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第四章 三匹が食う(ニャおニャールを)!
第四十九話 にゃおニャールと分量
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アパートにかなみさんの元カレが襲撃してきて、そしてハジさん率いる(?)“ハジ軍団”の三匹の猫との間に奇妙な契約を結んでから、二週間が経った。
三匹の猫たちは、俺と契約した通りに、夜にかなみさんが帰って来た時に、鳴き声を上げてハジさんに知らせる役目をキチンと果たしてくれているようだ。
と言っても、俺には何も聴こえないのだが、猫であるハジさんの耳にはしっかりと聴こえるらしい。
彼はピクリと耳を動かすと、一言「行ってくるニャ」と言い残し、部屋の窓を器用に開けて外へ出て行き、それからしばらくしてから、かなみさんと並んで帰ってくる。
窓越しから見える、尻尾をピンと立てて歩くその姿は、実に嬉しそうだった。
まあ、ハジさんにしてみれば、目に入れても痛くないほどに可愛い孫と一緒に散歩しているようなものなのだから、嬉しそうに見えるのも当然の事だろう。
――だからなのか、ハジさんはそのお務めを、俺が家にいる日はもちろん、バイトに出かけて不在の日も欠かさず続けているようだ。
猫になったハジさんと同居を始めて以来、そのいい加減で面倒くさがりで怠け癖のある性格に嫌というほど振り回され続けていた俺は、三日坊主になるんじゃないかと心中秘かに心配……というか確信していたのだが、その懸念をいい意味で裏切られた格好だ。
――ちなみに、かなみさんの元カレは、そのハジさんの頑張りのおかげか、この前アパートの玄関先で騒いだ時のハジさんの剣幕に恐れをなしたのか、あの時以来、一度も姿を見せていない。
このままアイツが二度とかなみさんの前に姿を現さなくなってくれればいいのだが……まだあれから二週間しか経っていない。警戒を解くのは、もう少し様子を見てからの方がいいだろう。
◆ ◆ ◆ ◆
「今帰ったニャ」
今日も仲間たちの鳴き声に呼ばれてかなみさんを迎えに行ったハジさんが、上機嫌で帰って来た。
手慣れた様子でガラス窓を器用に開けて部屋の中に入って来たハジさんは、いつもの調子で俺に顎をしゃくる。
「ん」
「あー、はいはい……今お持ちしますね~」
ハジさんの偉そうな態度にもすっかり慣れた俺は、小さく頷いてから台所に向かい、冷蔵庫に入れていた猫用の餌皿を取り出し、彼の前に置いた。
「はい、これが今日の報酬です。お疲れ様」
「ミャああああああっ!」
猫のような(というか、猫そのものだ)歓声をあげたハジさんは、目の色を変えて、目の前に置かれた餌皿に頭を突っ込む。
そして、冷蔵庫から出したばかりのにゃおニャールを貪るように舐め始めた。
「うミャい! うミャい! うミャ過ぎにゃああああ!」
「はいはい、美味いのは良~く分かりましたから、静かに食って下さい」
俺は、皿の中のにゃおニャールをひと舐めする度に歓声を上げるハジさんに呆れながら、やんわりと窘める。
だが、そんな俺の小言などお構いなしと言わんばかりに無視したハジさんは、瞬く間に餌皿を綺麗に舐め尽くした。
そして、当然のような顔で、空になった餌皿を俺に突き出す。
「おかわり!」
「いや、もう終わりっすよ! 一日一本って言ったっしょ!」
俺はキッパリと言うと、手早くハジさんの餌皿を取り上げ、流しに置いた。
それを見て、ハジさんは不満そうに耳をペタンと伏せる。
「ニャんじゃ、ケチ。いいじゃろ、もう一本くらい」
「ダメですってば。食べ過ぎは体に毒っすよ」
「余計なお世話ニャ! キンキンに冷やしたにゃおニャールを食わせるニャあ!」
「『キンキンに冷やした』って、生ビールじゃあるまいし……」
俺は、台所で新しいにゃおニャールの袋と餌皿を三つ分用意しながら、食い下がるハジさんに呆れ声を上げた。
そして、玄関口に下りて靴を履きながら、ふくれっ面のハジさんに向けて声をかけた。
「じゃあ……あっちの方にも行ってきますんで、留守番してて下さい」
「おう、行ってこい行ってこい。当分戻って来んでもいいぞ」
すっかりヘソを曲げた様子でそっぽを向き、虫でも払うように尻尾をブンブンと俺に向かって振るハジさんに苦笑しながら、俺はドアを開けようとする。
――と、その時、
「……そうニャ! ちょい待ち!」
「へ?」
突然ハジさんに呼び止められた俺は、訝しみながら訊ねた。
「……何すか?」
「良い事を考え付いたんニャ!」
俺の問いかけに、ハジさんは目をキラキラ……いや、ギラギラと輝かせながら、伸ばした前脚で俺の手元を指す。
「向こうでじゃなくて、ここでにゃおニャールを皿に盛っていけばいいんじゃニャいか? にゃおニャールを二本を三つの皿に! そうすれば、にゃおニャールが一個分余るから、それをワシが……」
「残念。生憎、その手はすぐにバレちゃうっすよ」
ドヤるハジさんに思わず苦笑しながら、俺は首を横に振った。
「あいつら、食うモンの量に関してはものすごく勘が鋭いんすよ。にゃおニャールの量が三分の二に減ってたりしたら、キレ散らかす事間違いなしっすよ」
「……ちっ! どこまでいやしいんじゃ、あの食いしん坊ども……」
「いや……仲間のにゃおニャールをちょろまかそうとしたアンタが言えた義理じゃないでしょうが」
俺は、一丁前に悔しがるハジさんに白けた視線を向ける。
……と、
「……ていうか」
ハジさんが、ふと何かに気付いた様子で俺に尋ねた。
「ニャんでおミャえさんは分かるんニャ? にゃおニャールの量を減らしてもすぐバレるって……」
「カンタンな事っすよ。……前に試した事があったんです、“経費削減”を。……即バレて引っ掻かれましたけど……」
「……」
「……」
「……おミャえさんも人の事言えんじゃろが、このけちんぼ」
三匹の猫たちは、俺と契約した通りに、夜にかなみさんが帰って来た時に、鳴き声を上げてハジさんに知らせる役目をキチンと果たしてくれているようだ。
と言っても、俺には何も聴こえないのだが、猫であるハジさんの耳にはしっかりと聴こえるらしい。
彼はピクリと耳を動かすと、一言「行ってくるニャ」と言い残し、部屋の窓を器用に開けて外へ出て行き、それからしばらくしてから、かなみさんと並んで帰ってくる。
窓越しから見える、尻尾をピンと立てて歩くその姿は、実に嬉しそうだった。
まあ、ハジさんにしてみれば、目に入れても痛くないほどに可愛い孫と一緒に散歩しているようなものなのだから、嬉しそうに見えるのも当然の事だろう。
――だからなのか、ハジさんはそのお務めを、俺が家にいる日はもちろん、バイトに出かけて不在の日も欠かさず続けているようだ。
猫になったハジさんと同居を始めて以来、そのいい加減で面倒くさがりで怠け癖のある性格に嫌というほど振り回され続けていた俺は、三日坊主になるんじゃないかと心中秘かに心配……というか確信していたのだが、その懸念をいい意味で裏切られた格好だ。
――ちなみに、かなみさんの元カレは、そのハジさんの頑張りのおかげか、この前アパートの玄関先で騒いだ時のハジさんの剣幕に恐れをなしたのか、あの時以来、一度も姿を見せていない。
このままアイツが二度とかなみさんの前に姿を現さなくなってくれればいいのだが……まだあれから二週間しか経っていない。警戒を解くのは、もう少し様子を見てからの方がいいだろう。
◆ ◆ ◆ ◆
「今帰ったニャ」
今日も仲間たちの鳴き声に呼ばれてかなみさんを迎えに行ったハジさんが、上機嫌で帰って来た。
手慣れた様子でガラス窓を器用に開けて部屋の中に入って来たハジさんは、いつもの調子で俺に顎をしゃくる。
「ん」
「あー、はいはい……今お持ちしますね~」
ハジさんの偉そうな態度にもすっかり慣れた俺は、小さく頷いてから台所に向かい、冷蔵庫に入れていた猫用の餌皿を取り出し、彼の前に置いた。
「はい、これが今日の報酬です。お疲れ様」
「ミャああああああっ!」
猫のような(というか、猫そのものだ)歓声をあげたハジさんは、目の色を変えて、目の前に置かれた餌皿に頭を突っ込む。
そして、冷蔵庫から出したばかりのにゃおニャールを貪るように舐め始めた。
「うミャい! うミャい! うミャ過ぎにゃああああ!」
「はいはい、美味いのは良~く分かりましたから、静かに食って下さい」
俺は、皿の中のにゃおニャールをひと舐めする度に歓声を上げるハジさんに呆れながら、やんわりと窘める。
だが、そんな俺の小言などお構いなしと言わんばかりに無視したハジさんは、瞬く間に餌皿を綺麗に舐め尽くした。
そして、当然のような顔で、空になった餌皿を俺に突き出す。
「おかわり!」
「いや、もう終わりっすよ! 一日一本って言ったっしょ!」
俺はキッパリと言うと、手早くハジさんの餌皿を取り上げ、流しに置いた。
それを見て、ハジさんは不満そうに耳をペタンと伏せる。
「ニャんじゃ、ケチ。いいじゃろ、もう一本くらい」
「ダメですってば。食べ過ぎは体に毒っすよ」
「余計なお世話ニャ! キンキンに冷やしたにゃおニャールを食わせるニャあ!」
「『キンキンに冷やした』って、生ビールじゃあるまいし……」
俺は、台所で新しいにゃおニャールの袋と餌皿を三つ分用意しながら、食い下がるハジさんに呆れ声を上げた。
そして、玄関口に下りて靴を履きながら、ふくれっ面のハジさんに向けて声をかけた。
「じゃあ……あっちの方にも行ってきますんで、留守番してて下さい」
「おう、行ってこい行ってこい。当分戻って来んでもいいぞ」
すっかりヘソを曲げた様子でそっぽを向き、虫でも払うように尻尾をブンブンと俺に向かって振るハジさんに苦笑しながら、俺はドアを開けようとする。
――と、その時、
「……そうニャ! ちょい待ち!」
「へ?」
突然ハジさんに呼び止められた俺は、訝しみながら訊ねた。
「……何すか?」
「良い事を考え付いたんニャ!」
俺の問いかけに、ハジさんは目をキラキラ……いや、ギラギラと輝かせながら、伸ばした前脚で俺の手元を指す。
「向こうでじゃなくて、ここでにゃおニャールを皿に盛っていけばいいんじゃニャいか? にゃおニャールを二本を三つの皿に! そうすれば、にゃおニャールが一個分余るから、それをワシが……」
「残念。生憎、その手はすぐにバレちゃうっすよ」
ドヤるハジさんに思わず苦笑しながら、俺は首を横に振った。
「あいつら、食うモンの量に関してはものすごく勘が鋭いんすよ。にゃおニャールの量が三分の二に減ってたりしたら、キレ散らかす事間違いなしっすよ」
「……ちっ! どこまでいやしいんじゃ、あの食いしん坊ども……」
「いや……仲間のにゃおニャールをちょろまかそうとしたアンタが言えた義理じゃないでしょうが」
俺は、一丁前に悔しがるハジさんに白けた視線を向ける。
……と、
「……ていうか」
ハジさんが、ふと何かに気付いた様子で俺に尋ねた。
「ニャんでおミャえさんは分かるんニャ? にゃおニャールの量を減らしてもすぐバレるって……」
「カンタンな事っすよ。……前に試した事があったんです、“経費削減”を。……即バレて引っ掻かれましたけど……」
「……」
「……」
「……おミャえさんも人の事言えんじゃろが、このけちんぼ」
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