羽誠ガジェット・シーフ・有瀬健一Z2が死亡。現時点で健在なのは、来島薫ツールズ牛島聡ジュエルだけだという事だな?」
「……はい」

 オリジンの確認に、牛島は首を縦に振った。
 それを見たオリジンも、彼に頷き返すと、考え込むように顎に指を当てる。

「そして……、この世界に住み、“石棺”を守る猫獣人の間には、『石棺を破壊すると、この世界が滅びる』という言い伝えが残っていて、彼らがその言い伝えを守ろうとする限り、『石棺の破壊』を最終目的とする我々とは利害が対立する――」
「……ええ」
「更に、理由は不明だが、何故か猫獣人側に加担しようとするオチビト――ホムラハヤテテラという名の男が現れ、『石棺の破壊』という我々の目的達成の大きな障害になりつつある――と」
「……その通りです」
「……」

 再び頷く牛島の事を下から睨め上げたオリジンは、その赤いアイユニットで彼の表情をじっと観察する。
 そして、低い声で問いかけた。

「で――、お前のは、何だ? ――ただ報告をする為だけに、わざわざここまで出向いた訳でもあるまい?」
「……さすが、お見通しですね」

 オリジンの核心を衝く問いかけにも動揺の色を見せず、牛島はその顔に穏やかな微笑みすら浮かべてみせる。
 彼の表情を見たオリジンは、「ふん……」と鼻を鳴らすと、くいっと顎を動かした。
 そのオリジンの仕草を、「言え」という意味だと解釈した牛島は、舌で唇を湿らしてから言葉を継ぐ。

「――目的というのは、他でもありません。こちらに所属しているオチビトの中から、ヘルプとして数名貸してほしいのです」
「は……はぁ? あ……あなた、正気? 何であたし達の仲間が、勝手に出て行ったあなた達のヘルプを――」
「天音君」
「――ッ!」

 牛島の申し出に対して激しい拒否反応を見せる天音を、オリジンの一言が黙らせた。
 しぶしぶといった様子で口を噤む天音を一瞥した後、オリジンは顎をしゃくって、牛島に発言の続きを促す。
 牛島は、「どうも」とオリジンに一礼をすると、先ほどの続きを放し始めた。

「……先ほどお伝えした事情により、現在こちらに残っているオチビトは、私と薫くんのふたりだけになってしまいました。万が一、猫獣人たちが我々のアジトを急襲してきた場合、ふたりだけでは抗いきれません」
「……」
「更に――現在猫獣人たちと行動を共にしている疾風くんは、今までひた隠しにしてきた私たちのアジトの位置を把握している可能性が高い」
「――その、ハヤテとかいう男からお前たちのアジトの位置を訊き出した猫獣人どもによって、襲撃を受ける可能性が高い。……それに備えて、戦力となる装甲戦士アームド・ファイターの頭数を予め増やしておきたい。……そういう事か」
「そういう事です」

 自分の思考を先読みしたオリジンに向け、満足げな笑みを湛えて頷く牛島。
 それに対して、考え込むように腕を組み直したオリジンは、大きな溜息を吐きながら首を傾げた。

「……確かに、お前の言う事にも一理ある。……だが、それはあくまでも、――だ」

 オリジンは、冷めた声でそう言うと、静かに牛島の顔を睨みつける。

「――お前たちの元に仲間を手助けに行かせる事で、我々には何の得が発生するというのだ?」
「……」
「残念ながら、今の話を聞いただけでは、我々の側に何のメリットも認められない。それでは、僕たちの仲間を出してやる気にはならん。――仲間、勝手に組織を抜けた者たちの為ともなれば、尚更だ。……生憎だが、僕たちがここで行なっているのは、慈善事業などではないからな」

 そこまで言うと、一瞬オリジンは口を閉じた。
 一方の牛島は、オリジンのつれない答えを聞いた瞬間、薄笑いを浮かべていた口をへの字に曲げ、秘かに舌を打つ。

「……」
「……」

 険しい様子で、互いに睨み合うふたりの間に、やにわに緊迫した空気が張り詰めた。
 ――と、

「はっはっはっ」

 急に相好を崩したのは、牛島だった。
 彼は、ジャケットのポケットに手を入れながら、ニヤリと笑う。

「……もちろんありますよ、貴方たちにもね。――メリットが」

 そう言って、彼がポケットから取り出したのは、
 ――目映く輝く、二枚の“光る板”だった。
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