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第九章 Lakeside Woman Blues
挑発と激昂
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取りあえず、ここで暴れ回っていた水龍の内、二頭は倒した。残るは二頭――。
その二頭は、専ら湖賊達を追い回すのに夢中になっているようで、こちらへ注意を向けている様子は無い。
三人は、汗と水滴で濡れそぼった顔を袖口で拭き、一安心という顔で溜息を吐く。
が、
その時、轟音と共に、彼らの背後の壁が粉々に吹き飛んだ。
――もうもうと舞い上がる、木片と埃と水飛沫。
その中から、ニョキッと飛び出してきたのは――今まで暴れ回っていた個体よりも一回り大きな水龍の頭だった。
そして、その大水龍の頭に伸びる一本角に捕まり、仁王立ちしているのは――、
「き……き……キサマたちぃっ! 赦さん……赦さないぞぉぉぉぉっ!」
地獄の門番サージャムさながらの憤怒の表情で、血走らせた目で三人を睨みつける、湖賊の頭領ウィローモだった。
「あちゃあ……頭領さん、完ッ全に頭に血が上っちゃってる感じだねぇ」
「ボクは、冷静だああああっ!」
ウィローモの絶叫と共に、大水龍が鋭い牙の生え並んだ顎を目一杯に広げ、先程の水龍のものとは比べ物にならない勢いの水激流を吐き出した。
「逃げて――!」
アザレアが叫ぶと同時に、
「地を奔るフェイムの息吹命の火! 我が手を離れ壁を成せッ!」
早口で聖句を唱え、水激流を防ぐ炎の壁を創り出す。
――が、水龍の口から一直線に伸びた水流の凄まじい圧力と勢いは、炎の障壁を容易く打ち破り、真っ白な水蒸気を巻き上げながら、三人へと迫る。
「散れ――!」
三人は、慌ててその場から飛び退き、一瞬後に水の本流が廊下の木製の床を抉り削る。――先程の水龍のそれとは比較にならない威力だ。
「ギィエエエエッ!」
大水龍が、耳を劈く咆哮をあげる。湖賊にかかずらっていた二匹の水龍が、ビクリ体を震わせ、動きを止めた。
水龍に散々追い回される一方だった湖賊達が、恐る恐る顔を大水龍とウィローモへと向ける。
「……お、お頭ァ……」
「――お前たちは何をしてるんだ? 日頃は影でボクの事を『ネクラ童貞』だ『畜生としか仲良くなれないヘビ野郎』だ『水龍が居なければワンパン楽勝なモヤシ』だと散々好き勝手言っていた割に、情けない事じゃないかね?」
「う……な、何で……」
陰口を叩いていた事が筒抜けだった事に、驚きを禁じ得ない表情の湖賊達。
「あははは。バレないとでも思ったのかな? ほら、ボクにはキミたちなんかよりも、ずっと忠実で誠実で耳がいい仲間が居るんだよ! ねえ、みんな?」
ウィローモの言葉に応える様に、キュイキュイと甲高い声で鳴く水龍たち。
ウィローモは、ニヤリと嘲笑を浮かべ、叫ぶ。
「もう――いいや。キミたちは、もう要らない。人間なんか、そこら辺に幾らでも転がっているし、ね!」
そして、彼は右手を大きく上げ、脅えた顔の湖賊達に向かって振り落とし、水龍達に向かって嗄れた声で命ずる。
「さあ、みんな! あの役立たず共を――」
「何をボサっとしているの! 早く逃げなさい!」
ウィローモの声を、凛と通る声が遮った。
その声に、水龍の前で文字通り『蛇に睨まれた蛙』となっていた湖賊達は、呪縛が解けたように一斉に逃げ出し始める。
「……邪魔しないでもらえるかなぁ! キミ達には関係ないでしょ!」
不甲斐ない部下たちへの制裁を邪魔されたウィローモは、不機嫌さを露わにして、苛立たしげに叫んだ。
「……目の前で水龍に食べられる人間なんてグロいものを、これ以上見たくないのよ!」
アザレアは、嫌悪感を隠そうともせずに叫ぶ。
ウィローモは、そんな彼女を大いに洪笑しながら言う。
「なら、次はキミたちだ! キミの大嫌いな場面を、ふたり分見せてあげる為に、キミは最後だ!」
「……お気遣いどうも、拗らせチェリーさん!」
「――そ、それを言うなァァァァあッ!」
ウィローモは、アザレアの一言に大いに激昂した。
「あ、アザレアさんッ! そんな、敢えて挑発しなくても……」
「――だって、ムカついたのよ! いいから、みんな構えて!」
パームの声に、頬を膨らませて言い訳し、ふたりに戦闘態勢に入るよう促すアザレア。
――だが、
「――ゴメン、悪いニュースがあるんだけど、言っていい?」
ジャスミンは、アザレアにそう言うと、困り笑いで右手に握った無ジンノヤイバの柄を掲げて柄尻を叩いた。柄の先は、仄かにピンク色の光を発するものの、パチパチと音を立てるだけで、その光が収束する事は無い。
「俺、魂切れみたい」
「は――?」
「え……このタイミングで……ウソでしょ……?」
ジャスミンの言葉に、サーッと音を立てて顔が青ざめるパーム。
「だって、しょうがないじゃん! 無ジンノヤイバを使うと、ものすげえ体力を持っていかれるんだよ! ショーキだかユーキだかもゴリゴリ削られてくの! コレでも頑張った方だと思うぜ、俺!」
「それは分かりますけど……」
「ど、どうするのよ! その武器が使えないアナタは、タダのヘラヘラしてチャラチャラした女好きでしかないじゃない!」
「いや、ちょっと休めば回復すると思うんだけど……、あのチューネン童貞を煽って、そのチャンスを潰したの、お前じゃん! つか、最後の一言、いくら何でも言い過ぎだろ~!」
「ぼ、ボクを放ったらかしにして、何をくっちゃべってるんだァ! この野郎、何処までも舐め腐りやがって……みんなぁ、サッサとこのオカマ野郎どもを食い散らせぇッ!」
ウィローモの絶叫に応えた三匹の水龍が、三人に向けてその首を巡らせる。
「だーかーらーっ! 私はオカマじゃないって――!」
「アザレアさん! それは後でッ!」
「ここは……逃げの一手っ!」
三人は、即座に三方へ散り、その直後、三匹の水龍の口から放たれた三条の水撃流が、彼らの立っていた床を粉々に粉砕した――。
その二頭は、専ら湖賊達を追い回すのに夢中になっているようで、こちらへ注意を向けている様子は無い。
三人は、汗と水滴で濡れそぼった顔を袖口で拭き、一安心という顔で溜息を吐く。
が、
その時、轟音と共に、彼らの背後の壁が粉々に吹き飛んだ。
――もうもうと舞い上がる、木片と埃と水飛沫。
その中から、ニョキッと飛び出してきたのは――今まで暴れ回っていた個体よりも一回り大きな水龍の頭だった。
そして、その大水龍の頭に伸びる一本角に捕まり、仁王立ちしているのは――、
「き……き……キサマたちぃっ! 赦さん……赦さないぞぉぉぉぉっ!」
地獄の門番サージャムさながらの憤怒の表情で、血走らせた目で三人を睨みつける、湖賊の頭領ウィローモだった。
「あちゃあ……頭領さん、完ッ全に頭に血が上っちゃってる感じだねぇ」
「ボクは、冷静だああああっ!」
ウィローモの絶叫と共に、大水龍が鋭い牙の生え並んだ顎を目一杯に広げ、先程の水龍のものとは比べ物にならない勢いの水激流を吐き出した。
「逃げて――!」
アザレアが叫ぶと同時に、
「地を奔るフェイムの息吹命の火! 我が手を離れ壁を成せッ!」
早口で聖句を唱え、水激流を防ぐ炎の壁を創り出す。
――が、水龍の口から一直線に伸びた水流の凄まじい圧力と勢いは、炎の障壁を容易く打ち破り、真っ白な水蒸気を巻き上げながら、三人へと迫る。
「散れ――!」
三人は、慌ててその場から飛び退き、一瞬後に水の本流が廊下の木製の床を抉り削る。――先程の水龍のそれとは比較にならない威力だ。
「ギィエエエエッ!」
大水龍が、耳を劈く咆哮をあげる。湖賊にかかずらっていた二匹の水龍が、ビクリ体を震わせ、動きを止めた。
水龍に散々追い回される一方だった湖賊達が、恐る恐る顔を大水龍とウィローモへと向ける。
「……お、お頭ァ……」
「――お前たちは何をしてるんだ? 日頃は影でボクの事を『ネクラ童貞』だ『畜生としか仲良くなれないヘビ野郎』だ『水龍が居なければワンパン楽勝なモヤシ』だと散々好き勝手言っていた割に、情けない事じゃないかね?」
「う……な、何で……」
陰口を叩いていた事が筒抜けだった事に、驚きを禁じ得ない表情の湖賊達。
「あははは。バレないとでも思ったのかな? ほら、ボクにはキミたちなんかよりも、ずっと忠実で誠実で耳がいい仲間が居るんだよ! ねえ、みんな?」
ウィローモの言葉に応える様に、キュイキュイと甲高い声で鳴く水龍たち。
ウィローモは、ニヤリと嘲笑を浮かべ、叫ぶ。
「もう――いいや。キミたちは、もう要らない。人間なんか、そこら辺に幾らでも転がっているし、ね!」
そして、彼は右手を大きく上げ、脅えた顔の湖賊達に向かって振り落とし、水龍達に向かって嗄れた声で命ずる。
「さあ、みんな! あの役立たず共を――」
「何をボサっとしているの! 早く逃げなさい!」
ウィローモの声を、凛と通る声が遮った。
その声に、水龍の前で文字通り『蛇に睨まれた蛙』となっていた湖賊達は、呪縛が解けたように一斉に逃げ出し始める。
「……邪魔しないでもらえるかなぁ! キミ達には関係ないでしょ!」
不甲斐ない部下たちへの制裁を邪魔されたウィローモは、不機嫌さを露わにして、苛立たしげに叫んだ。
「……目の前で水龍に食べられる人間なんてグロいものを、これ以上見たくないのよ!」
アザレアは、嫌悪感を隠そうともせずに叫ぶ。
ウィローモは、そんな彼女を大いに洪笑しながら言う。
「なら、次はキミたちだ! キミの大嫌いな場面を、ふたり分見せてあげる為に、キミは最後だ!」
「……お気遣いどうも、拗らせチェリーさん!」
「――そ、それを言うなァァァァあッ!」
ウィローモは、アザレアの一言に大いに激昂した。
「あ、アザレアさんッ! そんな、敢えて挑発しなくても……」
「――だって、ムカついたのよ! いいから、みんな構えて!」
パームの声に、頬を膨らませて言い訳し、ふたりに戦闘態勢に入るよう促すアザレア。
――だが、
「――ゴメン、悪いニュースがあるんだけど、言っていい?」
ジャスミンは、アザレアにそう言うと、困り笑いで右手に握った無ジンノヤイバの柄を掲げて柄尻を叩いた。柄の先は、仄かにピンク色の光を発するものの、パチパチと音を立てるだけで、その光が収束する事は無い。
「俺、魂切れみたい」
「は――?」
「え……このタイミングで……ウソでしょ……?」
ジャスミンの言葉に、サーッと音を立てて顔が青ざめるパーム。
「だって、しょうがないじゃん! 無ジンノヤイバを使うと、ものすげえ体力を持っていかれるんだよ! ショーキだかユーキだかもゴリゴリ削られてくの! コレでも頑張った方だと思うぜ、俺!」
「それは分かりますけど……」
「ど、どうするのよ! その武器が使えないアナタは、タダのヘラヘラしてチャラチャラした女好きでしかないじゃない!」
「いや、ちょっと休めば回復すると思うんだけど……、あのチューネン童貞を煽って、そのチャンスを潰したの、お前じゃん! つか、最後の一言、いくら何でも言い過ぎだろ~!」
「ぼ、ボクを放ったらかしにして、何をくっちゃべってるんだァ! この野郎、何処までも舐め腐りやがって……みんなぁ、サッサとこのオカマ野郎どもを食い散らせぇッ!」
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「だーかーらーっ! 私はオカマじゃないって――!」
「アザレアさん! それは後でッ!」
「ここは……逃げの一手っ!」
三人は、即座に三方へ散り、その直後、三匹の水龍の口から放たれた三条の水撃流が、彼らの立っていた床を粉々に粉砕した――。
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