田中天狼のシリアスな日常

朽縄咲良

文字の大きさ
37 / 73
第四章 田中天狼のシリアスな日常・奮闘編

矢的杏途龍のシリアスなホンネ

しおりを挟む
 「…………何やってんすか?」

 体育祭の閉会式が終わり、解散となった後、俺は、当惑と呆れをない交ぜにした言葉を、目の前でうつぶせに寝転がって、バンザイをするかのように手を前に突き出している矢的先輩に投げかけた。

土下寝どげねですって。土下座の最終進化形で、最高級の謝罪表現らしいわよ」

 隣の撫子先輩が説明してくれた。

「すまねえ……すまねえ……」

 よく耳を澄ませば、うつぶせになったまま、矢的先輩はぶつぶつ呟いている。

「……申し訳ないという気持ちの表れというのは理解しましたけど……地球に向かって謝ってる事になるんですがそれは……」
「ってゆーか、別にアンディ先輩が謝る事でもないしー」

 春夏秋冬ひととせが、慌てて言う。

「……まあ、結果的に、文化部対抗障害物リレーは、ノーゲームになった訳ですし……」

 結局、十亀部長が股間を強打して、泡を噴いて昏倒した為、競技は中断し、そのまま中止となった。
 担架で運ばれていった十亀部長は、そのまま帰ってくる事は無かった。遠くで救急車のサイレンが鳴っていたので、そのまま病院送りになったのだろう。
 ――再起・・不能にならなければいいのだが……。

「そうそう! あたし達は気にしてないからさ~。もういいよ~」
「ほら、他の人たちの目もあるんで、そろそろ起きて下さいよ……」

 というか、これ以上、大の高校二年生の伸びてる姿を見ていても、何の意味も得も無い。ホント恥ずかしいんで、そろそろ止めてほしい……と、俺と春夏秋冬ひととせは、矢的先輩を引きずり立たせようとする。

「……そ、そうか? うん、ならしゃあないなあ! 今日はこの辺で勘弁し――」
「……でも、そもそも、矢的くんがバットまわりの時に、余計に回ってなければ、私達奇名部の優勝で終わってたでしょうしね……」
「「「!」」」

 ボソリと呟いた撫子先輩の一言に、俺たちは縮み上がった。
 半ば立ち上がりかけていた矢的先輩は、顔面蒼白。慌てて土下寝の姿勢を取り直す。

「す……スミマセン、ナデシコさん……ナデシコ様! 反省しています! どうか……どうかお許しを――」
「冗談よ」

 撫子先輩は、プッと吹き出した。
 撫子先輩も、そんな冗談を言うんだ……でも、正直冗談に聞こえないので、自重してほしい……。

「――でも、正直残念だったねえ。『優勝して他部の部室ゲットだぜ! 作戦』、失敗しちゃったね……」

 春夏秋冬ひととせが、しょぼんとした顔で言う。……そういえば、そんな名称だったな、今回の作戦……。

「……すまねえ……すまねえ……」
「まあ、過ぎた事はしょうがないわ。別の手を考えましょう」
「別の手…………そうだ!」

 と、春夏秋冬ひととせが、顔を輝かせる。

「アクアちゃん、何か思いついた?」
「あのさ! あたし考えたんだけどさ――そもそも部室なんて無くてもいいんじゃない?」
「え――?」

 俺たちは、春夏秋冬ひととせの言葉に虚を衝かれた。

「――どういう事?」

 撫子先輩の問いに、春夏秋冬ひととせは、一呼吸おくと、一気にまくし立てた。

「部室はもうキッパリと諦めるの。部屋の空きも無いって、この前に生徒会の人たちも言ってたし……。だから、放課後はさ――、シリウスくん家で集まって、部活動するって事にすればいいんじゃないかな?」
「は――――――――?」

 俺の顎は、音を立てて外れた。

「いわゆるひとつの、逆転のハッソウってヤツ!」ドヤ顔の春夏秋冬ひととせ
「シリウスくん家、学校から近いしさ。シリウスくんのおかあさんも、『いつでも遊びにおいでね~』って言ってたし! 色々揃ってるし~!」

 待て待て待て! お前が言う「揃ってる」って、『炎愛の極星』関連書籍の薄い本・・・だろ!

「……わ、悪くないわね」

 撫子先輩!?
 マズい。この流れはヒジョーにマズい! このままではなし崩しに春夏秋冬ひととせの提案が正式採用されてしまう――!
 この流れ、何とかしなければ……。

「ちょ、ちょっと待って――」
「やっぱり、異議あ――――りッ!」
「――――へ?」

 春夏秋冬ひととせの提案に異議を申し上げたのは――意外にも、矢的先輩だった。
 一体、どういう風の吹き回しだろう……。

「それじゃ駄目なんだよ! オレたちには絶対に、校内に部室が必要なんだ! シリウスの家じゃなくな!」

 矢的先輩は、いつになく毅然とした態度で強弁した。

「部室が無ければ、昼休みの時にぐっすり昼寝したり、かったるい授業サボる時に寛ぐスペースが無いじゃないか! それじゃあ、意味無いんだよぉ!」
「「「……………………」」」

「…………うわあ……」
「…………え? 何それ?」

 あまりに身も蓋もない矢的先輩の発言に、ドン引く俺と春夏秋冬ひととせだったが、

「……………………矢的くん?」

 俺たちの背後から発せられた……静かな、それでいてドスの効いた低い声が、俺と春夏秋冬ひととせを黙らせた。
 撫子先輩の全身から、凄まじい殺気が渦を巻いて噴出している――――あ(察し)。

「…………あ」

 矢的先輩も、自分が何て事を叫んでしまったのか、遅ればせながら気が付いた様だ。その顔色は、血の気が引いて真っ白になった。

「……貴方、部室が必要な理由を、『皆で集まって、一緒に楽しんだり、親交を温める為だ』って言ってたわよね……」
「あ……いや……」
「だから、私達もその考えに賛成して、貴方の言う通り、毎日毎日、リレーの練習を頑張ったのよ……」
「あ……その……あの……」
「でも、貴方が今まで言っていた事はタダの方便で、本音は今口走ったそれ・・だったって事で、いいのかしら?」
「あ……いや……その……」
「……ちょっと、裏でお話・・しましょうか、矢的くん?」
「あ――いや、ちょっと待って……誤解……誤解だああぁ! シリウス、アクア! お、お前らなら分かってくれる――」
「田中くん、アクアちゃん――」

 撫子先輩が、俺たちの方を向いて、にっこりと微笑って言った。

お疲れ様・・・・
「…………あ、お疲れ様でーす」
「お、お疲れ様~。なでしこセンパイ、また来週ね!」
「あ、ちょっと、二人とも……! ま、待って――た、助け――」

 矢的先輩が、市場へ売られる仔牛の目で、必死でこちらに助けを求めるが――俺たちは目を逸して見ないフリ。

「矢的くん、ちょっとこっちへ」
「あ――――! スミマセンでした、ナデシコさん! 反省してます! だ、だから、ちょっと話を聞――」

 ゴキっ

「ぐぇ……」

 素早く背後に回った撫子先輩によって、一瞬で絞め落とされた矢的先輩は、彼女に襟を掴まれ、ズルズルと引き摺られながら、体育館の裏へと消えていったのだった……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

鷹鷲高校執事科

三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。 東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。 物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。 各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。 表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

光のもとで2

葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、 新たな気持ちで新学期を迎える。 好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。 少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。 それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。 この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。 何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい―― (10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

処理中です...