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第十四章 戦士たちは、来たるべき戦いに向け、何を想うのか
第十四章其の漆 警戒
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「え――?」
ドリューシュの口から紡がれた“お願い”を聞いたハヤテは、思わず耳を疑う。
聞き間違いかとも思ったが、彼を見つめるドリューシュの真剣な表情を見て、そうではないと確信した。
ハヤテは、おずおずとドリューシュに尋ねる。
「……軟禁されているフラニィを――救出?」
「はい」
ハヤテの問いかけに対し、ドリューシュは小さく頷いた。
その反応に戸惑いながら、ハヤテは更に問いを重ねる。
「それは……王宮の主である、イドゥン王の手から――という意味ですか」
「……はい」
「……オシスの砦であなたに再会した時、俺がフラニィの近況を尋ねたら、こう言っていましたよね、ドリューシュ王子」
ドリューシュの顔を真っ直ぐに見据えながら、青ざめた顔のハヤテは言った。
「――『フラニィは、王宮の中で元気に暮らしています』って」
「……」
「あの言葉は、嘘だったんですか?」
「嘘では……ありません」
ハヤテの問いに、ドリューシュは唇を噛みながら小さく首を横に振った。
「今……フラニィは、常に“警護”という名の“見張り”によって常に監視された状態で、四囲を水堀に囲まれた別館の中に身柄を置かれています。兄上の許し無しにそこから出る事は認められておりません。……ですが、あいつ自身は元気です――」
「詭弁でしょう、それは!」
ドリューシュの答えを聞いたハヤテは、思わず声を荒げた。
「何で! 何で、俺が訊いた時にそう答えてくれなかったんですか? そうと知っていれば、俺は――」
「すぐさま助けに行ったのに……って? その――フラニィっていうお姫様を」
「ッ……」
激昂する自分を遮った碧の冷静な声に、ハヤテは返す言葉に詰まる。
そんなハヤテの顔を見上げながら、碧は咎めるように言葉を継ぐ。
「もう! あなたがそこまで取り乱すのは、それだけお姫様が大切だからだっていうのは分かるけど、少しは冷静になんなさいよ! 王子様にも事情があったんじゃないの? あの場じゃ言葉を濁さなきゃいけなかった理由が」
「――その通りです」
碧の言葉に、ドリューシュは静かに頷いた。
「オシスの砦に着いた時点では、まだ油断はできませんでしたから、迂闊な事を口走る事が出来なかったのです。……どこに、兄上の耳目が潜んでいるか分かりませんでしたから」
「……イドゥン王のスパイが、討伐隊の中に紛れ込んでいるかもしれなかった――という事ですか?」
「はい。――実際、混じってましたね。討伐隊とオシス守備隊の両方に」
そう言うと、ドリューシュは苦笑いを浮かべてみせる。
「まあ、そこら辺はご安心を。オシス砦に居る間に行った身辺調査で浮かび上がった、守備隊内の該当者は全員留守居に回しましたし、討伐隊の中のスパイは信頼できる者に監視させています。ここでの僕らの行動や会話が兄上の耳に届く事はありません」
「……それで、ここで――」
「そういう事です」
ドリューシュは再び頷くと、つと表情を引き締め、「ハヤテ殿」と呼びかけた。
その声に深刻で沈痛な響きを感じ取ったハヤテは、胸が不安でざわつくのを感じながら、ドリューシュの顔を見つめ返す。
「――はい」
「フラニィの身に、危険が迫っています」
「……!」
ドリューシュの言葉を聞いた瞬間、ハヤテの顔に緊張が走った。
一方、金色の瞳でハヤテの目をじっと見据えながら、ドリューシュは静かに言葉を継ぐ。
「今回の“森の悪魔”討伐隊の派遣ですが……恐らく、兄上が本当に望んでいるのは、我々が森の悪魔を討ち果たす事では無く、むしろ逆……。即ち、僕と貴方達が森の悪魔に返り討ちにされて、戦死する事です」
「え……う、ウソっ?」
衝撃的なドリューシュの言葉に、碧は思わず声を上ずらせた。
「そ、そんな訳無くないですか! だって……私たち装甲戦士と、猫獣人の中で一番強いっていうあなたが死んじゃったら、それこそミアン王国は無防備になっちゃうじゃない! 王様にしてみたら、自分で自分の国の寿命を縮めるようなものじゃないの……!」
「……香月さんの言う通りだ」
碧の声に、ハヤテも賛同する。
「――俺と香月さんを牛島たちにぶつけるって言うのなら、まだ話は分かる。俺たち二人は、イドゥン王や彼の取り巻きの臣下たちの多くにとっては、まだまだ“森の悪魔”と同じ、“危険で嫌悪すべき存在”という認識だろうからな」
「そんな……私たちは、全然そんな事無いのに……」
「だから、彼らが『森の悪魔同士が戦って、相討ちになって消えてくれれば万々歳だ』って考えるのは自然な事だろう。――でも、ドリューシュ王子、貴方は別だ」
そこで一旦言葉を切ると、ハヤテはドリューシュの顔に目を向けた。
「――貴方はファスナフォリック家の王子で、猫獣人たちにとっては、頼りにされ、尊敬もされている存在と聞いています。なのに、そんな貴方をイドゥン王は切り捨てようとしていると仰るんですか……?」
「――殿下が民たちの希望であり、尊敬されているからこそ……なのでしょうな」
ハヤテの疑問に対し、落ち着いた声で答えたのはドリューシュではなく、それまで黙って周囲を警戒していたヴァルトーだった。
彼は、微かに嫌悪感を露わにしながら言う。
「要するに……殿下は国王陛下――実の兄上に嫉妬されておられるのですよ。いや……むしろ、畏れられ、警戒されていると言うべきですかな」
「し、嫉妬? 実の弟に……お兄さんなのに?」
「……左様」
唖然とした顔で訊き返した碧の声を、言葉少なに肯定するヴァルトー。
そして、その目に憂いの色を浮かべながら、更に言葉を継いだ。
「ドリューシュ殿下と――そして、フラニィ殿下に対しても」
ドリューシュの口から紡がれた“お願い”を聞いたハヤテは、思わず耳を疑う。
聞き間違いかとも思ったが、彼を見つめるドリューシュの真剣な表情を見て、そうではないと確信した。
ハヤテは、おずおずとドリューシュに尋ねる。
「……軟禁されているフラニィを――救出?」
「はい」
ハヤテの問いかけに対し、ドリューシュは小さく頷いた。
その反応に戸惑いながら、ハヤテは更に問いを重ねる。
「それは……王宮の主である、イドゥン王の手から――という意味ですか」
「……はい」
「……オシスの砦であなたに再会した時、俺がフラニィの近況を尋ねたら、こう言っていましたよね、ドリューシュ王子」
ドリューシュの顔を真っ直ぐに見据えながら、青ざめた顔のハヤテは言った。
「――『フラニィは、王宮の中で元気に暮らしています』って」
「……」
「あの言葉は、嘘だったんですか?」
「嘘では……ありません」
ハヤテの問いに、ドリューシュは唇を噛みながら小さく首を横に振った。
「今……フラニィは、常に“警護”という名の“見張り”によって常に監視された状態で、四囲を水堀に囲まれた別館の中に身柄を置かれています。兄上の許し無しにそこから出る事は認められておりません。……ですが、あいつ自身は元気です――」
「詭弁でしょう、それは!」
ドリューシュの答えを聞いたハヤテは、思わず声を荒げた。
「何で! 何で、俺が訊いた時にそう答えてくれなかったんですか? そうと知っていれば、俺は――」
「すぐさま助けに行ったのに……って? その――フラニィっていうお姫様を」
「ッ……」
激昂する自分を遮った碧の冷静な声に、ハヤテは返す言葉に詰まる。
そんなハヤテの顔を見上げながら、碧は咎めるように言葉を継ぐ。
「もう! あなたがそこまで取り乱すのは、それだけお姫様が大切だからだっていうのは分かるけど、少しは冷静になんなさいよ! 王子様にも事情があったんじゃないの? あの場じゃ言葉を濁さなきゃいけなかった理由が」
「――その通りです」
碧の言葉に、ドリューシュは静かに頷いた。
「オシスの砦に着いた時点では、まだ油断はできませんでしたから、迂闊な事を口走る事が出来なかったのです。……どこに、兄上の耳目が潜んでいるか分かりませんでしたから」
「……イドゥン王のスパイが、討伐隊の中に紛れ込んでいるかもしれなかった――という事ですか?」
「はい。――実際、混じってましたね。討伐隊とオシス守備隊の両方に」
そう言うと、ドリューシュは苦笑いを浮かべてみせる。
「まあ、そこら辺はご安心を。オシス砦に居る間に行った身辺調査で浮かび上がった、守備隊内の該当者は全員留守居に回しましたし、討伐隊の中のスパイは信頼できる者に監視させています。ここでの僕らの行動や会話が兄上の耳に届く事はありません」
「……それで、ここで――」
「そういう事です」
ドリューシュは再び頷くと、つと表情を引き締め、「ハヤテ殿」と呼びかけた。
その声に深刻で沈痛な響きを感じ取ったハヤテは、胸が不安でざわつくのを感じながら、ドリューシュの顔を見つめ返す。
「――はい」
「フラニィの身に、危険が迫っています」
「……!」
ドリューシュの言葉を聞いた瞬間、ハヤテの顔に緊張が走った。
一方、金色の瞳でハヤテの目をじっと見据えながら、ドリューシュは静かに言葉を継ぐ。
「今回の“森の悪魔”討伐隊の派遣ですが……恐らく、兄上が本当に望んでいるのは、我々が森の悪魔を討ち果たす事では無く、むしろ逆……。即ち、僕と貴方達が森の悪魔に返り討ちにされて、戦死する事です」
「え……う、ウソっ?」
衝撃的なドリューシュの言葉に、碧は思わず声を上ずらせた。
「そ、そんな訳無くないですか! だって……私たち装甲戦士と、猫獣人の中で一番強いっていうあなたが死んじゃったら、それこそミアン王国は無防備になっちゃうじゃない! 王様にしてみたら、自分で自分の国の寿命を縮めるようなものじゃないの……!」
「……香月さんの言う通りだ」
碧の声に、ハヤテも賛同する。
「――俺と香月さんを牛島たちにぶつけるって言うのなら、まだ話は分かる。俺たち二人は、イドゥン王や彼の取り巻きの臣下たちの多くにとっては、まだまだ“森の悪魔”と同じ、“危険で嫌悪すべき存在”という認識だろうからな」
「そんな……私たちは、全然そんな事無いのに……」
「だから、彼らが『森の悪魔同士が戦って、相討ちになって消えてくれれば万々歳だ』って考えるのは自然な事だろう。――でも、ドリューシュ王子、貴方は別だ」
そこで一旦言葉を切ると、ハヤテはドリューシュの顔に目を向けた。
「――貴方はファスナフォリック家の王子で、猫獣人たちにとっては、頼りにされ、尊敬もされている存在と聞いています。なのに、そんな貴方をイドゥン王は切り捨てようとしていると仰るんですか……?」
「――殿下が民たちの希望であり、尊敬されているからこそ……なのでしょうな」
ハヤテの疑問に対し、落ち着いた声で答えたのはドリューシュではなく、それまで黙って周囲を警戒していたヴァルトーだった。
彼は、微かに嫌悪感を露わにしながら言う。
「要するに……殿下は国王陛下――実の兄上に嫉妬されておられるのですよ。いや……むしろ、畏れられ、警戒されていると言うべきですかな」
「し、嫉妬? 実の弟に……お兄さんなのに?」
「……左様」
唖然とした顔で訊き返した碧の声を、言葉少なに肯定するヴァルトー。
そして、その目に憂いの色を浮かべながら、更に言葉を継いだ。
「ドリューシュ殿下と――そして、フラニィ殿下に対しても」
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