好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)

朽縄咲良

文字の大きさ
73 / 176
第六章 Fighting Fate

氷矢と光刃

しおりを挟む
 「ほらほらぁ! 観念して出てきなさあい! 今出てきたら、苦しまないように凍らせてあげるからあん!」

 転がり込むようにして金庫の中に飛び込んだまま、一向に出てこないジャスミンとジザスに、苛立ちながら怒鳴るチャー。

「迎えに行ってやったらいいんじゃねえのか?」

 ヒースは、顎の無精髭を抜きながら言う。
 チャーは、彼をきっと睨み付け、忌々しげに答える。

「……あの金庫の中は、あらゆる魔法・術式・生氣術の類を無効化する力場構造体処理がされてんのよ。――要するに、あの扉の中に入ったら、アタシの氷術も使えなくなるのよん……」
「ふ~ん……なるほどねえ」

 興味なさそうな顔で、また一本髭をむしるヒース。度外れた膂力で、力任せに叩き潰すだけの戦い方の彼にとって、術関係がどうのこうのといった事は、彼岸の火事に等しき縁の無いハナシである。
 チャーは、面白くなさげにブフンと鼻を鳴らし、金庫扉へ向き返る。

「オラァ! いい加減にしなさあいっ! サッサと――!」
「あーはいはい。今出ますよ~」

 チャーの絶叫を遮り、まるでトイレの個室で用を足した後の様な緩いノリで、扉の陰から顔を出したのは、ジャスミンだった。

「いやー、お待たせして申し訳ありませんね~。にちょいと手間取りましてねぇ」
「あら、何の準備かしらん? 殊勝に遺書でもしたためてたのかしらん?」

 ジャスミンの余裕ある態度に、こめかみに青筋を浮かべながらも、嗤いながら冗句を言ってやるチャー。

「いえいえ。何で、この俺が遺書なんかを書かなきゃいけないんですか? ――死ねませんよ、俺は。俺が死んだりなんかしたら、この国の女の子達がみんな後追いしちゃって大変な事になりますからねぇ」
「……それが貴方の遺言って事でいいわねっ!」

 チャーはそう叫ぶと、手にしていた氷の大刀を振りかぶって、ジャスミンに向かって力任せに投げつけた。

「――おおっと!」

 ジャスミンは、上半身を屈めて、氷の大刀を躱した。
 大刀は分厚い金庫室の鋼鉄の扉に衝突し、粉々に砕ける。次の瞬間、

『――アイサムの 刃を砕き 割り散らす 氷礫ひょうれきと為し を打ち据えよ!』

 チャーが、新たな聖句を唱える。すると、砕けた氷の粒々が空中で制止し、意思を持ったように鳴動した後、一斉にジャスミンの方に向かって飛来する。

「うわぁわあっ!」

 ジャスミンは、氷弾による不意の急襲に、悲鳴を上げながら飛び退いて避ける。

「あ――危なっ! まだ、そんな隠し玉を――!」
『……アイサムの 涙集めし 氷の矢 弾雨となりて 敵を射通すっ!』

 半身で着地して、片膝をついたジャスミンに、間髪入れずチャーは氷の矢を放った。

「――!」

 体勢が崩れたままのジャスミンは、氷の矢を避けられない。みるみる氷の矢が、ジャスミンの身体を貫かんと迫ってくる。
 ――と、ジャスミンは腰のベルトに手を伸ばし、挟んでいた何かを右手に握り、身体の前に掲げる。
 それは――、先程金庫の中で見付けた宝具――金象眼があしらわれた黒い剣のだった。

「――! ブフフフフフッ! 何よ、それはぁっ! 剣の柄だけで、何をしようというのかしらぁん!」

 チャーは、顔面を歪めて哄笑する。
 ジャスミンは、精神を集中させながら、あの時の事を思い出す。――先程、中庭でゲソスと対峙した際に、大教主が遣った光の剣を創り出した時の事を。
 彼は、自分が構える剣の柄が、あれと同種のものだと推測……否、半ば確信していた。

(確か……あの時、大教主は……)

 自分の推測が正しければ、で発動できるはず。
 ……だが、そもそも自分の推測自体が外れている可能性もある。
 推測が正しいにしても、ぶっつけ本番の一発勝負だ。万が一、に失敗してしまえば、無数の氷の矢がジャスミンの身体を貫き、彼の命を奪うだろう。
 一か八か……と言うには、余りにも分が悪い。賭博の神バウザムですらも匙を投げかねないほどに、目の薄い勝負だ……。
 ――だが、

(――――面白いっ!)

 と、ジャスミンは不敵に微笑わらい、

「――うおおおおおおおっ!」

 雄叫びを上げながら、左掌を柄尻に勢いよく押し当てる。

 ――カチッ

 という小さな音がし、柄に刻まれた金の幾何学模様が、ボウッと淡い光を放つ。
 次の瞬間、彼の持つ柄先から、薄桃色の光が奔流の様に噴き出した。
 そして、薄桃色の光は次第にその色合いを濃くし、渦の様にうねりながら、たちまち刃渡り70セイム程の一振りの刃へと、その形を収束させる。

「はあっ!」

 ジャスミンは、光の刃を横薙ぎに一閃した。彼に迫っていた氷の矢は、その一閃で打ち落とされ、或いは蒸発したように消え去った。

「な――なによ……それっ?」

 それを見たチャーは、目を丸くして絶句し、

「ほう……こりゃすげえな」

 壁に凭れて状況を見守っていたヒースは、思わず身を乗り出して呟いた。
 ジャスミンは、額に浮かんだ玉のような冷や汗を拭いつつ、柄の先から伸びるマゼンタ色の光の刀身を見て、満足げにニヤリと笑顔を見せた。

「……どうやら、分の悪すぎるには勝ったみたいだね」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

事務仕事しかできない無能?いいえ、空間支配スキルです。~勇者パーティの事務員として整理整頓していたら、いつの間にか銅像が立っていました~

水月
恋愛
「在庫整理しかできない無能は不要だ」 第一王子から、晩餐会の場で婚約破棄と国外追放を告げられた公爵令嬢ユズハ。 彼女のギフト【在庫整理】は、荷物の整理しかできないハズレスキルだと蔑まれていた。 だが、彼女は知っていた。 その真価は、指定空間内のあらゆる物質の最適化であることを。 追放先で出会った要領の悪い勇者パーティに対し、ユズハは事務的に、かつ冷徹に最適化を開始する。 「勇者様、右腕の筋肉配置を効率化しました」 「魔王の心臓、少し左にずらしておきましたね」 戦場を、兵站を、さらには魔王の命までをも在庫として処理し続けた結果、彼女はいつしか魔王討伐勇者パーティの一人として、威圧感溢れる銅像にまでなってしまう。 効率を愛する事務屋令嬢は、自分を捨てた国を不良債権として切り捨て、再出発する。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~

とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。 先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。 龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。 魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。 バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

処理中です...