好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)

朽縄咲良

文字の大きさ
107 / 176
第九章 Lakeside Woman Blues

最低男とオトメの憤怒

しおりを挟む
 フルスイングでカミソリオオコウモリを全て打ち飛ばしたジャスミンは、くるりと振り返ると、あんぐりと口を開けてオオコウモリの飛んでいった夜空を見上げていたウィローモに向かって突進する。

「え――! ちょ、待っ――!」

 ウィローモは、腰を掛けていた瓦礫から尻を浮かせると、慌てた様子で両手を前に出して振る。

「話せば――話せば分かる……!」
「問答無用~!」

 ジャスミンは、ウィローモの言葉を一言で切り捨てると、無ジンノヤイバの柄を一叩き。マゼンタ色の大棍棒は、肉厚の刃の長剣に姿を変えた。
 ジャスミンとウィローモの間には、床の裂け目がパックリと口を開けている。

「うおおおっ!」

 裂け目を一気に跳び越そうと、雄叫びを上げながら、ジャスミンが床を蹴る。
 ――と、

「ギガアアアアアアッ!」

 耳を劈く咆哮と共に、彼の目の前に巨大な水柱が上がる。
 その正体は、額にウィローモの細剣を刺されたまま、怒りと苦悶と激痛にのたうち回る大水龍だった。
 そして、その長く太い首には、

「ぷ――ぷはあっ! 危ねえ、もうちょいで俺の方が窒息死するトコだったぁ~!」

 丸太の様な両腕をガッチリと組んで、締め上げているヒースがぶら下がっていた。

「お? オッサン、生きてたのかよ! てっきり、もう――」
「ん? この俺が、この程度でくたばるかよ? まあ、ちいっと太腿を囓られちまったがな……ガハハ!」

 大水龍の首を締め上げ続けながら、豪快に笑うヒース。――確かに、彼の右大腿は大きく抉られ、真っ赤な鮮血に塗れている。

「……ギャアアアアア!」

 大水龍の絶叫が、空気をビリビリと震わせる。何とかして首に纏わりつく邪魔者ヒースを振り払わんと暴れ回るが、ヒースが太い腕でガッチリと組み付いて離さない。
 が、目の前で巨大な大水龍の首が不規則にのたうち回っていては、ジャスミンもウィローモの所まで踏み込めない。
 が、

「ギィエエエ!」

 大水龍が、一際大きな咆哮を上げ、首を床に擦り付ける。これには、ヒースも堪らず、大水龍の首に回していた腕を離して床への直撃を避ける。

「チッ! もうちょいでオトせそうだったのに!」

 ヒースは、舌打ちをして立ち上がろうとするが、抉られた右太腿に力が入らず、思うようにいかない。

「クソッ……! これじゃ、水中でり続けた方が良かったか?」
「パーム! オッサンのケガをハラエで…………て、何ボーッとしてるんだよ!」

 振り返って、パームの姿を目で探したジャスミンだったが、目をまん丸にして立ち竦んだままの彼を見つけて、呆れ声をあげる。
 声に気付いたパームは、ジャスミンの方を向くや、たちまち顔を真っ赤っ赤にして、

「あ……いや、突然の事で……おど、驚いて……! だって……ジャスミンさんと……アザレアさんが……いきなり、せ……せ……接ぷ――」
「あああああああああっ!」

 パームの言葉を遮る様に、劈く様な絶叫が、大水龍の咆哮をも掻き消す声量で轟いた。

「止めてッ! それ以上……言わないで!」

 アザレアは、パームを鋭い言葉で制すると、怒りと涙で紅い目をギラギラと輝かせて、ジャスミンを睨みつける。
 ジャスミンは、彼女の視線に気付くと、軽い調子で頭を下げる。

「あ、アザリー、悪い悪い。いやぁ、減ったユーキ雄氣を増やす為に、よ~。キスして性よ……精力を増せばユーキ雄氣ショーキ生氣も増えるんじゃないか、と思ってさ。見事に勘が当たったみたい――って、おおっ?」

 自慢げに話すジャスミン目がけて、風を切って長鞭が叩き付けられる。危うく躱すジャスミン。

「あ……アザリー? な……何を――?」
「……最ッ低!」

 憤怒のオーラをメラメラと背後に揺らめかせながら、ゴミを見る目でジャスミンを見据えるアザレア。
 ジャスミンは、その目の冷たさに寒気を覚えながら、必死で彼女を執り成そうとする。

「……いや、ごめん、ごめんって! でも、いいじゃん、キスのひとつやふたつ……! 減るもんじゃないんだからさ! アザリーだって、初めてだった訳でもあるま……」

 軽く流そうと喋るジャスミンの声が、急に途切れた。彼女がここまで激怒するに相応しい理由を思い付いたからだ。
 ジャスミンは、恐る恐るアザレアに訊ねる。

「……アザリー……ひょっとして、さっきのが……初めて……?」
「――死ねええええッ!」

 彼女の返事は、次々と繰り出されてくる鞭打の嵐だった。

「わ――! わ――っ! ちょ、ちょっと……マジでゴメン! まさか、まだ未経験だとは……て、ちょま……一旦落ち着こ! ね!」

 アザレアの苛烈な攻撃から逃げ惑いながら、必死で謝罪と説得を試みるジャスミン。……だが、アザレアの怒りは治まらない。

「……火を統べし フェイムの息吹 命の炎 我が手に宿り 全てを燃やせーッ!」
「わわわわ! ちょ、待てよ! 炎鞭ソレはマジでヤバい!」

 劫火に包まれた長鞭を目にして、ジャスミンは覿面に焦った。咄嗟に、目の前に横たわる大きな物の陰に飛び込んで隠れる。
 取り敢えず一息吐いて、疲労感を覚えたジャスミンは、

「――こ、これで一安心……て、アレ……このヌメヌメした生臭い……鱗に覆われたモノって……」

 隠れたモノに触れて、その異様な感触に違和感とを覚え、恐る恐るそのモノに視線を這わせる。
 そして、黄色にギラギラ光る、細い瞳孔の巨大な目玉と目が合った。

「……………………あ、こんにちは~……お疲れ様でーす」
「ゴアアアアアアアッ!」

 冷や汗が噴き出しながら、愛想笑いを浮かべたジャスミンに、威嚇の咆哮で応えた大水龍は、首を撓らせてジャスミンを撥ね飛ばした。
 大水龍の一撃で、ジャスミンの身体は、大きく弾みながら10エイム程転がり、彼は背中を強かに打ちつけて悶絶した。

「痛っつつつつ……」
「ジャスミンさんっ! 危ないっ!」

 背中を押さえながら蹲るジャスミンに、パームが悲鳴の混ざった叫びを上げる。
 その声に応じて、顔を上げたジャスミンの視界いっぱいに広がるのは、鋭い牙が生え揃った、大水龍の口腔だった。
 目を剥いて固まってしまったジャスミンの身体を呑み込もうと、大水龍が首を伸ばす――。
 次の瞬間、

「ジャ・マ・ッ!」

 アザレアのドスの効いた叫びと共に、飛んできた炎鞭フレイムウィップが、大水龍の太い首に絡みつき、炎の勢いを増して燃え盛る。

「アアアギャアアアアアッ!」

 大水龍の硬い鱗も、炎鞭フレイムウィップの豪炎が放つ高温には耐え兼ねた。生身の肉が焼ける焦げ臭く、かつ生臭い臭いが、黒い煙と共に立ち上る。
 茫然と大水龍の七転八倒の様を眺めるだけだったジャスミンは、ハッと我に返ると、ヒースに向かって叫んだ。

「オッサン! 今がチャンスだ! 首を押さえろ!」
「おうっ!」

 素早く彼の意図を察したヒースが、暴れ回る大水龍の頭を抱え、怪物じみた膂力を以て、その動きを制する。
 ジャスミンは身軽に跳び、大水龍の頭の上に立った。
 ――彼の目の前には、大水龍の額に刺さったままの、ウィローモの細剣。
 ジャスミンは、無ジンノヤイバを握り直すと、柄尻を叩く。マゼンタ色の光が鍔元から溢れ――大きな槌を形作った。
 ジャスミンは、舌なめずりをすると、槌を大きく振りかぶった。

「ま――まさか……や、止めて! 止めてくれぇぇえ!」

 ジャスミンの狙いを察したウィローモが絶叫するが、もう遅い。

「おおりゃああああっ!」

 大きな気合の声を上げて、ジャスミンは無ジンノヤイバの槌を、大水龍の額に突き立つ細剣に向けて振り下ろした。

 ガツゥ――ン! という鈍い衝突音と共に、細剣は深々と、鍔口まで大水龍の額にめり込み、大量の紫色の鮮血が噴水の様に噴き出し……、

「ガ……アア……アアァ……!」

 脳髄を細剣に貫かれた大水龍は、カッとその巨大な黄色い目を見開くと、ビクビクと全身を痙攣させた後、その力を失う。
 そして、水煙を巻き上げながら、その場にドウと斃れたのだった――。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

事務仕事しかできない無能?いいえ、空間支配スキルです。~勇者パーティの事務員として整理整頓していたら、いつの間にか銅像が立っていました~

水月
恋愛
「在庫整理しかできない無能は不要だ」 第一王子から、晩餐会の場で婚約破棄と国外追放を告げられた公爵令嬢ユズハ。 彼女のギフト【在庫整理】は、荷物の整理しかできないハズレスキルだと蔑まれていた。 だが、彼女は知っていた。 その真価は、指定空間内のあらゆる物質の最適化であることを。 追放先で出会った要領の悪い勇者パーティに対し、ユズハは事務的に、かつ冷徹に最適化を開始する。 「勇者様、右腕の筋肉配置を効率化しました」 「魔王の心臓、少し左にずらしておきましたね」 戦場を、兵站を、さらには魔王の命までをも在庫として処理し続けた結果、彼女はいつしか魔王討伐勇者パーティの一人として、威圧感溢れる銅像にまでなってしまう。 効率を愛する事務屋令嬢は、自分を捨てた国を不良債権として切り捨て、再出発する。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~

とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。 先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。 龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。 魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。 バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

処理中です...