好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)

朽縄咲良

文字の大きさ
62 / 176
第五章 街を取り戻せ!

大教主と副団長

しおりを挟む
 「……さて、肩の傷を見せて下さい」

 そう言って、大教主はジャスミンの肩の傷に左手を翳した。
 そして、静かに目を閉じ、聖句を詠唱する。

『蒼き月 レムのきよき眼 宿りし左掌 雌氣しきを放ちて 尸氣しきを払はむ』

 次の瞬間、大教主の左掌が蒼く光り、その淡い光に照らされたジャスミンの左肩の傷がみるみる塞がっていく。

「――どうですか?」

 大教主がニコリと微笑んで言った。

「ああ、さすがだねぇ。パームの時より、治りが早いわ」

 ジャスミンは、感心したように言って、左肩をぐるぐる回す。傷口は跡形も無く、痛みも違和感も全く無い。

「ホッホッホ。私の力もありますが、ジャスミン殿の生命力の高さも治りが早い一因ですな。『ハラエ』は、自らの雌氣しきを相手に流し込み、対象の自己治癒能力生氣……いわゆる生命力を底上げするだけのものですから、対象の生氣しょうきが多い方ほど、効果は高くなります」
「……ふーん?」
「――まあ、下世話な言い方をすれば、“精力絶倫”イコール“生氣が多い”という事ですな」
「あーなるほど! 完全に理解したわ!」

 得たり、と手を叩くジャスミン。

「――取りあえず、助かったぜ、大教主様!」
「ホッホッホ。には間に合ったようですな」

 顎髭をしごきながら、愉快そうに笑う大教主。――と、その細い目がキラリと光り、ジャスミンの背後に鋭い視線を向けた。
 次の瞬間、大教主はジャスミンの肩を掴み、強い力で押しのける。

「う――うわっ!」

 次の瞬間、不意を衝かれてよろけたジャスミンの鼻先を、銀の閃きが掠めた。

「――!」
「……ホッホッホ。さすが、腐っても副団長……。他のヒラ傭兵さん達とは違って、先程の一撃では足りませんでしたか」
「……ふ、ふざ……けるな――! 何なんだ……畜生めが!」

 大教主の言葉に、剣を構えなおしたゲソスが、激しく息を乱しながら毒づく。

「これはこれは、ゲソク様……でしたっけか? アタカードの関所以来ですな……息災でしたか?」
「ゲソスだ、クソ大教主ッ!」

 激昂したゲソスは大きく剣を振りかぶり、今度は大教主を標的にして斬りかかる。

「くたばれぇえええええっ!」
「爺さん! 危ね――!」

 大教主に叫ぶジャスミン。
 大教主は、柔和な笑みのまま、懐に右手を突っ込み、黒い円筒状の何かを取り出す。
 そして、ゲソスの憎しみが籠もった一撃を上半身だけで躱しながら、左掌を円筒の下部に当てた。
 次の瞬間――、円筒の上部から一条の白い光が伸び、凝集して一振りの刀身を形作る。
 そして、その刀身でゲソスの第二撃をハッシと受け止めた。

「な――何だ、ソレはっ!」

 驚愕に満ちたゲソスの叫び。大教主は、鍔迫り合いの形からゲソスの剣を巧みにいなし、体勢が崩れたゲソスの鼻柱に強烈な肘打ちを叩き込むと、素早く飛び退き、距離を取った。

「ぐ……クソォ……」

 膝をつき、鼻を押さえるゲソス。手の間からは夥しい鼻血が滴り落ちる。

「……す、すげえ……」

 ジャスミンは、呆気に取られて、二人の攻防を見ていた。
 前々から、ただ者では無いと感じていたが、大教主が今見せた一連の身体の動き――恐ろしく戦い慣れているのは、戦闘の素人であるジャスミンにすら理解できた。

「――ジャスミン殿」

 ピタリと、白光の刀身をゲソスに向けて油断無く構え、背を向けたまま大教主は声をかけた。

「お――おう」
「貴方が立てた計画は、これからどう推移する予定ですか?」

 大教主の言葉に、ジャスミンは答える。

「それは――本部の地下牢に収監されている神官達を解放するつもりだけど――」
「――ホッホッホ。正解です」

 大教主は、ジャスミンの答えを聞き、満足げに頷く。

「ラバッテリア布教所の神官達の協力を得られれば、住民達への加勢と救護を任せられますからな。――ふむ、それならば……ジャスミン殿、これをお持ちなされ」

 そう言うと、大教主は左手の小指に嵌めていた指輪を外して、ジャスミンに手渡した。

「さすがに、貴方のようなチャラついた遊び人が『助けに来た』とやって来ても、にわかには信用されないでしょうからのぉ。その指輪に刻まれた、大教主の印章を示せば、余計な手間が省けますぞ」
「んだよ……。信用ねえなぁ、俺」

 そうぼやきながらも、指輪をポケットにしまい、ジャスミンは後方の傭兵団本部へ向かって走り出した。

「じゃ、とっとと済ませてくる! 後は任せたぜ、大教主!」
「ホッホッホ。任されましょう」

 背中を向けたまま、鷹揚に返事をする大教主。ジャスミンの軽快な足音が遠ざかる。
 大教主は、白光の剣を構え直した。
 ――彼の握る円筒の柄は、先程から持ちかねる程の熱を帯びており、時折バチバチと火花を散らしている。
 大教主は、それを見て独りごちる。

「――所詮はレプリカ……か」

 は模造品だ。彼がかつて使用していた、聖遺物ロストテクノロジーの一つであるのように、大教主の強大な生氣を質量のある光へと変換組成し、刀身として維持し続けるには、荷がかちすぎているのだ。

(やれやれ……こんな事になるのなら、宝具として奉納などせずに、手元に置いておくべきでしたな……)

 これが、“後悔先に立たず”というやつか――。そんなことわざが脳裏に浮かび、大教主は皮肉げに口の端を歪める。

(この分では、保ってあと二撃といったところかの……)

 ならば、と、大教主は右手に意識を集中させ、柄に先程に倍する雄氣ゆうきを注ぎ込む。
 白い光の刃が、より一層目映く輝き出し、やや反り返った『刀身』がハッキリと形成される。二撃分の雄氣を一撃に集中させ、より強烈な一撃で確実に終わらせる為に。

「……何だよ……何なんだよ、ソレはッ!」

 ゲソスは、剣を大上段に振りかぶったまま、目を剥いて叫んだ。その白い刃が放つ剥き出しの殺気を肌で感じて、ガチガチと歯を鳴らす。

「……貴方も傭兵の端くれなら、お分かりでしょう。素直に投降なされた方が、身の為ですぞ」

 大教主は、先程と変わらぬ好々爺の微笑を浮かべながら、静かに言った。――が、彼の目には、冷酷な光が宿っている。

「……く……クソがあああああああああっ!」

 大教主の眼光に射すくめられたゲソスは、恐怖に耐えかね、絶叫しながら遮二無二無謀な突撃を図った。
 剣の間合いに入るや、振り上げた剣を渾身の力を込めて振り下ろす。

「くたばれええええええっ!」
「……愚かな」

 大教主は、僅かに目を瞑ると、振り下ろされる剣の軌道に白光の刀身を合わせた。
 ――甲高い金属音が、辺りに響いた。
 ゲソスは、信じられない物を見る目で、真っ二つに切断された己の剣の先を凝視した。次いで、己の頭上に掲げられた目映い白い光の太刀に視線を移し、数瞬後に自分を襲う運命を察して、絶望の表情を浮かべる。

「――さようなら」

 大教主は冷酷に一言呟き、躊躇無く鋭い一閃を、ゲソスの脳天目がけて振り下ろした。
 光り輝く刃は、ゲソスの脳天にめり込み――

 パァンッ!

 その寸前――遂に限界を超えた黒い柄が、大教主の手元で乾いた音を立てて破裂し、それと同時に、刀身を形成していた白い光も、四散し跡形も無く消えてしまった。

「ぐッ――!」

 大教主は、顔を顰めて右手を押さえつつ、ゲソスの反撃を怖れて、身を屈める。
 ――しかし、彼からの反撃は無かった。
 大教主は恐る恐る顔を上げると、ゲソスは、額から僅かに血を流しながら、仰向けに倒れて泡を吹いていた。その股の間には黄色い水たまりが出来ていて、仄かに湯気を立てている。
 大教主は、苦笑いしながらゆっくりと立ち上がった。押さえていた右掌を見ると、柄の破片でズタズタに切り裂かれて、血まみれになっている。

「やれやれ……粗悪な模造品で助かりましたな……貴方も……そして、私も」
 
 ……これは、か、それともか?

 ――否。
 恐らくは、
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

事務仕事しかできない無能?いいえ、空間支配スキルです。~勇者パーティの事務員として整理整頓していたら、いつの間にか銅像が立っていました~

水月
恋愛
「在庫整理しかできない無能は不要だ」 第一王子から、晩餐会の場で婚約破棄と国外追放を告げられた公爵令嬢ユズハ。 彼女のギフト【在庫整理】は、荷物の整理しかできないハズレスキルだと蔑まれていた。 だが、彼女は知っていた。 その真価は、指定空間内のあらゆる物質の最適化であることを。 追放先で出会った要領の悪い勇者パーティに対し、ユズハは事務的に、かつ冷徹に最適化を開始する。 「勇者様、右腕の筋肉配置を効率化しました」 「魔王の心臓、少し左にずらしておきましたね」 戦場を、兵站を、さらには魔王の命までをも在庫として処理し続けた結果、彼女はいつしか魔王討伐勇者パーティの一人として、威圧感溢れる銅像にまでなってしまう。 効率を愛する事務屋令嬢は、自分を捨てた国を不良債権として切り捨て、再出発する。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~

とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。 先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。 龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。 魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。 バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……

処理中です...