46 / 73
第五章 田中天狼のシリアスな日常・怪奇?編
田中天狼のシリアスな憤怒
しおりを挟む
俺は、ガッカリして、肩を落とした。
と、部室に残った春夏秋冬と黒木さんの事が気にかかった。もし、あの人影が、部室に戻ってきて、ふたりと鉢合わせしたら――!
こんな所で気落ちしている場合じゃない! と思い至った俺は、慌てて部室棟へと走り出した。
――走る俺の脳裏に浮かぶのは、
(もし、矢的先輩が居れば、『ケイドロの矢的』の通り名の通り、アイツに追いつけてたのかな……?)
(もし、撫子先輩が居れば、アイツが部室に入ってきた時点で、簡単に制圧出来ただろうな……)
(俺が追うのではなくて、春夏秋冬が追いかければ――)
といった、たらればの事ばかりだった。
何れにしても、
(俺はダメだなぁ……)
という、ネガティブな結論に達してしまうのだが……。
213号室の前まで辿り着いた俺は、足音を忍ばせて、中の様子を確認する。
部室のドアの隙間からは、ランタンの弱い光が洩れていた。
聞き耳を立てると、中から春夏秋冬と黒木さんの話し声が聞こえる。……ふたりの声のトーンからは、緊迫した雰囲気は感じられない。
俺は、ホッと胸を撫で下ろし、部室の引き戸を開けた。
「――あ、田中さん! おかえりなさい……」
「シリウスくん! 大丈夫だったー? ケガとかしてない?」
ふたりが、安心と心配がない混ぜになった顔で、俺に駆け寄ってきた。
「あ――うん。ケガとかは……全然。そっちは? 大丈夫だった?」
「あたし達? うん、全然大丈夫~!」
「ネコさんがちょっと心配でしたけど、平気そうです。さっきご飯食べて、今は、あんな感じです」
黒木さんの指の先に視線を向けると、長机の上で、顎の先までペッタリと腹這いになったネコが、目をまん丸にして、じっと俺の顔を見ていた。……何だ? このネコの放つ、異様な大物感は……?
「そういえば……アイツは?」
春夏秋冬が、尋ねてきた。俺は、バツが悪くなり、頭を掻きながら答える。
「ゴメン……逃げられた」
「……何で謝るの?」
「いや……折角、俺が追跡を引き受けたのに、まんまと逃しちまって……俺ってダメだなぁ、って」
「……何がダメなの?」
俺の答えに、首を傾げる春夏秋冬。
「……え、と?」
「怪しいヤツは逃げていったし、あたし達は、誰も怪我してないんだよ? シリウスくんが居なかったら……、もっと大変な事になってたかもしれないよ?」
「そうですよ!」
黒木さんも口を開く。
「放課後に、撫子先輩もおっしゃってたじゃないですか! 『決して危地へと飛び込まないのが、本当に強い人だ』って。無理してケガしたりしないで、本当に良かったです!」
「……そ、そう……かな?」
「シリウスくん、ありがとうね!」
「ありがとうございました、田中さん」
――本当のイケメンや英雄適性所持者なら、ここで気が利く台詞の一つや二つ、ポンポンと口から飛び出てくるのだろうが。生憎、そんな特殊スキルなど持ち合わせていない、モブに等しい俺は、ふたりの言葉に、
「――ああ、うん……」
すっかり照れてしまって、ぎこちなく笑って頭を掻くだけだった……。
と、俺は、唐突に、もうひとりの存在を思い出した。
「あ――! そういえば、矢的先輩は? ……ひょっとすると、購買からの帰りに、さっきのヤツに襲われて――!」
「……あー。アンディ先輩ね……」
「あの……ですね……」
矢的先輩の名前を出した途端、歯切れが悪くなる春夏秋冬と黒木さん。ふたりは顔を見合わせて、困ったような苦笑いを浮かべている。
「…………どうしたの?」
「あの――ね。さっき、あたしがアンディ先輩に『だいじょうぶ? どこにいるの?』って、メッセージを送ったんだけど……」
「! もしかして、まだ返信が来てない……とか?」
「あ……逆――なんですけど……あの」
「あーもー実際見た方が早いね。――はい!」
春夏秋冬が、デラックマの大きなストラップが付いたスマホを取り出し、画面を操作すると、俺の方に差し出した。
俺は、戸惑いながらスマホを受け取り、淡く光る液晶画面を見る。
液晶画面には、メッセージアプリのトーク画面が表示されており、ウインドウの上部に『アンディせんぱい』と書かれたページが開かれている。
その最新の書き込みは、今から10分前に送信されたもので、
あくあ『おーい アンディせんぱい、生きてるの?』
アンディせんぱい『どーしたの?』
あくあ『あ、生きてた。どこにいるの?』
アンディせんぱい『古野屋で大盛り牛皿食べてるよー』
あくあ『え 意味分かんないんだケド』
アンディせんぱい『いや、あそこにいたら小腹空いちゃってさー』
アンディせんぱい『あ、シリウスにはナイショにしといてなー』
…………そして、送信の最後には、大盛り牛皿の横で、ピースサインでにっこり笑う、明らかに古野屋のカウンター席で撮影されたと分かる、矢的の自撮り写メが貼付されていた――。
「…………………………」
俺は、そのやりとりを読んだ瞬間、ガーッと音を立てて頭に血が上った感覚を覚えて――正直、その後の事は良く覚えていない。
ただ、後に聞いた春夏秋冬と黒木さんの話によると……俺は、その画面を見ると、無言で春夏秋冬にスマホを返し、それからニッコリと、会心の笑顔を浮かべてから、こう言った……らしい。
「……よし、とりあえず、あの馬鹿の息の根、止めるわ!」
――当時を振り返った春夏秋冬 水さんの証言……「あの時のシリウスくん、本気で怖かった……」
と、部室に残った春夏秋冬と黒木さんの事が気にかかった。もし、あの人影が、部室に戻ってきて、ふたりと鉢合わせしたら――!
こんな所で気落ちしている場合じゃない! と思い至った俺は、慌てて部室棟へと走り出した。
――走る俺の脳裏に浮かぶのは、
(もし、矢的先輩が居れば、『ケイドロの矢的』の通り名の通り、アイツに追いつけてたのかな……?)
(もし、撫子先輩が居れば、アイツが部室に入ってきた時点で、簡単に制圧出来ただろうな……)
(俺が追うのではなくて、春夏秋冬が追いかければ――)
といった、たらればの事ばかりだった。
何れにしても、
(俺はダメだなぁ……)
という、ネガティブな結論に達してしまうのだが……。
213号室の前まで辿り着いた俺は、足音を忍ばせて、中の様子を確認する。
部室のドアの隙間からは、ランタンの弱い光が洩れていた。
聞き耳を立てると、中から春夏秋冬と黒木さんの話し声が聞こえる。……ふたりの声のトーンからは、緊迫した雰囲気は感じられない。
俺は、ホッと胸を撫で下ろし、部室の引き戸を開けた。
「――あ、田中さん! おかえりなさい……」
「シリウスくん! 大丈夫だったー? ケガとかしてない?」
ふたりが、安心と心配がない混ぜになった顔で、俺に駆け寄ってきた。
「あ――うん。ケガとかは……全然。そっちは? 大丈夫だった?」
「あたし達? うん、全然大丈夫~!」
「ネコさんがちょっと心配でしたけど、平気そうです。さっきご飯食べて、今は、あんな感じです」
黒木さんの指の先に視線を向けると、長机の上で、顎の先までペッタリと腹這いになったネコが、目をまん丸にして、じっと俺の顔を見ていた。……何だ? このネコの放つ、異様な大物感は……?
「そういえば……アイツは?」
春夏秋冬が、尋ねてきた。俺は、バツが悪くなり、頭を掻きながら答える。
「ゴメン……逃げられた」
「……何で謝るの?」
「いや……折角、俺が追跡を引き受けたのに、まんまと逃しちまって……俺ってダメだなぁ、って」
「……何がダメなの?」
俺の答えに、首を傾げる春夏秋冬。
「……え、と?」
「怪しいヤツは逃げていったし、あたし達は、誰も怪我してないんだよ? シリウスくんが居なかったら……、もっと大変な事になってたかもしれないよ?」
「そうですよ!」
黒木さんも口を開く。
「放課後に、撫子先輩もおっしゃってたじゃないですか! 『決して危地へと飛び込まないのが、本当に強い人だ』って。無理してケガしたりしないで、本当に良かったです!」
「……そ、そう……かな?」
「シリウスくん、ありがとうね!」
「ありがとうございました、田中さん」
――本当のイケメンや英雄適性所持者なら、ここで気が利く台詞の一つや二つ、ポンポンと口から飛び出てくるのだろうが。生憎、そんな特殊スキルなど持ち合わせていない、モブに等しい俺は、ふたりの言葉に、
「――ああ、うん……」
すっかり照れてしまって、ぎこちなく笑って頭を掻くだけだった……。
と、俺は、唐突に、もうひとりの存在を思い出した。
「あ――! そういえば、矢的先輩は? ……ひょっとすると、購買からの帰りに、さっきのヤツに襲われて――!」
「……あー。アンディ先輩ね……」
「あの……ですね……」
矢的先輩の名前を出した途端、歯切れが悪くなる春夏秋冬と黒木さん。ふたりは顔を見合わせて、困ったような苦笑いを浮かべている。
「…………どうしたの?」
「あの――ね。さっき、あたしがアンディ先輩に『だいじょうぶ? どこにいるの?』って、メッセージを送ったんだけど……」
「! もしかして、まだ返信が来てない……とか?」
「あ……逆――なんですけど……あの」
「あーもー実際見た方が早いね。――はい!」
春夏秋冬が、デラックマの大きなストラップが付いたスマホを取り出し、画面を操作すると、俺の方に差し出した。
俺は、戸惑いながらスマホを受け取り、淡く光る液晶画面を見る。
液晶画面には、メッセージアプリのトーク画面が表示されており、ウインドウの上部に『アンディせんぱい』と書かれたページが開かれている。
その最新の書き込みは、今から10分前に送信されたもので、
あくあ『おーい アンディせんぱい、生きてるの?』
アンディせんぱい『どーしたの?』
あくあ『あ、生きてた。どこにいるの?』
アンディせんぱい『古野屋で大盛り牛皿食べてるよー』
あくあ『え 意味分かんないんだケド』
アンディせんぱい『いや、あそこにいたら小腹空いちゃってさー』
アンディせんぱい『あ、シリウスにはナイショにしといてなー』
…………そして、送信の最後には、大盛り牛皿の横で、ピースサインでにっこり笑う、明らかに古野屋のカウンター席で撮影されたと分かる、矢的の自撮り写メが貼付されていた――。
「…………………………」
俺は、そのやりとりを読んだ瞬間、ガーッと音を立てて頭に血が上った感覚を覚えて――正直、その後の事は良く覚えていない。
ただ、後に聞いた春夏秋冬と黒木さんの話によると……俺は、その画面を見ると、無言で春夏秋冬にスマホを返し、それからニッコリと、会心の笑顔を浮かべてから、こう言った……らしい。
「……よし、とりあえず、あの馬鹿の息の根、止めるわ!」
――当時を振り返った春夏秋冬 水さんの証言……「あの時のシリウスくん、本気で怖かった……」
0
あなたにおすすめの小説
ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜
遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!
木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。
「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」
そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
鷹鷲高校執事科
三石成
青春
経済社会が崩壊した後に、貴族制度が生まれた近未来。
東京都内に広大な敷地を持つ全寮制の鷹鷲高校には、貴族の子息が所属する帝王科と、そんな貴族に仕える、優秀な執事を育成するための執事科が設立されている。
物語の中心となるのは、鷹鷲高校男子部の三年生。
各々に悩みや望みを抱えた彼らは、高校三年生という貴重な一年間で、学校の行事や事件を通して、生涯の主人と執事を見つけていく。
表紙イラスト:燈実 黙(@off_the_lamp)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる