田中天狼のシリアスな日常

朽縄咲良

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第五章 田中天狼のシリアスな日常・怪奇?編

213号室のシリアスな噂

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213号室のシリアスな噂

 「武杉、頼む」

 行方会長は、彼女の背後に控えていた武杉副会長に合図した。

「はい」

 武杉副会長は頷くと、手に持っていた大きな紙を、テーブルの上に広げる。
 折りたたまれていたそれは、広げるとA2ほどの大きさの紙だった。

「これは――?」
「この高校の部活棟、その見取り図だ」

 武杉副会長は、紙の折り目を伸ばしながら、簡潔に答える。

「――この前、君たち奇名部から部室を寄越せと要請があった際に、『空きが無い』と却下しただろう? ……実を言うと、あれは、正確では無い」
「え――?」
「ちょ、待てよ! そりゃ、空きがあるってことか、オイ!」

 武杉副会長の言葉に当惑する俺たちと、言葉を荒げる矢的先輩。

「落ち着け、矢的! ……『空いている部屋がある』というのが、物理的な意味・・・・・・においては、その通りだ」

 ……何だ、その含みがある言い方……? 引っかかる言い方だな……。
 そんな、俺の心の中を見透かしたように、武杉副会長は、言葉を続ける。

「より正確に言えば、『空いている部屋はあるが、使う事を許されない・・・・・・・・・』という事だ」
「使えない……?」
「要するに……」

 副会長は、意味ありげに一呼吸置き、言葉を継いだ。

「曰く付き、という事だ」
「……………………」

 生徒会室に、静寂が――

「……ブッ、ブハハハハハハハハハ!」

 ――訪れなかった。
 矢的先輩は、爆笑しながらまくし立てる。

「い・わ・く・つ・き! おいおい、大丈夫っすかぁ、副会長どのぉ~! この21世紀に、そんなオカルティ~な事でビビり倒しちゃって……らしくないっすよおおおっ!」
「矢的っ!」

 副会長が、慌てて人差し指を唇に当て、「黙ってろ」と合図を送る。

「……らしくない。確かにな」

 口を開いたのは、行方会長だった。

「でもな、実際不可解な状況を目の当たりにしてしまうと、信じざるを得なくなるのだよ、矢的……」
「え……て事は、会長が何か、不可解な体験を――」
「まあ……な」

 行方会長が重々しく頷く。――こんな顔の会長は、初めて見た。

「順を追って話そう。武杉、続けてくれ」
「あ、はい!」

 会長に促され、副会長はゴホンと咳払いをすると、口を開いた。

「――その、空いている部室というのは、ここ……部室棟2階の一番奥――213号室だ」

 武杉副会長が見取図の一点を指し示す。

「この部屋は、40年くらい前までは、歴史研究部という部が使用していたようだが、その後は使われなくなり、今は物置代わりになっている――と、いうより、ワザと不要な物を部屋に押し込んで、人がカンタンに立ち入れないようにしている、という方が正しいか……」
「な――何で、その部室は、使われなくなったんですか……ね?」

 俺は、背筋に悪寒を感じつつ、恐る恐る尋ねてみる。

「それが――、調査してみたのだが、よく解らない」

 副会長は、首を横に振って、そう言った。

「今は、殆ど知る者はいないようなのだが、一昔前の卒業生の代くらいには、『開かずの部室』として、校内七不思議の一つとして数えられていたらしい。だが、その由来となると――」
「えーとですね!」

 副会長の言葉を遮るように、話に入ってきたのは、書記の黒木さんだ。黒縁メガネの奥の瞳をキラキラさせて、嬉々としている。
 ――何か、『炎愛の極星』話をする時の春夏秋冬ひととせみたいだ……。
 黒木さんは、メモ帳を取り出し、捲りながら読み上げる。

「まず、『城跡でのフィールドワーク中に、足を踏み外して転落死した歴研部員の霊が現れる』というもの、『神社でご神体を荒らしてしまい、それに怒った土地神様の祟りによって、霊障が相次ぐ』という伝説。それから、『妖刀を手にした歴研部員が発狂して、部室内で刃傷事件を起こした』という話、『歴研部の顧問教師が、この部屋で原因不明の首吊りをした』という噂。あとは、『天井から髪を振り乱した白装束の女が落ちてくる』、『飾ってある甲冑が室内を彷徨うろつく』……えーと、あとは――」
「黒木くん……そのくらいで」
「あ……スミマセン」

 止めどなく話し続ける黒木さんを、手で制する武杉副会長。

「……まあ、そんな感じで、『213号室が開かずの部屋になった由来』は、多数存在していて、本当の由来というのがどの話なのか、或いは、どの話も本当ではない・・・・・・・・・・のか、分からない」
「……でも、ぶっちゃけ、全部怪談話のテンプレですよね」
「うむ」

 副会長は、俺の言葉に頷く。

「僕や黒木くんが、当時を知る卒業生から話を伺ったり、校内史や当時の新聞記事を調査してみた。――その結果、『転落死した歴研部員』『首を吊った教師』などの噂で挙がっていた、生命に関わる事件事故は、213号室では発生していない事実を確認した」
「何だぁ……タダの噂だったって事?」

 春夏秋冬ひととせがホッと胸を撫で下ろす。

「しかしですね……『土地神様の祟り』ですとか、『彷徨うヨロイ』、『落ちてくる白装束の幽霊』といった噂に関しては、現状のままでは否定も肯定もできないという事も分かったんです」

 黒木さんが、目を爛々ときらめかせて言う。

「え~……じゃあ、幽霊が出るかもしれない、って事?」
「そういう事だ」

 春夏秋冬ひととせの言葉に、行方部長が頷いた。

「――で、半月ほど前、私がひとりで調査に入ったんだ。213号室に」
「い――! 会長がですか!」

 俺は仰天した。そんな曰く付きの部室に、たったひとりで乗り込むなんて……、会長、男前すぎる……!

「おいおい、武杉さんよぉ~。そりゃ無いんじゃないの~? いっくら会長サマがお前の幾千倍も腕が立つからって、ひとりでお化け屋敷213号室に行かせちゃマズいでしょ~? オトコとしてさあ!」

 矢的先輩が、ソファにふんぞり返りながら、副会長をなじる。

「い、いや、違うぞ! 僕たちは全然知らなかったんだ! 会長が、たったひとりであの部屋に行くなんて――!」
「うん。私が誰にも言わなかったからな」

 行方会長は、そう言うと、その端正な顔を少し顰めた。

「だが、その後の事を考えると、確かに私は軽率だったよ……。まさか、あんな目に遭うとは――」
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