田中天狼のシリアスな日常

朽縄咲良

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第二章 田中天狼のシリアスな日常・創部編

行方彩女のシリアスな無双

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 行方会長の動きは、撫子先輩ですら反応できない、自然で無駄のない動きだった。

「あ――――!」

 数瞬後、撫子先輩も素早く取られた用紙を取り戻そうと手を伸ばすが、長身の行方会長が高く上げた腕の先には届かない。
 撫子先輩の身体がふっと沈み込む。――まさか!

「お、おい! 撫子くん! 乱暴な事は――!」

 察した武杉副会長が止めようとするが、間に合わない。
 撫子先輩の鋭い肘打ちが、行方会長の鳩尾を狙って繰り出される――!

「おっと、危ない!」

 会長の声と共に、パアンという乾いた音が、生徒会室に響いた。
 撫子先輩の肘がヒットする寸前、行方会長が左掌でその軌道を逸らしたのだ。
 勢いを逸らされ、僅かに体勢を崩される撫子先輩。と、その身体を、行方会長が抱きかかえる――。

「――――っ!」
「おいおい、いきなり何だい? びっくりするじゃないか。大丈夫かい?」

 声にならない声を上げる撫子先輩に、そう優しく問いかける行方会長。……転びかける美女を、すんでの所で優しく抱える爽やかなイケメン――これじゃまるで、

「あーっ! 見た見た、シリウスくん? これって、ラブコメの王道パターンだよぉ!」

 俺が考えた事と同じ事を、顔を紅潮させて興奮気味に叫ぶ春夏秋冬ひととせ。……あれ? 貴女、BL系だけじゃなくて、そっち系ノンケもイケる人だったのかい? 
 ――もっとも、このイケメンは歴とした女性であり、抱きかかえられた美女の方は、寸前まで殺意全開で肘打ちを繰り出してきたという、実際のラブコメ王道パターンとは随分違う状況なのだが……。
 正直、この場に行方ファンクラブの会員が居たとしたら、尊みのあまり卒倒する絵面だろう。

「――か、会長ぉ――!」

 あ、でも、武杉副会長はフクザツな表情。
 
「――――!」

 撫子先輩は、白い頬を紅潮させて、会長の腕を振り払う。そして、睨み付ける。

「そんな怖い顔するなよ、撫子。私は、この創部届を読んでみたいだけなんだ」

 睨み付けられた行方会長は、困ったように微笑む。撫子先輩は、険しい表情を崩さずに口を開く。

「――ごめんなさい、彩女さん。でも、その紙は返して下さい。書き直して、後日再提出しますので――」
「あ、ドーゾドーゾ! 是非是非目を通して下さい!」

 撫子先輩の言葉を遮ったのは、矢的先輩。もみ手をしながら言う。アンタは時代劇の悪徳商人か。

「呼んで頂ければ、ご聡明な彩女会長サマならば、どっかの堅物武杉と違って、我が奇名部の素晴らしさと、持ち得る可能性の高さがご理解頂けると思います!」
「あ、矢的! お前また――!」
「お、そうか? ハハハ、それは楽しみだな」

 矢的先輩の調子の良い言葉に苦笑しながら、手にした書類に目を落とす会長。
 俺と春夏秋冬ひととせは、彼の背後から小声で、

「……ちょっと、矢的先輩! あんまり調子イイ事言っちゃうと、引っ込みが付かなくなるんじゃ――」
「……それに、なでしこセンパイの顔……あれ、相当怒ってるよ……」
「…………あ」

 春夏秋冬ひととせの言葉に、恵比寿顔でホクホクしていた矢的先輩の顔が、サーッと青ざめる。
 撫子先輩が、能面の如き無表情で彼を睨んでいる事に気が付いたからだ。――いつも微笑んでいる美人の無表情――先程、会長に挑みかかる時に見せた怒りの表情よりも、よっぽど凄味がある……。

「――あーあ、ヤバいぞ。あれは相当おかんむりだぞ、撫子くん……。矢的、ここは撫子くんの言うとおりに、一旦持ち帰った方が良かったんじゃないか――?」

 ニヤニヤと笑いながらの武杉副会長の言葉に、矢的先輩はゴクリと唾を飲み込む。

「あ――あの、会長ぉ! やっぱり今日は――」
「プ、プハハハハハハハ!」

 慌てて声を上げた矢的先輩の声を遮って、爆笑が響いた。――というか、この人会長破顔わらうのも、まるで舞台俳優みたいだな……。

「いや、これは……確かに武杉は承認しないだろうな。この活動内容では……というか、活動内容じゃないし……フフ」

 一通り爆笑した後、会長は口を開いた。……そんなに、涙が出るほど面白かったのか。

「いや、さすがにこれでは私でも承認できないな。――これだけでは・・・・・・

 その言葉を聞いて、武杉副会長は満足そうに頷き、春夏秋冬ひととせはガックリし、――矢的先輩は、目を輝かせた。

「『これだけでは』……? て事は――」

 矢的先輩の言葉に、行方会長は微笑って頷き、一本、指を立てた。

「この創部届を承認してほしいというのなら――ひとつ、条件がある」
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