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第五章 街を取り戻せ!
騒乱と不殺
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祭の会場は、あっという間に騒乱の渦に飲み込まれた。
棍棒や丸太、投石などで攻撃するサンクトル住民達に対して、傭兵達は苦戦を余儀なくされていた。
数に圧倒的な差があったし、祭という事で、得物を手放して丸腰で会場にいた者も少なくなかった。
中には、用心深く帯刀した傭兵もいたが、どうも酒の回りが異常に早く、思うように身体を動かす事が出来ない。その為、彼らは数に勝る住民達に囲まれて、防戦一方にならざるを得なかった。
既に酔いつぶれて大の字になって鼾をかいている傭兵も少なくなく、ファミルデトン婆のてきぱきとした指示の元、街の女達の手によって無抵抗のまま、次々と縛り上げられていく。
「ターナー! 手筈通り頼むよ!」
ジャスミンは走りながら、店の在庫の魔道具を操り、魔法の矢を乱射するターナーを見付け、声をかける。
「――分かってはいる! 計画段階で、居酒屋の女達にも口酸っぱく言われていたからな……しかし、簡単では無いぞ!」
ターナーは、魔道具の理力充填の隙に、単眼鏡のズレを片手で直しながら叫ぶ。
「――全くだ! こんな乱戦で『殺すな』なんて……無茶だぜ!」
隣で巨大な肉叩きを振り回しながら、セネルも怒鳴る。
――二人の言う事はもっともだ。殺しにかかってくる相手に対して、不殺という枷をかけながら戦うのは、熟練した戦士でも容易な事では無い。戦いの素人である一般住民なら尚更だ。
しかし、それでも、『飛竜の泪亭』のシレネとフェーンは、死者を出さずに目的を達成する事に拘った。
不殺に拘るふたりと、不殺という目的が現実的では無いと考える住人達の間で、激しく意見を戦わせた結果、謀議に加わった住人達も、彼女たちの考えに同調した。敵だろうが味方だろうが、出来る事なら人の死を見たくないのは、結局の所、住人達も同じだったからだ。
そして、ジャスミンが中心となって、『死者を出さない』という事を目的として作戦を練り上げたのだが――フェーンの暴走というアクシデントによって、計画の目的と実現自体が危ぶまれつつある。
だが、それでも――。
ジャスミンは、彼らの言葉に頷きながらも、断固とした口調で言った。
「――分かってる! 絶対殺すな……とは言わない! ……けど、出来るだけ殺さないようにしてくれ! ――でないと」
――ひとりでも犠牲者が出てしまったら、責任感の強いパームが、自分が暴動の火蓋を切ってしまったからだと、ひとりで思い詰めてしまう――。
ジャスミンは、そう言いかけたが、途中で言葉を飲み込んだ。
(――何をガラでも無い事を言おうとしてるんだよ、俺は……)
「……とにかく、出来るだけ努力してくれ! ヨロシク!」
ジャスミンは、それだけ言い残すと、再び走り出した――。
◆ ◆ ◆ ◆
「――お願いだから、大人しくこの街から出て行ってくれないかしら?」
シレネは、長鞭を振るいながら、傭兵達に懇願した。
「私は――貴方達を叩きのめして捕まえようって訳じゃないの。出来れば、このままサンクトルを出て――元のダリア傭兵団に戻ってほしい……」
「は――? な、何を言ってやがる……。場末の酒場の女将風情が!」
「い――今更、ダリア傭兵団に戻れるか!」
「おめおめと戻ってきた俺たちを、あの団長が許す訳ねえだろ! 銀の死神のエサにされるだけに決まってる!」
彼女と対峙する傭兵達は、剣やナイフを油断無く構えながら、シレネの話を一蹴する。
シレネは、激しく首を横に振りながら叫ぶ。
「違う! シュダ団長は、そんな事しないわ! あの人は――!」
「うるせええっ!」
傭兵達は、彼女の言葉を遮り、ナイフや剣を振りかぶって、彼女に斬りかかる。
「――もうっ! この……分からず屋ッ!」
シレネは、顔を歪めて激しく舌打ちすると、右手を振った。
長鞭が、獲物に飛びかかる大蛇の如く地面を激しく打って跳ね飛び、高い風切り音を立てながら、傭兵達を激しく打ち据える。
「ぎゃあああっ!」
しなる鞭の激しい一撃を食らった傭兵達は、悲鳴を上げながら吹き飛ぶ。
が、後方の傭兵を打ち漏らした。
シレネの鞭の強烈な一撃を免れた傭兵は、腰の前にナイフを構え、奇声を上げて、彼女に向かって突進してくる。
「チィッ!」
シレネは歯を食いしばって右手を返す。左に行き過ぎた長鞭を振り返して、突進する傭兵を打ち据えようとするが、僅かに間に合わない――!
と、シレネは素早く聖句を唱える。
『火を統べしフェイムの息吹命の炎我が手に宿り全てを燃やせッ!』
次の瞬間、彼女の右手から赤い炎が吹き出し、握っていた鞭が炎に包まれた。
「――!」
突然、目の前で燃え上がった炎に、傭兵は一瞬たじろぐ。――それが、彼の命運を分けた。
傭兵の身体を舐めるように炎が包み込む。そして、傭兵が悲鳴を上げる間もなく、炎鞭の強烈な一撃が、彼の首に炸裂した。
「――――ガハアッ!」
傭兵は、白目を剥いて、頭から地面に叩き付けられた。
シレネは、炎に包まれた鞭を操りながら、哀しそうな目で倒れ臥した傭兵達を見据えた。
「――大人しく言う事を聞いてほしかったのに……」
棍棒や丸太、投石などで攻撃するサンクトル住民達に対して、傭兵達は苦戦を余儀なくされていた。
数に圧倒的な差があったし、祭という事で、得物を手放して丸腰で会場にいた者も少なくなかった。
中には、用心深く帯刀した傭兵もいたが、どうも酒の回りが異常に早く、思うように身体を動かす事が出来ない。その為、彼らは数に勝る住民達に囲まれて、防戦一方にならざるを得なかった。
既に酔いつぶれて大の字になって鼾をかいている傭兵も少なくなく、ファミルデトン婆のてきぱきとした指示の元、街の女達の手によって無抵抗のまま、次々と縛り上げられていく。
「ターナー! 手筈通り頼むよ!」
ジャスミンは走りながら、店の在庫の魔道具を操り、魔法の矢を乱射するターナーを見付け、声をかける。
「――分かってはいる! 計画段階で、居酒屋の女達にも口酸っぱく言われていたからな……しかし、簡単では無いぞ!」
ターナーは、魔道具の理力充填の隙に、単眼鏡のズレを片手で直しながら叫ぶ。
「――全くだ! こんな乱戦で『殺すな』なんて……無茶だぜ!」
隣で巨大な肉叩きを振り回しながら、セネルも怒鳴る。
――二人の言う事はもっともだ。殺しにかかってくる相手に対して、不殺という枷をかけながら戦うのは、熟練した戦士でも容易な事では無い。戦いの素人である一般住民なら尚更だ。
しかし、それでも、『飛竜の泪亭』のシレネとフェーンは、死者を出さずに目的を達成する事に拘った。
不殺に拘るふたりと、不殺という目的が現実的では無いと考える住人達の間で、激しく意見を戦わせた結果、謀議に加わった住人達も、彼女たちの考えに同調した。敵だろうが味方だろうが、出来る事なら人の死を見たくないのは、結局の所、住人達も同じだったからだ。
そして、ジャスミンが中心となって、『死者を出さない』という事を目的として作戦を練り上げたのだが――フェーンの暴走というアクシデントによって、計画の目的と実現自体が危ぶまれつつある。
だが、それでも――。
ジャスミンは、彼らの言葉に頷きながらも、断固とした口調で言った。
「――分かってる! 絶対殺すな……とは言わない! ……けど、出来るだけ殺さないようにしてくれ! ――でないと」
――ひとりでも犠牲者が出てしまったら、責任感の強いパームが、自分が暴動の火蓋を切ってしまったからだと、ひとりで思い詰めてしまう――。
ジャスミンは、そう言いかけたが、途中で言葉を飲み込んだ。
(――何をガラでも無い事を言おうとしてるんだよ、俺は……)
「……とにかく、出来るだけ努力してくれ! ヨロシク!」
ジャスミンは、それだけ言い残すと、再び走り出した――。
◆ ◆ ◆ ◆
「――お願いだから、大人しくこの街から出て行ってくれないかしら?」
シレネは、長鞭を振るいながら、傭兵達に懇願した。
「私は――貴方達を叩きのめして捕まえようって訳じゃないの。出来れば、このままサンクトルを出て――元のダリア傭兵団に戻ってほしい……」
「は――? な、何を言ってやがる……。場末の酒場の女将風情が!」
「い――今更、ダリア傭兵団に戻れるか!」
「おめおめと戻ってきた俺たちを、あの団長が許す訳ねえだろ! 銀の死神のエサにされるだけに決まってる!」
彼女と対峙する傭兵達は、剣やナイフを油断無く構えながら、シレネの話を一蹴する。
シレネは、激しく首を横に振りながら叫ぶ。
「違う! シュダ団長は、そんな事しないわ! あの人は――!」
「うるせええっ!」
傭兵達は、彼女の言葉を遮り、ナイフや剣を振りかぶって、彼女に斬りかかる。
「――もうっ! この……分からず屋ッ!」
シレネは、顔を歪めて激しく舌打ちすると、右手を振った。
長鞭が、獲物に飛びかかる大蛇の如く地面を激しく打って跳ね飛び、高い風切り音を立てながら、傭兵達を激しく打ち据える。
「ぎゃあああっ!」
しなる鞭の激しい一撃を食らった傭兵達は、悲鳴を上げながら吹き飛ぶ。
が、後方の傭兵を打ち漏らした。
シレネの鞭の強烈な一撃を免れた傭兵は、腰の前にナイフを構え、奇声を上げて、彼女に向かって突進してくる。
「チィッ!」
シレネは歯を食いしばって右手を返す。左に行き過ぎた長鞭を振り返して、突進する傭兵を打ち据えようとするが、僅かに間に合わない――!
と、シレネは素早く聖句を唱える。
『火を統べしフェイムの息吹命の炎我が手に宿り全てを燃やせッ!』
次の瞬間、彼女の右手から赤い炎が吹き出し、握っていた鞭が炎に包まれた。
「――!」
突然、目の前で燃え上がった炎に、傭兵は一瞬たじろぐ。――それが、彼の命運を分けた。
傭兵の身体を舐めるように炎が包み込む。そして、傭兵が悲鳴を上げる間もなく、炎鞭の強烈な一撃が、彼の首に炸裂した。
「――――ガハアッ!」
傭兵は、白目を剥いて、頭から地面に叩き付けられた。
シレネは、炎に包まれた鞭を操りながら、哀しそうな目で倒れ臥した傭兵達を見据えた。
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