好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)

朽縄咲良

文字の大きさ
24 / 176
第二章 サンクトルまで何ケイム?

蒼白と真紅

しおりを挟む
 ダリア傭兵団の本拠――、
 薄暗く長い回廊を、シュダは白装束の長い裾を靡かせ、ゆるゆると歩く。
 そして、回廊の突き当たりにある、鉄製の重い扉の前で、彼は立ち止まった。
 扉の奥から、

『ハッ! ヤーッ!』

 という、勇ましいかけ声が漏れ聞こえてくる。
 シュダは、重い扉を押し開け、部屋の中に入った。
 そこは、石壁で四方を囲まれた、暗い部屋だった。
 ――その部屋の中央で、紅く光る“蛇”が、空中をうねり飛んでいた。“蛇”は、地面に鋭い音を立てて跳ねたかと思えば、空中で鮮やかな弧の軌道を描いて、空中を泳いだりと、暗闇の中を自在に躍動していた。
 しかし、よく目を凝らしてみれば、闇の中を縦横無尽に跳ね回る紅く光る蛇は、炎に包まれた、数エイムに及ぶ長鞭だという事が分かる。
 その鞭の炎に照らし出された長鞭の遣い手は、まだうら若い女性だった。

「どうだい? 炎鞭フレイムウィップの腕前は、上がったかい?」

 部屋に入った瞬間、シュダは顔を微かに歪めるが、すぐに平常な表情を取り戻し、室内の人物に向かって声をかける。

「――! あ! こ、これはシュダ様!」

 室内の女性は、戸口に立つシュダに気付くと、慌てた様子で、手にした炎鞭フレイムウィップの炎を消し、丸めたそれを腰のホルダーに納めた。
 そして、小走りで走り寄ると、シュダの前に膝をつく。

「これは、ご来訪に気付きませず、大変失礼を致しました、シュダ様!」
「いやいや。私も、ノックもしないで勝手に入り込んだんだ。失礼はお互い様だよ――アザレア」

 シュダは、穏やかな笑みを湛えて、室内の女――アザレアに言う。
 彼女は、まだ若かった。年の頃なら18.9といった所か。その髪は、鮮やかに燃える炎の様な赤髪で、肩の辺りで切り揃えており、三つ編みにした一房を耳前に垂らしている。
 整った顔の中で、ひときわ魅力的に輝く瞳の色も、クリムゾンルビーを思わせる真紅だ。
 そして、鍛え上げられたしなやかな長身が、彼女の持つ佇まいを、更に神秘的なものに昇華している。
 ――まるで、古の神話で語り継がれる、炎と竈を司る女神フェイムを彷彿とさせる、美しい容姿の持ち主だった。

「……ところで、シュダ様。今日は、何故この様な所まで御出おいでになったのですか?」

 アザレアは、首を傾げて、シュダに訊いた。

「ああ……。実は」

 シュダは、どことなく言いづらそうな素振りで、言葉を続けた。

「君にとっての朗報であり、我らダリア傭兵団にとっての凶報、そして、君に対して謝罪しなければならない話を持ってきたのだ」
「私にとっての朗報で、傭兵団にとっての凶報……?」

 アザレアは困惑の表情を浮かべる。

「申し訳ございません。……私にはどういった事なのか、さっぱり――」
「ははは。いや、すまなかった。君を混乱させるつもりは無かったのだがね……」

 苦笑するシュダ――その、白く塗り重ねられた道化師の様な顔が、真剣さを増して、グッと引き締まる。

「これから私が話す内容を、どうか落ち着いて聞いてほしい。いいね、アザレア……」
「…………は、はい」

 団長が浮かべる真剣な表情に、アザレアも緊張する。
 シュダは、決意するように深く息を吸うと、をアザレアに伝えた。

「……君が長年探し続けていた、君の姉上を殺めた人物が、判明した」
「――――え!」

 アザレアの紅玉の様な真紅の瞳が、驚きで大きく見開かれる。

「――そして、ダリア傭兵団団長として、私が君に心からの謝罪をしなければならない理由が……」

 シュダは、沈痛な表情を浮かべて、言葉を継ぐ。

「我々が、かなり以前から、君の姉上殺しの犯人の情報を把握しており――その上で、君に対して、その情報を秘匿し続けていた、という事だ」
「――どういう事でしょうか……シュダ様?」

 アザレアは、低い声でシュダに問うた。その紅い瞳には、チラチラと怒りの炎が燃えている。
 シュダは、憤怒に震える彼女を前に、冷静に言葉を紡ぐ。

「それは、『ダリア傭兵団にとっての凶報』という内容に関わるんだ。即ち――」

 彼は、一旦言葉を切ると、覚悟を決めるように深く息を吸い、その言葉を吐いた。

「君の姉上を殺めたのが、他でもない、傭兵団副団長のチャー君だったからなんだ」
「――――!」

 アザレアの瞳が、再び大きく見開かれ、そして、きつく閉じられた。

「シュダ様……、申し訳ございません」

 アザレアは、低い声で呟くように言った。
 彼女の拳は、きつくきつく握り込まれ、ブルブルと震えていた。
 そして、彼女は顔を上げる。その眼には、涙と――復讐に滾る憎悪の炎で満ち満ちていた。

「シュダ様! どうか、どうか私に、チャー様……いや! 憎っくきチャーを討つお赦しを下さいませ! ……いえ、お赦しが無くとも、私はあの男を討ち滅ぼします! ……止めないで下さい、シュダ様! もし止めるというなら、私は貴方も――!」
「ほらね。そうなると解っていたから、君には伝えられなかったのだよ……
「……?」
「――ああ」

 シュダの言葉に含まれる、意味深な響きに気が付いたアザレアは、当惑の表情を浮かべる。
 そんなアザレアの顔を見て、シュダはフッと相好を崩し、左手で彼女の頬を撫でて、静かに言葉を続けた。

「君がいくらチャー君に対する復讐を懇願しても、傭兵団に於ける副団長という彼の立場上、私はそれを赦す事はできなかったのだが……それも、昨日までの話となった」
「……昨日までの?」
「――ああ」
「チャー君は、本日を以て、ダリア傭兵団の副団長職を退いた。……つまり」

 シュダは、ニヤリと微笑わらった。

「もう、彼は、ダリア傭兵団とは無関係の人間になったんだ。――チャーが、に惨たらしく殺されようとも、我々には一切の関係が無いという事だ」
「――! では……!」
「ああ」

 シュダは、凄惨な笑みを浮かべた。

「君にを与えよう。、気が済んだら戻ってきてくれ。――今なら……そうだな。がオススメだよ」
「…………畏まりました」

 アザレアは、ゆっくりと頷いた。その真紅の瞳を、狂気にも似た執念でギラつかせて。

「お言葉に甘えて、休暇を取らせて頂きます。サンクトルに、がいらっしゃいますから――」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

事務仕事しかできない無能?いいえ、空間支配スキルです。~勇者パーティの事務員として整理整頓していたら、いつの間にか銅像が立っていました~

水月
恋愛
「在庫整理しかできない無能は不要だ」 第一王子から、晩餐会の場で婚約破棄と国外追放を告げられた公爵令嬢ユズハ。 彼女のギフト【在庫整理】は、荷物の整理しかできないハズレスキルだと蔑まれていた。 だが、彼女は知っていた。 その真価は、指定空間内のあらゆる物質の最適化であることを。 追放先で出会った要領の悪い勇者パーティに対し、ユズハは事務的に、かつ冷徹に最適化を開始する。 「勇者様、右腕の筋肉配置を効率化しました」 「魔王の心臓、少し左にずらしておきましたね」 戦場を、兵站を、さらには魔王の命までをも在庫として処理し続けた結果、彼女はいつしか魔王討伐勇者パーティの一人として、威圧感溢れる銅像にまでなってしまう。 効率を愛する事務屋令嬢は、自分を捨てた国を不良債権として切り捨て、再出発する。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

処理中です...