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第八章 ある日、湖上で
三人と姦計
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ウィローモの狂気じみた言葉と哄笑に、三人は背筋を寒気が走るのを感じた。
パームが、ジャスミンの方へ目配せをする。だが、その事に気付いたジャスミンは静かに首を横に振り、『まだ早い』と、口だけ動かした。
「……まあ、それは……怖いですわね。私達の内のふたりは……食べられてしまうのですか?」
アザレアは、そう呟くように言って、ブルリと身を震わせた。
ウィローモは、熱病に浮かされたように目をギラギラと輝かせ、早口で捲し立てる。
「怖い事なんてありませんよ! 贄に捧げられた者は、水龍の血肉の一部となって、永久の安寧を得る事が出来るのです! 知っていますか? 水龍は、太古の昔に一度滅びたものの、数万年前の災厄で世界が一度壊滅した際に、神の起こし給うた奇跡によって蘇ったのです! そんな神に愛された存在の一部となる事が出来るのですよ! 何を怖れる事がありますか?」
――ヤバい。何を言っているのか、全く解らない……と、三人は、顔を引き攣らせる。
一方で、自分の演説に至極ご満悦なウィローモは、うっとりとした顔で、勝手に話を進めていく。
「さあ、そうと決まれば、さっさと決めてしまいましょう! ボ、ボクの好みの女性はですねえ……。家庭的で、奥ゆかしくて、ボクよりも早く起きて、遅く寝てくれる人……。料理が美味しいのは大前提で、ボクが大好きな、芋とタマネギのポトフを毎日作ってくれると嬉しいなぁ!」
「…………うわあ。童貞丸出しだぁ……」
勝手な理想を並べるウィローモを前に、呆れて顔を顰めるジャスミン。
だが、彼はそんな無礼な失言にも気付く様子は無く、『ボクに相応しいお嫁さん像』を捲し立て続ける。
「も、もちろん、ボクの言う事には何でも従う従順な女で……こ、子供は……そうだなぁ、出来れば4……いや、5人は欲しいですねぇ。最初は男の子で、次は女の子――男女男男女みたいな順番で……。あ、でも、無理する必要は無いですよ! ふ……夫婦が仲睦まじいのが理想ですから! ――子供なんて、いざとなったら、そこら辺から持ってくれば良いですし……」
「……コイツ、イカれてる……」
思わず、アザレアが呟き、椅子からユラリと立ち上がる。
「……もう限界。これ以上、コイツの生臭い戯れ言を聞きたくないわ」
「ちょ……アザ……お姉ちゃん!」
「お、オホホホ! ……頭領様、ごめんなさいネ。この娘は、ちょっと気が短くて……。コラ、アナタ! 落ち着いて――」
慌てて、アザレアの袖を引いて、席に着かせようとするパームとジャスミン。
だが彼女は、ふたりの腕を振り払う。
「うるさい! もう、お芝居はお仕舞い!」
「――お芝居……ああ、なるほど!」
三人のやり取りを、キョトンとした顔で見ていたウィローモは、得たりと手を打った。
「皆さん、私のま、前だからって、一生懸命ネコを被ってら、らしたんですね! ――だ、大丈夫です。ボクは理解のある男ですので、気の強い方でも大丈夫です! 寧ろ、Mッ気属性もなきにしもあらず――」
「ああああっ! もう! 面倒くさい男がッ!」
「おいっ! だから、もうちょっと待てって――!」
アザレアの激高っぷりに、思わず素で叫んでしまったジャスミン。その声を耳にしたウィローモの顔に、胡乱げな表情が過ぎり――、
「――お、おおおっ?」
突如、彼の膝は力を失い、床に崩れ落ちた。
「……な、なん……だ……? ね――眠……気が――?」
「……やれやれ。やっと効いたかぁ」
安堵の溜息を吐きながら、ジャスミンは立ち上がり、ニヤリと邪悪な笑いを浮かべて、胸の詰め物の間から取り出した青い小瓶を、ちゃぽちゃぽ音を立てながら振ってみせた。
「混ぜたのが紅茶だったのがいけなかったのかな? いつもより目薬の効きが悪かったから、ちょっと焦ったぜ」
「……な……何だ、どうしたんだ……君たち……は?」
今にも閉じそうな瞼を必死でこじ開けながら、襲い来る眠気に必死に抗うウィローモは、朦朧としながら訊ねる。
そんな彼を見て、口の端を歪めて薄笑いを作りながら、彼女は、長い黒髪の鬘を脱ぎ去り、化粧を拭き落とした。
そして、本来の顔に戻った彼は、高らかな声で名乗りを上げた。
「湖賊の頭領サマ……初めまして。俺達は、アンタ達を撲滅しに来た――『天下無敵の色事師』ジャスミンと愉快な仲間たちでーす♪」
「……て、何よ、『愉快な仲間』たちって!」
ジャスミンの言葉にすかさずツッコむアザレア。
「……キメ顔で名乗られても、ドレス姿じゃ様にならないです、ジャスミンさん……」
ワンピース姿のままのパームも、呆れ顔で嘆き声を上げる。
「しゃ、しゃあないじゃん! だって……ドレスの下にズボンなんて穿けないだろ!」
痛いところを衝かれて、顔を真っ赤にしながら言い返すジャスミン。
そんな三人を前に、床で蹲ったままのウィローモは、
「お……おま、お前らは……!」
意識も絶え絶えになりながらも、必死で言葉を紡ぐ。
「……お……オカマ――だったのか――!」
「「違――うッ! 女装してただけぇっ!」」
「……私は違うんだけど」
ウィローモの誤解を全力で否定するジャスミンとパーム、そして、それを否定するアザレア。
――ジャスミンは、ゴホンと咳払いをすると、勝ち誇った顔で、倒れ臥すウィローモに指を突きつける。
「さあ、観念しろ、湖賊の頭領! 大人しく捕まれば、痛い目に遭わないで済むぞ!」
「……それって、悪党の台詞の定型文じゃない……」
……これじゃ、どっちが湖賊か分からない。
一方、ジャスミンに指を突きつけられたウィローモは、顔を伏せたまま動かない。ただ、意識を喪った訳でも無く、顔を伏せたままブツブツと呟いている。
「…………とこ……おとこ……男……男だと……男が、騙した? ……男が、ボクを」
「……しぶといな……まだオチないのか?」
「男、が……ボク、を――!」
「……物理的に眠らせた方が早いんじゃな――」
「男ごときが、このボクを、騙しただとォォォォォォォッ!」
突然、ウィローモは伏せていた顔を上げて絶叫した。その気弱な顔は、憤怒で赤黒く変色して歪み、凄絶な表情を浮かべている。
そして、甲高い声で彼は叫んだ。
「みんなぁっ! コイツらを――喰ええええぇぇぇぇっ!」
「やべッ! コイツ、部下の湖賊たちを……!」
「扉を、塞がないと――」
「――! 違うッ!」
湖賊たちが殺到するであろう、部屋の入り口を固めようと動くジャスミンとパームを、アザレアは強い声で引き止めた。目を瞑って、耳を澄まし――、
真剣な顔で、床を指差した。
「下から――来るッ!」
「え――?」
「下って――!」
次の瞬間、
板張りの床が、バリバリと乾いた音を立てながら裂け割れ、その間から巨大な水龍の首が飛び出してきた――!
パームが、ジャスミンの方へ目配せをする。だが、その事に気付いたジャスミンは静かに首を横に振り、『まだ早い』と、口だけ動かした。
「……まあ、それは……怖いですわね。私達の内のふたりは……食べられてしまうのですか?」
アザレアは、そう呟くように言って、ブルリと身を震わせた。
ウィローモは、熱病に浮かされたように目をギラギラと輝かせ、早口で捲し立てる。
「怖い事なんてありませんよ! 贄に捧げられた者は、水龍の血肉の一部となって、永久の安寧を得る事が出来るのです! 知っていますか? 水龍は、太古の昔に一度滅びたものの、数万年前の災厄で世界が一度壊滅した際に、神の起こし給うた奇跡によって蘇ったのです! そんな神に愛された存在の一部となる事が出来るのですよ! 何を怖れる事がありますか?」
――ヤバい。何を言っているのか、全く解らない……と、三人は、顔を引き攣らせる。
一方で、自分の演説に至極ご満悦なウィローモは、うっとりとした顔で、勝手に話を進めていく。
「さあ、そうと決まれば、さっさと決めてしまいましょう! ボ、ボクの好みの女性はですねえ……。家庭的で、奥ゆかしくて、ボクよりも早く起きて、遅く寝てくれる人……。料理が美味しいのは大前提で、ボクが大好きな、芋とタマネギのポトフを毎日作ってくれると嬉しいなぁ!」
「…………うわあ。童貞丸出しだぁ……」
勝手な理想を並べるウィローモを前に、呆れて顔を顰めるジャスミン。
だが、彼はそんな無礼な失言にも気付く様子は無く、『ボクに相応しいお嫁さん像』を捲し立て続ける。
「も、もちろん、ボクの言う事には何でも従う従順な女で……こ、子供は……そうだなぁ、出来れば4……いや、5人は欲しいですねぇ。最初は男の子で、次は女の子――男女男男女みたいな順番で……。あ、でも、無理する必要は無いですよ! ふ……夫婦が仲睦まじいのが理想ですから! ――子供なんて、いざとなったら、そこら辺から持ってくれば良いですし……」
「……コイツ、イカれてる……」
思わず、アザレアが呟き、椅子からユラリと立ち上がる。
「……もう限界。これ以上、コイツの生臭い戯れ言を聞きたくないわ」
「ちょ……アザ……お姉ちゃん!」
「お、オホホホ! ……頭領様、ごめんなさいネ。この娘は、ちょっと気が短くて……。コラ、アナタ! 落ち着いて――」
慌てて、アザレアの袖を引いて、席に着かせようとするパームとジャスミン。
だが彼女は、ふたりの腕を振り払う。
「うるさい! もう、お芝居はお仕舞い!」
「――お芝居……ああ、なるほど!」
三人のやり取りを、キョトンとした顔で見ていたウィローモは、得たりと手を打った。
「皆さん、私のま、前だからって、一生懸命ネコを被ってら、らしたんですね! ――だ、大丈夫です。ボクは理解のある男ですので、気の強い方でも大丈夫です! 寧ろ、Mッ気属性もなきにしもあらず――」
「ああああっ! もう! 面倒くさい男がッ!」
「おいっ! だから、もうちょっと待てって――!」
アザレアの激高っぷりに、思わず素で叫んでしまったジャスミン。その声を耳にしたウィローモの顔に、胡乱げな表情が過ぎり――、
「――お、おおおっ?」
突如、彼の膝は力を失い、床に崩れ落ちた。
「……な、なん……だ……? ね――眠……気が――?」
「……やれやれ。やっと効いたかぁ」
安堵の溜息を吐きながら、ジャスミンは立ち上がり、ニヤリと邪悪な笑いを浮かべて、胸の詰め物の間から取り出した青い小瓶を、ちゃぽちゃぽ音を立てながら振ってみせた。
「混ぜたのが紅茶だったのがいけなかったのかな? いつもより目薬の効きが悪かったから、ちょっと焦ったぜ」
「……な……何だ、どうしたんだ……君たち……は?」
今にも閉じそうな瞼を必死でこじ開けながら、襲い来る眠気に必死に抗うウィローモは、朦朧としながら訊ねる。
そんな彼を見て、口の端を歪めて薄笑いを作りながら、彼女は、長い黒髪の鬘を脱ぎ去り、化粧を拭き落とした。
そして、本来の顔に戻った彼は、高らかな声で名乗りを上げた。
「湖賊の頭領サマ……初めまして。俺達は、アンタ達を撲滅しに来た――『天下無敵の色事師』ジャスミンと愉快な仲間たちでーす♪」
「……て、何よ、『愉快な仲間』たちって!」
ジャスミンの言葉にすかさずツッコむアザレア。
「……キメ顔で名乗られても、ドレス姿じゃ様にならないです、ジャスミンさん……」
ワンピース姿のままのパームも、呆れ顔で嘆き声を上げる。
「しゃ、しゃあないじゃん! だって……ドレスの下にズボンなんて穿けないだろ!」
痛いところを衝かれて、顔を真っ赤にしながら言い返すジャスミン。
そんな三人を前に、床で蹲ったままのウィローモは、
「お……おま、お前らは……!」
意識も絶え絶えになりながらも、必死で言葉を紡ぐ。
「……お……オカマ――だったのか――!」
「「違――うッ! 女装してただけぇっ!」」
「……私は違うんだけど」
ウィローモの誤解を全力で否定するジャスミンとパーム、そして、それを否定するアザレア。
――ジャスミンは、ゴホンと咳払いをすると、勝ち誇った顔で、倒れ臥すウィローモに指を突きつける。
「さあ、観念しろ、湖賊の頭領! 大人しく捕まれば、痛い目に遭わないで済むぞ!」
「……それって、悪党の台詞の定型文じゃない……」
……これじゃ、どっちが湖賊か分からない。
一方、ジャスミンに指を突きつけられたウィローモは、顔を伏せたまま動かない。ただ、意識を喪った訳でも無く、顔を伏せたままブツブツと呟いている。
「…………とこ……おとこ……男……男だと……男が、騙した? ……男が、ボクを」
「……しぶといな……まだオチないのか?」
「男、が……ボク、を――!」
「……物理的に眠らせた方が早いんじゃな――」
「男ごときが、このボクを、騙しただとォォォォォォォッ!」
突然、ウィローモは伏せていた顔を上げて絶叫した。その気弱な顔は、憤怒で赤黒く変色して歪み、凄絶な表情を浮かべている。
そして、甲高い声で彼は叫んだ。
「みんなぁっ! コイツらを――喰ええええぇぇぇぇっ!」
「やべッ! コイツ、部下の湖賊たちを……!」
「扉を、塞がないと――」
「――! 違うッ!」
湖賊たちが殺到するであろう、部屋の入り口を固めようと動くジャスミンとパームを、アザレアは強い声で引き止めた。目を瞑って、耳を澄まし――、
真剣な顔で、床を指差した。
「下から――来るッ!」
「え――?」
「下って――!」
次の瞬間、
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