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第五章 街を取り戻せ!

危機と救世主

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 「見つけたぞ、ジャ~スミ~ン!」

 混乱の極みにある祭会場を駆け回っていたジャスミンの前に、数人の傭兵が立ち塞がった。

「――あら? これはこれはゲソス様」

 内心で舌打ちをしつつ、ジャスミンは余裕を装って、にこやかに言った。
 ゲソス副団長は、目に強い憎しみの炎を宿しながら、手にした武器をジャスミンに突きつける。

「まんまとやってくれたなぁ、この裏切り者が!」
「裏切り者? 誰がですか?」

 ゲソスの怒号にも動じず、ジャスミンは涼しい顔で言う。

「しらばっくれるんじゃねえ! は全部貴様の差金さしがねだろう!」

 ゲソスは、こめかみに青筋を立てながら、剣を振り回して背後で繰り広げられる混戦を指し示す。

「貴様は、チャー傭兵団の禄を食みながら、サンクトルの住民共と結託して、反乱の計画を立てた! 祭にかこつけて、民衆を本部に引き入れ、我々に薬を盛って、労せずに街を取り戻そうという計画をな!」
「わあ~、スゴいスゴい! 大体当たりですよ! タダの小便漏らしのヘタレかと思ったら、実はマジで切れ者だったんですね、ゲソス様!」

 ジャスミンは、大げさに手を叩いて挑発する。

「……小便漏らしのヘタレ……?」
「……て、し、小便漏らし……?」
「え? ……漏らしたの? 小便……?」
「き! キーサ~マーッ! な……何をデタラメほざいてやがるんだ! 誰が何を……」

 部下に、ドン引きした顔で距離を取られたゲソスは、顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。
 そんな彼の様子を見たジャスミンは、更にニマニマと嫌らしい笑いを浮かべながら言葉を重ねる。

「あのカーペットはどうされたんですか? 変な臭いが付いちゃったから、もう使えないでしょ? もしかして、買い取りさせられちゃいまし――」
「貴様ぁ! 黙れぇえっ!」

 煽りまくるジャスミンに、顔を朱に染めて鋭く斬りかかるゲソス。

「――うおっと! 危ねっ!」

 ジャスミンは、紙一重の差で、ゲソスの鋭い斬り込みを、ゴロゴロと地面を転がって避けた。

「――ふう、危ない危な……!」

 ジャスミンの顔から余裕の笑みが消える。
 右手で肩を押さえると、ヌルっとした生温かい感触がしたからだ。
 ハッとして、右手を見ると、掌にはベットリと赤い血が付いている。

「……これはこれは……意外と手練だったんですねぇ、ゲソス様」

 肩を斬られ、脂汗を垂らしながらも、彼の軽口は止まらない。

「……随分と動きが軽い……。酒は飲まなかったんですか?」
「オレは下戸でな。生憎と、貴様ご自慢のの酒は口にしていないんだよ」
「おいおい……下戸な傭兵とか、締まらないにも程がありませんかね?」
「フン……遺言はそれで良いのか?」

 ゲソスは口元を歪めて嘲笑を浮かべると、ジェスチャーで背後の部下達に指示を送る。
 部下達は、ジャスミンの四方を取り囲み、彼の退路を経つ。

「……おやおや、随分念入りな事で……」
「おい、さっきと違って、顔色が青いぞ。……我が傭兵団をだばかった事……せいぜい悔いながらくたばれ!」

 ゲソスが、親指で首を掻き切るジェスチャーを合図として、周囲の傭兵達が一斉にジャスミンに向かって斬りかかる。

「クソッ!」

 ジャスミンは、腰のベルトに挿していたナイフを抜き、体勢を低くして、素早い動きで真正面の傭兵に突っ込んでいった。
 まさか、ジャスミンが逆に突っ込んで来るとは思わなかったのか、正面の傭兵の反応が数瞬遅れる。
 傭兵の剣がジャスミンの脳天をかち割るよりも早く、ジャスミンの体当たりが傭兵を襲う。堪らず吹っ飛ぶ傭兵。
 ジャスミンは、体当たりで崩れた体勢を前転で整え、立ち上がって走り去ろうとして――

「甘えよ!」

 素早く彼の逃走ルート上に回り込んできたゲソスの前蹴りが、ジャスミンの無防備な鳩尾にめり込んだ。

「――グフッ……!」

ジャスミンの整った顔立ちが、激痛で歪み、その場で崩折れ悶絶する。
 ゲソスの顔が諧謔的な嘲笑に満ちる。

「ククク……いいザマだなぁ、色男ヨォ。散々コケにしくさりやがって……タダじゃ楽にしてやんねぇからな……」
「……あら……ら……ゲソス様には、そんなシュミもあったん……ですか。……どっちかと言うと……ドMだと……」

 まだ軽口を叩こうとはするが、鳩尾の痛みで、満足に呼吸も出来ない。

(ヤバい……。このままじゃ……殺られる。――動け、俺の……身体!)

 ジャスミンは必死で自分の身体を叱咤するが、その意に反して、ノロノロとした動きしか出来ない。

「ハッハッハッ! 何だその動きは? 生まれたての子亀か!」

 嘲笑しながら、ゲソスはつま先でジャスミンの顎を蹴り上げ、ジャスミンは仰向けにひっくり返った。

「オラオラ! お楽しみは、これからだ――!」

 横たわるジャスミンを囲み、一斉に剣を振り上げる傭兵達。
 万事休す――!
 死が目前に迫るのを察したジャスミンは、思わず目を瞑る――。

『ブシャムの聖眼 宿る右の掌 紅き月 分かれし雄氣ゆうき 邪気を散らさん』
「――!」

 その時、厳かな聖句の詠唱と同時に、傭兵達の中心に赤い光の球が飛び込んで来て、次の瞬間、四方八方に弾けた。

「グアアアアアッ!」

 傭兵達は、夥しい光の小さな球に身体を貫かれ、バタバタと倒れた。

「――いい格好ですな、ジャスミン殿……ホッホッホッ」

 倒れ伏した傭兵達を跨いで、ツカツカとジャスミンに近付いてきた人物が、しわくちゃの手を彼に差し伸ばす。
 ジャスミンは苦笑しながら、その手を掴んで立ち上がり、

「――タイミングが完璧すぎだろ。さては、俺がピンチになるまで隠れて見ていやがったな……」

 ニヤリと苦笑わらい、その人物にウインクしてみせた。

「ホッホッホッ」
「まったく、とんだタヌキ爺だな……大教主サマよ!」
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