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第五章 NYAH NYAH NYAH
第七十二話 啖呵と怒声
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「え……えぇっ?」
かなみさんの叫び声に続いて素っ頓狂な声を上げたのは、元カレだった。
「か……カナミンのおじいちゃんって……そ、そんな事ある訳無いじゃあないか……ッ?」
その震え声を聞くだけで、顔を見なくてもハッキリと分かるほどに、彼は怯えている。
「だ、だって……君のおじいちゃんは、ついこの前死んだって……!」
「は……?」
元カレの言葉に対し、俺の上に乗っかったデブが訝しげな声を上げる。
「な、何言ってんだよ? 何で、死んだジジイが、孫を助けに来れるんだよ? ま、まるで、それって幽れ――」
「そのとーりッ!」
デブの声を遮るように、ハジさんが勝ち誇った声を被せた。……暗闇の中で見えずとも、今のハジさんが調子こいたドヤ顔を浮かべているのが、俺にはありありと解る。
「そこの肥満体が言った通りニャ! ワシャ、地獄の底から蘇ってきたんニャア!」
そこまで言って一旦言葉を切ったハジさんは、暗闇の中で一瞬目を鋭く光らせて舌鋒鋭く叫んだ。
「――囚われたかなみを救い出し、よりにもよってワシの可愛い孫娘……と、ついでにそこでノビとる若造に狼藉を働きおった、身の程知らずな貴様らに天誅を下す為にニャあっ!」
……思わず、「いや、俺はついでかいっ!」とツッコみかけた俺だったが、すんでのところで堪える。
その一方で、ハジさんに啖呵を切られた男たちの間には、大きな動揺が広がったようだ。
「ゆ……幽霊っ? そんなモン、いるはずないだろうが!」
「で、でも……ここは有名な心霊スポットだし……絶対にいないとは……」
「だ、だからって言って、この女のジジイが、孫を助ける為に化けて出て来たとか……ま、マンガじゃねえんだぞ!」
動揺を隠せない声色の、デブと元カレと咥えタバコの男。
と、
「テメエら、ビビってんじゃねえよっ!」
苛立った気配のチャラ男が、三人を一喝した。
それに続いて、ベッドが軋む音が聴こえる。どうやら、ベッドに横たわるかなみさんの上に跨っていたチャラ男が、床の上に降りたらしい。
次いで、何かが鋭く空気を切るヒュンヒュンという音が鳴った。それが何なのかを悟った俺は、ハッと我に返って叫ぶ。
「気を付けてっ! そいつは、ナイフを持ってる!」
「……なるほどな」
だが、俺の叫びにハジさんよりも早く応えたのは、チャラ男の低い声だった。
「……っ!」
その声が、妙に自信を帯びている事に気付いた俺は、ハッと息を呑む。
「アンタが『ナイフに気を付けろ』って注意したって事は……やっぱ、そいつは幽霊なんかじゃねえな。幽霊には実体なんか無いから、ナイフなんて気を付ける必要ねえもんなぁ!」
「あっ……!」
チャラ男の鋭い言葉に、俺は自分が失言をしてしまった事に気付いた。
ハジさんこの世の人間ではない事は確かだが、その魂は子猫の体の中に入っている。その子猫の身体に万が一の事があれば、中に入っているハジさんの魂も一緒に死んでしまう可能性は否定できない……!
今の俺の失言は、チャラ男にそれを悟らせるには充分だった……。
「おいテメエら!」
チャラ男は、勝ち誇った声で仲間たちに向けて叫んだ。
「もうビビってる必要は無えぜ! 相手が死んだジジイの幽霊なのか違うのかは知らねえけど、少なくともナイフで刺せば死ぬヤツらしい!」
「「「……っ!」」」
「もしも幽霊だッつうなら、もう一回死んでもらう事にしようぜ! 幽霊だったら、ぶっ殺したって罪にはなんねえしな! ヒャッハッハ――ッ!」
「お、おじいちゃんっ!」
狂ったように喚いたチャラ男の哄笑を、かなみさんが必死な叫び声が遮る。
「わ、私の事はいいから、もう逃げて!」
「そ、そうっす!」
かなみさんに続いて、俺も叫んだ。
「も、もうすぐ警察が来るに違いありませんし……たとえ来なくても、俺が命に代えてもかなみさんを守りますから、大丈夫です! だから、みんな……ケガする前に逃げて下さい!」
「ニョッヒョッヒョッ!」
俺の必死の訴えを聞いたハジさんが上げた馬鹿笑いが、暗闇の中で響き渡る。
「命に代えてかなみを守るって……そんな床に這いつくばったおミャえさんが、そこからどうやってかなみを守るっちゅーんじゃい!」
「う……」
「まあ……その意気だけは買ってやるわい」
そう俺に言ったハジさんは、次にかなみさんに優しい声をかけた。
「この状況で、自分の事よりワシの身を案じてくれるとは……かなみは本当にいい娘じゃのう。あのクソボケ信一郎の娘じゃととは、とても思えぬわい」
「おじいちゃん……」
「じゃが、心配するニャ」
「え……?」
「ワシは……ワシらが、人間ごとき……しかも、こんなクズなゲス野郎どもに負けるはずがニャい!」
ハジさんの声が、きっぱりと言い切った。
「はぁ~?」
それに対し、チャラ男が嘲笑うような声で言い返す。
「死んだ後も耄碌してんじゃねえぞクソジジイ! オレらが転生の手助けしてやるから、感謝してぶっ殺されちまいな!」
「「う、おおおおお――っ!」」
そのチャラ男の怒声を合図とするかのように、デブと咥えタバコの男が雄叫びを上げる。
と、次の瞬間、
「ヒョッヒョッヒョッ! 寅次郎! 十兵衛! ルリ子さん! こらしめてやりニャさいッ!」
「「「ニャアアアアッ!」」」
まるで、どこぞの越後のちりめん問屋のご隠居みたいなハジさんの号令と、それに応える三匹の可愛らしい咆哮が、真っ暗な部屋の中で響き渡ったのだった――!
かなみさんの叫び声に続いて素っ頓狂な声を上げたのは、元カレだった。
「か……カナミンのおじいちゃんって……そ、そんな事ある訳無いじゃあないか……ッ?」
その震え声を聞くだけで、顔を見なくてもハッキリと分かるほどに、彼は怯えている。
「だ、だって……君のおじいちゃんは、ついこの前死んだって……!」
「は……?」
元カレの言葉に対し、俺の上に乗っかったデブが訝しげな声を上げる。
「な、何言ってんだよ? 何で、死んだジジイが、孫を助けに来れるんだよ? ま、まるで、それって幽れ――」
「そのとーりッ!」
デブの声を遮るように、ハジさんが勝ち誇った声を被せた。……暗闇の中で見えずとも、今のハジさんが調子こいたドヤ顔を浮かべているのが、俺にはありありと解る。
「そこの肥満体が言った通りニャ! ワシャ、地獄の底から蘇ってきたんニャア!」
そこまで言って一旦言葉を切ったハジさんは、暗闇の中で一瞬目を鋭く光らせて舌鋒鋭く叫んだ。
「――囚われたかなみを救い出し、よりにもよってワシの可愛い孫娘……と、ついでにそこでノビとる若造に狼藉を働きおった、身の程知らずな貴様らに天誅を下す為にニャあっ!」
……思わず、「いや、俺はついでかいっ!」とツッコみかけた俺だったが、すんでのところで堪える。
その一方で、ハジさんに啖呵を切られた男たちの間には、大きな動揺が広がったようだ。
「ゆ……幽霊っ? そんなモン、いるはずないだろうが!」
「で、でも……ここは有名な心霊スポットだし……絶対にいないとは……」
「だ、だからって言って、この女のジジイが、孫を助ける為に化けて出て来たとか……ま、マンガじゃねえんだぞ!」
動揺を隠せない声色の、デブと元カレと咥えタバコの男。
と、
「テメエら、ビビってんじゃねえよっ!」
苛立った気配のチャラ男が、三人を一喝した。
それに続いて、ベッドが軋む音が聴こえる。どうやら、ベッドに横たわるかなみさんの上に跨っていたチャラ男が、床の上に降りたらしい。
次いで、何かが鋭く空気を切るヒュンヒュンという音が鳴った。それが何なのかを悟った俺は、ハッと我に返って叫ぶ。
「気を付けてっ! そいつは、ナイフを持ってる!」
「……なるほどな」
だが、俺の叫びにハジさんよりも早く応えたのは、チャラ男の低い声だった。
「……っ!」
その声が、妙に自信を帯びている事に気付いた俺は、ハッと息を呑む。
「アンタが『ナイフに気を付けろ』って注意したって事は……やっぱ、そいつは幽霊なんかじゃねえな。幽霊には実体なんか無いから、ナイフなんて気を付ける必要ねえもんなぁ!」
「あっ……!」
チャラ男の鋭い言葉に、俺は自分が失言をしてしまった事に気付いた。
ハジさんこの世の人間ではない事は確かだが、その魂は子猫の体の中に入っている。その子猫の身体に万が一の事があれば、中に入っているハジさんの魂も一緒に死んでしまう可能性は否定できない……!
今の俺の失言は、チャラ男にそれを悟らせるには充分だった……。
「おいテメエら!」
チャラ男は、勝ち誇った声で仲間たちに向けて叫んだ。
「もうビビってる必要は無えぜ! 相手が死んだジジイの幽霊なのか違うのかは知らねえけど、少なくともナイフで刺せば死ぬヤツらしい!」
「「「……っ!」」」
「もしも幽霊だッつうなら、もう一回死んでもらう事にしようぜ! 幽霊だったら、ぶっ殺したって罪にはなんねえしな! ヒャッハッハ――ッ!」
「お、おじいちゃんっ!」
狂ったように喚いたチャラ男の哄笑を、かなみさんが必死な叫び声が遮る。
「わ、私の事はいいから、もう逃げて!」
「そ、そうっす!」
かなみさんに続いて、俺も叫んだ。
「も、もうすぐ警察が来るに違いありませんし……たとえ来なくても、俺が命に代えてもかなみさんを守りますから、大丈夫です! だから、みんな……ケガする前に逃げて下さい!」
「ニョッヒョッヒョッ!」
俺の必死の訴えを聞いたハジさんが上げた馬鹿笑いが、暗闇の中で響き渡る。
「命に代えてかなみを守るって……そんな床に這いつくばったおミャえさんが、そこからどうやってかなみを守るっちゅーんじゃい!」
「う……」
「まあ……その意気だけは買ってやるわい」
そう俺に言ったハジさんは、次にかなみさんに優しい声をかけた。
「この状況で、自分の事よりワシの身を案じてくれるとは……かなみは本当にいい娘じゃのう。あのクソボケ信一郎の娘じゃととは、とても思えぬわい」
「おじいちゃん……」
「じゃが、心配するニャ」
「え……?」
「ワシは……ワシらが、人間ごとき……しかも、こんなクズなゲス野郎どもに負けるはずがニャい!」
ハジさんの声が、きっぱりと言い切った。
「はぁ~?」
それに対し、チャラ男が嘲笑うような声で言い返す。
「死んだ後も耄碌してんじゃねえぞクソジジイ! オレらが転生の手助けしてやるから、感謝してぶっ殺されちまいな!」
「「う、おおおおお――っ!」」
そのチャラ男の怒声を合図とするかのように、デブと咥えタバコの男が雄叫びを上げる。
と、次の瞬間、
「ヒョッヒョッヒョッ! 寅次郎! 十兵衛! ルリ子さん! こらしめてやりニャさいッ!」
「「「ニャアアアアッ!」」」
まるで、どこぞの越後のちりめん問屋のご隠居みたいなハジさんの号令と、それに応える三匹の可愛らしい咆哮が、真っ暗な部屋の中で響き渡ったのだった――!
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