好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)

朽縄咲良

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第三章 酒と泪と色事師と女将

口利きと遊び札

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 「口利き……? 傭兵団……て、チャー傭兵団にってコトか?」

 ジザスは、戸惑いながら、聞き返す。
 ジャスミンは、ニンマリと笑って、頭を掻きながら頷く。

「そう! 口利き!」

 そう叫ぶと、ジャスミンは、ヒースを指さした。

「そこの、冗談みたいにデカいダンナは、ギルド庁のクソ硬い金庫の扉を叩き開け、壁外地区にあった石造りのラバッテリア布教所を更地に変えた、『壊し屋ヒース』でしょ?」
「……まあ、そうだけどよ……何だよ、そのダセえ二つ名は? ……初耳だぜ」

 ヒースは、眉を顰める。

「そりゃそうでしょ。俺が今、テキトーに付けたんですから」

 涼しい顔で言い放つジャスミンに、ヒースは呆れたように苦笑した。

「んな事はどうでもいい。で、この俺が、その『壊し屋ヒース』だったとしたら、何なんだよ?」
「カンタンな事っすよ」

 ジャスミンは、ふふんと鼻を鳴らす。

「ぶっちゃけ、俺は傭兵なんてやった事も無いし、戦場で戦った事も無い。そんな奴が傭兵になりたい~なんて言っても、ハイそうですかでなれるモンでもないでしょう? たとえ、なれたとしても、タダの三下の下っ端として雇われて、最前線の盾代わりにコキ使われるのがオチ……」

 ヒースとジザスは、その言葉に小さく頷く。ジャスミンは、話を続ける。

「――だけど、チャー傭兵団最強と名高いヒースのダンナが、直々に入団の口利きしてくれたとなれば、俺の格も抜群に上がって、傭兵団の中で良い目を見れる……ていうのを狙っている次第でして……」

 へっへっへっ――と、ジャスミンは、その整った顔に相応しくない下卑た笑みを浮かべる。
 その話を聞いたヒースは、ヤレヤレと肩を竦める。

「――随分、お前さんにとって都合の宜しい話だが……。よく分からんね。何で俺が、知り合いでもないお前さんの入団を、わざわざ口利きしてやらなきゃいけないんだい?」
「そうだぜ。お前の言う通りにオレたちが動いてやらなきゃならん理由は、全く無えよ」

 ヒースとジザスの正論にも、ジャスミンはたじろぐ様子も無い。ニヤリと笑って、平手を机に打ちつける。

「もちろん! 今俺が言った事が、俺にとって都合が良すぎる話だってのは重々承知しています。だから、――!」

 彼は、机から掌を上げる。掌の下には、真新しいカードの束があった。
 それを見たジザスが、目を丸くして声を上げる。

「ソレは……カルティンか?」

 ――カルティンとは、風・火・水・雷の四つの属性各18枚計72枚に、アッザム・ブシャム・レムの『神札』を加えた、総数75枚セットの『遊び札』である。
 この地方では、子供の遊びの道具として、そして、大人たちの賭博のゲーム札として、広く普及している――。
 ジャスミンは、机に出したカルティン札を、手馴れた様子でシャッフルしながら言った。

「――ヒースのダンナ、カルティンコレで、俺と勝負しませんか? ――俺が勝ったら、口利きの件をお願いします」
「――ほう!」

 ヒースは、感心したように口笛を吹いた。

「面白え。口利き賭けて、俺とカルティン勝負しようってのか」
「そういう事です」

 頷いて、テーブルの上を滑らすようにしてカードを配り始めるジャスミン。

「賭け事っつーのなら当然、お前も何かを賭けなきゃなあ?」

 ジザスが、ガンを飛ばしながら言った。
 ジャスミンは、彼を一瞥し、フンッと鼻で笑って答える。

「そうですね……俺が負けたら……まあ、別に何でもいいですよ。――考えても意味無いし。そもそも負けねえから、俺」
「ほほう~。随分な自信じゃあねえか、兄ちゃんよお」

 ジャスミンの、変わらぬ不敵な態度に、寧ろ好感を持ち始めたヒース。彼は、こういう自信に満ちた男は、実は嫌いではない。
 もっともそれは、「実力が伴う」という事が前提だが――。

「あー。始める前に、予め言っておきますよ」

 札を配り終えたジャスミンが、手を挙げて言った。

「俺、イカサマするんで」
「は――?」
「だって、勝ちたいじゃん。でも運じゃん。でも勝ちたいじゃん。なら、するよね、イカサマ」
「するよね……じゃねえよ! テメエ、ナメてんのか!」

 激怒したジザスが、ジャスミンの胸倉を掴む。――だが、彼の、人を食ったようなヘラヘラ笑いは変わらない。

「――なので、ダンナたちの勝利条件を増やしてあげます」
「――勝利条件、だと?」
「そう。――ダンナ達が俺に勝てたら、もちろんダンナ達の勝ち。或いは、ダンナ達が、俺の仕掛けたイカサマのカラクリを見破っても……ダンナ達の勝ちって事でいいですよ。――乗りますか?」

 ジャスミンは、そう言うと、爽やかな笑みを浮かべて、片目を瞑った。
 ヒースとジザスは、顔を見合わせると、抜き身の剣の輝きにも似た、剣呑な薄笑みを浮かべる。

「――後悔するなよ、兄ちゃん」

 ……
 ……
 ……そして、一時間半後、

「あああああっ! クソッ! ブタだッ!」

 ジザスが、手札をテーブルに投げつけた。

「……俺も、『風と波』だけだ――」
「じゃ、また俺の勝ちッスね♪ 『双月の雷雨』でーす!」

 ニンマリと笑って、手札を返してテーブルに広げるジャスミン。

「ああああっ! またやりやがったな、このイカサマ野郎が!」
「だ・か・らぁ。イカサマしますって、最初ハナっから言ってるじゃないですか。――で、トリックは分かりました?」
「……ぐぬぬぬぬっ」

 逆に煽る様に、ニッコリと爽やかな笑みを浮かべてみせるジャスミンを前に、ジザスは歯噛みして悔しがる事しか出来ない。
 ジャスミンは、札を切りながら言った。

「これで、俺の30勝0敗ですね。――まだ続けます?」
「……どうする、ヒース? ……オレには、コイツの仕掛けているイカサマのタネは皆目見当もつかねえんだが……」
「……俺にもサッパリだ」

 耳打ちするジザスに、首を振るヒース。
 そして、ジャスミンの方に向き直って、両手を挙げた。

「――降参だ、兄ちゃん。これ以上粘っても、兄ちゃんに勝てる気も、イカサマを見破る事も出来そうも無えや」
「お、おい、ヒース!」
「おう、鍵師。――傭兵の格ってのはな、不利な状況の時には、サッサと見切りつけて撤退する、を持ってるかどうかで決まるんだよ」

 そう言うと、ヒースは、28杯目のバルを一気に飲み干した。

「ヨッ! さすが、最強の傭兵! 素晴らしい状況判断です!」

 パチパチと拍手するジャスミン。

「――じゃ、さっきの件は……」
「分かった分かった。口利きでも何でもしてやるよ。……その代わり、俺からも一つ条件を付けていいか?」
「―――条件次第」
「なーに、難しい事じゃねぇよ」

 ヒースは、傷だらけの顔に、ニヤリと野卑な笑みを浮かべた。

「……また、カルティンで勝負しようや、兄ちゃん。もちろんイカサマ有りでさ。――次こそ見破ってやるからよ!」
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