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第五章 街を取り戻せ!
激闘と危機
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『ブシャムの聖眼~…… 宿る右の掌 紅き月…… 集いし雄氣 邪気を滅するぅッ!』
「うがああああああっ!」
またひとり、紅い光球を胸に受けた傭兵が悲鳴を上げながら、白目を剥いて昏倒する。
「……な、何だよ……どうしちまったんだよ、フェーンちゃ……」
「だぁかぁらぁっ! 僕はパームらって、言ってんだろおっ!」
「グゲッ!」
呆然と呟いた哀れな傭兵に素早く接近し、その鳩尾に肘打ちを食らわし吹き飛ばしたのは、メイド服のブラウスが裂け、胸元を露わにしながら、疾風のような勢いで暴れ回る少女――否、少年だった。
傭兵達は、彼の苛烈な攻撃の前に、為す術も無く、ただ遠巻きに囲むだけだ。
「お……おい、てめえら! 見てないで、さっさとコイツを止めろ!」
傭兵の隊長格が、業を煮やして、部下達を叱咤する。
部下達は、その声を聞いて、お互い困惑した顔を見合わせる。
「とはいっても……どうやって止めたらいいんですか……?」
「離れてたら、あのけったいな光の球が飛んでくるし、接近戦に持ち込もうとしても、体術も相当なモンですぜ、フェーンの野郎……」
「だーかーらーっ! 僕はフェ――――ンじゃな――――いッ!」
「――しかもっ、物凄い地獄耳っ!」
パームに聞きとがめられ、慌てて散開しようとした傭兵達の中心に、大きな光球が飛んできて、次の瞬間爆ぜて、無数の光が周囲の傭兵達に向けて炸裂する。
紅い光を浴びた傭兵達は、悪夢を見たような顔でバタバタと倒れた――。
◆ ◆ ◆ ◆
「――キリが無いわ」
シレネは、肩で息をしながら、ウンザリしながら呟いた。
彼女の周りには、武器を構えた傭兵達が十重二十重と取り囲んでいる。
彼女は、長鞭を握る手にグッと力を込め、振り下ろす。
ビシッと乾いた音を立てて、黒い鞭が撓りながら地面を叩き、跳ね上がると、前方の傭兵数人を強かに打ち据える。
悲鳴を上げて倒れ臥す傭兵達。――が、その後ろから、次々と新手が押し寄せてくる。
彼女の長鞭は、今は炎を帯びていない。攻撃力の高い炎鞭は、力の加減を間違えると、容易く相手を死に至らしめてしまう。
故あって、傭兵の命を奪いたくないシレネには、それは望む事ではないし、炎鞭は費やす雄氣の量も多いので、現在のような圧倒的多数相手では、相手を全て倒し切る前に雄氣欠乏に陥ってしまう恐れもある。
その為、シレネは通常の鞭打のみで、傭兵達に対峙しているのだが――、同時に、危険に陥った住民達への援護や救護もしながらここまで戦ってきたので、そろそろ体力の限界を感じつつあった。
それに――、
(……こんな所で無駄な時間を費やしていたら……アイツが――)
と、シレネは焦りに胸を焦がしながら、舌打ちする。
シレネが懸念している点は、それだけでは無い。
(――大丈夫かしら……パーム君)
周囲の傭兵達に邪魔をされて、なかなか彼に近づけない。もっとも、いまのパームは酔いが回っていて、一種の狂戦士状態を保っているようなのだが、一度酔いが醒めてしまうか、バルに仕込んだ目薬が効き始めてしまったら、途端に形勢は不利になる。
そうなる前に、彼の元に辿り着いて、安全を確保してやりたかったのだが……。
「うおおおおおおっ!」
「――もうっ、しつこいッ! 少しは落ち着いて考えさせてよ!」
叫びながら、長鞭を一振りする――と、
一人の隻眼の傭兵が、その鞭の先をハッシと掴み取った。
ハッとした時には既に遅く、隻眼の傭兵に掴まれた鞭を思い切り引っ張られ、鞭の柄は彼女の掌からすり抜けた。
「しまった――!」
シレネの顔が、焦燥で歪む。
彼女が得物を喪った事を知った傭兵達は、舌なめずりをしながら、ジリジリと彼女との距離を縮めていく。
シレネは、咄嗟に睨みを利かせて傭兵達を牽制するが、肉弾戦は全くの素人同然だ。見様見真似で両腕を前に出して構えるものの、明らかに隙だらけの彼女を見て、傭兵達もそれを察する。
「へっへっへ……。観念しな、シレネちゃんよぉ……」
「『飛竜の泪亭』……気に入ってたんだがな……。顔ではニコニコ笑っておきながら、腹の中では我々を陥れようと企んでいたのだな……赦せん!」
「さんざん俺らをコケにしくさってよぉ……たっぷりお返ししてやるからなぁ」
「なーに。すーぐに、キモチヨクなっちまうからよ……」
「…………」
下卑た笑いを浮かべて、舌なめずりしながら、だんだんと距離を詰めてくる傭兵達。シレネは、紙のような顔色で、黙ったまま身を固くする。
――遂に、傭兵達の、劣情に汗ばんだ手がシレネの腕を掴む。
「や――! 止めなさい――!」
「止めろと言われて止める馬鹿は居ねえよ! へへへ……!」
「さあ、観念して、オレたちに身を任せ――」
「ホッホッホ、いけませんなぁ。そんな無骨で無粋な誘い方では――」
傭兵達の下衆な笑い声の中で、枯れた笑いが混ざった。
――同時に、シレネを囲む傭兵達の輪の一角が崩れ落ちる。
「――女性を誘う時は、あくまで紳士的に。そう、『犬のように従順に、猫のように柔軟に――そして、蛇のように狡猾に』。それが、ナンパの基本にして鉄則ですぞ……ホッホッホ」
「ぐげ――っ!」
「がは……ッ!」
情けない悲鳴を残して倒れる傭兵達の真ん中で、猿のようなしわくちゃの顔をした老人が一人立っていた。何をしたのか、誰の目にも留まらない、一陣の風のような素早さと軽やかさで、老人が瞬く間に屈強な傭兵達を気絶させたのは明らかだった。
「だ――誰だ、てめえは!」
残った傭兵達が慌てて剣を構える。
略式神官旅装を纏った老人は、鷹揚に顎髭を撫でながら、長閑な声で答えた。
「ホッホッホ。――通りすがりの元色事師ですじゃ」
「うがああああああっ!」
またひとり、紅い光球を胸に受けた傭兵が悲鳴を上げながら、白目を剥いて昏倒する。
「……な、何だよ……どうしちまったんだよ、フェーンちゃ……」
「だぁかぁらぁっ! 僕はパームらって、言ってんだろおっ!」
「グゲッ!」
呆然と呟いた哀れな傭兵に素早く接近し、その鳩尾に肘打ちを食らわし吹き飛ばしたのは、メイド服のブラウスが裂け、胸元を露わにしながら、疾風のような勢いで暴れ回る少女――否、少年だった。
傭兵達は、彼の苛烈な攻撃の前に、為す術も無く、ただ遠巻きに囲むだけだ。
「お……おい、てめえら! 見てないで、さっさとコイツを止めろ!」
傭兵の隊長格が、業を煮やして、部下達を叱咤する。
部下達は、その声を聞いて、お互い困惑した顔を見合わせる。
「とはいっても……どうやって止めたらいいんですか……?」
「離れてたら、あのけったいな光の球が飛んでくるし、接近戦に持ち込もうとしても、体術も相当なモンですぜ、フェーンの野郎……」
「だーかーらーっ! 僕はフェ――――ンじゃな――――いッ!」
「――しかもっ、物凄い地獄耳っ!」
パームに聞きとがめられ、慌てて散開しようとした傭兵達の中心に、大きな光球が飛んできて、次の瞬間爆ぜて、無数の光が周囲の傭兵達に向けて炸裂する。
紅い光を浴びた傭兵達は、悪夢を見たような顔でバタバタと倒れた――。
◆ ◆ ◆ ◆
「――キリが無いわ」
シレネは、肩で息をしながら、ウンザリしながら呟いた。
彼女の周りには、武器を構えた傭兵達が十重二十重と取り囲んでいる。
彼女は、長鞭を握る手にグッと力を込め、振り下ろす。
ビシッと乾いた音を立てて、黒い鞭が撓りながら地面を叩き、跳ね上がると、前方の傭兵数人を強かに打ち据える。
悲鳴を上げて倒れ臥す傭兵達。――が、その後ろから、次々と新手が押し寄せてくる。
彼女の長鞭は、今は炎を帯びていない。攻撃力の高い炎鞭は、力の加減を間違えると、容易く相手を死に至らしめてしまう。
故あって、傭兵の命を奪いたくないシレネには、それは望む事ではないし、炎鞭は費やす雄氣の量も多いので、現在のような圧倒的多数相手では、相手を全て倒し切る前に雄氣欠乏に陥ってしまう恐れもある。
その為、シレネは通常の鞭打のみで、傭兵達に対峙しているのだが――、同時に、危険に陥った住民達への援護や救護もしながらここまで戦ってきたので、そろそろ体力の限界を感じつつあった。
それに――、
(……こんな所で無駄な時間を費やしていたら……アイツが――)
と、シレネは焦りに胸を焦がしながら、舌打ちする。
シレネが懸念している点は、それだけでは無い。
(――大丈夫かしら……パーム君)
周囲の傭兵達に邪魔をされて、なかなか彼に近づけない。もっとも、いまのパームは酔いが回っていて、一種の狂戦士状態を保っているようなのだが、一度酔いが醒めてしまうか、バルに仕込んだ目薬が効き始めてしまったら、途端に形勢は不利になる。
そうなる前に、彼の元に辿り着いて、安全を確保してやりたかったのだが……。
「うおおおおおおっ!」
「――もうっ、しつこいッ! 少しは落ち着いて考えさせてよ!」
叫びながら、長鞭を一振りする――と、
一人の隻眼の傭兵が、その鞭の先をハッシと掴み取った。
ハッとした時には既に遅く、隻眼の傭兵に掴まれた鞭を思い切り引っ張られ、鞭の柄は彼女の掌からすり抜けた。
「しまった――!」
シレネの顔が、焦燥で歪む。
彼女が得物を喪った事を知った傭兵達は、舌なめずりをしながら、ジリジリと彼女との距離を縮めていく。
シレネは、咄嗟に睨みを利かせて傭兵達を牽制するが、肉弾戦は全くの素人同然だ。見様見真似で両腕を前に出して構えるものの、明らかに隙だらけの彼女を見て、傭兵達もそれを察する。
「へっへっへ……。観念しな、シレネちゃんよぉ……」
「『飛竜の泪亭』……気に入ってたんだがな……。顔ではニコニコ笑っておきながら、腹の中では我々を陥れようと企んでいたのだな……赦せん!」
「さんざん俺らをコケにしくさってよぉ……たっぷりお返ししてやるからなぁ」
「なーに。すーぐに、キモチヨクなっちまうからよ……」
「…………」
下卑た笑いを浮かべて、舌なめずりしながら、だんだんと距離を詰めてくる傭兵達。シレネは、紙のような顔色で、黙ったまま身を固くする。
――遂に、傭兵達の、劣情に汗ばんだ手がシレネの腕を掴む。
「や――! 止めなさい――!」
「止めろと言われて止める馬鹿は居ねえよ! へへへ……!」
「さあ、観念して、オレたちに身を任せ――」
「ホッホッホ、いけませんなぁ。そんな無骨で無粋な誘い方では――」
傭兵達の下衆な笑い声の中で、枯れた笑いが混ざった。
――同時に、シレネを囲む傭兵達の輪の一角が崩れ落ちる。
「――女性を誘う時は、あくまで紳士的に。そう、『犬のように従順に、猫のように柔軟に――そして、蛇のように狡猾に』。それが、ナンパの基本にして鉄則ですぞ……ホッホッホ」
「ぐげ――っ!」
「がは……ッ!」
情けない悲鳴を残して倒れる傭兵達の真ん中で、猿のようなしわくちゃの顔をした老人が一人立っていた。何をしたのか、誰の目にも留まらない、一陣の風のような素早さと軽やかさで、老人が瞬く間に屈強な傭兵達を気絶させたのは明らかだった。
「だ――誰だ、てめえは!」
残った傭兵達が慌てて剣を構える。
略式神官旅装を纏った老人は、鷹揚に顎髭を撫でながら、長閑な声で答えた。
「ホッホッホ。――通りすがりの元色事師ですじゃ」
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