田中天狼のシリアスな日常

朽縄咲良

文字の大きさ
41 / 73
第五章 田中天狼のシリアスな日常・怪奇?編

武杉大輔のシリアスな提案

しおりを挟む
 20分後、俺たちは、件の部室棟213号室・旧歴史研究部部室のドアの前に立っていた。
 ――いや、正確には、俺・矢的先輩・春夏秋冬ひととせ・武杉副会長・書記の黒木さんの5人。
 撫子先輩と行方会長は、俺たちとは10メートルほど離れて、廊下の支柱から顔だけ出して、俺たちの方を覗き込む。
 丁度、電柱に隠れて張り込みをする刑事の様……いや、どちらかというと、栄光のプロ野球チームを目指し、苦しい特訓に励む弟を木の陰からそっと見守るお姉さんの方が、ビジュアル的に近いな……。

「おーい、ナデシコ、会長~。そんな離れてないで、こっち来なよ~」

 矢的先輩が二人に手招きするが、

「……絶対イヤ」
「まあまあ……、私達は放っておいてくれたまえ。君たちだけでどうぞ、頼む、お願いします」

 撫子先輩も行方会長も、頑として近づこうとしない。

「……どうしたのかな? 二人とも」

 春夏秋冬ひととせが首を傾げる。

「まあ、あちらはとりあえず置いといて……。時間が圧してるから、手早く済ますぞ」

 そう言って、武杉副会長は、ポケットから鍵束を取り出す。沢山の鍵から、『213』と書かれたタグが付いた鍵を選び、ドアの鍵穴に挿し込む。
 鍵を回し、引き戸の取っ手に手をかける。武杉副会長はこちらに振り向いて、小さく頷くと、扉を開け放った。

「…………確かに、絵に描いたような物置だな」

 矢的先輩が呟く。
 その言葉の通り、部屋の中には、棚や机や椅子や教材や……様々な雑多な物が、文字通りぎゅうぎゅうに詰め込まれている。更に――、

「……何か、空き巣に入られたみたい……」

春夏秋冬ひととせが呟いた通り、元々はある程度の秩序に基づいて収納されていたであろう筈なのに、机はひっくり返され、椅子は転がり、棚の中に入っていた書類はバラバラに散らばり……と、酷い状況だった。

「……ああ、それは……」

 武杉副会長が言い淀むと、柱の向こうから、小さな声が聞こえた。

「…………私だ」
「へ――?」
「私が……アイツに飛び掛かられた時に、ちょっと・・・・パニックになってしまって……」
「ちょっと……てレベルじゃないっすよ、コレ……」

 矢的先輩が、呆れ声で言うと、

「しょ、しょうがないだろ!」

 行方会長がキレた。

「だって! ホントにビックリしたんだもん! あ、アイツがいきなり飛んでくるんだもん!」
「――くれぐれも他言無用で頼む……。会長は――」

 武杉副会長の言葉を遮り、行方会長の絶叫が響く。

「私は、ネコが苦手なんだ~ッ!」
「……苦手な余り、少し幼児退行してしまうレベルで、な」

 武杉副会長は、苦笑いする。

「何でも、子供の頃、野良ネコに引っかかれたのがトラウマになってしまったそうだ……」
「へえ……あの行方生徒会長がねえ……」
「何か意外だね……。でも、そんな一面もある会長も可愛い~!」

 驚きながらも、ニコリと微笑む春夏秋冬ひととせ
 ……いわゆるひとつの、“ギャップ萌え”というヤツか。――うん、まあ、分かる。……アリだな。
 と、俺はひとつ気になった。

「……でも、あんなにでっかい声で『ネコが嫌い!』って叫んじゃったら、他言無用も何も無いんじゃ……」
「安心しろ。こうなる事を見越して、予めこの建物は人払いしてある」

 澄ました顔で即答する武杉副会長。――どうやら、行方会長が「有能で仕事ができる」と評していたのは、身内贔屓では無かったようだ。……矢的先輩と撫子が絡むと、途端にポンコツ化する様だが……。

「……あ、出てきました! ネコちゃん……!」

 一足先に部室の奥に入っていた黒木さんが小さく叫び、俺たちは足音を忍ばせながら、ゆっくりと部屋の中へ入る。
 黒木さんの指さした先――倒れた棚と机の隙間から、ゆっくり姿を現したのは、まだ子猫と言っていい大きさの、黒と白の毛色の一匹の猫だった。

「うわああああ! かわいいぃっ! タキシード柄だ~」

 春夏秋冬ひととせが黄色い声を上げる。猫は、その声に驚いて身体をびくつかせ、頭を低くして、フーッと唸った。

「はいはーい……大丈夫だよ~。ほら、エサだよ~」

 黒木さんが、優しく宥めながら、カリカリの餌をアルミの皿に盛って、猫の目の前に置く。
 猫は少しの間、警戒するように俺たちの方を観察する。そして、危険が無いのを確信したのか、皿に頭を突っ込み、ガツガツと音を立てて餌を食べ始めた。

「うわあああ、餌食べてる~。かわいい~!」
「――あ、春夏秋冬ひととせさん、まだ撫でさせてくれないんですよ。撫でようとすると逃げちゃうんですよね……」
「まだ怖いのかなぁ……」
「でも、最初の頃は、ずっとどこかに隠れてて、姿を見せてくれませんでしたから……大分人間に馴れて来たと思いますよ~」

 子猫を前に、キャピキャピはしゃぐ女子高生ふたり……イイネ!
 ――一方、こちらでは、武杉副会長と矢的先輩が、難しい顔をして話し合っている。

「で、生徒会は、奇名部オレたちに、この猫の面倒を見ろ、って言うの?」
「まあ、そういう事だ」

 矢的先輩の言葉に、頷く武杉副会長。

「ご覧の通り、行方会長は、ネコが苦手であの調子だ。僕は、ネコ嫌いでは無いのだが……寧ろ、好きな方なのだが……残念ながらネコアレルギー持ちらしくて、1メートル以内に近付くと、クシャミが止まらなく――なく――ブエックシュンッ!」

 武杉副会長は、盛大なクシャミをすると、ティッシュで鼻をかみながら、2歩ほど後ずさりした。

「――失敬。……まあ、こんな感じで、僕も猫の面倒を見るのはムリなのだ……残念ながら・・・・・!」
「お――おう。確かにな……」

 ……物凄く悔しそうだな、副会長……。

「……でも、他の役員の人はどうなんです? 例えば、黒木さんとか」

 俺は、ふと思いついて、聞いてみた。
 黒木さんが振り返り、答える。

「あとの3人……会計の庫裏山くりやま先輩は、殆ど生徒会に顔を出さないですし、書記の中邑なかむら先輩は、昔お気に入りのフィギュアを囓られたからとかで、ネコが大っ嫌いなんです……。1年会計の仁志口にしぐちくんは、『犬派だからムリ』って言ってました」

 黒木さんは困ったように苦笑した。

「……私は別にネコが苦手でも、アレルギー持ちでも無いんですけど……。このネコちゃんの毛が制服に付くと、生徒会室で仕事しているだけで、隣の副会長のくしゃみが止まらなくなっちゃうんで、ちょっと面倒を見るのは難しくて……」
「……と、いう訳だ」

 武杉副会長が、言葉を継いだ。

「で、ここで君たち奇名部が選択肢に挙がった訳だ。どーせ、部活を起ち上げたからって、やる事無くて暇だろう、と」
「な――何やねん、ソレ!」

 副会長の言葉に、激高する矢的先輩。

「俺たちは、日々とっても忙しいんだぞ! 何をやろうか考える事で! 毎日そればっかり考えて、す~ぐ時間が無くなってしまうんだ! ネコの面倒なんか見る時間は無いっ!」
「……いや、時間ありまくりですやん……」

 矢的先輩のメチャクチャな主張に、思わず呆れる俺。
 武杉副会長は、フルフルと首を振る。

「そうか。でも、今回の話は、奇名部にとってもメリットのある話だと思うぞ」
「――メリット……ですか?」
「ああ……」

 武杉副会長は、ニヤリと笑い、言葉を継いだ。

「――我々生徒会は、奇名部がこのネコの面倒を見てくれるというのなら、この213号室を、奇名部の部室として使用する事を許可しようと――しようと考え――考えックシュンッ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

鷹鷲高校執事科

三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。 東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。 物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。 各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。 表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

光のもとで2

葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、 新たな気持ちで新学期を迎える。 好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。 少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。 それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。 この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。 何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい―― (10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

処理中です...