好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)

朽縄咲良

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第二章 サンクトルまで何ケイム?

色事師と妙案

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 鬱蒼と空を覆う緑の隙間から、僅かに射していた日の光が、地上に届かなくなってきた。

「どうやら、日没のようですね」

 パームが、空を仰ぎ見て言った。木々の枝の間から見える空の色がいつの間にやら、青からオレンジ色へと色合いを変えていた。

「――これ以上の移動は危険ですね。夜は獣達が活発に活動する時間ですから、迂闊に動くと、凶暴な肉食獣と鉢合わせしてしまいかねない……。ちょうど開けた場所ですし、今日はここにテントを張りましょう」
「は~……こんなジメジメした場所で野宿かよ……。何故、この俺がこんな目に……」

 相変わらずグジグジと、辛気臭い不平不満を吐きまくるジャスミン。

「いつまでも愚痴と文句を言わないで下さい! ほら、テント張り手伝って!」

 パームの叱咤に、小さく舌打ちをして、ノロノロと動き出すジャスミン。パームは、やれやれとため息を吐いた。

 ――ジャスミンと一緒に旅をする事は、殊の外大変だった。
 彼は我儘で、ものぐさで、いい加減で、隙あらばすぐサボる。
 かといって、パームがそれを注意すると、数多の女たちを口説き落としてきたその舌で、理解不能な言い訳や超理論を存分に駆使した弁舌を振るわれ、何やかんやで言いくるめられてしまう……。
 まるで、大きな子供を引率している様――いや、子供の方が遥かに聞き分けがいい分、この軽薄な男よりも扱いはずっと楽だろう……。

 が、ジャスミンの行動に辟易すると同時に、得体の知れない「楽しさ」を、パームが感じている事も確かだった。……若干、いや、大分不本意ではあるが。
 その楽しさは、ラバッテリア神殿での、修行に明け暮れる生活では、感じられなかったものだった。
「楽しさ」の正体が何なのか……それは、パームには分からなかった。しかし、彼は、今はまだ分からないが、旅を続けていく内に分かるのではないかという漠然とした推測……いや、それよりはもう少しハッキリしたモノを感じていた。
 ともかく、今の段階で分かる事は、ジャスミンと一緒に旅を続けるという事は、とんでもなく疲れるが、ある意味で楽しいらしい、という事だけだった。

 ◆ ◆ ◆ ◆

 「はぁ~……、今日もコレかぁ……」

 ジャスミンがうんざりした声で呻く。
 彼の目の前には、煮立った鍋がグツグツと音を立てており、その中では、鮮やかな色彩の野菜やキノコが湯の中を泳いでいた。
 その料理の名は無い。強いて名付けるとすれば、『新米神官の気まぐれ雑草と茸のごった煮 ~樹海のあっさり風味~』という感じか……。
 その味は自信を持って保証できる。――不味い方に、だが。

「あ~……せめて、もう少し塩気があればなぁ……」
「贅沢言わないで下さい」

 鍋をかき混ぜながら、パームは言う。

「コレだって、馴れてしまえば美味しいと感じるようになりますよ……多分」
「俺、多分、コレに馴れる前に死ぬと思う……」

 パームから手渡された椀の中で泳ぐ雑草を、恨めしげに睨み、匙で一掬いして、苦い顔で目をつぶって啜る。

「…………不味い」

 青臭さが堪らない……悪い意味で。
 一言で言えば、涙が出るほど、不味い。
 そんなジャスミンの向かいで、パームが目を閉じ、両手を天に向けて、感謝の祈りを捧げる。

「偉大なる三神……太陽神アッザム、紅月神ブシャム、蒼月女神レムよ……。御身らの素晴らしき恵みに深き感謝を……」
「それ、止めてくんないかなぁ」

 と、ジャスミンが言う。

「辛気くさくなってかなわないんですけど」
「スミマセンね……。でも、この祈りは、神官としての義務ですので。御恵みを与えてくださった三神をはじめとした神々への感謝と、糧となった魂達への謝罪を捧げているのです。……というか、ジャスミンさんも、曲がりなりにもラバッテリア教の人間なんですから、本来は一緒に祈って頂かないと……」
「いや……遠慮しとく。俺のガラじゃないから」

 パームの誘いを、にべも無く拒絶して、ジャスミンは顔を顰めて、汁を啜る。

「……つーか、こんなクソ不味い……雑草を煮込んだだけの代物に、感謝なんてしてられっかよ……」

 そう愚痴ると、ジャスミンは椀を傾け、一気に汁を飲み干す。ちびちび啜るよりも、一気に飲み込んでしまった方がが少ない事に気が付いたからだ。

「はあ――――――――!」

 空になった椀を放り投げて、思いっきりため息を吐くジャスミン。

「おっきな肉を腹一杯食いてえよおおおおおおおおおおっ!」

 と、その時、

「――ッ!」

 彼の脳内に稲妻のような閃きが走った!

(あ、そっか~! その手・・・があったか! 何で、こんな簡単な事に気付かなかったんだ、俺!)

 閃いたアイデアのおかげで、ジャスミンの鬱屈はたちまち消え去り、心がぴょんぴょんと軽やかに跳ね始めた。
 自然と眉尻が下がり、口元が緩む。

「じゃ、ジャスミンさん……。どうか、なさったんですか……?」

 その変化を見て、心配そうに声をかけるパーム。どうやら、ジャスミンの頭がいよいよおかしくなった、と思ったらしい。

「えっ? ああ、いやぁ、何でもない。何でもないよ~! あはは、あははははははは!」
「いや、明らかに変ですよ……。ひょ、ひょっとして、鍋の中に毒草が混じっていたのかな……?」
「いやいやいや! 大丈夫大丈夫! 大変美味しゅうございましたよ!」

 慌てて否定するジャスミン。

「……?」

 首を傾げながら、まるで可哀相な人を見るような、哀れみに満ちた視線を向けてくるパームに、内心でイラっとしながらも、ジャスミンは満面の笑みを浮かべ続ける。
 何故なら――彼の脳内で電撃的に閃いた“計画”の為にも、パームに不審を抱かせてはならないからだ。
 彼こそが彼の秘密計画のキーマンであり、大事ななのだから……!

「――――あ! 何だアレは!」

 突然、ジャスミンは顔を引き攣らせて、パームの背後の闇を指さす。

「え――?」

 驚いたパームが振り返って、顔を引き攣らせながら濃密な闇に目を凝らす。
 その隙に――ジャスミンは、気配を殺してパームに近づき、手元に隠していた小瓶のフタを開けた。そして、その中に入っていた液体を数滴、目にも止まらぬ早業で、パームの手元の椀の中に垂らす。

「……な、何も……居ないみたいですけど……」

 パームは、そんなジャスミンの動きには全く気付いていない。

「――あー、多分、俺の見間違いだわ。ゴメンな~、驚かせて」

 ジャスミンはすました顔で言う。

「そ、そうですか……。いや、ホッとしました……」

 安堵した表情で座り直したパームは、椀の汁を匙で掬い、息を吹きかけて冷ましてから、ゆっくりと口元に運んだ――。

 …………

 それから30分後、パームは草の上に倒れ臥して、前後不覚に眠りこけていた。

「……よし」

 それを確認したジャスミンは、シメシメとほくそ笑み、手元の小瓶を軽く振る。

「――相変わらず、凄い効き目だ。この……」

 ――そう、ジャスミンが先程、パームの椀に垂らしたのは、タダの目薬だった。
 しかし、その目薬に含まれる成分のひとつが、経口摂取することによって、摂取した者にをもたらす事は、彼ら色事師の間では広く知られていた。
 底辺の、チンケな色事師の中には、その作用を悪用して、ナンパした女の酒に混ぜて飲ませ、寝潰した後で出逢い宿屋に担ぎ込んでしまう――という不届き者もいたが、ジャスミンはで、この目薬を活用していた。
 例えば、『天下無敵の色事師』として売り出し中のジャスミンと一夜を共にしたいと願う――、

 やんごとないご身分のババ……マダムや、

 ストー……少々執着がお強い、夢見がちなレディや、

 顔面が崩壊……とても個性的で、本人は、全くそのことに気付いていないお嬢さん、

 そんな類いの女性達に、運悪く遭遇してしまい、不幸にも逃げ切れそうもなくなった時の最終手段として、常に持ち歩いているのだ。
 ジャスミンの危地を何度も救った目薬――それが、この人っ子一人居らぬ樹海のど真ん中で役に立つとは、彼自身も思いもしなかった。

「いや~……前々から思ってたけど、俺って神から愛されてるわ♪」

 ほくそ笑むジャスミンの言う“神”とは、彼にとっては幸運の女神であっても、一般の人間に対しては『疫病神』と称されるソレに違いない……。

 そして――、

「――――お、あったあった」

 パームの熟睡を確認したジャスミンは、リュックを漁って、目的の物を取り出した。
 それは――太いロープの束だった。

「――じゃあ、そろそろ取りかかるとしますか……」

 口の端から涎を垂らしながら、ぐっすりと熟睡しているパームを見て、ロープを手にしたジャスミンは、ニヤリと邪悪に微笑わらったのだった――。
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