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第五章 NYAH NYAH NYAH
第六十七話 失敗と絶体絶命
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「全然知りもしないくせに、勝手に決めつけないで!」
壁越しに、激昂したかなみさんの怒声が聴こえてくる。
「あなたへの当てつけなんかじゃないわ! 私は、自分が会いたいから悠馬さんと会ってるの!」
……えっ? かなみさん、今何て言った? 『自分が会いたいから』……?
ひょ……ひょっとして、かなみさんは、俺の事――
「ハジちゃんとも会えるし!」
……あっ、そういう事っすか。
ソウデスヨネー。ハジさんは、外見だけ見れば可愛い子猫ですもんねぇ……中身はともかくとして。
「ニャッフッフッ!」
……ドヤるな、この化け猫。
俺は、自分の足元で勝ち誇ったように満面の笑みを浮かべているハジさんにジト目を向ける。
――と、
「――だから、あなたへの当てつけなんかじゃ全然無いの! 変な勘違いしないで!」
そんなかなみさんの叫び声の後に、“パン!”という乾いた音が上がり、俺とハジさんはハッとして目を上げた。
一瞬だけ静まった室内に、再び元カレの低い声が響く。
「あぁ……ごめん、カナミン。ボクとしたことが、ついカッとして手を挙げちゃったよ。許しておくれ」
……あのクソ元カレ!
今響いた音が、かなみさんの頬を元カレが平手打ちした音だと気づいた俺は、全身の血液が沸騰するように感じながら、すぐさま部屋の中に突っ込もうとした――が、
「くっくっく……そんなDVしてたら、そら他の男に乗り換えられるわなぁ」
「……ッ!」
唐突に上がった、元カレのものじゃない男の声が耳に入り、俺は慌てて動きを止めた。
……そうだった。部屋の中には、元カレだけじゃなくて、その仲間も居るんだった……。
少し冷静になってその事を思い出した俺は、緊張で顔が強張るのを感じながら、壁にピタリと背中を付ける。
そして、手に持った角材を握り締めながら、再び内部の様子を窺う為に出来る限り入り口の脇に近付こうと、一歩踏み出した。
――と、その時、
カツンッ……
……真っ暗闇で足元が良く見えていなかった上、かなみさんの身を案じるあまりに焦っていたせいで、落ちていた小さな瓦礫をうっかり爪先で蹴飛ばしてしまった。
「あ……っ!」
「――だ、誰だぁっ!」
や、やべえっ! バレた!
すかさず部屋の中から驚き混じりの怒声が上がるのを聞いた俺は、自分のドジっぷりに天を仰いだが、自分の存在が元カレたちにバレた以上、後悔したりマゴマゴしている時間は無い。
俺は、直ちに決断を迫られた。
このまま尻尾を巻いて逃げるか、一か八か部屋の中に突っ込んで、力づくでかなみさんを助け出すか――。
「ど、どこに隠れてやがるっ?」
「痛い目に遭いたくなけりゃ、おとなしく出てこい、コラァっ!」
どっちにするかを俺が迷っている間にも、部屋の中からは若い男たちの怒声が上がる。
――と、
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!」
意外な声が、殺気立つ男たちの声を遮った。
その上ずった声は――かなみさんの元カレだ。
彼は恐怖で震える声で叫ぶ。
「ひょ、ひょっとして、今の音は人間のものじゃないんじゃないか? ほ、ほら……こ、この廃墟は、有名な心霊スポットらしいし……」
「はぁ? 何言ってんだよ、小笠原よぉ!」
元カレの震え声に応える男の声には、呆れているような響きがありありと混ざっている。
「じゃあ、何だって言うんだよ? 今の音は、幽霊が立てたとでもいうのかよ?」
「あひゃひゃ! アレか? ポルターガイストとかいうヤツか! マジで言ってんのかよ、お前?」
呆れ声を上げた男とは別の男が、下品な笑い声を上げた。
「なに? お前、そのトシでオバケとか信じちゃってんの? ジワるわ~」
「お、オバケじゃなくて幽霊だよっ!」
「同じようなもんだろ、アホらし」
からかわれたムキになって言い返した元カレに、最初の男が白け声をかける。
「つーか、そんなにユーレイが怖いんだったら、こんな廃墟に拉致った女を連れてくるんじゃねえよ」
「まあ、いくら騒がれても喚かれても、全部幽霊の仕業に出来そうなのはいいけどな。ひひひ……」
「ああ、それは確かにそうかも! ふふふ……」
……クソ野郎どもが!
俺は、下品な声で嗤う男たちの声を聞きながら、秘かに歯ぎしりする。
――その時、
「……まあ、冗談は置いといて」
という声といっしょに、金属が軋むような音が聞こえた。
どうやら、男たちのうちのひとりが、腰かけていたベッドから立ち上がったらしい。
そして、次に聞こえてきた声で、俺の心臓は縮み上がった。
「一応、廊下の方を見てみるか。まさか幽霊って事は無いだろうが、肝試しに来た人間だっていう可能性はあるからな」
「……っ!」
ま、マズい……!
今、部屋の中から顔を出されたら、一発で俺の存在がバレちゃう……!
何とか、思い留まってもらわないと……。
「おお、頼む」
――だが、そんな俺の願いは叶わなかった。
「万が一、さっきの音の主が人間だったら面倒だからな」
「まあ、そん時は、あの冴えねえ野郎にぶちかましたみたいに、脳天に一発食らわしてやりゃいいだけさ」
そんな会話を交わしながら、だんだん足音が出口に向かって近付いてくる……。
(も、もうダメかも……!)
俺は必死に、両手で口を覆って息を殺しながら、絶体絶命のピンチを前に絶望した。
――と、その時、唐突に足元から押し殺した声が上がる。
『……やれやれ。ここは、ワシが囮になるしかニャいか』
「っ!」
その囁き声を聞いてハッとした俺は、慌てて「ちょ、ちょっと待って!」と制しようとしたが――ハジさんたちは既に行動を起こしていた。
「にゃあ~っ!」
ハジさんは、大きな鳴き声を上げながら、騒々しい足音を立てて一直線に廊下の奥へと走り去る。
すると――、
「……なんだ、猫かよ。ビックリさせやがって」
出口の様子を見に来ようとしていた男の拍子抜けした声が聞こえ、すぐそこまで近づいていた足音が遠ざかっていった。
「じゃあ、さっきの音も、今の猫の仕業か」
「人騒がせなノラ猫だぜ、まったく……」
「で……でも! ぽ、ポルターガイストじゃなくて良かった……!」
他の男たちと元カレも、さっき俺が立ててしまった物音を、ハジさんが鳴らしたものだと信じ込んだようだ。
壁越しにその声を聞きながら、俺は(た……助かったぁ……)と、安堵の息をこっそり吐くのだった……。
壁越しに、激昂したかなみさんの怒声が聴こえてくる。
「あなたへの当てつけなんかじゃないわ! 私は、自分が会いたいから悠馬さんと会ってるの!」
……えっ? かなみさん、今何て言った? 『自分が会いたいから』……?
ひょ……ひょっとして、かなみさんは、俺の事――
「ハジちゃんとも会えるし!」
……あっ、そういう事っすか。
ソウデスヨネー。ハジさんは、外見だけ見れば可愛い子猫ですもんねぇ……中身はともかくとして。
「ニャッフッフッ!」
……ドヤるな、この化け猫。
俺は、自分の足元で勝ち誇ったように満面の笑みを浮かべているハジさんにジト目を向ける。
――と、
「――だから、あなたへの当てつけなんかじゃ全然無いの! 変な勘違いしないで!」
そんなかなみさんの叫び声の後に、“パン!”という乾いた音が上がり、俺とハジさんはハッとして目を上げた。
一瞬だけ静まった室内に、再び元カレの低い声が響く。
「あぁ……ごめん、カナミン。ボクとしたことが、ついカッとして手を挙げちゃったよ。許しておくれ」
……あのクソ元カレ!
今響いた音が、かなみさんの頬を元カレが平手打ちした音だと気づいた俺は、全身の血液が沸騰するように感じながら、すぐさま部屋の中に突っ込もうとした――が、
「くっくっく……そんなDVしてたら、そら他の男に乗り換えられるわなぁ」
「……ッ!」
唐突に上がった、元カレのものじゃない男の声が耳に入り、俺は慌てて動きを止めた。
……そうだった。部屋の中には、元カレだけじゃなくて、その仲間も居るんだった……。
少し冷静になってその事を思い出した俺は、緊張で顔が強張るのを感じながら、壁にピタリと背中を付ける。
そして、手に持った角材を握り締めながら、再び内部の様子を窺う為に出来る限り入り口の脇に近付こうと、一歩踏み出した。
――と、その時、
カツンッ……
……真っ暗闇で足元が良く見えていなかった上、かなみさんの身を案じるあまりに焦っていたせいで、落ちていた小さな瓦礫をうっかり爪先で蹴飛ばしてしまった。
「あ……っ!」
「――だ、誰だぁっ!」
や、やべえっ! バレた!
すかさず部屋の中から驚き混じりの怒声が上がるのを聞いた俺は、自分のドジっぷりに天を仰いだが、自分の存在が元カレたちにバレた以上、後悔したりマゴマゴしている時間は無い。
俺は、直ちに決断を迫られた。
このまま尻尾を巻いて逃げるか、一か八か部屋の中に突っ込んで、力づくでかなみさんを助け出すか――。
「ど、どこに隠れてやがるっ?」
「痛い目に遭いたくなけりゃ、おとなしく出てこい、コラァっ!」
どっちにするかを俺が迷っている間にも、部屋の中からは若い男たちの怒声が上がる。
――と、
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!」
意外な声が、殺気立つ男たちの声を遮った。
その上ずった声は――かなみさんの元カレだ。
彼は恐怖で震える声で叫ぶ。
「ひょ、ひょっとして、今の音は人間のものじゃないんじゃないか? ほ、ほら……こ、この廃墟は、有名な心霊スポットらしいし……」
「はぁ? 何言ってんだよ、小笠原よぉ!」
元カレの震え声に応える男の声には、呆れているような響きがありありと混ざっている。
「じゃあ、何だって言うんだよ? 今の音は、幽霊が立てたとでもいうのかよ?」
「あひゃひゃ! アレか? ポルターガイストとかいうヤツか! マジで言ってんのかよ、お前?」
呆れ声を上げた男とは別の男が、下品な笑い声を上げた。
「なに? お前、そのトシでオバケとか信じちゃってんの? ジワるわ~」
「お、オバケじゃなくて幽霊だよっ!」
「同じようなもんだろ、アホらし」
からかわれたムキになって言い返した元カレに、最初の男が白け声をかける。
「つーか、そんなにユーレイが怖いんだったら、こんな廃墟に拉致った女を連れてくるんじゃねえよ」
「まあ、いくら騒がれても喚かれても、全部幽霊の仕業に出来そうなのはいいけどな。ひひひ……」
「ああ、それは確かにそうかも! ふふふ……」
……クソ野郎どもが!
俺は、下品な声で嗤う男たちの声を聞きながら、秘かに歯ぎしりする。
――その時、
「……まあ、冗談は置いといて」
という声といっしょに、金属が軋むような音が聞こえた。
どうやら、男たちのうちのひとりが、腰かけていたベッドから立ち上がったらしい。
そして、次に聞こえてきた声で、俺の心臓は縮み上がった。
「一応、廊下の方を見てみるか。まさか幽霊って事は無いだろうが、肝試しに来た人間だっていう可能性はあるからな」
「……っ!」
ま、マズい……!
今、部屋の中から顔を出されたら、一発で俺の存在がバレちゃう……!
何とか、思い留まってもらわないと……。
「おお、頼む」
――だが、そんな俺の願いは叶わなかった。
「万が一、さっきの音の主が人間だったら面倒だからな」
「まあ、そん時は、あの冴えねえ野郎にぶちかましたみたいに、脳天に一発食らわしてやりゃいいだけさ」
そんな会話を交わしながら、だんだん足音が出口に向かって近付いてくる……。
(も、もうダメかも……!)
俺は必死に、両手で口を覆って息を殺しながら、絶体絶命のピンチを前に絶望した。
――と、その時、唐突に足元から押し殺した声が上がる。
『……やれやれ。ここは、ワシが囮になるしかニャいか』
「っ!」
その囁き声を聞いてハッとした俺は、慌てて「ちょ、ちょっと待って!」と制しようとしたが――ハジさんたちは既に行動を起こしていた。
「にゃあ~っ!」
ハジさんは、大きな鳴き声を上げながら、騒々しい足音を立てて一直線に廊下の奥へと走り去る。
すると――、
「……なんだ、猫かよ。ビックリさせやがって」
出口の様子を見に来ようとしていた男の拍子抜けした声が聞こえ、すぐそこまで近づいていた足音が遠ざかっていった。
「じゃあ、さっきの音も、今の猫の仕業か」
「人騒がせなノラ猫だぜ、まったく……」
「で……でも! ぽ、ポルターガイストじゃなくて良かった……!」
他の男たちと元カレも、さっき俺が立ててしまった物音を、ハジさんが鳴らしたものだと信じ込んだようだ。
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