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第八章 ある日、湖上で
水龍と湖賊
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舞い散る粉塵と木屑と水飛沫の中で、床から飛び出してきた数頭の水龍の首が、爛々と光る目で眼下を睥睨する。
「――! 何で……水飛沫っ?」
アザレアが、目を庇いながら、裂けた床を覗き込むと、愕然とした。
てっきり、黒い土が見えるかと思われた床下が、キラキラと光を反射して波立っていたからだ。
「……この建物は、湖の上に建てられてるのか――!」
水龍達が、床を下から突き破って現れた理由が分かった。――恐らく、ウィローモが危機に陥った際に、すぐに水龍達が急行できる様に、敢えて建物を湖面の上に築いたのだろう。
「随分、用心深いというか、周到な――」
ジャスミンが舌打ちする間もなく、水龍達は、狙うべき三人の獲物の姿をその視界に収める。
「ヤベッ……避け――!」
ジャスミンが叫ぶ間もなく、彼らの立つ場所へ、数多の水龍の首が殺到する。
「うわわわっ!」
パームは、床を転がりながらその突撃を躱し、ジャスミンはギリギリまで水龍を引き付けてから、跳び上がる。
「こ――こんのぉッ!」
アザレアは、ロングスカートの裏地に縫い付けていた長鞭の柄を握ると、一気に引き抜く。
「火を統べし フェイムの息吹 命の炎! 我が手に宿り 全てを燃やせッ!」
彼女が早口で聖句を詠唱するや、たちまち黒い長鞭が紅蓮の炎に包まれる。
アザレアはすかさず炎鞭を振るい、水龍の鼻先を強かに叩いた。
「キイイイイッ!」
鉄板の表面を陶器の欠片で擦った様な、耳障りな鳴き声を上げて、水龍の首が悶絶する。
周囲に、肉が焦げる嫌な臭いが漂い、水龍達が僅かに怯んだ。
「――今だ! この隙に、この部屋から出ろ!」
ジャスミンが叫び、三人は弾かれたように、床の亀裂を飛び越えながら、唯一の出口である扉に向かって走る。
「許さ……許さないゾオオッ! たかが……たかが男風情が、このボクを謀るなどと……絶許だあああアッ!」
フラフラと蹌踉めきながら、ウィローモは、目を狂った様にギラギラと光らせ、口から怒りに満ちた言葉を吐き出した。
水龍達は、その言葉に弾かれた様に、逃げるジャスミン達の背中に向けて一斉に長い首を伸ばす。
「――あっぶなっ!」
間一髪、三人が扉をくぐるのが早かった。最後尾のパームがすかさず扉を閉める。次の瞬間、分厚い木の扉に水龍の頭が衝突した重い音が、建物内に響き渡った。
ジャスミンが、胸を撫で下ろす。
「やれやれ……これで一安心――」
「――するには、まだ早いみたいよ……」
ジャスミンの声を、アザレアのウンザリした声が遮った。
三人の目の前には、狭い廊下いっぱいに密集して、彼らに向かって銀色に輝く得物を構える、湖賊達の姿があった。
「――散れッ!」
ジャスミンが短く叫ぶ。
同時に、溢れる殺気を纏った湖賊たちが、彼らに向かって一斉に斬りかかる。
「ブシャムの聖眼 宿る右の掌 紅き月――」
パームが聖句を唱えると同時に、右掌を湖賊達の方へ向ける。彼の詠唱と同時に、掌の『ブシャムの聖眼』が紅く光り、その前方に、まるで天に浮かぶ『紅き月』を思わせる紅光の球体が現出する。
「分かれし雄氣 邪気を散らさん!」
続けて彼が唱えると、紅い光球が弾かれた様に、真っ直ぐ湖賊達の方へ飛んでいき――、戸惑いどよめく湖賊達の中心で四方八方に弾け散った!
「ぐああああーッ!」
湖賊達の間で悲鳴が上がり、数人の湖賊が、糸の切れた操り人形の様に、その場に崩折れる。
浮足立つ湖賊達の只中に、ロングスカートを翻して、ジャスミンが躍り込んだ。
「おらおら、どいたどいたーッ! 当たると痛ったいよ、コレ!」
叫びながら、太腿に括り付けていた『無ジンノヤイバ』の柄を手にし、左手で柄尻を叩くと、たちまち『無ジンノヤイバ』の柄先から光の帯が延び、輝く刀身を形造る。
彼が光の剣を振るうと、湖賊たちがバタバタと薙ぎ倒された。
「こぉの……けったいな武器を……だが、背中がガラ空きだぜ――ッ!」
隻眼の湖賊が、ジャスミンの無防備な背中に斬りかかる――が、刃がジャスミンに届く直前に、湖賊の首に黒い鞭が絡み付き、後ろに引っ張られた湖賊は、ドウッと音を立てて倒れた。
「……油断しすぎよ、ジャス!」
鞭の柄を操って、窒息して白目を剥いた湖賊の首から長鞭を外しながら、アザレアはジャスミンに声をかける。
振り返ったジャスミンは、アザレアにニヤリと微笑みかけた。
「油断じゃなくて、お前を信頼して、背中を任せてるんだよ! アザリー!」
「……はいはい」
呆れた顔で肩を竦めるアザレアの背後に、二つの銀色の光が煌めいた。
「くたばれ、クソアマ――!」
「――!」
気配を感じて振り返るアザレアだが、延ばし切った鞭を手元に戻すのが間に合わない――!
斬られる……!
――と、彼女が思わず目を瞑った瞬間、
伸びてきた光の棒と、飛んできた紅い光球が、銀に煌めく剣を振り下ろそうとした二人の湖賊に炸裂した。
「ぐあ……!」「がハァ……!」
白目を剥いて、その場に昏倒する湖賊。
「大丈夫ですか? アザレアさん!」
「お! 早速、俺の事も信頼してくれちゃった感じかい、アザリー?」
アザレアが顔を上げると、右掌を掲げたパームと、無ジンノヤイバの剣身を目一杯延ばして突き出した体勢のジャスミンが笑っていた。
アザレアはぷぅと頬を膨らませて、バツが悪そうに目を逸しながら叫ぶ。
「……信頼してるからじゃなくて、タダの油断よ!」
「――! 何で……水飛沫っ?」
アザレアが、目を庇いながら、裂けた床を覗き込むと、愕然とした。
てっきり、黒い土が見えるかと思われた床下が、キラキラと光を反射して波立っていたからだ。
「……この建物は、湖の上に建てられてるのか――!」
水龍達が、床を下から突き破って現れた理由が分かった。――恐らく、ウィローモが危機に陥った際に、すぐに水龍達が急行できる様に、敢えて建物を湖面の上に築いたのだろう。
「随分、用心深いというか、周到な――」
ジャスミンが舌打ちする間もなく、水龍達は、狙うべき三人の獲物の姿をその視界に収める。
「ヤベッ……避け――!」
ジャスミンが叫ぶ間もなく、彼らの立つ場所へ、数多の水龍の首が殺到する。
「うわわわっ!」
パームは、床を転がりながらその突撃を躱し、ジャスミンはギリギリまで水龍を引き付けてから、跳び上がる。
「こ――こんのぉッ!」
アザレアは、ロングスカートの裏地に縫い付けていた長鞭の柄を握ると、一気に引き抜く。
「火を統べし フェイムの息吹 命の炎! 我が手に宿り 全てを燃やせッ!」
彼女が早口で聖句を詠唱するや、たちまち黒い長鞭が紅蓮の炎に包まれる。
アザレアはすかさず炎鞭を振るい、水龍の鼻先を強かに叩いた。
「キイイイイッ!」
鉄板の表面を陶器の欠片で擦った様な、耳障りな鳴き声を上げて、水龍の首が悶絶する。
周囲に、肉が焦げる嫌な臭いが漂い、水龍達が僅かに怯んだ。
「――今だ! この隙に、この部屋から出ろ!」
ジャスミンが叫び、三人は弾かれたように、床の亀裂を飛び越えながら、唯一の出口である扉に向かって走る。
「許さ……許さないゾオオッ! たかが……たかが男風情が、このボクを謀るなどと……絶許だあああアッ!」
フラフラと蹌踉めきながら、ウィローモは、目を狂った様にギラギラと光らせ、口から怒りに満ちた言葉を吐き出した。
水龍達は、その言葉に弾かれた様に、逃げるジャスミン達の背中に向けて一斉に長い首を伸ばす。
「――あっぶなっ!」
間一髪、三人が扉をくぐるのが早かった。最後尾のパームがすかさず扉を閉める。次の瞬間、分厚い木の扉に水龍の頭が衝突した重い音が、建物内に響き渡った。
ジャスミンが、胸を撫で下ろす。
「やれやれ……これで一安心――」
「――するには、まだ早いみたいよ……」
ジャスミンの声を、アザレアのウンザリした声が遮った。
三人の目の前には、狭い廊下いっぱいに密集して、彼らに向かって銀色に輝く得物を構える、湖賊達の姿があった。
「――散れッ!」
ジャスミンが短く叫ぶ。
同時に、溢れる殺気を纏った湖賊たちが、彼らに向かって一斉に斬りかかる。
「ブシャムの聖眼 宿る右の掌 紅き月――」
パームが聖句を唱えると同時に、右掌を湖賊達の方へ向ける。彼の詠唱と同時に、掌の『ブシャムの聖眼』が紅く光り、その前方に、まるで天に浮かぶ『紅き月』を思わせる紅光の球体が現出する。
「分かれし雄氣 邪気を散らさん!」
続けて彼が唱えると、紅い光球が弾かれた様に、真っ直ぐ湖賊達の方へ飛んでいき――、戸惑いどよめく湖賊達の中心で四方八方に弾け散った!
「ぐああああーッ!」
湖賊達の間で悲鳴が上がり、数人の湖賊が、糸の切れた操り人形の様に、その場に崩折れる。
浮足立つ湖賊達の只中に、ロングスカートを翻して、ジャスミンが躍り込んだ。
「おらおら、どいたどいたーッ! 当たると痛ったいよ、コレ!」
叫びながら、太腿に括り付けていた『無ジンノヤイバ』の柄を手にし、左手で柄尻を叩くと、たちまち『無ジンノヤイバ』の柄先から光の帯が延び、輝く刀身を形造る。
彼が光の剣を振るうと、湖賊たちがバタバタと薙ぎ倒された。
「こぉの……けったいな武器を……だが、背中がガラ空きだぜ――ッ!」
隻眼の湖賊が、ジャスミンの無防備な背中に斬りかかる――が、刃がジャスミンに届く直前に、湖賊の首に黒い鞭が絡み付き、後ろに引っ張られた湖賊は、ドウッと音を立てて倒れた。
「……油断しすぎよ、ジャス!」
鞭の柄を操って、窒息して白目を剥いた湖賊の首から長鞭を外しながら、アザレアはジャスミンに声をかける。
振り返ったジャスミンは、アザレアにニヤリと微笑みかけた。
「油断じゃなくて、お前を信頼して、背中を任せてるんだよ! アザリー!」
「……はいはい」
呆れた顔で肩を竦めるアザレアの背後に、二つの銀色の光が煌めいた。
「くたばれ、クソアマ――!」
「――!」
気配を感じて振り返るアザレアだが、延ばし切った鞭を手元に戻すのが間に合わない――!
斬られる……!
――と、彼女が思わず目を瞑った瞬間、
伸びてきた光の棒と、飛んできた紅い光球が、銀に煌めく剣を振り下ろそうとした二人の湖賊に炸裂した。
「ぐあ……!」「がハァ……!」
白目を剥いて、その場に昏倒する湖賊。
「大丈夫ですか? アザレアさん!」
「お! 早速、俺の事も信頼してくれちゃった感じかい、アザリー?」
アザレアが顔を上げると、右掌を掲げたパームと、無ジンノヤイバの剣身を目一杯延ばして突き出した体勢のジャスミンが笑っていた。
アザレアはぷぅと頬を膨らませて、バツが悪そうに目を逸しながら叫ぶ。
「……信頼してるからじゃなくて、タダの油断よ!」
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