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第五章 田中天狼のシリアスな日常・怪奇?編
撫子先輩のシリアスな抵抗
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「はいはーい! オッケーでーす!」
武杉副会長の提案に真っ先に賛成したのは、春夏秋冬だった。
「……絶対、嫌」
しかし、意外なところから反対の声がドアの向こうから聞こえてきた。
撫子先輩が、ドアの陰からジトーッとした顔で両手で×マークを作っている。
「え――? 何で~、なでしこセンパ~イ?」
口を尖らせる春夏秋冬。
「あれ……撫子。君も、ネコがダメだったのかい?」
「……違う。――猫は好きです。……でも」
隣の行方会長の問いに頭を振る撫子先輩。でも、何か言いたそうにモジモジしている。
「あ――、そうか! 分かった」
と、ポンと手を叩いたのは、矢的先輩だった。
矢的先輩は、ニヤニヤして言った。
「ナデシコ、お前この部室が怖いんだろう? 昔っからお化けとか妖怪とかムリだったもんな、お前」
「…………!」
撫子先輩は、キッと矢的先輩を睨んだが、部室の中には一歩たりとも入ろうとしない。
どうやら、当たりらしい。
「あー……そういえば、曰く付きの部室だったんだよね、ココ……忘れてた」
春夏秋冬も、そのことを思い出し、気味が悪そうに部室の中を見回す。
「……まあ、一見、そこまでヤバい雰囲気がするって訳でも無いですけど……。『火の無いところに煙は立たず』とも言いますしね……」
「おいおい、どうした、シリウスまで! ユーレイ? 祟り? そんなモンある訳無いじゃあないの!」
矢的先輩が、強い口調で、ビビる俺たちを叱咤する。
「幽霊も妖怪も祟りも霊障も不可思議現象も、全部人間の思い込みだぜ! 気の持ちようで――」
「フ――――――――ッ!」
矢的先輩の話を遮ったのは、足元の子猫だった。
キャットフードが盛られた皿に顔を突っ込んでガツガツ食べていたのに、突然顔を上げ、何も無い虚空に向かって唸り始めたのだ。
「……何だ? どうしたんだ?」
「これは――アレです! 人間より遙かに高い五感を備えたネコが、人間では感知できないモノに対して反応する、っていうアノ現象!」
目を煌めかせて興奮する黒木さん。
「やっぱり、何かが居るんですよ、この部室! 凄い~!」
「……黒木くん。オカルトマニアの君が興奮するのも分かるんだが……今の話の流れで、その発言は……」
「あ…………すみません……」
黒木さんは慌てて謝ったが、もう遅い。
春夏秋冬は、一目散に部室から飛び出して、ドアの向こうに身を潜めていたし、撫子先輩に至っては顔を真っ青にして、下り階段の前まで退避していた。
「……て、なにやってんすか、矢的先輩」
矢的先輩はというと、傍らに積まれた段ボールの山に頭から突っ込んでいた、。おいおい、さっきのご大層な心霊現象全否定の大口は何だったんだよ……。
「……い、いや。ちょっと、段ボールの中身が無性に気になってだな……調査したんだよ。――うん、怪しいモノは入っていないようだナ!」
「何それ……苦しすぎる言い訳なんですけど……」
俺は、深くため息を吐き、武杉副会長に尋ねる。
「俺たちが、この部室を使うかどうかの話は置いといて、この子猫を誰かに引き取ってもらうとか、別の所に移すとかはダメなんですか?」
「……それも考えたんだが、うまくいかなくてな……」
武杉副会長は、困った顔をして言った。
「どうやら、このネコは、この部室をえらく気に入ってしまったようで、どうしてもここから離れようとしないんだ……。捕まえようとしても、このネコが素早く逃げてしまって、無理だった」
「――で、ネコが出て行かないのなら、ここを俺たち奇名部の部室として宛がってやって、ついでにネコの面倒を見させよう、という事ですか」
「ま、そういう事だね」
その後、色々侃侃諤々すったもんだしたのだが、結果的に、俺たち奇名部は、生徒会の提案を受け入れる事にした。
結局、部の(矢的先輩の邪な思惑を抜きにしても)念願だった部室を手に入れられるという魅力があったし、春夏秋冬的には、ペット禁止のマンション住まいである彼女が、学校内でとはいえ、子猫が飼えるというのも、抗いがたいメリットだったのだ。
――たとえ、この部室が曰くありげな事故物件(疑惑)だったとしても。
しかし、頑として反対し続ける人が一人――撫子先輩だ。
「幽霊なんていませんよ」
「嘘。だって、あの時、猫が何かに向かって唸ったじゃない」
「あれは――、多分虫か何かが飛んでたから……」
「でも、213号室に心霊的な噂が立っているのは確かでしょ」
「あんなの、よくあるデマですよ……」
「あら、田中くん、『火のない所に煙は立たない』って言ってたわよね?」
「ぐ…………」
「幽霊なんて怖くないって! 死んだヤツより生きてるヤツの方が、生命パワーが強いんだから、あいつらは俺たちに手出しなんか出来ないって!」
「あら? じゃあ、幽霊はやっぱり居るんじゃない」
「いや……居ませんってば、幽霊」
「嘘。だって、あの時――」
――――(以下ループ)
こんな調子で、俺たちと撫子先輩の話し合いは、何を言っても平行線のまま……。
どうやら、撫子先輩の心霊アレルギーは、かなりの重度のようだ。
すると、話が進まない事に焦れた矢的先輩が放った一言が、膠着した事態を動かした。
「じゃあさ、『幽霊なんか居ない。祟りなんかも無い』って証明できれば、お前も生徒会の提案に賛成するんだな、ナデシコ!」
「証明なんて出来ないわよ。幽霊も祟りも、絶対にいるし、あるもの」
「…………」
「…………でも、そうね。少なくとも、『213号室に心霊現象は起こらない』ときちんと証明されれば、賛成してもいいわ……それが私の妥協点よ」
矢的先輩は、その言葉に奮い立った。
「おっしゃ! 分かった! そこんトコ、オレたちがばっちり証明してやんよぉ!」
そして、今。
俺たちは、日もとっくに暮れた後の、真っ暗な213号室の片隅で、じっと息を潜めている。この部屋で、『心霊現象的な事象が何も起こらない』という事を証明する為に。
…………ていうか、どうしてこうなった?
武杉副会長の提案に真っ先に賛成したのは、春夏秋冬だった。
「……絶対、嫌」
しかし、意外なところから反対の声がドアの向こうから聞こえてきた。
撫子先輩が、ドアの陰からジトーッとした顔で両手で×マークを作っている。
「え――? 何で~、なでしこセンパ~イ?」
口を尖らせる春夏秋冬。
「あれ……撫子。君も、ネコがダメだったのかい?」
「……違う。――猫は好きです。……でも」
隣の行方会長の問いに頭を振る撫子先輩。でも、何か言いたそうにモジモジしている。
「あ――、そうか! 分かった」
と、ポンと手を叩いたのは、矢的先輩だった。
矢的先輩は、ニヤニヤして言った。
「ナデシコ、お前この部室が怖いんだろう? 昔っからお化けとか妖怪とかムリだったもんな、お前」
「…………!」
撫子先輩は、キッと矢的先輩を睨んだが、部室の中には一歩たりとも入ろうとしない。
どうやら、当たりらしい。
「あー……そういえば、曰く付きの部室だったんだよね、ココ……忘れてた」
春夏秋冬も、そのことを思い出し、気味が悪そうに部室の中を見回す。
「……まあ、一見、そこまでヤバい雰囲気がするって訳でも無いですけど……。『火の無いところに煙は立たず』とも言いますしね……」
「おいおい、どうした、シリウスまで! ユーレイ? 祟り? そんなモンある訳無いじゃあないの!」
矢的先輩が、強い口調で、ビビる俺たちを叱咤する。
「幽霊も妖怪も祟りも霊障も不可思議現象も、全部人間の思い込みだぜ! 気の持ちようで――」
「フ――――――――ッ!」
矢的先輩の話を遮ったのは、足元の子猫だった。
キャットフードが盛られた皿に顔を突っ込んでガツガツ食べていたのに、突然顔を上げ、何も無い虚空に向かって唸り始めたのだ。
「……何だ? どうしたんだ?」
「これは――アレです! 人間より遙かに高い五感を備えたネコが、人間では感知できないモノに対して反応する、っていうアノ現象!」
目を煌めかせて興奮する黒木さん。
「やっぱり、何かが居るんですよ、この部室! 凄い~!」
「……黒木くん。オカルトマニアの君が興奮するのも分かるんだが……今の話の流れで、その発言は……」
「あ…………すみません……」
黒木さんは慌てて謝ったが、もう遅い。
春夏秋冬は、一目散に部室から飛び出して、ドアの向こうに身を潜めていたし、撫子先輩に至っては顔を真っ青にして、下り階段の前まで退避していた。
「……て、なにやってんすか、矢的先輩」
矢的先輩はというと、傍らに積まれた段ボールの山に頭から突っ込んでいた、。おいおい、さっきのご大層な心霊現象全否定の大口は何だったんだよ……。
「……い、いや。ちょっと、段ボールの中身が無性に気になってだな……調査したんだよ。――うん、怪しいモノは入っていないようだナ!」
「何それ……苦しすぎる言い訳なんですけど……」
俺は、深くため息を吐き、武杉副会長に尋ねる。
「俺たちが、この部室を使うかどうかの話は置いといて、この子猫を誰かに引き取ってもらうとか、別の所に移すとかはダメなんですか?」
「……それも考えたんだが、うまくいかなくてな……」
武杉副会長は、困った顔をして言った。
「どうやら、このネコは、この部室をえらく気に入ってしまったようで、どうしてもここから離れようとしないんだ……。捕まえようとしても、このネコが素早く逃げてしまって、無理だった」
「――で、ネコが出て行かないのなら、ここを俺たち奇名部の部室として宛がってやって、ついでにネコの面倒を見させよう、という事ですか」
「ま、そういう事だね」
その後、色々侃侃諤々すったもんだしたのだが、結果的に、俺たち奇名部は、生徒会の提案を受け入れる事にした。
結局、部の(矢的先輩の邪な思惑を抜きにしても)念願だった部室を手に入れられるという魅力があったし、春夏秋冬的には、ペット禁止のマンション住まいである彼女が、学校内でとはいえ、子猫が飼えるというのも、抗いがたいメリットだったのだ。
――たとえ、この部室が曰くありげな事故物件(疑惑)だったとしても。
しかし、頑として反対し続ける人が一人――撫子先輩だ。
「幽霊なんていませんよ」
「嘘。だって、あの時、猫が何かに向かって唸ったじゃない」
「あれは――、多分虫か何かが飛んでたから……」
「でも、213号室に心霊的な噂が立っているのは確かでしょ」
「あんなの、よくあるデマですよ……」
「あら、田中くん、『火のない所に煙は立たない』って言ってたわよね?」
「ぐ…………」
「幽霊なんて怖くないって! 死んだヤツより生きてるヤツの方が、生命パワーが強いんだから、あいつらは俺たちに手出しなんか出来ないって!」
「あら? じゃあ、幽霊はやっぱり居るんじゃない」
「いや……居ませんってば、幽霊」
「嘘。だって、あの時――」
――――(以下ループ)
こんな調子で、俺たちと撫子先輩の話し合いは、何を言っても平行線のまま……。
どうやら、撫子先輩の心霊アレルギーは、かなりの重度のようだ。
すると、話が進まない事に焦れた矢的先輩が放った一言が、膠着した事態を動かした。
「じゃあさ、『幽霊なんか居ない。祟りなんかも無い』って証明できれば、お前も生徒会の提案に賛成するんだな、ナデシコ!」
「証明なんて出来ないわよ。幽霊も祟りも、絶対にいるし、あるもの」
「…………」
「…………でも、そうね。少なくとも、『213号室に心霊現象は起こらない』ときちんと証明されれば、賛成してもいいわ……それが私の妥協点よ」
矢的先輩は、その言葉に奮い立った。
「おっしゃ! 分かった! そこんトコ、オレたちがばっちり証明してやんよぉ!」
そして、今。
俺たちは、日もとっくに暮れた後の、真っ暗な213号室の片隅で、じっと息を潜めている。この部屋で、『心霊現象的な事象が何も起こらない』という事を証明する為に。
…………ていうか、どうしてこうなった?
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