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第三章 酒と泪と色事師と女将
巨人と鍵師、そして色事師
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『飛竜の泪亭』の店先に設置されたテーブルに、ジザスとヒースが座る。
椅子も2脚用意されたが、座るのはジザスのみ。巨体のヒースに合う椅子などは無いので、彼はあぐらをかいて、石畳の上に直接座っている。
ふたりは、手にした杯を掲げる。――ジザスは普通のジョッキだが、ヒースの手にあるのは、バルをなみなみと注がれた大きなピッチャーだ。しかし、彼が持つと、巨大なピッチャーが、まるで普通のコップのように見えてしまう。
「ほんじゃま……乾杯」
そう言って、ふたりは杯を打ち合わせ、一気に呷った。
「……ぷはああ。生き返らあっ!」
無精髭にバルの泡をつけたジザスは、叫んだ。
「おおいっ! バルをもう一杯頼む!」
「おいおい……もう飲み干しちまったのかよ? ピッチャーだろ、それ」
早くも、店内に向けておかわりを注文するヒースに、呆れるジザス。
「足りねえよ、こんなんじゃよぉ」
「あ、お待たせしました!」
フェーンが、店の中からピッチャーを抱えて小走りでやってきた。
「お、早いな。ありがとよ! でも、全然足りねえな……」
ヒースは、少し考えてから、フェーンに言った。
「なあ、メイドさんよ。バルを樽で持ってきてくれねえか? そうすれば、後は自分で勝手に注ぎながら飲むからよ」
「え? バルを、た……樽でですか?」
ヒースの提案に、目を丸くするフェーン。
「ああ。メイドさんも、いちいち店の中から酒を運んでくるのは大変だろ? アレだったら、俺が自分で酒蔵から運んできてもいいしよ」
「あ、フェーンちゃんが運ぶんだったら、俺も手伝うぜ……手伝うよ!」
嬉々とした顔で、手を挙げるジザス。
フェーンは、困ったようなはにかみ笑いを浮かべて、言った。
「え……と。ちょっと、シレネさんに聞いてきま――」
「は――いよっ! バル樽1丁、お待ち~!」
フェーンの言葉を遮るように、彼らの背後から声がかけられた。
ジザスとヒースが振り向くと、大きな樽を乗せた台車を押す、若い男が立っていた。
「じゃ――ジャスミンさんッ!」
フェーンが、素っ頓狂な声を上げる。
「ちょっと……ジャスミンさん、外に出たら……!」
「あー、何だよぉ。いいじゃんかよぉ。俺だって、パーッと騒ぎたいんだよ~」
――よくよく見たら、この男も随分といい男だ。舞台の二枚目役者もかくやという整った顔。茶髪に活き活きと輝く黒曜石の様な瞳が印象的だ。
と、ジザスは、フェーンと男の間に割って入り、彼の胸倉を掴んで、厳しく誰何する。
「お……お前、何モンだ?、も、もしかして……」
嫌な予感が頭を掠める。
「――お前、フェーンちゃんのオトコかぁッ?」
「ブフゥッ――!」
隣でバルを一呷りしていたヒースが、思わず噎せる。だが、ジザスは至って本気だ。その目を血走らせて、胸倉を掴んだ男の事を睨みつける。
すると男は、眉を顰めて、フェーンを指さした。
「俺が? コイツの? オトコぉ?」
そして、彼は目をパチクリさせると、大声で笑い出した。
「ぶ、ブハハハハハハッ! じょ、冗談は止してくれよ! な、何で俺がコイツなんかと?」
「コイツなんかと、だと? ……おい、兄ちゃん、ちょっと外でお話しよーか?」
男の言葉に、目の色を変えるジザス。ドスの効いた低い声で威圧しながら、男の襟首を掴む手に力を込める。
だが、男に怯んだ様子は無い。相変わらずヘラヘラした顔で、ジザスの手を振り払った。
「いや、外、ここですけど……?」
「おい、テメエ!」
「おいおい、せっかく美味い酒を飲んでるんだ。揉め事起こすんじゃねぇよ」
呆れ顔で、ガチギレするジザスを窘めるヒース。
ジザスは渋々といった様子で椅子に座り直すが、相変わらず殺意に満ちた目で、茶髪の男を睨みつけている。
男は、訳が分からないという顔をしていたが、ふと、合点がいったという顔になって、手を叩いた。
「あ~……なるほど。そういう事ねぇ」
そして、にこやかに笑って、ジザスの肩を叩く。
「まあ……茨の道かもしれないけどさ、頑張ってヨ! 取り敢えず、俺にはそういうシュミは無いから、安心してね~」
「……な、何だよ、イキナリ……?」
男の態度に訝しむジザス。
「というかよ……お前は誰なんだ? この店の下働きか何かか?」
ヒースが、男を鋭く睨めつけながら尋ねた。肝っ玉の小さい者なら、恐怖で小便をちびりかねない程の鋭い視線だったが、男は、毛程も狼狽える様子を見せなかった。
「下働き……ではないなぁ。何せ働いてないから」
そんな事を臆面もなく言ってのける。
「俺の名は、ジャスミン。色ご……まあ、いわゆるひとつの遊び人てヤツだ」
そう言って胸を張る。
「……自慢げに言う意味が分からねえ……。働けや、クソニート!」
ジザスが、憎々しげに言う。
「手厳しいねぇ……小さいダンナ」
ジャスミンは相変わらず飄々と、ジザスの敵意剥き出しの言葉を受け流した。
「……で、その遊び人のあんちゃんが、何でこの居酒屋の蔵からバルの樽を持ち出してきたんだい?」
「それな!」
ヒースの問いに、ジザスが大きく頷く。
「あ、ソレ聞いちゃいます?」
ジャスミンは、ヘラヘラと笑った。
「いやね、サンクトルに流れてきて、楽しくやってたら、突然アンタらが街を占領しちゃいましてね。ほら、俺ってこんなハンサムフェイスでしょ? 女の子ならまだしも、そういうシュミをお持ちの薔薇系男子に目を付けられたらかなわねえ……と思って、シレネにお願いして、匿ってもらってたんですよ」
ジャスミンは、そこまで言うと、大きくため息を吐いた。
「……でも、最近、ちょっとやらかしてしまいまして……シレネの目が、日に日に厳しくなってきましてねぇ……。こりゃ、早晩追い出されるナァ……と焦ってた矢先に、名高いダンナ達がご来店された訳です。ああ、こりゃあチャンスだ! ……って思って、樽をお持ちするのを口実に、お目もじしようと考えた次第」
そう言うと、ジャスミンは揉み手をしながら、上目遣いにヒースを見る。
ヒースは、ピッチャーのバルを一息で飲み干してから、訝しげな目でジャスミンの顔を見た。
「……で、あんちゃんは、俺に何を期待してるんだい?」
「ま、早い話が、俺は、ダンナ達に就職の斡旋をお願いしたいんですよ……。」
「就職の……斡旋?」
首を傾げるふたりを前に、ジャスミンはニンマリと笑って、言葉を継いだ。
「ダンナ……アンタに、俺の、傭兵団入団への口利きをお願いできませんかね?」
椅子も2脚用意されたが、座るのはジザスのみ。巨体のヒースに合う椅子などは無いので、彼はあぐらをかいて、石畳の上に直接座っている。
ふたりは、手にした杯を掲げる。――ジザスは普通のジョッキだが、ヒースの手にあるのは、バルをなみなみと注がれた大きなピッチャーだ。しかし、彼が持つと、巨大なピッチャーが、まるで普通のコップのように見えてしまう。
「ほんじゃま……乾杯」
そう言って、ふたりは杯を打ち合わせ、一気に呷った。
「……ぷはああ。生き返らあっ!」
無精髭にバルの泡をつけたジザスは、叫んだ。
「おおいっ! バルをもう一杯頼む!」
「おいおい……もう飲み干しちまったのかよ? ピッチャーだろ、それ」
早くも、店内に向けておかわりを注文するヒースに、呆れるジザス。
「足りねえよ、こんなんじゃよぉ」
「あ、お待たせしました!」
フェーンが、店の中からピッチャーを抱えて小走りでやってきた。
「お、早いな。ありがとよ! でも、全然足りねえな……」
ヒースは、少し考えてから、フェーンに言った。
「なあ、メイドさんよ。バルを樽で持ってきてくれねえか? そうすれば、後は自分で勝手に注ぎながら飲むからよ」
「え? バルを、た……樽でですか?」
ヒースの提案に、目を丸くするフェーン。
「ああ。メイドさんも、いちいち店の中から酒を運んでくるのは大変だろ? アレだったら、俺が自分で酒蔵から運んできてもいいしよ」
「あ、フェーンちゃんが運ぶんだったら、俺も手伝うぜ……手伝うよ!」
嬉々とした顔で、手を挙げるジザス。
フェーンは、困ったようなはにかみ笑いを浮かべて、言った。
「え……と。ちょっと、シレネさんに聞いてきま――」
「は――いよっ! バル樽1丁、お待ち~!」
フェーンの言葉を遮るように、彼らの背後から声がかけられた。
ジザスとヒースが振り向くと、大きな樽を乗せた台車を押す、若い男が立っていた。
「じゃ――ジャスミンさんッ!」
フェーンが、素っ頓狂な声を上げる。
「ちょっと……ジャスミンさん、外に出たら……!」
「あー、何だよぉ。いいじゃんかよぉ。俺だって、パーッと騒ぎたいんだよ~」
――よくよく見たら、この男も随分といい男だ。舞台の二枚目役者もかくやという整った顔。茶髪に活き活きと輝く黒曜石の様な瞳が印象的だ。
と、ジザスは、フェーンと男の間に割って入り、彼の胸倉を掴んで、厳しく誰何する。
「お……お前、何モンだ?、も、もしかして……」
嫌な予感が頭を掠める。
「――お前、フェーンちゃんのオトコかぁッ?」
「ブフゥッ――!」
隣でバルを一呷りしていたヒースが、思わず噎せる。だが、ジザスは至って本気だ。その目を血走らせて、胸倉を掴んだ男の事を睨みつける。
すると男は、眉を顰めて、フェーンを指さした。
「俺が? コイツの? オトコぉ?」
そして、彼は目をパチクリさせると、大声で笑い出した。
「ぶ、ブハハハハハハッ! じょ、冗談は止してくれよ! な、何で俺がコイツなんかと?」
「コイツなんかと、だと? ……おい、兄ちゃん、ちょっと外でお話しよーか?」
男の言葉に、目の色を変えるジザス。ドスの効いた低い声で威圧しながら、男の襟首を掴む手に力を込める。
だが、男に怯んだ様子は無い。相変わらずヘラヘラした顔で、ジザスの手を振り払った。
「いや、外、ここですけど……?」
「おい、テメエ!」
「おいおい、せっかく美味い酒を飲んでるんだ。揉め事起こすんじゃねぇよ」
呆れ顔で、ガチギレするジザスを窘めるヒース。
ジザスは渋々といった様子で椅子に座り直すが、相変わらず殺意に満ちた目で、茶髪の男を睨みつけている。
男は、訳が分からないという顔をしていたが、ふと、合点がいったという顔になって、手を叩いた。
「あ~……なるほど。そういう事ねぇ」
そして、にこやかに笑って、ジザスの肩を叩く。
「まあ……茨の道かもしれないけどさ、頑張ってヨ! 取り敢えず、俺にはそういうシュミは無いから、安心してね~」
「……な、何だよ、イキナリ……?」
男の態度に訝しむジザス。
「というかよ……お前は誰なんだ? この店の下働きか何かか?」
ヒースが、男を鋭く睨めつけながら尋ねた。肝っ玉の小さい者なら、恐怖で小便をちびりかねない程の鋭い視線だったが、男は、毛程も狼狽える様子を見せなかった。
「下働き……ではないなぁ。何せ働いてないから」
そんな事を臆面もなく言ってのける。
「俺の名は、ジャスミン。色ご……まあ、いわゆるひとつの遊び人てヤツだ」
そう言って胸を張る。
「……自慢げに言う意味が分からねえ……。働けや、クソニート!」
ジザスが、憎々しげに言う。
「手厳しいねぇ……小さいダンナ」
ジャスミンは相変わらず飄々と、ジザスの敵意剥き出しの言葉を受け流した。
「……で、その遊び人のあんちゃんが、何でこの居酒屋の蔵からバルの樽を持ち出してきたんだい?」
「それな!」
ヒースの問いに、ジザスが大きく頷く。
「あ、ソレ聞いちゃいます?」
ジャスミンは、ヘラヘラと笑った。
「いやね、サンクトルに流れてきて、楽しくやってたら、突然アンタらが街を占領しちゃいましてね。ほら、俺ってこんなハンサムフェイスでしょ? 女の子ならまだしも、そういうシュミをお持ちの薔薇系男子に目を付けられたらかなわねえ……と思って、シレネにお願いして、匿ってもらってたんですよ」
ジャスミンは、そこまで言うと、大きくため息を吐いた。
「……でも、最近、ちょっとやらかしてしまいまして……シレネの目が、日に日に厳しくなってきましてねぇ……。こりゃ、早晩追い出されるナァ……と焦ってた矢先に、名高いダンナ達がご来店された訳です。ああ、こりゃあチャンスだ! ……って思って、樽をお持ちするのを口実に、お目もじしようと考えた次第」
そう言うと、ジャスミンは揉み手をしながら、上目遣いにヒースを見る。
ヒースは、ピッチャーのバルを一息で飲み干してから、訝しげな目でジャスミンの顔を見た。
「……で、あんちゃんは、俺に何を期待してるんだい?」
「ま、早い話が、俺は、ダンナ達に就職の斡旋をお願いしたいんですよ……。」
「就職の……斡旋?」
首を傾げるふたりを前に、ジャスミンはニンマリと笑って、言葉を継いだ。
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