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第五章 NYAH NYAH NYAH
第六十話 異状と犯人
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「ニャ……?」
「かなみさんが攫われた」という俺の言葉を聞いたハジさんは、その金色の瞳を飛び出さんばかりに見開いた。
そして、血相を変えて俺に詰め寄る。
「ニャんじゃと? それは本当かッ? か、かなみが……攫われたじゃとッ?」
「う……うん」
俺は、ハジさんの剣幕に気圧されながら、おずおずと頷いた。
そして、道路の真ん中で転がってるかなみさんのカバンをチラリと見て、思わず「……ていうか」と首を傾げる。
「この状況を見たら、普通に攫われたって思いそうなもんだけど……」
「いや、ワシャてっきり、かなみが不埒な事をしようとしてきたおミャえさんを思いっ切りブッ叩いて逃げた跡ニャんじゃと思うたんじゃが……」
「いやいやいや! んな訳無いでしょうがッ!」
ハジさんの答えを聞いて、俺は思わず声を荒げた。
「俺が、かなみさんにそんな事するような酷い男に見えるんすか、ハジさんはッ?」
「まあ……言われてみればそうじゃのう」
「でしょ?」
「ヘタレでネクラなおミャえさんに、女子を手籠めにしようとする度胸ニャんぞある訳ないわニャあ」
「そうそ……いや、そっちかよッ!」
ハジさんの言葉に思わず頷きかけた俺は、慌てて首を激しく左右に振りながら叫ぶ。
……だが、すぐにそんな事を言っている場合じゃない事に気付き、顔を青ざめさせた。
「……って、それよりも! か、かなみさんの事が……!」
「おお、そうじゃった……!」
ハジさんも、俺の声に真剣な表情を浮かべる。
俺は、途方に暮れながら、キョロキョロと周囲を見回した。
……見る限り、路地の様子はいつもと変わらない。それだけに、道の真ん中に忽然と落ちているかなみさんのショルダーバッグの非日常さが際立っていた。
――と、
「……そういえば」
俺は、ふと違和感に気付いた。
――より正確に言えば、さっき感じた違和感が無くなっている事に気付いた。
「ハジさん! 軽バン……そこに停まってた白の軽バンがいなくなってる!」
「……軽バンじゃと?」
ハジさんは、上ずった俺の言葉を聞くや、訝しげにヒゲをヒクヒクと動かしながら首を傾げる。
「ワシがここに来た時には、そんな車停まってニャかったが……」
そう、戸惑い混じりに呟いたハジさんは、かなみさんのショルダーバッグの周りで匂いを嗅いでいるハジ軍団の三匹に向けて「にゃああぁ~?」と、間延びした鳴き声で尋ねかけた。
すると――、
「にゃあぁ」
「みゃう……」
「ふにゅう~……」
ハジさんの鳴き声に応えるように、三匹の猫たちは三者三様の鳴き声を返す。
それを聞いたハジさんは、表情を曇らせながら、俺に向かって首を左右に振った。
「うむぅ……どうやら、こやつらがここに来た時点で、車はいなかったようじゃニャ」
「そうなのか……」
半ば予想通りのハジさんの答えに、俺は落胆する。
――それと同時に確信した。
「――じゃあ、やっぱりあの軽バンだ! あの車で、かなみさんは攫われたんですよ、ハジさんッ!」
「どうしてそう言い切れる?」
訊き返すハジさんに、俺はあの時の事を思い返しながら答える。
「俺が何か棒みたいなもので頭を殴られて気を失ったのは、ここに停まっていた白の軽バンを避けて通り過ぎたすぐ後だったんですよ! 多分……俺が通り過ぎた後でこっそり車から降りて、邪魔な俺を背後からぶん殴って気絶させた後で――」
「……かなみの事を捕まえて、その車の中に押し込んで連れ去った……そういう事か!」
俺の説明に納得したハジさんは、激しい怒りで全身の毛を逆立てた。
「おニョれ! ワシの可愛い孫娘を拐しおるとは……ふてえ野郎が! 一体どこのどいつニャ、その罰当たりモンはぁっ?」
「あ……それはハッキリ覚えてます」
怒りに打ち震えるハジさんに、俺も険しい表情を浮かべながら言う。
「意識が飛ぶ寸前、かなみさんが叫んでいるのが聞こえました……“タクミ”って!」
「タクミ……はて、誰ニャったかのう?」
「忘れたんすかッ? アイツですよ! この前、家まで押しかけてきたかなみさんの元カレです!」
「あ……あぁ~! アレか、あの勘違いキノコ頭かぁっ!」
ようやく記憶が蘇ったらしいハジさんが、牙を剥き出しながら怒声を上げた。
「あのモヤシ元カレ……初めて見た時もヤバそうな奴だと思っておったが、やっぱりろくでもない事をしでかしおったっちゅう訳かッ!」
「みたいですね……」
怒りに震えるハジさんを前に、俺も唇を噛む。
「最近はおとなしくしてるってかなみさんが言ってたので、油断しちゃってました……。俺がついていながら、むざむざ攫われちゃうなんて……クソッ!」
「うむ……それは確かにそうじゃのう」
「……」
ハジさんの肯定の言葉に、俺は無言で項垂れた。ハジさんに何を言われても、俺には返す言葉も無いし、言葉を返すつもりもない……。
「……じゃが」
と、その時、ハジさんがおもむろにハッとした俺の顔をじっと見上げながら、言葉を継ぐ。
「今はそんニャ事を悔やんでおる場合じゃニャい。反省する暇があるニャら、かなみを見つけ出す事に費やすんニャ。一分でも一秒でも早く、ニャ!」
「……そうっすね」
ハジさんの言葉に、俺は大きく頷き、決意を新たにする。
「こうなったら……絶対にかなみさんを助け出して、あのキノコヤローの事をぶっ飛ばしてやりますよ!」
「かなみさんが攫われた」という俺の言葉を聞いたハジさんは、その金色の瞳を飛び出さんばかりに見開いた。
そして、血相を変えて俺に詰め寄る。
「ニャんじゃと? それは本当かッ? か、かなみが……攫われたじゃとッ?」
「う……うん」
俺は、ハジさんの剣幕に気圧されながら、おずおずと頷いた。
そして、道路の真ん中で転がってるかなみさんのカバンをチラリと見て、思わず「……ていうか」と首を傾げる。
「この状況を見たら、普通に攫われたって思いそうなもんだけど……」
「いや、ワシャてっきり、かなみが不埒な事をしようとしてきたおミャえさんを思いっ切りブッ叩いて逃げた跡ニャんじゃと思うたんじゃが……」
「いやいやいや! んな訳無いでしょうがッ!」
ハジさんの答えを聞いて、俺は思わず声を荒げた。
「俺が、かなみさんにそんな事するような酷い男に見えるんすか、ハジさんはッ?」
「まあ……言われてみればそうじゃのう」
「でしょ?」
「ヘタレでネクラなおミャえさんに、女子を手籠めにしようとする度胸ニャんぞある訳ないわニャあ」
「そうそ……いや、そっちかよッ!」
ハジさんの言葉に思わず頷きかけた俺は、慌てて首を激しく左右に振りながら叫ぶ。
……だが、すぐにそんな事を言っている場合じゃない事に気付き、顔を青ざめさせた。
「……って、それよりも! か、かなみさんの事が……!」
「おお、そうじゃった……!」
ハジさんも、俺の声に真剣な表情を浮かべる。
俺は、途方に暮れながら、キョロキョロと周囲を見回した。
……見る限り、路地の様子はいつもと変わらない。それだけに、道の真ん中に忽然と落ちているかなみさんのショルダーバッグの非日常さが際立っていた。
――と、
「……そういえば」
俺は、ふと違和感に気付いた。
――より正確に言えば、さっき感じた違和感が無くなっている事に気付いた。
「ハジさん! 軽バン……そこに停まってた白の軽バンがいなくなってる!」
「……軽バンじゃと?」
ハジさんは、上ずった俺の言葉を聞くや、訝しげにヒゲをヒクヒクと動かしながら首を傾げる。
「ワシがここに来た時には、そんな車停まってニャかったが……」
そう、戸惑い混じりに呟いたハジさんは、かなみさんのショルダーバッグの周りで匂いを嗅いでいるハジ軍団の三匹に向けて「にゃああぁ~?」と、間延びした鳴き声で尋ねかけた。
すると――、
「にゃあぁ」
「みゃう……」
「ふにゅう~……」
ハジさんの鳴き声に応えるように、三匹の猫たちは三者三様の鳴き声を返す。
それを聞いたハジさんは、表情を曇らせながら、俺に向かって首を左右に振った。
「うむぅ……どうやら、こやつらがここに来た時点で、車はいなかったようじゃニャ」
「そうなのか……」
半ば予想通りのハジさんの答えに、俺は落胆する。
――それと同時に確信した。
「――じゃあ、やっぱりあの軽バンだ! あの車で、かなみさんは攫われたんですよ、ハジさんッ!」
「どうしてそう言い切れる?」
訊き返すハジさんに、俺はあの時の事を思い返しながら答える。
「俺が何か棒みたいなもので頭を殴られて気を失ったのは、ここに停まっていた白の軽バンを避けて通り過ぎたすぐ後だったんですよ! 多分……俺が通り過ぎた後でこっそり車から降りて、邪魔な俺を背後からぶん殴って気絶させた後で――」
「……かなみの事を捕まえて、その車の中に押し込んで連れ去った……そういう事か!」
俺の説明に納得したハジさんは、激しい怒りで全身の毛を逆立てた。
「おニョれ! ワシの可愛い孫娘を拐しおるとは……ふてえ野郎が! 一体どこのどいつニャ、その罰当たりモンはぁっ?」
「あ……それはハッキリ覚えてます」
怒りに打ち震えるハジさんに、俺も険しい表情を浮かべながら言う。
「意識が飛ぶ寸前、かなみさんが叫んでいるのが聞こえました……“タクミ”って!」
「タクミ……はて、誰ニャったかのう?」
「忘れたんすかッ? アイツですよ! この前、家まで押しかけてきたかなみさんの元カレです!」
「あ……あぁ~! アレか、あの勘違いキノコ頭かぁっ!」
ようやく記憶が蘇ったらしいハジさんが、牙を剥き出しながら怒声を上げた。
「あのモヤシ元カレ……初めて見た時もヤバそうな奴だと思っておったが、やっぱりろくでもない事をしでかしおったっちゅう訳かッ!」
「みたいですね……」
怒りに震えるハジさんを前に、俺も唇を噛む。
「最近はおとなしくしてるってかなみさんが言ってたので、油断しちゃってました……。俺がついていながら、むざむざ攫われちゃうなんて……クソッ!」
「うむ……それは確かにそうじゃのう」
「……」
ハジさんの肯定の言葉に、俺は無言で項垂れた。ハジさんに何を言われても、俺には返す言葉も無いし、言葉を返すつもりもない……。
「……じゃが」
と、その時、ハジさんがおもむろにハッとした俺の顔をじっと見上げながら、言葉を継ぐ。
「今はそんニャ事を悔やんでおる場合じゃニャい。反省する暇があるニャら、かなみを見つけ出す事に費やすんニャ。一分でも一秒でも早く、ニャ!」
「……そうっすね」
ハジさんの言葉に、俺は大きく頷き、決意を新たにする。
「こうなったら……絶対にかなみさんを助け出して、あのキノコヤローの事をぶっ飛ばしてやりますよ!」
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