田中天狼のシリアスな日常

朽縄咲良

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第四章 田中天狼のシリアスな日常・奮闘編

奇名部のシリアスな終戦

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 俺が、リレーゾーンで配置につくのと、春夏秋冬ひととせがリレーゾーンに飛び込んできたのは、殆ど同時だった。

「もうっ! 遅いよ~、シリウスくん!」
「ご、ゴメン!」

 謝りながら、春夏秋冬ひととせから襷を受け取る。今、どの位リードをしているのかは、あえて確認しない。さっきはそれで油断して、差を詰められてしまったのだから――。
 走ってすぐに、ネットゾーンに到達する。走る俺の脳裏に、さっきの矢的先輩の言葉が思い浮かぶ。

『ネットくぐりは、ヘッドスライディングの要領で、一気にズザーッといくんだ――いくんだ――くんだ――だ――』

 ヘッドスライディング……ヘッドスライディング……よし、ココだ!
 俺は、ネットの手前で身をかがめ――重大な事に気が付いた。

(……つーか、俺、ヘッドスライディングのやり方なんて知らないじゃん――)

 その事実が知覚されたら、もうダメだった。俺は、中途半端なヘッドスライディングもどきの姿勢でバランスを崩し、ビターンと音を立てて、しこたま腹から着地した。
 視界いっぱいに茶色い壁が迫ってきて、鋭い衝撃と共に、鼻の奥がキーンとした。
 腹を打った反動で。顔面を地面に強打したらしい……と気付いたのは、一瞬後だった。
 不思議と痛みは感じない。ただ、視界が真っ白になって、一瞬平衡感覚を失う。
 うわー恥ずかしい……と、脳裏によぎったが、今はそんな事を言っている場合じゃない。俺は這いずる様に、必死でネットの中に進入する。
 前の時と同じく、ネットが手足に絡まりついてくる。俺は、必死でもがきながら、出口を目指す。
 と、

 ――ゲシィッ
「ブッ――!」

 突然、眼前に靴裏が現れ、俺の額を蹴りつけてきた。

「痛って!」
「あいやー、失敬失敬! グフフ」

 思わず声を上げると、下卑た声が。蹴ってきた足の先には、見慣れたメガネが。

「いやいや、ネットに嵌まって手こずっていたら、後ろから君が来たので、つい・・足が当たってしまったよ。スマンな~」

 ――何でトップの奇名部の前に小槻部長科学部が?

「いやー、皆速いなあ。追いつかれてしまったよん」
「周回遅れかよ! て、それどころじゃない――スミマセン、急いでるんで、ちょっとそこどいて下さい!」
「いやいや、ネットにすっかり絡まってしまってねえ。なかなか先に進めないのだよ、済まんなあ♪」

 小槻は、俺が脇に避けて進もうとすると、その進路を塞ぐように身体を動かしてくる。

「ちょ、どいてって言ってるじゃないですか! 邪魔しないで――!」
「だからどいてるじゃーん。ボクのどいた方向に君が進もうとするのが悪いのだよん」

 小槻は、ニヤニヤ薄笑いながら、俺を邪魔するように動く。
 ――明らかにワザとだ。
 背後から、複数の足音が近づいてくるのが分かった。このまま足止めされ続けては、後続に追いつかれ、追い越されてしまう――!
 コイツ小槻は、自分達科学部の優勝が望めなくなったから、せめてもの意趣返しとして、目の敵にしている奇名部俺たちの順位を落とそうとしているのか――!
 プチーンと、俺の中で堪忍袋の緒が切れる音がした。

「分かりました! じゃあ、失礼します!」
「は――? う、上ええええぇ?」

 俺は、小槻の返事も聞かずに、這ったまま彼の身体の上を踏み越しにかかる。

「い、いででででででででっ!」
「あっ、すんませーん。つい・・、膝が当たっちゃいました~」

 小槻の背骨に膝を乗せて体重をかけたら、何やら悲鳴が聞こえてきたが、構わず進む。
 ネットの端まで来た。俺は、ネットをはね除け、立ち上がりながら「失礼しました-」と言い捨てる。
 小槻の返事は無かった。

 疲労で足を縺れさせながらも、何とかハードルをクリアし、俺は遂にリレーゾーンまで辿り着く。

「や……矢的先輩、お、お願いします」
「よーし、よくやった、シリウス!」

 そう言って、矢的先輩は俺の肩を叩き、襷を受け取った。

「あとは、このオレ、『追いかけ鬼泣かせの矢的』に任せな!」

 ――また新しい異名が……。
 が、俺はツッコむ気力も無く、トラック内のフィールドでへたり込み、最終走者の矢的先輩を見守る。
 矢的先輩は、あっという間にバットまわりゾーンに到達すると、グルグルグルグル凄まじい勢いで回転し始める。
 10回――15回――20回! …………て、あれ?

「フハハハハハハハハハハハ――ッ! このオレ、『トリプルアクセルの矢的』に20回転など生ぬるいわあああ!」

 そう高笑いし、更に回転のスピードを上げながら、矢的先輩は回転し続ける……。おいおい!

「アハハハハハハハ――そら、50かいて――ん!」

 馬鹿笑いと共に、ようやくバットから手を離した矢的先輩。
 ――と、アクシデントが起こった。

「ああっ――! メガネメガネ……!」

 と叫んだ途端に狼狽え始めた矢的先輩。見ると、確かに彼がかけていたメガネが無くなっていた。おそらく、回転している最中に、遠心力で飛んでしまったのだろう。

「め、メガネメガネ……メガネ、ドコ……」

 矢的先輩は、地面にかがみ込んで、手探りで地面を撫で回し始めた。

「…………バカ……」

 声の方向を見たら、撫子先輩が頭を抱えていた。

「ど、どうしたんですか? 矢的先輩は?」

 俺は、恐る恐る撫子先輩に尋ねた。
 撫子先輩は、はあ~、と大きくため息を吐くと言った。

「矢的くんってね……頭に“ド”が3つくらい付くレベルの近眼なの……」
「……近眼、ですか?」
「そう……。だから、メガネが無いと、一歩も前に歩けないの。全然視えないから……」
「……マジっすか?」
「メガネが無ければ、平均台はおろか、前に走る事もムリね。――はあ……もう。調子に乗るから――」
「――あ、でも、もう少しで!」

 もう少しで、矢的先輩の地面を撫で回す手が、地面に落ちたメガネに触れる――あと5センチ!

 すこ――――ん!

「あ――――っ! 何か蹴飛ばしてしまったゾ~(棒)!」

 タイガーショットばりのフルキックで矢的先輩のメガネを蹴り飛ばしたのは――、後続から追いついてきた写真部のアンカー、十亀敦雄!

「あー、矢的のメガネだったのかぁい? 災難だったねええ~! わざとじゃ無かったんだよ~♪」

 白々しい棒読みで嘲笑わらう十亀。悠々とバットまわりを終えると、ふらつきながらも、平均台の上に乗る。
 
「ではでは。ごきげんよう、矢的く~ん!」

 そして、未だ這い蹲ってメガネを探し続ける矢的先輩に向かって言い捨てる。

「ま、待てぇイ……!」
「待てと言われて待つ馬鹿はいません~♪ あー、楽しみだなぁ~。さ・つ・え・い・か――」

 その瞬間、
 よそ見をしながら、憎まれ口を叩いていた十亀は、平均台から足を滑らせ、落下――そして、
 平均台に、股間をしこたま強打した――!

「!!!!!!!!!!!」

 衝突クリティカルヒットの直後、十亀は……目を飛び出さんばかりに剥き出し、顔面が蒼白になったかと思うと、白目を剥き、泡を噴いて、糸の切れたマリオネットのようにくずおれた……。

「「「「「「………………………」」」」」」

 そして、会場は、静寂に包まれ、俺を含む男子生徒は、全員一様に顔を顰めながら、無意識に股間を押さえるのだった――。
************************************************
最後の部分、書いてて痛かったですw(ドコがとは言わない)
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